67: EP4-17 ベアトリクス・ザイフリート
...ふむ、生成過程は私と同じとはいえ、原理は科学に基づいている...?
いやこれ...さすがに似非科学とかそういう類じゃないのかな...
気象兵器ねぇ...
コロニー協定連合体 "CAU"
オペレーションストームライダー
7日目
西暦3020年3月29日[STC]
協定宇宙時17:32、火星新太平洋西時間08:32
火星地表、新太平洋西部、ESFストームレイン基地
それでも、彼女は諦めなかった
──Side: 3人称視点
2機のバトルワーカーが相対していた
『ベアトリクス・ザイフリート。 お前は?』
「...ESFにはいちいち名乗りもあげる風習でもあるのか? ...ローランドだ、ローランド・エリソン。」
顔は見えない
声だけの通信だ
『風習...そうかもな。 古来、戦士というものは互いの誉のために戦うものだ。 であれば、これより自身が打ち破る者、あるいは自身を打ち破る者の名を知ることは名誉なことだ。』
「別に俺は戦いが好きじゃない。 ESFの兵士は皆そうなのか? 前に会った奴もそうだった。」
『ソーンダイクのことか?』
「なんだ、知り合いか?」
『...あぁ、知り合って短いが、嫌いな奴ではなかった。』
ローランドが音声を切り、ディケに話しかける
「ディケ、状況は?」
『こちらが押し込んでいます。 ここで時間を稼ぎ続けるのは間違いではありません。 もちろん、有無を言わさず打ち倒してしまっていいんですよ?』
「...なんだか、そういう気になれなくてな。 今度カウンセリングでも受けたほうがいいのかもしれない。」
新たに現れた部隊を率いていたネアス・アティラに乗っていたのはやはり、このストームレインの指揮官、ベアトリクス・ザイフリートだった
指揮官付の精鋭部隊というべきか、そこらのパイロットとは訳が違った
ローランドが咄嗟に対応にあたり、ザイフリート以外のバトルワーカーを危なげなく排除し、今に至る
『CAUの戦士、ローランドよ。 お前は強い。 これだけ私達が束になってかかっても、手も足も出なかった。』
「そりゃあ...お褒めをどうも、指揮官様?」
『その強さの秘密はなんだ? それを知りたい。 何をしてそのような強さを手に入れた?』
ローランドがちらりとディケを見る
ディケが首を横に振る
「残念だが、それを言えるほど俺も温情があるわけでもない。 時代が違えば...まだ分からなかったかもな。」
『そうか、それでこそ戦士だ。』
ザイフリートが、アティラが手にした得物を構える
刃の所々が欠けるも、まだ形を保っている戦斧だ
ライブラも応じるようにソードを構える
『みっともなく命乞いをするつもりもない。 私はここの指揮官だ。 死は恐怖ではない。 さぁ、来い!』
「──ッ!」
ライブラが地面を滑るように距離を詰める
対するアティラは動かない、両手で戦斧を構え、受け止めるつもりだろう
刃と刃がぶつかる
打ち合わされた2つの刃はどちらも譲らない
『なんてパワーですか! ライブラで押しきれない!?』
「元のスペックが優秀なのもあるが...それ以上にカスタムされてるな!」
どちらもしっかりと地面を踏みしめ、そして背後のスラスターすらをも全開にし相手を押しきろうとする
『戦士よ、ローランドよ。 冥土の土産だ、もう気づいているだろうが、私達の目的はこの基地ではない。 人は資産だ。 人は力だ。』
「そんなこと...分かってるさ!」
その時、ザイフリートとの通信から別の声が聞こえてくる
『──中佐、滑走路を破壊されました! 敵の遠距離砲撃です!』
『...!』
一瞬、ローランドの手にかかる負荷が大きくなったかと思うと、アティラが一息に押しきり、距離を取る
まだ通信には別の声が入っている
『...残存機は?』
『7機です、ですが...』
『...離陸済みの機は?』
『もうすぐほとんどがアルファの通信圏内へ離脱するはずです。』
『...ストームレイン指揮官より全機、我々は基地を放棄する。 各部隊長は自身の判断で最も生存性の高いと思われる行動を取れ。 繰り返す、我々はストームレインを放棄する。 各部隊は各自の判断で生存を最優先しろ。』
ローランドはその一部始終を聞いていた
「お前...」
『ん? ...あぁ、聞かれてしまったな。 ...正直言えば、我々はこんな戦争、やりたくてやっているわけではない。 ただ、上からやれと言われたからやっているに過ぎない。 お前だって...そうだろう?』
「そりゃ...そう...」
そうだ、そう言おうとしたローランドの口が止まる
ローランドの脳裏に一つの考えがよぎる
何故、自分は戦っているのだ?
何かを忘れている気がする
何をだ?
ディケがそこでしまった、とでも言わんばかりの顔をする
ディケが叫ぶ
『エリソン、目の前のことに集中してください!』
「...あ、あぁ。 そうだったな。 それで? ザイフリート、お前はどうするんだ?」
『そうだな... 降伏する、と言ったら受け入れてくれるのか? 言わずとも知れていることだが、我々の間に戦時条約などは存在しない、だろう?』
「...確認してみよう。 ガートル、こちらライブラ、確認したいことがあります。」
この場の自身の指揮官と言えばシオンハートだ
すぐに通信を繋ぐ
『こちらガートル、何かあったか?』
「敵指揮官と交戦中ですが...降伏の打診です。」
『なんだと? ...それはソイツだけか? それとも...』
「確認します。 ザイフリート、降伏は基地ごとか? それともお前だけか?」
『...そうだな... ストームレイン指揮官より全機、もしCAUに降伏したい者がいる場合、武装を放棄し滑走路へ集合せよ。 繰り返す、CAUに降伏する者は武装解除の上滑走路へ集合せよ。 これでいいか?』
さすが指揮官、判断が早いな、とローランドは思う
「あぁ、分かった。 ガートル、敵指揮官により、降伏する部隊は武装解除し滑走路に集まるようにとの指示が出たようです。」
『ふむ...分かった、罠の可能性は十分に高いが、かと言って無駄な損失をお互いに減らせる可能性を無為にもしたくない。 私が対応しよう。』
「了解、ガートル。」
『報告に感謝する、ガートル通信終了。』
モニタが暗転し、残るはザイフリートとの音声通信だけになる
『...ありがとう、戦士よ。』
「...気まぐれだ、感謝されるつもりはない。」
ローランドの思考は混乱していた
今まさに、自分のモノではない思考があるような気がしていたのだ
──人間の無駄な犠牲? 私はそれが嫌いだからこうしているんだ。
聞いたことのあるはずの、聞いたことのない声が頭に反響する
毎日のように聞いているはずの、シオンハートの、シオンハートのモノでない声が反響する
その混乱する思考に追われ、ローランドは目前のディケが深刻な表情を浮かべているのに一切気づいていない
声にはなっていないが、よく見るとディケのホログラムの口元がわずかに動いている
独り言の類だろう
ローランドに聞こえないよう、ディケの思考にだけ通信が入る
ディケも同じく思考でのみそれに応答する
『グローリアだ、どうした、ディケ?』
『イレギュラーです。 ローランドが思考の不備に気づいています。 プロジェクト・アバターの懸念事項がやはり。』
『...そうか、やはり... 分かった、警戒して遂行にあたってくれ。』
『...了解。』
──STC:20:00/MNPWT11:00
ストームレイン滑走路
銃声、あるいは爆音の聞こえなくなった滑走路に、2つの勢力が会していた
「諸君らの降伏を我々は受け入れる。 諸君らは極めて賢明な判断を下してくれた。 確かに我々の間に戦時条約は存在しないが、諸君らの身柄は丁重に扱おう。」
「感謝する、CAUの指揮官。」
「弾薬もタダではないからな。」
シオンハートがCAUを代表し、ESFにそう告げる
ぶっきらぼうにそう言い返すも、その声はどこか嬉しそうだ
「...さて、そういう訳で悪いんだが...」
そう言ってシオンハートが指揮を執り、状況を纏めていく
降伏せずに周辺に散った部隊の残党狩りなど、やるべきことはまだ残っているのだ
時は少し戻り、まだ戦闘が続いていた頃...
新太平洋上空、1つのESF輸送機が東へと飛んでいた
『こちら軌道エレベータアルファ航空管制、そちらの通信波を捉えた。 コールサインは?』
『こちらスパロー3-9、バトルワーカー、及びそのパイロット他を載せて飛行中。 声が聞けて嬉しいよ、アルファ。』
『スパロー3-9、こちらも嬉しい。 そのまま誘導する。』
『了解... おい、なんだあれ!?』
『スパロー3-9? どうした? 何があった?』
スパロー3-9のコックピットから、前方の空の異常が見えた
空を覆っていた厚い雲が急に晴れていく
しかも、雲が流れていくわけではなく、ある1点から円状に雲が消えていくのだ
『わ...分からない、なんて説明すればいいんだ?』
あれだけ降っていた雨は止み、風も収まる
航空機からすれば飛びやすいが、そんなことを忘れてしまうほどの異常事態だ
『晴れだ...晴れていく...』
『なんだと? ...なんだ...これは...』
気象衛星からの映像を見たアルファの航空管制も絶句する
『...! スパロー3-9! 上空にCAU艦隊を確認した!』
『なんだって!? 待ってくれ、こんな場所じゃ逃げも隠れもできない!』
『...幸運を祈る...』
『チクショウ! 何だっていうんだ急に!』
その軌道上で、ゆっくりとCAU艦隊が動く
『RTSベータより各艦、スポッターからの情報を頼りに各自砲撃せよ。 周辺は全て海上であり、民間施設等への誤爆の恐れは存在しない。 全兵器、オールグリーン。』
セイバー第2艦隊のそれぞれが砲を向ける
艦隊の情報リンクシステムが最適な割り振りを行い、無駄を減らす
そして、1つの艦が軌道攻撃用のミサイルを発射したのを引き金に、多数の砲、ミサイルが発射される
さながら流星雨のようにそれは降っていく
雨の次は砲弾の雨あられとは、おおよそ正気ではない天気だろう
『スパロー3-9からアルファ! 翼に被弾... もう持たない! 墜落す──』
『スパロー3-9? 3-9、応答せよ3-9?』
狙いが大雑把になる軌道攻撃でも、数を撃ってしまえば面制圧となり、何発かは当たる
艦載大型砲からの攻撃は地上兵器にとっては強烈な一撃となり、攻撃範囲にいた何機かの輸送機が撃墜される
何の偶然か、その中に非戦闘員が乗った機体がなかったのは唯一の救いだろうか
もちろん、非戦闘員への攻撃を禁止する規定などは存在しないが、それでも最低限のモラルとしてそれは避けられている、という程度だが




