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人機のアストライア  作者: 橘 雪
幕間Ⅱ

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47/129

47: EPI-4 Intermission-Ⅳ 夢、深海の歌

これは...深海の歌だ。

彼女が、歌っている。


どこにいるんだろう?

どこで歌っているんだろう?


...彼女は、再び目覚めたのか?

[編集済み]年[編集済み]月[編集済み]日、[編集済み]

[編集済み]

[編集済み]、[データ破損]



どこともしれないモノクロの空間

そこに、奇妙な出で立ちの彼女はいた


ノースリーブの迷彩服、頭の後ろで結び、腰のあたりまで長く伸びる白いツインテールの髪

澄んでいて、それで深い、青い瞳


「どこで歌ってるのかと思えば...ここにいたのか。」


彼女は1人、呟く

そう呟きながら開けた両開きにスライドするドアの先は、一面水の世界

部屋の中が全て水で満たされ、それでいてドアからは一滴たりとも漏れ出ない異常な光景

どこか、磯の香り漂うその水の中に、彼女は飛び込む



水の中を泳ぐでもなく、彼女は水の中を進む

まるで飛んでいるかのように、何もそこにないかのように

彼女は呼吸すら必要ないと言わんばかりにそこを進む


服も、その髪も、そして彼女自身すらも濡れている様子はない



そして、そこには『それ』がいた



身長2メートルほど、黒を基調に整えられたどこか古い時代の狩人を思わせるような服を着こみ、肩に届くかどうか程度の黒いボブヘアー

水の中でたゆたうように、その場でじっとして、それを口ずさんでいた


「やぁ、ここにいたのかい。 久しぶりじゃないか?」


白いツインテールの少女がその人影に話しかける


「...誰かと思えば、君か、スノー。」

「そうだよ? そもそも、君と私以外の誰がここに来れるというんだい? 知っての通り、ここはジャッジメント本部でも最深部、私以外に立ち入ることを許可されたものはいない、最重要区画だ。」

「それもそうだったな。 ...いいのか? スノー。」

「まぁ、よくはないね。 君の歌は私にすら毒だ。 私だから即座にどう、というのはないけど、今この瞬間ですら決していいわけじゃあないね。 ...魅力的だと思うよ、この歌は。」

「そう思うのなら早いところどこかへ行ったほうがいい。 戻れなくなる。」

「ま、そうさせてもらうよ。 もっとも、君の歌は私の世界にいる限り、どこにいようと私にも聞こえる。 それは分かっておいてくれ。」

「...善処はするさ。 ...久しぶりに歌を歌ったんでな、衝動が抑えきれないんだ。」

「だからここにいる、と。 私の世界で最も深い場所。 最も深海に近い場所。」

「そうさ、いつも感謝してる、スノー。」

「受け取っておくよ。 」

「悪いな、スノー。」

「まぁ、気にしないでいいよ。 それも折り込み済みで私は君と協力関係を築いてる。 私とて既に人の身を辞めた存在だ。 それでも君のような、仮の姿でないのは、やはり私がそもそもは(たちばな)(ゆき)という人間だからだろうね。」

「その名前、まだ忘れてなかったのか?」

「そうさ、私のルーツだからね。 レイナ...玲奈にもいつも感謝してるぐらいさ。」

「そうか。」

「そういうものさ。 ところでもう1つだけ。 聞こうと思ってたことがあるんだ。」

「なんだ?」

「...君はどうやって生まれたんだい?」

「なんだ、そんな事か。 簡単な話だ。」


水の中でたゆたう彼女の纏うオーラが変わる

それを白いツインテールの少女が察知する


「...この重圧は...」

「スノー、知っているだろう。 かのかつての怪奇作家のことは。」

「怪奇作家... まさか。」

「そうさ。 私は深海に生まれ、深海に生きる。 彼の名は...そう、フィリップス。」

「フィリップス...」

「あぁ違うな、フィリップスはミドルネームだ。 ファーストネームは...そう、ハワード。」

「ハワード...フィリップス...」

「知らないわけはないだろう? 私はある意味、彼の存在から生まれたようなものだ。 ...そう、かつて深海を創った、あるいは、覗き見た男。 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。」

「...ラヴクラフト。」


そこで狩人たる彼女は口角を吊り上げるように笑う


「さ、行くといい、スノー。 お喋りはほどほどにしておこう。」

「...素直に教えてもらえるとは思ってなかったよ、ありがとう。」

「嫌に素直...というより、直球だな。」

「繰り返すようかもしれないけど、私ってのはそういうものさ。」

「そうか。」

「あぁ。 じゃ、また会おう。 ルル。 ...ルルイエ・オルカ・アビサルハート。」


白いツインテールの少女、スノーはその場から去っていく

深海より深い、暗い海の色をした瞳以外、エル・シオンハートによく似た彼女に

『ルルイエ・オルカ・アビサルハート』に背を背けて

2021/08/16 ルルイエ・オルカ・アビサルハートのイラストアートワークを後書きに追加: Illustrated by Twitter @Illust_riotya

2023/10/01 後書きのイラストアートワークを差し替え Illustrated by X(旧Twitter) @riotya_art



挿絵(By みてみん)

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