54: EP4-5 余波
いやはや驚いた...
いくらジャッジメントの通信システムが優秀だとは言え、まさかこれほどとはね。
しかし、グローリアもよくやってくれてるよ。
コロニー協定連合体 "CAU"
オペレーションストームライダー
2日目
西暦3020年3月25日[STC]
協定宇宙時22:00、火星新太平洋西時間13:00
火星地表、新太平洋西部
遭遇と邂逅は唐突に訪れるものだ
──Side: 三人称視点
『ガートル! こちらソーン3-1、敵部隊の待ち伏せに会い交戦中! 至急応援を求む!』
『了解したソーン3-1、フェオ2を向かわせる。 持ちこたえろ。』
『了解、応援に感謝する!』
ついに新太平洋西部の島嶼群へと侵攻を開始したセイバー連隊第3BW大隊を中心とした陸戦隊は出撃の翌日、早速と言わんばかりの歓迎を受けていた
ESFバトルワーカー部隊の攻撃を捌きながら、シオンハートとマルコシアスが通信越しに会話する
『ガートル、これは待たれていたな?』
『だろうな、ネイヴィガー1。 決死隊の類だろう。 あれからもう1週間近くは経つというのに、こんな位置にまだいたとは。』
『ううむ。 だろうとしても、奇妙ではあるな。』
『というと?』
『何というべきか...凄い忠誠心だ、とな。』
『案外末端の兵士とはそういうものだ。 そもそも、それを言えばマルコシアス、いや、リグ、お前の忠誠心こそ、だろう。』
『...自分はただ忠義と道理に従っているだけだ、シオンハート嬢。』
『そうか。 ..フェオ1へ、.2時方向、敵の増援を確認。 対応しろ。』
『やれやれ、まだ仕事は大量だな、ガートル?』
『そうだな、では仕事に戻るとしよう。』
通信を終了し、互いに目標へと向き直る2人の目には、1機のバトルワーカーが映っていた
「ディケ、遮蔽解除だ。」
『了解、エリソン。』
熱帯特有の生い茂る木々の森、その外側で互いに戦線を張るCAU、ESF両軍から少し離れた高台に、ライブラはいた
『通信復旧、レーダープロファイル上昇。 EPAR出力正常。 セイバーの目標同期システム、準備完了。』
「さて...じゃあ早速試してみるか。」
ライブラ──ローランドが手にした真新しい長い銃身を持つライフルを眺める
『グローリアからまた新しいのが届いたわけですが... 仕様書は読みましたが、今度はスナイパーライフル、ですか。』
「あぁ。 連射力と取り回しを犠牲に火力と精度に重きを置いた仕様らしい。 数値上は3キロ先から一般的なバトルワーカーの装甲を貫通できるらしいな。」
『それでいて実体弾よりも弾速にも優れると。』
「重量と銃身の長さから来る慣性は若干厄介かもしれないけどな。 まぁ後は慣れだ、ディケ。」
『そうですね。』
ライフルに内臓された長距離望遠スコープシステムを機体のカメラシステムに連結し、その映像を通常の球形モニターでなく、目前に表示させる
「この距離なら確実に一撃で貫通できるはずだ。 どれから狙えばいい、ディケ?」
『いつもやっているような気はしますが、敵の後衛を始末するべきだと思いますね。 私達を足止めするだけの部隊にしては、種類は揃っています。』
「オーケー、やってみよう。」
ライブラが敵陣の後方にいる機体に狙いを定め、狙いすました一撃を放つ
実体弾のそれを遥かに上回る弾速で敵機に届いたそれはコックピットを正確に貫き、一撃で撃破する
『ワンダウン。 どうですか、それは?』
「重量がある分、狙いが定まった後の安定感はかなりいい感じだな、ディケ。 ...要求出力の都合もあるのは分かるが、もうちょっと連射力が欲しいな...」
『後でグローリアに相談してみましょう。 彼女なら何かしら改善できるかもしれませんから。』
「そうだな。 さて、次だ...」
何かと単独行動が多いライブラではあるが、結局のところ量産機、あるいはその派生型ではない機体というものは、部隊に組み込むのが難しいというのが現実だ
設計思想から運用方法から、何もかもが違う機体同士を並べるのは容易なことではない
単独での活動が可能な機体であるならば、余計に単独行動が増えるのは仕方ないことなのだろう
『敵の一部がこちらを気にしています。 恐らく位置がバレたでしょうね、移動しましょう。』
「そうするとしようか。 最適な地点は?」
『計算中です...』
今この場にないはずの機体、ないはずの装備
それが今この場を歩く
「1機仕留めた! 次は?」
『次は...あれです。』
いつしかローランドはそれが普通になっていた
でも、何か忘れていないか?
─戦闘終了後...
『ガートル、敵の殲滅を確認した。』
『了解した、中々に厄介だったが...片付いたのだから良しとしよう。』
シオンハートが各部隊と連携を取り、状況を確認していたところにウィルクスから通信が入る
『ふむ、まだ通信は安定しているな、シオンハート。』
『そのようだな、何か用か?』
ウィルクスは艦隊長の制服姿で、艦のブリッジの指揮官席にいるようだ
『ESFの民間通信ネットワークの傍受から面白い情報を取得した。 昨日のことだが、ESFの火星衛星通信ネットワークに致命的な不具合が発生したようだ。』
『致命的な不具合? 一体何があった?』
『衛星の姿勢制御プロトコルに異常が発生し、衛星の大半が軌道を外れ...地表に落下したそうだ。 狙ったかのように、市街地に、な。』
『狙ったかのように? 市街地に?』
『あぁ。 軌道を突破し、落下した衛星のうちの70%は市街地、あるいは人の手が何かしら入っているエリアに落下したそうだ。 面白いと思わないか、シオンハート?』
ウィルクスがうっすらと苦笑いとも取れる笑いを浮かべながら言う
『ふむ... 面白い、というよりはまさに、奇妙、だな。 本当に衛星の異常か?』
『そう思うだろう、シオンハート。 まさかと思って更に情報を精査してみた。 そうしたら、まぁ、なんというか...大当たりだ。 見てくれ。』
ウィルクスがシオンハートに文書データを送る
『...MSN...ESF衛星制御地上局に侵入者?』
『あぁ。 公式発表はないんだがな。 人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものだ。 情報によれば、昨日から複数の地上局職員が行方不明だそうだ。 家族や友人から...連絡がつかないという証言が相次いでいるというわけだな。』
『つまり、なんだ? 何者かがESFの衛星制御を奪い、有人地帯に落下させた、と?』
シオンハートが若干の困惑と共に推測を口にする
『私はそう読んでいる、シオンハート。 一体誰が、何の目的で、というのは不明だが...』
『...MSN...火星衛星ネットワークは、ESF軍も運用しているはずだ。 それの大半が落下したということは...』
『想像の通りだな、シオンハート。 ESFの軌道通信ネットワークは機能不全を起こしているはずだ。 まるでこの何者かは我々の手助けをしようとしているようにも思えるが...考えすぎか。』
『どうだかな...』
シオンハートが首をひねる
全く考えられないことでもない、という思いと、そんな馬鹿な話はない、という思いが交差する
『まぁ、どちらにせよこちらの有利には変わりない。 有効活用するぞ、シオンハート。』
『...まぁ、そうだな。』
『では、変わらずよろしく頼む。 通信終了。』
『了解だ、ウィルクス。』
通信が暗転する
『...一体何が起きてるんだ? スノーなら...いや、教えてはくれないだろうな。』
シオンハートはそこで思考を打ち切り、目の前に作業に戻っていった
─ESF、ストームレイン基地司令室
「通信はまだ復旧しないのか?」
「はい、ザイフリート中佐。 衛星通信は途切れ途切れで、安定した通信を確保するのが困難です。 超水平線通信アレイでの通信を試みていますが、あまり芳しくはありません。」
MSNの衛星落下は、地上局への襲撃者の目論み通りの影響をもたらしていた
「昨日からずっとこの調子だ。 軌道エレベータアルファとの通信を維持しなければ、撤退は難しい。 最悪スプリングストームの中を飛行しなければならないというのに、アルファと通信を確立できなければ輸送機は進路を見失う。 ましてや、衛星との通信が困難では余計だ。」
ESF軍の通信ネットワークは残された衛星が処理可能な通信トラフィックを遥かに超えるほどの通信量でパンクしていた
このストームレイン基地にはその影響もあり、未だ衛星そのものを失っていることが伝わっていないほどだった
「ザイフリート中佐、警備中の部隊より報告があります。」
「なんだ?」
「基地から少し離れた位置でですが、何らかの見慣れない残骸を確認したそうです。 画像があります。」
ザイフリートの手元のタブレット端末に画像が表示される
「...なんだこれは? ...エンジニアを呼んできてくれ、私はこの手の機械にはあまり詳しくないんだ。」
「了解。」
数分で手の空いていたエンジニアが司令室に到着する
「ザイフリート中佐、ご用でしょうか。」
「これを見てほしい。 画像しかないんだが、何か分かるか?」
エンジニアがザイフリートの持つタブレット端末を覗き込む
「うーん... パッと見た感じですが、何かの大型の機械の一部、ですね。 ...ん? この焼け焦げた感じは... 軌道上からの落下物かもしれません。」
「そうか。 分かった、回収させるから現物を見てほしい。 頼めるか?」
「分かりました、中佐。 回収されたら皆で見てみます。」
「すぐに手配する。 準備しておいてくれ。」
ザイフリートが言葉通りすぐに回収の部隊を派遣し、残骸を基地へと持ち帰らせ、それがバトルワーカーハンガーの一角に搬入される
「なんだろうな、これ?」
「何か見覚えがある気がするんだが...」
「どこかに読み取れる表示が残ってたりしないか? それがあれば分かるかもしれないな。」
エンジニア達があれこれ話しながら何かの装甲板のようにも見える残骸を調査する
「んー、あったぞ、こっちに... あれ、この型番って...」
「何々... 検索してみよう。 ...あ?」
「こりゃあ...衛星の対デブリ装甲板だぞ。 MSNの規格だ。」
何とか読み取れる状態で残っていた表示から、エンジニア達がこの残骸の正体をMSNの衛星だと推測する
「待ってくれ、今なんて言った?」
偶然、そこに状況を確認しにきたザイフリートが問いかける
「あぁ中佐。 これの元が多分分かりました。 MSNの通信ネットワーク衛星です。」
「...そういうことか...」
「何かあったんですか、中佐?」
「いや、諸君らにも今回の通信障害の件の調査は任せていたと思うんだが...」
「あぁ、衛星通信障害の話...衛星通信?」
「まさか、中佐。」
エンジニア達が俄かに騒がしくなる
「考えたくはないが、衛星が...通信に影響が出るほど墜落した場合、このような通信障害が起きる可能性はないか?」
ザイフリートが可能性の話をエンジニア達に振る
「十分にあり得ます、中佐。 MSNのシステムは確か、複数の衛星で中継することで通信負荷を分散処理しています。 衛星の絶対数が不足すれば、ネットワークそのものが分断されてもおかしくありません。」
「...厄介ごとなどという言葉では済まないか。」
「はい。 我々ではどうしようもありません。」
「分かった。 ありがとう。 ...一応この残骸はもう少し調べてみて、何か追加で分かったことがあれば報告してくれ。」
「了解です、ザイフリート中佐。」
頭を抱えるような素振りをしながらザイフリートがその場を後にする
後に残ったエンジニア達は、再び衛星の残骸を調査し始め、時間は過ぎていった




