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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP4『新太平洋の戦い』

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51/129

51: EP4-2 神と呼ばれし者達

...深海の神。

いいや、邪神、なのかな。


ラヴクラフトは深海を見た。

人知を逸した、この世のモノではない何かを。


アビサルハートは、いったい私に何を見せるんだろう?

コロニー協定連合体 "CAU"

作戦ステータス: オペレーションストームライダー

作戦待機中

西暦3020年3月24日[STC]

協定宇宙時(STC)20:00、火星新太平洋西時間(MNPWT)11:00

火星(マーズ)地表、CAU前線基地アルファ、作戦指揮所



彼らが嵐に乗じるならば、我々もそれに伴うまで



──Side: 3人称視点



CAU前線基地アルファ、その作戦指揮所にはCAU派遣艦隊の上級司令部が集っていた

様々なホログラム画像、あるいは映像が展開可能なホログラムテーブルの周囲に彼らは集い、次の一手をついに決定しようとしていた


テーブルを操作しいくつかのホログラムを表示させたウィルクスが話を切り出す


「よし、全員集まったな。 まずはこれを見てほしい。」


ウィルクスがテーブル上のホログラムの1つを指す


「これが今回の最終目標となる、ESFの航空基地だ。 軌道発射機能こそないようだが、強力な通信、あるいはレーダーシステムと見られるアンテナサイトが複数ある。」


ウィルクスが続けてホログラムを回転させる


「基地北側の滑走路、及びそれに隣接する格納庫に動きが見られる。 恐らくは既に撤退を開始していることだろう。 我々の目標は1つ。 これを迅速に追撃し、可能な限り後顧の憂いを絶っておくことだ。 何かあるか?」


場を見渡すウィルクスに対し、正規軍指揮官の1人が問う


「ウィルクス艦隊長、予報ではこれから数週間、当該エリアはここ数年でも最大規模のスプリングストームが襲うそうだが、影響は?」

「そのようだな。 現在の想定だが、悪いことに軌道通信に影響が出るかもしれない。 大規模な固定型の通信設備であれば問題ないが、強襲追撃ともなるとそんなことは言っていられない。 最悪、地上部隊だけで作戦を進行することになる。」

「まぁ、それは問題ないが... 敵の位置を追えないのは厄介だな。 だが嵐が明けるまで待つというわけにも行かない。 連中に逃げる暇を与えるのと同じだ。」


ウィルクスの想定にシオンハートが答える

時間の猶予がないことは確かだ


ウィルクスが横に立つシオンハートに近寄り、その耳元で周りに聞こえないように話す


「...詳しくは知らないが...お前の能力なら大した苦にならないんだろう?」

「...ウィルクス、どこまで知っている?」

「少なくとも、お前が私と同種だということぐらいは。」

「...後で話そう。」


その様子を何事かとエンスウェンが見る中、ウィルクスが全員に立ち直る


「詳細は追って詰めるとして...先に西部の状況はどうなっている?」


正規軍指揮官の1人がその問いに一歩前に出て答える


「これを見てください。 ここから西に撤退したESFは、いくつもの前哨拠点を置きながら撤退しています。 状況は東とそうは変わりませんが、こちらは峡谷や荒野なども広がる地帯になっています。」


ホログラムが変わり、起伏に富んだ地形が表示される


「途中に火星2位の規模を誇る大規模都市もあり、陸続きでそのまま軌道エレベータに繋がっています。」

「ふむ... 目的がどちらかは読めないな。」

「そうなります。 都市には少し離れた大規模な惑星上基地もあります。 」

「なるほどな。 先に伝えてはあるが、東は我々セイバーが、西は諸君ら正規軍に任せることになる。 特に西は最悪軌道エレベータ制圧戦も想定される。」

「何、それならそうで望むところだろう、ウィルクス艦隊長。」

「頼もしい限りだ。 そちらはそちらでまた考えるとして...」


ウィルクスは既に意識を切り替えていた

それは...






会議の後、別室にて、セイバー連隊のトップ5人が集まっていた


「オペレーション・ストームライダー?」

「そうだ。 ストームライダー(嵐乗り)の名の通り、スプリングストームに乗じ連中を追撃する。 シオンハート、お前の指揮の元、行く手を阻むであろう障害を撃破し、ESFの航空基地を制圧する。 可能であればその後も追撃したいところだが... さすがに海を渡るのは無理があるだろう。 よって、この基地を最終目標とする。」


ウィルクスが場を仕切り、シオンハートに話を振る


「ウィルクス、その間、こちらはどうするつもりだ? スプリングストームの最中では通信が困難なのだろう?」

「確かにその通りだが... 可能な限り、艦隊は地上との通信を試みる。 嵐が弱まった隙になら通信ができるかもしれないからな。」

「それもそうだな。 善処はする、と言ったところか。」


エンスウェンがウィルクスの案に同意を示す


「艦隊長、私は?」

「ルイナは...そうだな... 基地の攻略戦となれば、砲撃機の火力はやはり魅力的だ。 道中の機動戦ではあまり出番はないかもしれないが、最後まで到達すれば好きなだけ撃てるだろうな。 まぁ、後でしっかり詰めよう。」

「うん、分かった。」


「しかし、セイバーだけとなるなら、こちらの戦力がやはり主力になるな、オルグ。」

「そうだな、リグ。 第2大隊は主力機は遠距離型がメインだ。 第1大隊はシオンハートの手持ちだけ。 となればやはり我々第3大隊となるだろう。」


セイバーのバトルワーカー大隊は第1、第3大隊がバランスよく機体が配備されている中、第2艦隊のみはその特殊性から遠距離型の機体が主力を占めている

その都合、エンスウェンとマルコシアスの判断は正しいものだろう


シオンハートがふと何かを考え込むような顔を見せる

それにウィルクスが気づくと、シオンハートはすぐに表情を戻し、姿勢を正す


「...ともかくだ、作戦が決行されれば私とエンスウェンは軌道上に戻る。 それ以降の指揮はシオンハートに委任するが、それでいいな?」


指揮経験も豊富であり、何より特務という字がつくとはいえ、准将という地位にあるシオンハートを指揮官に置く案に、エンスウェン、マルコシアス、ルプスレフィアが頷き同意を示す


「そうと決まれば... まずは偵察を送る。 近場の状況を掴み、一気に進行する。 早ければ明日にも作戦を開始できるだろう。」

「だいぶ急だが... まぁ仕方ないな。 部隊を編成するとしよう。 ルイナ、それにリグ、準備を進めてくれ。」

「分かったよ、シオンハート。」

「了解だ、シオンハート嬢。」


一旦5人は場を解散し、それぞれの準備を進める

使える時間、そして情報が限られている今、会議だけで無駄に時間を浪費すべきでないというのは誰もが分かっていた

多少駆け足になろうとも、今はその迅速さが重要であった





 

1時間後、基地の一角にて



「それで? ウィルクス、やはりとは思っていたが...」

「お前こそな、シオンハート。」


シオンハート、そしてウィルクスが周囲から隠れるように話していた


「ウィルクス、そっちは何のだ?」

「...星の神、そう呼ばれている。」

「星の神、か。 ...私は...言うなれば、海の神だな。」

「海か。 なんとなく感じ取ってはいたが、やはりな。 ならシオンハート、やはり海は得意だろう?」

「まぁ、な。 海は必ず味方をしてくれるわけじゃあないんだがな。 私はどちらかと言えば異端だ。」

「異端の神か。 どこにでもいるものだな、そういうのは。」

「そっちにだっているんじゃないのか?」

「そういうものでもないぞ? まぁ、詳しい話は別にいいだろう。」

「それもそうだな... スノーは知ってるのか?」

「隠せるものでもないのはよく知っているだろう?」

「違いないな。 そういや...この間、何か聞きたがっていたようだったな。 何だったのかは分からないが。」

「スノーが? 私に?」

「あぁ。 なんだったかは分からないけどな。」

「そうか。 なんであれ、私たちの関係性に変わりはない。 同じトラベラーで、今は艦隊長と大隊長だ。」

「その通りだな、ウィルクス。 ..さて、長々とお喋りしてる余裕もない。 私は行くとしよう。」

「それもそうだな。 では、お互い上手くやるとしよう。」


シオンハートが背を向けると、その場からその姿が消える


「...便利だな、それ。」


ウィルクスの呟きだけが、その場に残された

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