55: EP4-6 夢、深海の声
...まさか...
そうか。
海は、深海と繋がっている。
そういうことか。
...厄介だね。
地球主権連盟 "ESF"
ストームコート作戦
6日目
西暦3020年3月26日[STC]
協定宇宙時10:00、火星新太平洋西時間01:00
火星新太平洋西部、ESFチェックポイントエコー付近
私は与えられたモノは何でも利用するさ。
私が何故産まれたかは知らないが、それでもな。
──Side: 3人称視点
「ふわーぁ...ねみぃ...」
「おいおい言うなよ、これだって仕事だろ?」
ESF軍の兵士2人が深夜、撤退の中継地点周辺の見回りをしていた
騒がしいバトルワーカーでなく、あえて生身で行うことで例え敵が近づいていたとしても見つかりにくくする目的があった
「そりゃそうだけどよー、ねみーもんはねみーんだよ。 な?」
「な? じゃないぞなじゃ。 否定はしないでおくけどよ。」
既に時刻は深夜であり、2人は軽口を言い合いながら見回りを行う
しかし、敵に発見されないよう、明かりは最小限ということもあり、傍にあるような森の中には何かがいたとしても到底見つけることはできないだろう
「まぁまだ本格的な夏場じゃないだけいいと思っとけよ、時期によっちゃ夜でも暑くて暑くてたまらないらしいからな。」
「うへー、夜でも暑いとか信じらんねぇな。」
「あぁそういやお前、北のほう出身だったもんな。」
「そらそうよ、夏っつったらー...ん?」
2人が歩いていた森の端、その森の中で何かが動くようなガサガサ、という音がする
「なんだ? 暗くてよく見えねぇな...」
「ちょっと見てみよう。 敵の偵察だったら殺っておかないと面倒になるぞ。」
そう言って2人が手持ちのライト、それに銃を構え森の中に入っていく
「地元の森でももう少し歩きやすかったんだがな...」
「俺の地元じゃ森っつったらこんな足元まで生えてはなかったなぁ。」
暗い森の中、つまずかないように2人はゆっくりと足を動かす
「...何もいなさそうだな。 音もしないし。 おい、戻ろうぜ。」
周囲を確認し、人はおろか小動物のようなものまでいないのを確認し、元の道へ戻ろうとする
「...おい? どうした?」
いない
つい先ほどまで一緒にいたはずの相方の姿がどこにも見えない
軽口こそ多いが、何も言わずに突然いなくなるような奴ではない、そう考えていた彼は冷静になる
「...」
音も立てずに人間1人を排除できるような何かがこの場にいる?
それとも...?
「───」
かすかな声が聞こえる
それは森を抜けた、向こうの海から
「...誰かが呼んでいる...」
彼は虚ろな目で、歩き出す
「...全く...嫌になる。」
オルカは、アビサルハートはそこにいた
「こんなのは私のしたいことじゃあない。 だが...この身体は間違っても、深海のモノなんだ。」
手を赤く染め、呟く
「これが快楽かどうかと聞かれれば、それが快楽でないと言えば、嘘になるんだ。」
手から赤い液体を滴らせ、呟く
「私は人に、ヒトに寄り添う。 だが...」
ザッ...と音を立て、オルカの立つ波の押し寄せる海岸にもう1人の人影が現れる
「...こっちのほうが、私好みだ。」
虚ろな目をした男を見て、オルカは嗤った
「指揮官、マズイことになった、アレンがいなくなった。」
『何だと? 分かった。 ...一旦戻ってこいコーディ、1人では危険だ。』
「了解した、指揮官。」
彼が、コーディが当直の指揮官に通信を送る
「いい子だ。 後は分かってるな?」
「...」
「よしよし。 ...さぁ、行け。」
再び虚ろな目をしたコーディの背を、オルカが見送る
「結局、ラヴクラフトの神話と、人魚伝説から産まれた私はこうやるのが一番手っ取り早いんだよな。」
しみじみとした様子でオルカが呟く
「少なくとも自分の手は汚さないで済むのは評価点だ。 」
くるりとオルカがコーディに背を向ける
「さて...これが上手く行ったらもういくつか試してみるか。」
直後、オルカの姿はもうどこにもなかった
─翌朝、ESFチェックポイントエコー跡
「...シオンハート嬢、どういうことだと思う?」
「..さぁ...な。」
ESF軍を追撃していたセイバー連隊の前に現れたのは、どういうわけか動くもののいなくなった、壊滅したESFの駐留地だった
「バトルワーカーは無傷。 だと言うのに、テントの付近では争った跡に、夥しいほどの死体の山。 ここにいた連中は全員死んだんじゃないか?」
マルコシアスがそう言う
「...我々以外にも誰か、いるんじゃないのか?」
「誰か? ...ふぅむ...現地民の敗残兵狩りとも思えんが...」
どことなくシオンハートの言葉に歯切れが悪いような印象をマルコシアスは覚えつつも、深くは気にしない
「...まぁ楽が出来たわけだ。 今は誰だか知らない誰かに感謝しておこう。 それから、それがこちらに牙を向けないかの警戒も、だな。」
「それもそうだな、シオンハート嬢。」
使えそうなものはなんでも持っていくとしよう、とマルコシアスが声をかけながら歩いていく
それを見ながら、シオンハートが聞こえないように呟く
「...さすがにやりすぎたか...」
と




