表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP4『新太平洋の戦い』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/129

61: EP4-11 それぞれの準備

ふむ... 分かった、試しに送ってみてくれるかい?

実際に現物を見てみたほうが早いだろ、リーフ?

あぁ、頼むよ、こっちからは何か... 今はない?

それじゃ、よろしく頼むよ。

コロニー協定連合体 "CAU"

オペレーションストームライダー

6日目

西暦3020年3月29日[STC]

協定宇宙時(STC)20:00、火星新太平洋西時間(MNPWT)11:00

火星(マーズ)地表、新太平洋西部、ESFストームレイン基地西方


決戦の時は近い



──Side: 3人称視点



ESF航空基地─ストームレイン基地へと進撃を続けるCAU、セイバー部隊

その最後方を進むシオンハートは自身のマリエルの中で、秘匿通信を受け取っていた


『とりあえず、技術局...グローリアと私のほうで対抗パッチは仕込んでおいた。 そう長く持つものじゃあないけど、クロノスの影響を抑えられるはずだ。』

「分かった。 感謝する、スノー。」


通信モニタの向こう側の相手─スノーにシオンハートが礼を告げる


『まぁ、ディケによろしく言っておいてくれ。 なんだかんだで一番頼りになるのは彼女だろう。』

「分かった。 後はないか?」

『大丈夫かな。 それじゃ、また。』


通信が切れる


ふと外を映す映像にシオンハートが目を移す


「...嵐が弱まってきてるな...」


絶え間なく叩きつける雨も、吹きすさぶ風も、落ち着きつつある

予想通り、嵐が弱まりつつあるのだ


「リーコン3-1へ、状況を報告してくれ。」

『リーコン3-1よりガートルへ、進行方向に敵影は確認できない。 それと、4-1より報告だ。 敵基地に動きが見られる。 今すぐに何かがありそうな雰囲気はないが、ここまでの経過時間からするにそろそろここを引き払うつもりだろう。』

「了解だ3-1。 偵察を続行してくれ、本隊はこのまま前進を続ける。 通信終了。」


やはり敵は読み通りの動きをしている、それがシオンハートの予測だった

しかし、あまりにも上手く行きすぎているのも不安を煽る要因になりつつあると考えていた

敵に誘われているようにも考えられるが、それを理由に足を遅らせてしまっていては、目的に間に合わなくなるだろう


そうこう考えているうちにも、部隊は少しずつ目的地へ向かっていく

次の交戦が新太平洋での最後の戦いになる──そう確信を持ったシオンハートであった






その頃、ストームレイン基地では...



「総員へ、ザイフリートだ。 最新の観測によれば、明日午後にも輸送機が飛行できるラインにまでスプリングストームが落ち着くことが見込まれている。 よって、それを目途に本基地を放棄し、撤退を行う。 既にCAUの追撃部隊は目前まで迫っており、時間がない。 最悪の場合、CAUと交戦しながら撤退を進めることになるだろう。」


シオンハートの読み通り、ESFは来るその時に備えていた

指揮官であるザイフリートが基地全体への通信で言葉を続ける


「第一陣として、非戦闘員の脱出を行う。 続けて順次要員の脱出を行う。」


幸いにして、人員を撤退させるだけなら十分な数の輸送機が揃っている

バトルワーカーをはじめとした物資は全て持ちだせるわけではないが、今は仕方ないことだろう


「CAUの目標が我々の殲滅であることは容易に想像できる。 だが、それと同時に我々は本基地の通信設備を守り抜く必要もある。 軌道通信が未だ復旧しない中、輸送機が軌道エレベータアルファの通信中継器を捉えるまでは本基地からの誘導が必要だ。 それがなければ、新太平洋の海に沈むことになる。」


先のMSN襲撃事件の余波は未だ収まらず、火星圏のESF軌道通信ネットワークは混乱の最中にあった

襲撃者が墜落させなかった衛星も、集中する通信トラフィックの負荷に耐えきれず次々と機能不全を起こし、既に襲撃前に比べるとその能力は1割程度にまで落ち込んでいた

残った1割というのも、結局のところは衛星の自動負荷遮断プロトコルによって保護されたに過ぎず、機器保全状態にある今、その機能を果たせているかは怪しかった

なお、この事件が後に惑星上の有線ネットワークや、旧来の短距離電波通信を再評価させることになったのはまた別の話ではあるのだが...


しかして、何という偶然だろうか

互いが互いの情報を握っているわけでもなく、だというのに自然と互いの目標は一致する

基地の確保、そして通信設備の奪取を狙うCAUに対し、通信設備の防衛を狙うESF

果たしてこれは偶然なのだろうか?

それとも...






「...さてと... こんなものかな?」


そのストームレイン基地の一角、5つある軌道通信アレイのうちの1つにあるサーバールームにその人影はあった


「アイリスよりレイナ。 サーバーにバックドアを仕掛けた。 どう?」


ブロンドのセミロングヘアー、アイリスだ


『オーケー、入れたわね。 待って...セキュリティプロトコルをバイパスしないと。 ...物理的にロックされてるわね。 アイリス、そっちで突破できるかしら。』

「待って、やってみる。 えーと...」


アイリスがサーバーから引っ張り出したコードの束を弄る


「あー、これと...後...こっちか、えい。」


アイリスが何のためらいもなくコードを切断する


『よし、ファイアウォールが停止したわね。 セキュリティをバイパスできた。 サーバー内に侵入する。』

「行けそう?」

『えぇ、問題ないわ。 後はここを弄れば... ファイアウォールの近接検知を解除... カーネルレベルにダミーデータを流して... うん、問題ないね、これで。』

「おっけー、侵入する。」


アイリスが手にしていた何らかの装置をサーバーに接続する


「よし、アップロード開始。 これが終わればいつでも遠隔でサーバーを落とせるよ、それも、全部。」

『いいわね、後は最高のタイミングでドカンと一発花火を上げるだけ。』


アイリスの左腕の上に浮かぶモニターの先で、通信相手─レイナがクスクスと笑う


「そっそ。 んー、後は基地の電力システムにでもアクセスできればいいんだけど。」

『ちょっと危ないかもしれないけど見てみようかしらね。』


レイナが通信には映っていない手元で何かを黙々と操作している様子が見える


『あったわ、別の物理的ファイアウォールの先に経路が見える。』

「じゃあそっちを抜ければ制御できそうかな。」

『そうね... 多分、いけるわ。』

「分かった。 探してみる。 経路のアドレスは?」

『今送るわ。』

「ありがと。 ...探してみるよ、レイナ。」


そう言ったアイリスが左腕の端末を何やら操作すると、その姿は周囲に溶け込んで次第に見えなくなっていった

誰も知らないところで、着々に準備は進んでいく...






その頃、同じくストームレイン基地のバトルワーカーハンガーのその男の姿があった



「アイツ...また出てきたら今度は決着をつけてぇモンだけどなぁ。」


愛機たるモリガンの足元でその男、アレクシス・ソーンダイクは呟く

そこに人影が近づく


「ソーンダイク中尉、調子はどうだ?」

「ん? これはザイフリート中佐。 特別問題ありません。 ...こんなところまで来て、何かご用でしょうか。」


ザイフリートがソーンダイクの様子を見にきたところだった


「先の通達は聞いただろうが、次が最後の戦いになる。 我々基幹要員は最後までこの基地に残り、殿を務めるつもりだが... これは他言しないでほしいのだが、正直なところ、殿といいつつ、恐らく生還は望めないだろう。 もちろん、軍に拝命した時から戦場に骨を埋めることに忌避はない。 その覚悟の上で我々はここにいるのだからな。」

「分かりました。 ...では、何故それを俺に?」


ソーンダイクの疑問は最もなものだ

他言無用だと言うのなら、最初から言わなければいいことだ


「貴官のような優秀な兵士にはここに残ってもらうわけにはいかない、というのを伝えに来たんだ。 我々はこの基地を放棄するわけだが、それでCAUが留まってくれるわけではない。 それどころか、我々は...ESFは火星を失うことになるかもしれない。 そうなれば、待っているのは地球、本土決戦なのだ。 その時に、貴官のような兵士が絶対に必要になる。」


おおよそ、基地の司令官が発していいようなわけがない言葉にソーンダイクが言葉に詰まる

それでも、彼は言葉を繋ぐ


「そ、それは... いえ、分かりました。」


ソーンダイクは確かに大雑把な性格かもしれないが、それでいて大局を見る目がないのかと言われればそういうわけでもなかった


「最悪、我々は自爆してでもCAUをここで押しとどめるつもりだ。 貴官は自身の責を果たしたら輸送機に乗ってくれ。 その機体も持って帰ったほうがいい。 それほどの機体をまた調整するのはいかに腕のいい整備士でも難しいだろう。」

「...ありがとうございます、弟にも言っておきます。」

「あぁ。 よろしく言っておいてくれ。 では、頼んだぞ、ソーンダイク中尉。」

「了解、中佐。」


そう言って、ザイフリートがその場を離れる

その背中がどことなく不安そうに見えたのは、果たして気のせいだったのだろうか






「もぐもぐ... あ、ブラック君、待ってたよ。」

「...何食べてるんです?」


いつものモノクロ空間、そしていつもの2人


「ん? これかい? なんかね、最近リーフのとこの世界で何やらフルーツサンドとかいうのが流行りらしくてさ。 試しに送ってもらったんだ。 食べるかい? 思ったよりリーフのやつが大量に送ってきててさ。」

「...では、頂きます。」


スノーがテーブルの上に置いてあった銀皿に乗ったそれをブラックのほうに近づける


「組み合わせそのものはシンプルなんだけどね。 平たいパンの上にクリームとフルーツを載せてもう1枚のパンで挟むとかいう、ようするにサンドイッチの具材を変えただけのシロモノ。 言ってみればありきたりのはずなんだけど、なんで急に流行ってるんだろうね?」

「さぁ... 閣下、それは?」

「ん、これかい?」


スノーが左手に持っていたドリンクカップらしきものをブラックが指す

やけに太いストローが刺さっているようだが...


「なんかこれもってリーフのやつが送ってきたんだよ。 なんかこれも同じ世界でちょっと前に流行ってたものらしいよ、なんて言ってたかな...」


透明なカップの中には薄い茶色をした液体と、その底のほうに沈んだ黒い粒のようなものが見える


「あぁ、そうだ、タピオカ、だっけ? 芋のデンプンがどうとか言ってたな。 見た目はアレだけど案外イケるもんだね、あぁ、君もどうだい?」


スノーが揺らすカップの中で、タピオカが液体にたゆたう


「...いえ、私は遠慮しておきましょう。」

「そっか。 まぁいいや、とりあえず立ち食いも何かだし、座るといいよ。 その上で報告を聞こうじゃないか。」

「はい、閣下。」


ブラックがスノーの目前にある長テーブルの彼女から見て右側につく


「さて、閣下。 アストライア計画について少々報告があります。」

「うん? 何か問題が起きたのかい?」

「えぇ、少々。」


ブラックが手にしたタブレット端末を操作する


「こちらを見つつ説明しますが、ホーライにて実戦投入されたサンダイアルドライブを小型化したものを搭載する計画ですが、既存のアイヴァン-グローリア・エジタイト粒子加速炉では出力が全くと言っていいほど不足しています。 そのため現在リアクター設計を一からやり直す作業が発生しています。」

「ふむ、やはり小型化してもそうなるか。」


スノーが顎に手を当てながら資料に目を通す


「設計のベースはホーライと同じグレイス-アイヴァン・術式(マナテック)変換炉コンバージョンリアクターから引っ張ることにしたそうです。」

「やっぱりマナか。 どういう原理なんだか。」

「技術局も、あちらの技師も研究はしていますが、まったく原理は分かっていないそうです。 結果は確かだから有効に使うしかないという段階です。 まぁ、よくある話ですが。」


まぁそうだねぇ、そう言いながらスノーがフルーツサンドを口へ運ぶ


「ん、こっちも意外とイケるな。 あぁ、ブラック君、他には?」

「アバター計画の進捗があります。 パーシヴァル、エルヴィスでの実証を元に更に研究を進めています。 ...正直なところ、機会があるのなら一度ローランド・エリソンを本部で詳細に解析すべきなのでしょうが。」

「それは...まぁまだ時期尚早だよ。 物事には時期ってものがあるからさ。 とりあえず、アストライア計画を確実に進めてくれ。」

「分かりました、閣下。」


ブラックが持っていたタブレット端末をテーブルに置く

奇妙なことにテーブルからは本来想定されるような物音が聞こえなかった


「ま、とりあえずブラック君ももっと食べていくといいよ。 ...リーフに他に何が流行ってるのか聞いてみるか...」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ