66: EP4-16 終幕への一押し
...えーと?
プリン...なんだって?
あ、おいしい、意外といける...
リーフ、これ後10個ぐらい送って...え、賞味期限が短いから分けて送る?
分かったよ、リーフ、それで頼むさ。
コロニー協定連合体 "CAU"
オペレーションストームライダー
7日目
西暦3020年3月29日[STC]
協定宇宙時16:40、火星新太平洋西時間07:40
火星地表、新太平洋西部、ESFストームレイン基地
終わりは、もうすぐそこに
──Side: 3人称視点
時間は交戦の少し前へと遡る
ESF部隊は離陸準備を進める輸送機を横目に、出撃準備を進めていた
1人の若いパイロットがバトルワーカーの足元で、1枚の写真を手にしていた
そこに同じ分隊に所属する彼よりかは少し歳を重ねたパイロットが近づく
「それは?」
「あぁ、これか?」
話しかけられた若いパイロットが手にした写真を見せるようにしながら続ける
「カミさんと娘だよ。 もうすぐ7歳になるんだ。 というかいつも顔見てただろ?」
「確かにな。 ...もう乗ってるのか?」
若いパイロットが滑走路のほうを向く
「あぁ、一番最初の便で出る予定だ。」
「そりゃ...良かったな。 俺は家族なんていないからなぁ...」
「この場合は身軽でよかったじゃないか、って言うべきか?」
「おいおいそりゃないだろ? ま、でも確かにそうなのかもな。」
歳を重ねたパイロットのほうはそれ以上言わない
それもそうだ、ここが死に場所になるかもしれないのだから
「よし、お前達。 そろそろ出撃だ。 機体に乗り込んで準備をしとけ。」
「あいあい了解、隊長。 よし行くぞ!」
「あぁ、行くか。」
彼らは駐機状態の機体へと上がり、コックピットへと滑り込む
シートに身体をしっかりと固定すると、ハッチを閉じ、出撃準備を進める
若いパイロットはふと思う
生きて、家族に再開できるだろうか、と
そして、時間は今へと戻る
ストームレインの攻防戦は残すところ最後の1つのアレイを巡り、決戦とも言える戦いが続けられていた
『3-1が! 隊長がやられた! なんだあの機体は!』
『こ、こっちに...うわぁ!』
『3-3がダウン!』
若いパイロット、彼のコールサインはホテル3-4だ
『3-4、3-5、落ち着け。 冷静に後退するんだ。 あんなのを相手にしてたら命なんざいくつあっても足りない!』
『了解3-2... あんなバケモンがいるなんて...』
黒い機体に白い発光するラインがあしらわれたその機体はあり得ない動きをしながら戦場を支配していた
手にした銃からは光る弾丸を撃ち、それは自分達の機体をあまりにもあっさりと貫く
そして手にしたソードは同じく自分達の機体を紙でも切るような手軽さで切り裂いていた
しかも、急にその場で大きく飛び上がったかと思えば、今度は地上をスライディングのような動きで距離を詰めてくる
あんなことをしたら中のパイロットごとシェイクされて無事だとは思えないのだが、いったいどんなカラクリなのか...
3-4は牽制に手にしたライフルを撃ちながら仲間と共に少しずつアレイのほうへと後退する
あまりにも流麗な動きをするその敵に弾丸が当たることはないが、それでも撃たずにはいられなかった
1機、また1機と仲間達がその敵に仕留められていく
そのどれもがコックピットをしっかりを攻撃されていた
当然、中のパイロットは助からないだろう
濃密な死の気配に、手の、あるいは身体中の震えが止まらない
そして、もう何機かの味方が撃破された時、コックピットに突き立てたソードを敵機が引き抜こうとしたところを、3-4は見逃さなかった
『クッソォォォ! 当たれぇ!!!』
力の限り、彼は操縦桿のトリガーを引き絞る
それに機体が応え、弾丸が発射される
何発もの銃弾が敵の機体へと吸い込まれるように当たる
しかし...それで敵が動きを止めることはなかった
刹那、敵機と目が合った気がした
『...っ...!』
敵機がソードを引き抜き──その場から飛ぶのが見えた
彼の脳裏を走馬灯が駆け巡る
『...すまない──』
その言葉は誰へ宛てたものだったのか──
ソードの切っ先が彼の視界へと迫る
そして───
『3-4がダウン! 3-4がやられた!』
『下がれ! 下がれ! これ以上はダメだ!』
これも、書類の上では数字に過ぎない出来事なのだろう
だが、それの持つ意味は...
『敵を撃破。 エリソン、これ以上の深追いはいいでしょう。 まずはアレイを確保しないと。』
「そうだな、ディケ。 他の部隊は?」
ローランドは目標アルファのアレイ周辺の掃討を行っていた
しかし、両軍最後の目標と決めたせいか、数が尋常ではなく、時間がかかっていた
いくらライブラが強力で、ローランドが優秀だろうと、簡単なことではない
『マルコシアス大隊長以下ネイヴィガー隊がこちらへ接近中。 ルプスレフィア大隊長指揮下の部隊は支援位置へと移動しています。』
「オーケー、さすがに1人じゃ手が回らない。 ネイヴィガーと協力しよう、ディケ。」
『了解、マルコシアス大隊長へ連絡します。』
結局のところ、戦争とは数の力がモノを言う
小規模な小競り合いや、その手の類のものであれば優秀な個人が戦況を決めてしまうのだろうが、今ここに至って行われている総力戦ではそうもいかないものだ
『エリソン、通信を繋ぎます。』
「了解。」
ローランドの視界の中に通信モニタが開く
映っているのは黒髪に青い瞳の、男
言わずもがな、マルコシアスだ
『ディケから聞いた、手を焼いているようだな。』
「はい、マルコシアス大佐。 すいませんがネイヴィガー隊の手を借りられれば、と。」
『いいだろう、数は力だ。 こちらとしても君のような優秀な兵士と肩を並べるのは望ましい。 合流地点を指定する、そちらのほうが単独で合流しやすいはずだ。』
「了解です、大佐。」
すぐに周辺を映したマップに座標が指定される
『では、また会おう。』
通信が終了する
「そんなに離れてないな、行くぞ、ディケ。」
『了解。』
一方、ESFは...
基地司令、ベアトリクス・ザイフリートは司令室で報告を受けていた
「ザイフリート中佐、非戦闘員搭乗機全機の離脱は完了しました。」
「分かった、後は...」
ストームレインからの撤退は大詰めだった
一番の懸念だった非戦闘員の離脱が終わった今、ここにはESF軍の兵士しか残っていない
そして、それをわざわざこんな場所で戦死させる意味もなかった
「...順次戦闘員を脱出させる、可能な限り、兵器類も持ちだせ。 不可能な分は全て破壊し、奴らに何一つ残してやる必要はない。」
「了解しました、中佐。」
「あぁ、それと...」
部屋を去ろうとした兵をザイフリートが呼び止める
「...私のバトルワーカーの準備をさせてくれ、すぐに行く。」
「りょ...了解、中佐。」
そう告げるザイフリートの目は、司令たる自分が逃げることなどできないと雄弁に語っていた
そして、CAUも最後の仕上げへと移ろうとしていた
『こちらパニッシャー、ガートル、敵輸送機を視認したよ!』
『了解、攻撃できそうか?』
『んー...スコルピオンのだとまだ。 私のレールガンならいけると思う。』
ルプスレフィア率いる支援部隊がストームレイン滑走路を射程距離に捉えつつあった
『あー...もう少し前進すれば曲射弾道で滑走路を攻撃できるかも。 ガートル?』
『そうだな... どちらにせよ我々が空路で海を渡ることは無理な話だ、であれば、滑走路を破壊するのは理にかなっているだろう。』
『了解、もう少し前進して、スコルピオンの曲射で滑走路を攻撃する。』
そして、既に5つある通信アレイのうちの4つはCAUの手中にあり、戦況は誰が見ても決していた
『ネイヴィガー1より、ガートル。 敵は?』
『いや、応じないな。 さすがにこの状況なら、と思ったんだがな...』
シオンハートは先ほどから何度もあらゆる通信帯域を経由してESFへ降伏を呼びかけていた
平時の国際周波数に始まり、緊急遭難時周波数まで、あらゆる帯域をだ
それでも、ESFからの応答はなかった
『この期に及んでも、か...』
『向こうがそうだと言うのなら...な。 しかし、よく考えてみると滑走路の破壊は悪手だろうか。』
『そうかもな。 退路を断たれたからと言ってそれで諦める相手ではないのだろう。』
それで諦めてくれるのならそもそもこんな苦労していないだろう?
そう言葉の外側にマルコシアスが含めているのに、シオンハートも気づいていた
『やるしかないか。 できれば無駄な犠牲は出したくなかったさ。 例えそれが敵でもな。』
マルコシアスはその発言を言葉の通りに受け取った
もちろん、それが本当に『シオンハート』の口から発されたのかどうかなどと、疑えるはずもなかった
「また1つやった、ディケ、次は!?」
『ネイヴィガー5より、接近中の敵機への要撃支援が来ています。』
「すぐに取り掛かろう、アシストを。」
『了解。』
戦況は終盤とでも言うべきだった
双方が総力をぶつけあい、それでいて、CAUが一歩ずつ歩みを進める
『...エリソン、敵機の中に1機、他と違うタイプが。』
「どれだ?」
『これです、今映します。』
ローランドの視界に映像が投影される
映っているのは、どこか古びた雰囲気を感じさせる機体だ
「...アドニスじゃないな、旧式でもこんなのいたか?」
ローランドが記憶の中にあるESFバトルワーカーを思い浮かべようとする
『ESFの第2世代型...極少数のみが生産されるに留まったネアス・アティラ指揮官型...?』
「アティラ? 第2世代型の量産機か?」
『そのアティラ型の更に性能向上型であるネアス・アティラの更に少数生産型である上位機、指揮官型です。 一応2.5世代型に該当するはずですが...はっきり言ってかなり希少な機体のはずです。』
ディケがアバター体のまわりにホログラムでいくつか3Dモデルを表示する
見ると、確かに映像にある機体とそっくりだ
「...指揮官型...ここの指揮官か?」
『そんな分かりやすいことをするでしょうか?』
「...それもそうか...いや、分からないな、警戒するに越したことはない。 性能は?」
『スペックデータだけで言えば、ネアス・アドニスに比べ当然汎用性は劣りますが、良好な射撃戦性能を誇ります。 脚部まわりの堅牢さと十分な腕部のパワーでブレのない射撃が売りだったようです。 転じて、近接格闘も不得意というわけではないようです。 腕のいいパイロットが乗れば第三世代型を超える性能と言っていいでしょう。 ...まぁ、このライブラを超える性能を出すことはどんな機体でも無理、というのは常々言っていますが。』
最後の部分だけ、やけにディケは誇らしそうだ
「...警戒してあたろう、どんな隠し玉があるか分かったもんじゃない。」
『そうしておきましょうか。』
──火星、低軌道上
「軌道シークエンス、最終段階へ移行。 セラフィエル6の周回軌道突入完了。」
『セラフィエル7の同期速度をメンテナンスついでに向上させておいたけど...どうかしら。』
「あぁ、問題なさそうだ、レイナ。 セラフィエル6を火星の自転に同期、気象データのリモートセンシングを開始。 うん、セラフィエル7の通信速度も大幅に上がってる、助かってばかりだ、レイナ。」
『喜んでくれたなら嬉しいよ。 』
火星低軌道上、新太平洋の上空に、セラフはいた
眼下に広がるは青と緑に溢れる豊かな惑星、しかし今、その青は灰色の雲に覆われている
「ま、さすがにセラフィエル6を以てしても長時間の操作は無理だ。 レイナ、RTSベータに秘匿回線を繋いでくれ。」
『待ってね... そっちに送るわ。』
セラフの眼前にレイナが映っているのとは別のホログラムモニタが現れる
映っているのはRTSベータの指揮官席、つまり、ウィルクスだ
『...これは驚いた、セラフ様自ら通信とは一体何事だ?』
「その呼び方はよしてくれ、ウィルクス... と、本題だ。 これから短時間だけ、敵基地周辺の天候を晴れにする。 有効利用してくれるな?」
『...また、セラフィエルシステムか? 報告は聞いたぞ、軌道エレベータ攻防戦でスプーキーを撃墜したとな。』
モニタの中のウィルクスが苦笑する
「あぁまぁ...そうだ、手に余ってそうだったからな。」
『改めて感謝しておくさ、セラフ。 ...しかし、セラフィエルシステムか...』
「どうした?」
『いや、ほとんどの情報は機密指定されているから詳しくは知らないが、本当にそんなものが人間に作れたのかね、とな。』
「はは、まぁ色々とやり方があるんだよ、知ってるだろ?」
『それもそうだ。 風の噂程度だが、セラフィエルシステムがレイナとセラフ、君たちにしか弄れないのぐらいは知っているさ。』
ウィルクスがモニタから目を離す
『オーケー、軌道攻撃の準備ができた。 だが、艦隊の位置が若干悪いな、基地より少し東にズレている。』
「なら、移動中らしい敵の輸送機を狙ってみたらどうだ? 軌道攻撃で当てるのは難しいだろうが、数撃てば少しは当たるだろう?」
『助言感謝する、そうするさ。 他に用は?』
「いや、それだけだ。」
『了解、通信終了。』
モニタが消える
「よし、セラフィエル6がデータを取得し終わった。 推定操作時間は...20分か。」
『上出来ね、セラフ。』
「曇らせるのは簡単なんだけどな、はは。」




