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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP5『艦隊冷戦期』

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84/129

84: EP5-7 『Code:R』 寒空に香る硝煙:Ⅳ

ん? なんて?


え? 搬入所に... なんて?

山ほどのチキンが... いや待て、どういうことだい?


『あの迷彩服に渡せ』? 差出人はLe?


...はぁ...

実力行使かい...

コロニー協定連合体 "CAU"

西暦3020年5月19日[STC]

協定宇宙時(STC)00:15

木星(ジュピター)近傍宙域、木星圏廃棄コロニー群(JWC)057



『敵CIWS群まで距離800、ジャレッド、反応は?』

『お前たち二人の進行方向にデカいやつがある。 おそらく防衛兵器用のグリッドだ。』

『となると、CIWS含めた防衛兵器群を突破しなければ、根元から停止は出来ませんね。』


ロビンとセルジオ、そしてジャレッドは、コロニー内防衛兵器破壊のため、リグ率いる突撃隊と別行動を取っている

突撃隊に可能な限りの火力を発揮させるためには、三人が迅速に防衛兵器を破壊、あるいは停止させる必要があった


『格納されてはいるが、ミサイルに砲台... CIWSだけ吹き飛ばして戻ろうと思ったが、こりゃあ想定以上に防御が硬いぜ。』

『起動の可能性は?』

『残念だが200%だ。 もう稼働してるが、近付いてくるのを待ってやがる。 反応から見て間違いない。』


言葉の代わりに、セルジオに表情が最悪だと語ってみせた


『流石にこれを全部破壊するだけの火力はありません。 グリッド全体のエネルギー供給機関を破壊するのが一番でしょうね。』


言い終えぬうちから、ロビンは地面に直接トラックバインドアンカーを打ち込んでいた


『内壁の供給機関を直接狙います。』






─旧市街地区画


『目標予測地点まで、あと1kmだ。 リグ、見えるか?』

『ああ、見えてる。あれは... やはり管理局か。』


そびえ立つ廃ビル群の合間を縫った通路の僅かな視線の先には、廃れてなお威圧感を放つ管理局が鎮座している

各居住コロニーにはインフラ整備のために、市街地の中央に管理局が置かれるのが通例となっている

有事の際に備え、水や食料、果ては個人防衛用の火器が蓄えられ、強固かつ広大なシェルター区画も用意されている

誰にとっても、堅牢かつ盤石な拠点として機能するのは明らかであり、それは賊とて当然同じことであった


『隠れる気は無いみたいだね、ここは一気に...』

『待たんかジーナ、ここに来るまでに交戦した奴らですべてではないだろう。 例えば...』


直後、前方が爆風に飲み込まれ、三人の周囲を塵芥の煙が覆った


『合図してからやってくれよ大隊長! 前が見えねぇ!』


クランツの示唆を理解したリグが、腕部の機関砲を前方数十m先の廃ビルの根元に叩き込んだのだ


『ははは、すまんな。 ...だが、すぐに見えるようになるさ、構えておけ。』


辺り一面を覆う煙の中、上方の影が倒れ行く摩天楼を写していた

それが倒れ伏すその直後、さらにまた爆音が響いたが、それはただ建造物が砕ける音だけではなかった


『これは...地雷か!』

『そうだな、路面一体に敷き詰められていたようだ。 だが、もっと面倒なのが出てきたぞ。』


視界を覆っていた煙を大量の地雷が吹き飛ばし、開けた視界の先に、まだ健在の廃ビル群からネアス・アドニスが降下し続けていた


『地雷原に伏兵と、それなりに出来はするようだ。 最初の数機は、やはり偵察だったな。』

『ありゃ偵察っつーか、当て馬だろ。 こいつらは正面切ってやるんじゃなくて、頭上から嫌がらせしたかったみたいだしな。』

『地の利は削いだが、数の不利は変わらん。』

『へぇ、大隊長もビビるのか?』


珍しく、といってもこれが本来あるべきものだが、リグが発した警鐘にジーナは噛みついてみせたが、リグの意図はまるで違うものだった


『逆さ、一つ競おうじゃあないか。』

『乗った。』


ジーナより先に応えてみせたクランツは大剣を振り抜くと、足元に転がったビルの残骸を砕き、そのまま前へ出ていき、リグもそれに習っていた


『血の気が多すぎるんじゃねぇか、あの隊長ども...』


他の隊員が聴いていたら、とても突っ込まずにはいられなかっただろう

気を取り直し、その"隊長ども"に習ってジーナが突撃し始めた時には、既にクランツは敵機へと食らいついていた


無数の敵機の中で、一機のネアス・アドニスが大剣を構えクランツに斬りかかった

ネアス・アドニスが一般的に装備する剣は、強化鋼製の3mロングソードだ

CAUのライラ・ジーナに一般的に配備される2.5mのショートソードよりも質量や堅牢製に優れ、技量で圧倒しない限り、ましてや一般のパイロットが近接戦闘ではネアス・アドニスが勝るというのが一般論であった

だが、これは一般論で括られる戦闘では無かった


振るわれたネアス・アドニスのロングソードは、クランツが振り下ろした大剣によって叩き落とされ、接続されていたネアス・アドニスごと地に伏した


『ふん、斬り結んで盾にすらならんとはな。』


クランツとジーナの機体が装備する剣は、一般的に配備されるそれとは異なる3mバスタードソードとなっている

力が同等なら、残る勝負は技量のみ

そして双方の技量の差は、誰の目にも明らかであった


『さて、どう蹴散らすか...』


クランツは次の獲物へと目を向ける

ライフルを構えて隊列を組んでこそいるが、浮き足立っているのは明らかだ


『この程度でたじろぐとは、やはり賊か。 だが...』


クランツには疑念が浮かんでいた

賊が片落ちの軍用バトルワーカーで武装しているというのは、何もおかしな話ではない

規格から外された軍用機体等は、資金調達の一環として民間に流されるからだ

だが、それはCAU領内でライラ・ジーナを扱う賊の場合の話だ

相手の技量からして、正規のパイロットであるはずがない、つまりは賊である可能性が高いが、ではどうやってこの数のネアス・アドニスを調達したのだろうか?


『ボサッとしてんじゃないよ、副長!』


クランツの思考は、ジーナの叫びと、前方のネアス・アドニスの隊列を覆った爆発によって遮られた


『そろそろ耄碌し始めたか?』

『何を、まだ歳を食い飽きてはおらん。 しかし今のは...クラスターか。』


恐らく3、4発は撃ち込まれている

ネアス・アドニスの一隊は形こそ留めてはいるが、あれではもう立つこともできないだろう


『ここまで来てりゃあ妨害もされねぇな。 破壊に使うつもりだったが、大隊長が派手にやってくれそうだからな。』

『ふむ、大隊長のスコアは今は...』


クランツがレーダーに移るリグの方を見やると、しかし機影は殆ど目視できない

正確に言うなら、機体がいないのでなく、爆炎と土煙で何もかも多い尽くされてしまっているのだ


『恐らく俺の圧勝だ !いくら吹き飛ばしてもいくらでも湧いて出てきやがる。 土の中のミミズか? こいつらは...』


リグから通信で報告が入り、安堵とも苦々しさとも取れる表情をした二人だったが、もう一つの報告でまた表情を変えることとなった


『この状況で正確には確認できてはいないが、奥の敵影に角ばったのがいる。 恐らく、ライラ・ジーナだ。』

『なんだって? じゃあそいつが指揮官か?』

『恐らくそうだろうな。 少しそっちに退かせてもらうぞ。 一旦視界を確保する。』


奇妙な報告の後、すぐさま煙の中からカンペアドールが姿を現した

土煙で全身が汚れてはいるものの、目立った損傷は一つとして無い


『派手にやりすぎちまった、弾代の事は考えたくないな。』


そう言うと、リグはカンペアドールの腕部から、機関砲を形成していた腕部拡張デバイスをパージし、背部にマウントされた大剣を手に取った

ジーナとクランツの使うものより更に大きい、3.5mのバスタードソードだ


『さて...』


リグが出てきた煙幕の方に振り替えると、既にそれは晴れつつあった

視界の先に広がっていたのは、山すら成していない瓦礫の平地と、その先から前進するネアス・アドニスの軍だ


『あれだけ吹き飛ばされておきながらこの数とは... 一体どこから湧いてきている?』

『前線を張ってた隊が、ある程度盾として機能したんだろうな。 幸運なこった。』


『10、20... いたぞ、ライラ・ジーナだ。...いや待て、あの機体の塗装は...』

『どうした、ジーナ? 知ってる奴か?』

『よく知ってる連中だよ。 まさかまだ残党がいるとは思わなかったけどな。』


ジーナが確認した一機のライラ・ジーナは、茶色と赤に塗られている

いかにも賊と言わんばかりのカラーリングだ


『親父のコロニーを襲撃した連中さ。 根城にしてた場所は潰したんだがな。』

『ああ、お前が滅茶苦茶した例の件か...』


ジーナはネイヴィガーに入隊する前に、数多の軍規違反の上で、単独で賊を壊滅させた経験がある

それがネイヴィガーに入隊するきっかけでもあった


『資料には目を通したが、あの時のお前の襲撃で、ほぼ完全に壊滅したはずだ。 残った極一部が新しい人員を集めたんだろうさ。』


『なら、ここでまたキッチリと潰さないとなぁ、大隊長?』

『ああ、まだ競争は終わっちゃいない──』

『じゃあ、俺達も少しばかり稼がせてもらうぜ!』


リグの言葉が終わる前にジャレッドが通信に割り込んできた直後、ネアス・アドニスの隊列の前方が吹き飛んだ


『ジャレッド、ロビン、一体何を... 』

『副長、防衛兵器を掌握しました。 火力支援を行います。』

『大将首は外すさ。 キッチリ捕らえてくれよ!』

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