83: EP5-6 アライアンスヘッドクォーター
ま、お土産もらえたのは想定外だったかな...
...なんだろうこれ... 置物...?
西暦3020年5月18日、協定宇宙時11:00
海王星近傍、移動型統合本社アライアンスヘッドクォーター
最深部、エルフィンストーン・アライアンス総司令部
砲火を交えずとも、戦場とは名乗れるものだ
──Side: 三人称視点
「1300から──え? 相手から急遽延期の申し入れ? はぁ、分かった、キッチリ言っておいて。 じゃあ代わりに... ん? ちょうどいいや、メリン、1300から代わりにサイラスとの会合を入れておいて。 ...ったく、何の用かしらね...」
オレンジ色のショートヘアを翻し、その人影は一息に立ち上がる
「まぁ、いいか。 どっちにしろ暇になったな...」
「まぁまぁいいんじゃないの? グレイス?」
「...あのさ、エルヴィス。 一応そこのドアのセキュリティはこの世界で手に入る限りのものを採用してるんだ。 いや、そこのドアどころかここに至るまでも何十枚ものドアがそうなんだけどさ...」
「"この世界"...ね。 そりゃ、ジャッジメントには関係のないお話だな、エルフィンストーンサマ?」
「はぁ... 調子狂う...」
茶髪の人物が堂々とスライド式の部屋のドアを開け放ち入室する
心底呆れたような表情で部屋の主、エルフィンストーン・グレイスがその人物を─エルヴィスを迎える
「...で? わざわざそのエルヴィス様がこんなところまで何の用なんだい?」
「んー... アイヴァンから届け物。 忙しそうだったから呼びつけるのも悪いかと思って、だとよ。」
エルヴィスがエルフィンストーンの目前にあるテーブルに小包を置く
エルフィンストーンそれをさっと手に取ると慣れたように手際よく包みを開ける
「...これは...」
「ん... 俺はそういうの詳しくないけどよ、そりゃあ... 何かの演算機か?」
「うん... そうだね。 これは...」
エルフィンストーンが手の内にある手のひらサイズで何やらいくつかのランプが光る板を見つめ考え込む
「あー...」
エルフィンストーンが開いた包みの内側に目を通す
「やっぱりかー。 新しい術式炉の制御モジュールか。 うーん... 出力そのままに80%のサイズダウン? 寝言は寝てから... いやでも実測データ付きか...」
「おーいグレイスー? ここにある...これなんだ? あー...珍しい、緑茶か、開けていいか?」
「開いてるのなら好きにしていいよ。」
「おうよ。 何でか知らないけど本部にあるのどれも紅茶ばっかりでさー、あいつらブリテ... ん?」
手の中のモノに完全に気を注いでいるエルフィンストーンの傍ら、棚を捜索していたエルヴィスの手が止まる
「...紅茶そのものはあるんだな...いやコーヒーにアールグレイ... ココア... ん...? いやこっちは...埃被ってるがエスプレッソマシンか? 意外だな...」
「それとも冷たい烏龍茶にでもする?」
いつの間にかエルヴィスの背後へと移動していたエルフィンストーンが話しかける
「うわっ... 驚かすなよ、グレイス。」
「そんな奥の方まで身体突っ込んでるからだよ。」
「いやだってよー...」
そんな不毛な会話を続ける2人の脇で、部屋のドアがスライドする
「CEO、お休みのところ申し訳ございません、急のお客さ...あら?」
目を伏せたまま部屋へと入ってきた『CEO』エルフィンストーン・グレイスの使用人が室内にいる不審な人影に気づく
「...CEO、その...」
「あー...これはその...」
さて、何と説明したものかとグレイスが目を泳がせる前で、使用人が続けざまに余計な勘違いを炸裂させる
「...男を連れ込むのはCEOのご自由ですが、できれば我々に一言頂きたかったものと存じます。」
「ち、違うそういうんじゃないからコイツは!」
「おや? てっきりそういうことかと... 何せCEOはいくつになっても」
「で、出てけ!」
「怒られてしまいました。 それではごゆっくり、終わりましたらお声がけくださいませ、CEO。」
使用人が部屋から出るなり、何事もなかったかのように部屋のドアが元に戻る
「...なぁ、グレイス。」
「...エルヴィス...」
エルフィンストーンが次第に顔を真っ赤にする
透き通った金の瞳が同時に怒りに染まる
「仲いいみたいだな。」
「お前も出てけ!」
「ありゃこりゃ手厳しい。」
そのほんの数秒後、部屋から叩き出されるエルヴィスの姿があった
「...で? 急な客って誰かと思えば...」
使用人が何やら言いかけていたのを思い出し、急な客とやらを応接室へと招くエルフィンストーン
その目前に現れたのは...
「さすがにこの恰好のまま来たら絶対止められるし、そもそも所構わず発狂させる気もないからね。」
やけに背の高い奇妙な帽子─見る人が見ればシルクハットなどと呼ばれるそれを被った老紳士がエルフィンストーンの目の前で丁寧な仕草で脱ぐ
と同時に、そこには直前までの人物とは似ても似つかない、奇妙なノースリーブの迷彩服を着た少女がいた
底の見えない大きな青い瞳と白いツインテールをたなびかせ、少女は元からそこにいたかのようにソファへと身体を沈める
「急に何か用? 特に問題は起こしてないと思うんだけど。」
「いや... 暇つぶしだよ。 30%ぐらいの本音を言うならサンダイアルドライブについての講義でも受けたくてね。」
「抗議?」
「いや講義。 待てエルフィンストーン、私が視えるからって遊ばないでくれ。」
「つい、ね。 」
からかうような笑みを口元に浮かべ、エルフィンストーンが言う
「分かった分かった... 付き合わせるだけの面白い話もするからさ。」
「ふむ、あのスノー閣下が面白い話、ね。」
「やけにからかうね今日の君。」
「ちょっと前に酷い目にあってね。」
「やつあたりみたいなものかい?」
「そうとも言うかな?」
「...はぁ。」
スノーが身を乗り出す
─同日、STC21:50
アライアンスヘッドクォーター航行管制室
「全ステーション、全ステーション、こちらEAHQ航行管制。 これより本艦はジャンプ体制に移行する。 ジャンプは2200、繰り返す、本艦は2200にジャンプを実行する。 ジャンプターゲット、小惑星エリス近傍CAU...海軍...? ごほん、ジャンプターゲット、小惑星エリス近傍、CAU海軍組み立てプラント近傍2000キロ、繰り返す、ジャンプターゲットは小惑星エリス近傍、CAU海軍組み立てプラント近傍2000キロ。 ジャンプドライバー、ターゲットロック開始、ターゲットロック開始。」
「CAU海軍に了解は取ってあるわ、出現位置は向こうが誘導するから、こちらからは全出力を持ってジャンプ予告。 向こうのフィールドネットが受け止めきってくれるものとは過信しないように。 ヘッドクォーター全ステーション、こちらエルフィンストーン・グレイス。 全ステーションは全ての入出港を至急停止、全シールド及びアーマーを最大出力で防護。」
「あの、CEO。」
「何か、管制官?」
「...CAU海軍とは?」
「ちょっとしたルートから聞いたんだよ。 連中、体制変更するんだって。」




