48: EPI-5 Intermission-Ⅴ エルフィンストーン・アライアンス
カルト的人気というのはどこにでも起きうるもの。
...でもこれ...うーん。
西暦3020年3月21日、協定宇宙時10:00
火星近傍宙域、CAU艦隊チェックポイント
CAUジャンプフィールド近傍
ライトニングストライク作戦終結の2日後、輸送艦隊による補給が順次到着しつつあったCAU火星派遣艦隊の元に、一報が入る
「なんだって? エルフィンストーンが?」
ウィルクスが第2艦隊旗艦の艦橋で思わずそう言う
「はい。 先ほど土星経由で連絡がありました。 エルフィンストーン・アライアンスが輸送任務に着くと。」
「グレイスの奴め...何が狙いだ?」
エルフィンストーン・アライアンス
CAU領内で最も巨大な企業であり、第1次から第3次産業、その他様々な分野において多大な影響力を持つ複合企業だ
そのリーダーにして最高責任者であるCEO、エルフィンストーン・グレイスはその美貌に似合わぬ大胆さ、剛毅さでも知られており、たった一代でアライアンスを誰もが知る超巨大企業に成長させたことからもその優秀さが見て取れる
「...待てよ? ESAはジャンプドライブ艦を保有していなかったか?」
「そのはずです。 10年以上前のことですが、軍の払い下げ品を購入しているはずです。」
「...まさか。」
ジャンプドライブは高価かつ、貴重な技術だ
CAUは信頼のおける領内企業に稀に旧式のジャンプドライブ艦を売却しており、エルフィンストーン・アライアンスもその1つだった
「海王星に繋げ、元帥に聞きたいことがある。」
「了解、司令部に繋ぎます。」
ウィルクスの頭にはふと疑問が浮かんでいた
それは...
「艦隊長、繋がります。」
「こっちに回してくれ。」
「了解。」
モニターにサイラスが映る
『どうした、ウィルクス? 何かあったのか?』
「いや、何かあったわけじゃないんだが... ESAについてなんだが...」
『ESA? あぁ、輸送艦隊の話か。 あれなら、標準省と軍が民間に公募してな。 さすがに正規軍とセイバーの輸送艦隊だけじゃ間に合わないってな。 ...今更だが、輸送艦隊に金をかけてこなかったのは失策だったな。 もちろん、こんな大戦争になるとも思ってなかったわけなんだが、言い訳にはならないな。』
「なるほどな。 ところでESAからジャンプドライブに関する申請があったりしないか?」
『ジャンプドライブ? 軍のネットワークには...あぁ、あるぞ? 正規軍のジャンプフィールドに対する予約が入ってる。 ...待ってくれ、ちゃんと確認してなかったが、プロフィットシーカー級超大型輸送艦? 』
「なんだって?」
『あー... ウィルクス、そっちの艦隊司令部に聞いてみたほうがいい。 エルフィンストーンめ、まさか本社を持ってくつもりなのか?』
「...分かった、そうするとしよう。 忙しいところすまなかったな、サイラス。」
『お安い御用さ、ウィルクス。』
通信が終了し、モニターが暗転する
「さて... 通信科、艦隊司令部...オーバーロードに繋いでくれ。」
「了解、艦隊長。 ...繋ぎます。」
続けざまに艦隊司令部であるランティッヒ級、コールサイン『オーバーロード』へと通信が繋がる
『ウィルクス艦隊長、何かあったか?』
「オーバーロード、聞きたいことがある。 エルフィンストーン・アライアンスのプロフィットシーカー級超大型輸送艦がそちらのジャンプフィールドに予約を入れていると聞いたんだが。」
『ESAのプロフィットシーカー級? それなら...まもなくフィールド内にジャンプアウト予定だ。 それがどうかしたか?』
「...いや...グレイスとは知り合いだからな。」
『グレイス...あぁ、ESAのCEOか。 そういうことか。 今のところESF艦隊に不審な動きもない。 プロフィットシーカー級がジャンプアウトしたら会ってきたらどうだ?』
「了解した、オーバーロード。 そうさせてもらうとする。 用件は以上だ、通信を終了する。」
『了解だ、ウィルクス艦隊長。』
再びウィルクスの目前のモニターが暗転する
「待て、サイラスも言ってたがプロフィットシーカー級だって?」
「艦隊長、プロフィットシーカー級とは?」
「プロフィットシーカー級... ESAの旗艦だ。 別名というか、艦種としての正式名称はオーバーフレイタークラス、他にこれに属する艦はないな。」
「オーバーフレイターですか。 我々の輸送艦にフレイタークラスはあったはずですが。」
「まぁ、そのままの意味だ。 フレイターを超えるフレイター。 ...いや、あれは超えるとかいうレベルではないんだがな... 見てもらったほうが早いな。 ええと、あれのESA内での正式名称はなんだったか...あぁ、そうだ、確か...」
そこまでウィルクスが言いかけた時、船外を、正確にはジャンプフィールド方向を映していた船外映像にそれが起きる
ジャンプドライブによる長距離ジャンプの到着側、つまりジャンプアウト側に、ジャンプアウト時には特有の空間の揺らぎが発生する
ジャンプフィールド内に普段では見ないような規模の広大な揺らぎが発生する
その揺らぎが一段と大きくなった時、空間を突き破るかのように『それ』が出現する
それはあまりにも巨大で、周囲の軍用艦があまりにも小さく見えるほどだった
そしてそれを見ながら、ウィルクスが残りの言葉を紡ぐ
「エルフィンストーン・アライアンス移動型統合本社、アライアンスヘッドクォーターだ。」
全長4キロメートルを越す超大型艦がそこにはあった
「は? なんですかあれ、艦隊長?」
「ESAの本社だ。 グレイスはあれを移動拠点としてCAU中を飛び回っている。 自力での航行能力はほぼ皆無で、ジャンプドライブによって飛ばすのが前提のかなり割り切った設計の艦だな...」
ウィルクスが半ば呆れ切った声でそう説明する
「あれ1つでエルフィンストーン・アライアンス傘下の全企業の本社機能が集約されている。 それどころか、超巨大な商業施設でもあってな。 一般人も商業区画には自由に出入りしてショッピングが楽しめるというわけだ。 何せESAの中枢だからな、CAU中のありとあらゆる物が揃っている。 ...開戦前なら、ESFから輸入されたものですら取り扱っていたはずだな。」
「エルフィンストーン・アライアンスが超巨大商業ステーションを持っているとは聞いていましたが、ステーションではなく、艦だったと?」
「まぁ、そうだな。 自力航行が申し訳程度すらない以上、ステーションと言ってもいいんだろうがな。 ESA直営企業以外にも色々テナントは入ってたはずだな。 ...MSCもあるんじゃないか?」
「MSCまで!?」
「...あ、あぁ。 もしかしてお前、MSCのしん...ファンだったのか?」
「それはもちろん! かの高名なLe_Cのレビューだって暗唱できますよ!」
「...あぁ、すまない、私は別にMSCは特別」
「いいですか艦隊長、
『"MSC"と聞いてCAUの人間が第一に思い浮かべるのは何だろうか?
兵器の略称?部署の名前?第三勢力の被害妄想?
どれも違う。
彼らは口々に「チキン」と答えるだろう。
CAUでは食料に困る事など無い。
勿論、食材の種類にも。献立だって困らない。
多分。
夕飯が三日連続でトマト煮込み?あり得ない。
しかし、そんな彼らでも「チキン」の前には抗えない。
一体誰がそんな罪深い「チキン」を産み出したのか?
"Meet Soon Chicken" 通称MSC
CAUの中で知らぬ者はいないであろう、超規模のチキン専門ファストフード店。
恐ろしく長い歴史を持つらしいが、その発祥は誰も知らない。
養鶏コロニー直送の鶏肉を直火にかけ、外はパリッと、中はふわっとジューシー、そんなありきたりな理想を満たす最高のチキンを、極安で、なんと注文してから10秒以内で提供してくれるのだ。勿論焼き立て。
このチキンの齎す味覚の前には、民衆も、兵士も、落第者も、最高指導者だって皆平等。抗える訳も無い。
もし今、これを読んでいる君がMSCのチキンを食した事が無いのなら、恐れずに正に今食している人に話しかけてみよう。
きっと一本のチキンと、3枚のクーポンを奢ってもらえるだろう。
きっと君はそのチキンの虜になり、ついでに3日間の夕食の献立も決まったことだろう。』
ほら、一言も間違えずに」
「...お前しばらく黙っておけ...」
自身の信頼のおける...はずの副官の、あまりにも長すぎる暗唱? に呆れ果てるウィルクスだった




