49: EPI-6 Intermission-Ⅵ パーシヴァル・ジャッジメント
私は技術開発は基本制限しないよ。
もちろん、度を超すようなら止めるけどさ。
...時間を超えるなんて、無茶をするよ。
[サンダイアル・ドライブのため時空間ステータス非同期]
ジャッジメント本部、ドライドック
ジャッジメント本部護衛艦隊旗艦 試作術式空母『ホーライ』
パーシヴァル・ジャッジメント、エルフィンストーン・グレイス
どことも知れないモノクロの空間
そこにある、超大型のドライドック─言うなれば、造船所にある『ホーライ級試作術式空母』に彼らはいた
「やぁ、パーシヴァル艦隊長。 本当に出てきてくれ... 待ってくれ、私は別にそういう意味で出てきてくれって言ったわけじゃあないよ?」
「あぁ、これか? ディケと...ローランド、だったか? 彼女らがうまいことやってくれたおかげだ。 開発局がようやく我々向けの試作型を寄越した、というわけだ。」
ホーライ級の艦橋を兼ねた中央指揮所でオレンジ色のショートヘアのグレイスと短く刈り込んだ茶髪のパーシヴァルが挨拶を交わす
「...AI向けの人工義体、ねぇ。 やっぱり、あの計画はこれが目的だったの?」
「さぁな。 総帥とエイベル室長には何か思惑があるようだが、聞いていない。 ただ、これは副産物だというのは間違いないな。」
パーシヴァルが両方の掌を握り、そして開きながら話す
「...ふぅん。 でも、違和感ないのは凄いと思う。 さすがジャッジメント開発局、か。 科学技術をやらせたらまさか右に出るものはいないね。」
「連中を誉めてもいいことはないぞ?」
「ま、減るもんでもないしね。 それより艦隊長。 この船はどうかな? その開発局と、バーディクト、それに私の技術の結晶だけれども。」
グレイスが艦橋をぐるりと見渡すように首を動かす
「そうだったな。 先ほど試してはみたが、凄まじいな。 既存のリアクターに比べ出力が文字通り桁違いだな。 これもグレイス-アイヴァン・術式変換炉によるものか?」
「そうそう。 いやはや、アイヴァンも凄いね。 私が術式学教えたら一気に理解しちゃった。 ここにはマナなんて存在しないのに、全く凄いよ本当に。」
「...そういえばこのホーライはそのマナはどうしている?」
「そこはバーディクト頼りかな。 バーディクトのゲート技術をできる限り小型化して機関部に搭載、最も初歩的な次元転送技術でバーディクト本部からマナだけ転送してる。 というか、マナだけに制限しないと移動型かつ小型のゲートは無理だったよ。 本来、ゲートは動かせるものじゃないからね。」
「私はそういうのには相変わらず疎くてな。 だがまぁ、かなり高度な技術の粋だということは分かる。」
「...疎いっていうか、別に私、というか普通の生き物みたいに覚えるわけじゃないでしょ?」
「それもそうだがな。 興味も、必要もないというだけだ。」
「...艦隊長ともあろう人が自分の乗ってる船がどういう原理で動いてるか知らないのはどうかと思うんだけどね...」
「それもそうか。 後で総帥に申請でもしておくとする。」
「そうしたほうがいいよ、艦隊長。」
さて、とグレイスが振り返り、艦外を映す映像を見る
外では、作業員達がせわしなく作業している様子が映っている
それもそのはず、この艦、ホーライは、これから出港しようというのだ
「炉心構造材...異常なし。 エジタイト、フルロード。 ...エルフィンストーンよ、思ったのだが、エジタイトリアクターを搭載したジャッジメント兵器は...01、それにライブラを除けば初ではないか?」
「まぁ確かにそうだね。 補給の問題はあるけど、効率はジャッジメント製ヘリウム核融合炉よりかはいいんだよ。 ま、これはただのエジタイトリアクターじゃないしね。 意外なことだけれど、エジタイト粒子とマナは不思議と相性がいい。 アイヴァン-グローリア・エジタイト粒子加速炉をベースに改良したけど、粒子反応速度はそれの比じゃない。 おかげで、サンダイアルドライブの法外な要求出力にすら対応できた。 正直、これが完成しなければホーライは無理だったね。」
「そこまでか。 ...さて、用意もそろそろ終わるようだ。 エルフィンストーン、付き合うつもりか?」
それまで映像から目線を外さずに話していたグレイスがパーシヴァルに向き直る
「まぁ、私もさすがにキロメートル空母クラスの術式兵器を作ったのははじめてだし、サンダイアルドライブの実働も見たいしね。」
「ならいい。 ...しかし、時間を越え、エルヴィスを救うなどとは、いざやるとなっても、荒唐無稽にしか相変わらず思えないのだがな。」
「まぁ、理論上はできるってだけだよ。 でもまぁ、シオンハートの持ち帰ったデータ通りなら、これのベースになったサンダイアルは実際に過去を変えることに成功してる。 向こうの事案は特殊だったみたいなんだけど、こっちでも似たような状況を作れるかもしれないんだ。 パーシヴァル艦隊長、エルヴィスは消息不明なんだよね?」
「...あぁ、エルヴィスのセンチネルは未だ残骸すら発見されていない。 事態が収束した後に、確認はしたのだがな...」
「そこが重要なんだよ、艦隊長。 エルヴィスが喪われたという事実は未だ誰も観測していないはずなんだ。」
そこまで表情を変えることのなかったパーシヴァルがはっとしたような表情を魅せる
「つまり、まだ過去は書き換えれる。 一度観測されてしまった事実は強固で、変えることは難しい。 でも、そうでないなら話は変わってくる。 」
「...ホーライでエルヴィスのセンチネルを撃沈前に回収し、サンダイアルドライブでもう一度この時間に帰ってくる。」
「そう。 できれば可能な限りパラドックスは減らしておきたいから、帰ってくる時間は今からほんの少しだけ先。 飛ぶ先はどうせもうジャッジメントは撤退して誰もいないから問題ないはず。 デイモスの通信ネットワークにでも侵入できればもうちょっと確実性は上げられるんだけど... まぁそれはいいか。 ...さて、艦隊長、行けると思う。」
「そのようだな。 パーシヴァルより航行管制へ、グリーンか?」
パーシヴァルが通信を開き管制室へ問う
『管制よりパーシヴァルへ、空域はグリーンだ。 周辺次元間空間も既に艦隊が護衛している。 だがデイモスはどう動くかはこの瞬間も予想できない。 ...成功してくれ。』
「言われなくてもする。 管制、ドックを開け! 出港する!」
その合図と共にドライドックの大戸が開かれ、外が露わになる
外もドライドックの中とは変わらず、モノクロの世界が広がる
ゆっくりとホーライが外へと動き始める
よく見ると、今のホーライは水に浮いているようだったが十分にドックから離れたところでゆっくりと浮かび始める
「総帥、聞いているか?」
『どうした? パーシヴァル。』
「もう知っているだろうが、これよりホーライは時間跳躍を開始する。」
『把握している。 エルヴィスの喪失はパーシヴァル、お前だけでなく、我々全ての喪失と同義だった。 それを文字通り過去のものにしてくれ。 幸運を祈る。』
「了解した。 サンダイアルドライブを起動! 時間跳躍航行を開始する!」
空中に浮かんだホーライの船体からいくつかのパーツが分離する
それがホーライの前方で円状に配置されると、それぞれが連動して1つの大きな円周を描くようにホーライの前方で回り始める
どんどんと加速していき、それが限界に達した時、パーツの描く円の内側に薄青く光るフィールドが生成される
「ジャンプ開始する。 うまくいってくれることを祈ろう。」
ホーライの後部スラスターに光が灯り、一気に加速する
その船体が光るフィールドに触れたところから消失していく
船体が全て通り抜けたところで、パーツもそのフィールドへと消えていき、フィールドそのものも消失した
─数か月前、ジャッジメント-デイモス艦隊交戦宙域
『ったく、ああもカッコつけたはいいがジリ貧もいいところだな。』
彼は、エルヴィス・ジャッジメントは苦戦していた
否、それは正しくない
最早、彼に生き残る術はない
この戦いにおいて、ジャッジメント艦隊はデイモス艦隊に大きく遅れを取り、既に撤退戦へと移行していた
そして、彼が敵を、デイモス艦隊を引き付けるためにこの場に残った
パーシヴァルはずっと彼のことを気にしながら、それでも多くの命を帰すために彼を見捨てた
そうするしかなかったのだ
たった1つの犠牲で、幾多もの犠牲を救えるのなら、それは艦隊長の立場にある存在が取るべき方法だったのだ
例えそれが、艦隊一のベテランであろうとも
『ほーら奴さんや、ここは誰一人通さねぇぜ!』
例えここで自分が喪われようとも、艦隊長の、友の命令を果たす
それが彼の覚悟だった
『つっても燃料も残ってねぇ、弾薬も粗方撃ち切ったわけだ。 どうするかねぇ。』
あえてこの際船ごとタックルするか、とまで彼は思う
身を挺してまで逃がしたアイツは無事逃げ切っただろうか、なんてことを考えながらも、彼は少しでも長く時間を稼ぐことを同時に考える
そこに1つ、彼が予想すらもできなかった通信が入る
『エルヴィス! そこで止まれ!』
『パーシヴァル!? アンタどうして戻ってきた!』
『...お前を救いに来た! やらせはせんぞデイモスよ! ステルスドライブ解除、全砲門解放! ありったけをお見舞いする!』
『救い? この状況から抜け出すなんて無理だぜ!? いや待てパーシヴァル、アンタどうやってここに!』
『御託はいい! 今はこの状況を抜け出す! ハッチ解放、回収する!』
『おいおい待て待て待つんだパーシヴァルなんだそのデカい船は! って待てぶつかるぞ!』
『最初からそのつもりだ! サンダイアルドライブ起動!』
状況は一変する
敵に囲まれ、窮地にあった彼の元へ、超大型艦とも言える船が姿を見せ、しかも一直線に突撃してくるというのだ
会話からするに、あれにパーシヴァルが乗っているのだろうとも推測できる
そして、その船の前方にいくつかのパーツが展開される
『だあああああ! 本気でぶつける奴がいるかパーシヴァ...あれ?』
『回収完了! エルフィンストーン、いけるか!』
『そらもちろん! さすがにこの短時間での再起動は考えてなかったけどさ!』
先ほどよりも早く作られたフィールドにそのままその船が、ホーライが突入していく
周囲の敵はあまりにも一瞬すぎる出来事に着いていけず、その場にただ取り残される
後に残るは、光輝く残滓だけだった
─数日後、ジャッジメント本部
「何? つまり、なんだ、エルフィンストーン、我々の行いこそが、ここ数か月の我々の無駄な努力を招いていたと?」
いつも通りモノクロの空間で、彼らは会話を交わしていた
「まぁー...そうなるかな。 あの後もう一度データを精査してみたんだけど、私たちが、ホーライがあの時間に飛んだタイミング、そしてこっちに戻ってきたタイミングで異常なまでのエネルギー放射をジャッジメントの無人機が観測してた。 変動パターン、それに残留値とか検証してみると、ホーライとサンダイアルドライブの余波にそっくりだったんだ。」
「つまりは...」
「エルヴィスのセンチネルは撃沈したんじゃない。 私たちがあの瞬間にこの時間へ持ってきてしまった。 だから、この数か月、エルヴィスはそもそも存在してすらいなかったんだ。 残骸すら見つからなかったのはこれが原因。」
「なんということだ... まさか、自らの手で自らの首を絞めていたとは。」
「まぁ、そうでもないけどね。」
グレイスがひらひらと手を振りながら続ける
「そもそも、あの場からエルヴィスを連れ出さなければ、私たち、そしてジャッジメントの予想通りの結末しか待っていなかった。 彼が数か月この世界にいなかったのは事実でも、これからの未来を救ったのは間違いないんだ。」
「それもそうか。 しかし、総帥含め、皆には迷惑をかけてしまった。」
「気にするまでもないんじゃないかな。 私が艦隊長と同じ立場だったら、同じ決断をしたのなら深く傷つくと思うし、後悔もする。 総帥と、スノー、あの人たちが、君たちにそうあれ、ってしたんでしょ?」
「それは分かっている。 分かってはいるのだが...」
「そうやって納得できないのこそ、それが上手くいった証じゃないかな。 」
「機械の合理性か、人間の柔軟性か。」
「あるいはその両方。」
そこで2人の会話が一旦途切れる
「おやおや、もしかして2人して誰かの噂話か? パーシヴァル、それにグレイス。」
「誰かと思えばエルヴィスか... お前もそれを貰ったというわけか。」
「そ。 アイヴァンに言ったらすんなり貰えたぜ? というか用意してあったみたいだな。」
茶髪で何とも軽そうな雰囲気の人物が2人の間に割り込む
彼こそが、エルヴィスと呼ばれる者らしい
「ふむ... 今後一気に実用化されそうな勢いだな。」
「まぁ、あり得るなぁ。 グレイスはどう思う?」
「私より君らのが詳しいでしょ、エルヴィス。」
「ま、そらそうだわな。」
エルヴィスが肩をすくめてみせる
「さて...じゃ、私はそろそろ行くよ。 艦隊長。」
「もう行くのか?」
「まぁね。 敏腕女CEO業も楽じゃないんだよ?」
「たった一代で国内最大の大手企業の主か。 荒唐無稽とまでは言わないが、誰もが羨むようなサクセスストーリーだな。」
「スノーにお願いしたら余裕だったよ?」
「...それは反則もいいところだな、エルフィンストーン。」
「トラベラーと、世界を綴る者の合わせ技ってこんなものだよ、パーシヴァル。」
それだけ言い残して、エルフィンストーンはその場を去っていった




