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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP4『新太平洋の戦い』

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53/127

53: EP4-4 ベルーガ

あれ...なんだろうこれ?

視えない?


んんん?

何に妨害されてるんだろう?

コロニー協定連合体 "CAU"

オペレーションストームライダー

1日目

西暦3020年3月25日[STC]

協定宇宙時(STC)19:30、火星新太平洋西時間(MNPWT)10:30

火星(マーズ)地表、CAU前線基地アルファ


海は深海に最も近い

だからこそ、白き監視者の目すらもかいくぐる



──Side: 三人称視点



時は少し遡り...前日、STCは3月24日、夜

作戦開始を翌日に控えたローランドが基地内を歩いていた時...


「ディケ、ライブラは水...それから塩には大丈夫なのか?」

『えぇ、問題ありませんよ、エリソン。 重要部位は気密も万全です。』

「それじゃあ安心だな。 ...ん?」


歩きながらディケと話していたローランドが前方に何かを見つける


「...誰だあれ?」


ローランドの行く先にある通路の曲がり角に、黒い古風な装束を纏った何者かがいる


『...誰でしょう? ...ん?』

「いや...あの横顔は... シオンハート准将?」

『...確かにそう見えますね、エリソン。 ですが...何か、変ですね。』


普段シオンハートが着ている黒いレディーススーツ、あるいはラフなシャツ姿のどれにも該当しない奇妙な服装に、ローランドとディケは首を傾げる


「誰かと話してるな。 ...盗み聞きはよろしくないが...」

『やはり気になりはしますよね、エリソン。』

「まぁな。 さて...」


ローランドがシオンハートと思わしき人物に気づかれないようにそっと近寄る


「───っていうものを学んだんだ、アルバ。」


ローランドの聴覚に、そんなシオンハートの声が届く


「アルバ? それが相手の...」

「ローランド、盗み聞きとは感心しないな。」

「えっ」


背後から聞こえた声にローランドが驚き、咄嗟に振り返るとそこには...


「うわぁぁぁ!?」

「どうした? そんな驚いた顔をして。」


いつも通りのラフな姿をしたシオンハートがいて、その直後ローランドは意識を失った






─時は遡る...



「ん~... とりあえずそれは大丈夫そうだね、ロアー。」


ほぼ裸とも言えるような服...あるいは布の上に深海よりも暗く青い衣を羽織るという、奇妙な出で立ちをした身長150センチほどの青い小さな人影が相手を見上げながら話す


挿絵(By みてみん)


「あぁ、問題ない。 ...ないんだが...前のとどう違うんだ?」

「そーだねー... 素材を見直して、前より耐久性は上がったよ。 それにロアーのにパターンを調整し直したから、もっと馴染むんじゃないかな。」

「なるほどな。 しかしアルバ、バレなかったか?」

「うん。 スノーってのも、海から来るのは想定外だろうからね。」

「想定外なわけはないだろうが... だが、それでも海は私たちに利がある。」


その見上げられる側、身長2メートルほどはある黒い狩り装束の女... ルルイエ・オルカ・アビサルハートがそう自身を持って言い切る


「ま、大丈夫でしょ、ロアー。」

「...どうだかな。 スノーは適当そうに見えて、どこまで見通しているか分からない。 私を前にして、正気を保っていられる。 それだけで異常というものさ。 ...どうせ、この瞬間も見てるんじゃないのか?」

「え、マジで?」

「...分からないな。 一応対監視偽装はかけてるが...」


アビサルハートがどこを見るともなく、宙に視線を彷徨わせる


ん? と言いアビサルハートが若干声を潜める


「...見られてるな。」

「え、スノーに?」

「違うな。 これは... なんだ、ローランドか。」


アビサルハートが視線を逸らさずに、それでいて自身の左から近づく人影を認める


「私が気づいてないと思ってるんだろうが... どれ、盗み聞きはよくないな、脅かしてやるか。」

「おやおやぁ、らしくないじゃん、ロアー?」

「私もそういういたずら心っていうものを学んだんだ、アルバ。」


そういってアビサルハートがニヤリと笑ったかと思うと、アルバと呼ばれている青い少女から見えない角の先から、悲鳴が聞こえてきた


「...普通のニンゲンにはちょっとキツイんじゃない?」

「ちょっと...効きすぎたかもな。 部屋に運んで寝かせておくとするさ。 どうせタチの悪い夢だとでも思うはずだ。」

「...まぁ、ロアー、それに私含めて悪夢みたいなもんだもんね。」

「それもそうか。 ヒトからすれば、ラヴクラフトが垣間見た世界はおおよそ正常なものじゃあなかったようだからな。 もっとも、私たちはそこから産まれたんだが。」


ま、それ以上に私たちは異端なんだけどな、とアビサルハートが自嘲気味に言葉を続ける


「んじゃ、私は行くよ、ロアー。」

「あぁ。 次があるんだろ、アルバ。」

「うん、ほら、こないだ話したアレ、そろそろ作ろうかなって。」

「...まぁ、ああは言ったからな。 渡すなら、向こうの私にしてくれよ。 アレなら喜んで着るだろうさ。」


アビサルハートが若干呆れた顔でアルバに返す


「そういえばそれもそうだったっけね。 分かったよ、ロアー。」

「あぁ、またな、アルバ。」

「うん、またね、アビサルハート。 いつも通り、無事にね」

「そっちこそな、アビサルウィーブ。」


アビサルウィーブ─アルバが手を振ると、その足元に深い水たまりが現れる

そこにアルバが飛び込んでいき、次第に水たまりは消えていった


「...ギリギリだったな、これ以上ここにいれば気づかれるところだったか。 さて、私も戻るとしよう。」


アビサルハートが基地施設の出口へ向かって歩き出す

しかしふと立ち止まり、自身の纏う装束のうち、左手に嵌めたグローブを見る


「...まぁ、いいか。」


グローブの裾を若干めくり、そこに書いてあった『リオ・ベルーガ・アビサルウィーブ』の文字を見つけると、それだけ言って、また歩き出す


そして、アビサルハートの姿は水の中へ溶けていくように、どこへともなく消えていった






──Side: 一人称視点(ローランド・エリソン



「っは!?」


...夢か?


『うーん... おや、ここは...』


ディケの声がする。


「ディケ、いるか?」

『いますよ、エリソン。 どうしましたか?』

「...いや、なんでもない。」


...准将は普段確かにあり得ない動きはしているが、さすがに2人いるわけないよな。

何より、あの短時間...ほんの数秒の間にあの距離を、しかも完全に服を着替えて移動できるわけなんてないしな。


「そうだディケ、今何時だ?」

『今ですか? ...STC20:04です。 そろそろ作戦開始時間ですね、エリソン。』

「マジか、行かないとな、ディケ。」

『そうしましょうか、エリソン。 ライブラの起動シーケンスを遠隔で立ち上げておきます。』

「了解だ、ディケ。」


...にしても変な夢だったな。

いや待てよ、夢...?

この身体になってから夢なんて見たことあったか...?

...後でシンシアに報告したほうがいいかもしれないな。

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