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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP3『オペレーションライトニングストライク』

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44/129

44: EP3-20 神に等しき所業

...ま、使えるものはなんでも使わなくちゃ、ね。


...ん? あれは...

コロニー協定連合体 "CAU"

ライトニングストライク作戦─ブロークンフォートレス作戦

2日目

西暦3020年3月19日[STC]

協定宇宙時(STC)00:25、火星新太平洋西時間(MNPWT)15:25

火星(マーズ)地表、軌道エレベータ基地ブラボー


それは、『神に等しき所業』である。



──Side: 三人称視点


アルテミスのコルセアがESF地上部隊を地獄へと突き落としている最中、ゼロファイターもまた、ESF航空部隊を同じような目に合わせていた


『はっ早すぎる! 振り切れない!』

『待ってろ! すぐに... クソ、なんて旋回性だ!』

『被弾した! 機体がバラバラに...』

『4-3が落ちた! ...ダメだ、4-4、4-6、逃げ切れるかは分からんが撤退だ!』

『了解!』

『にしたって足が違いすぎる!』


回避できない誘導ミサイルというだけでもキロ4─メッサーシュミット─にとっては絶望的だというのに、結局のところ近接戦闘になってもその速度や機動性の差から機銃の撃ち合いでは勝負にすらならない

キロ4-1はほぼ無理だと分かっていようとも、撤退という道を選ぶ

それが地上部隊にどれだけの負担を強いるかが分かっていても、だ

もっとも、既に地上への攻撃はしばらくできていない

故に、今更何が変わるのか、という話でもあった


『スカイウォッチャー、キロ4-1だ。 これ以上戦域に留まれない。 これより離脱を開始する。』

『了解だ、キロ4-1。 だが、予定より遅れたがまもなくズールー2がそちらへ合流する。 それを待って反撃に移れ。』

『了解、スカイウォッチャー。 4-4、4-6へ、ようやく友軍機が到着する。 撤退は中止だ、回避行動に専念しろ!』

『了解した、4-1。』

『無茶言わないでくれ!』


弾切れなのか、あの誘導ミサイルはさっきから飛んできてはいない

機動性の差を生かせば、敵は一度距離を取ってミサイルで攻撃できるはずだとキロ4-1は読んでいた

事実、そこまで多くのミサイルをゼロファイターは積んではいなかった


そしてその頃、ESFの通信では...


『バスティオン2よりスカイウォッチャー、燃料は残り2時間分だ。 状況はどうだ?』

『変わらずだ、バスティオン2。 空域の制空権は現時点で確保できていない。 ズールー2の到着以降、制空権を確保次第そちらへ指示を出す。 引き続き待機せよ。』

『了解したスカイウォッチャー。 バスティオン2、通信終了。』


ESFのバスティオン2──ガンシップ『スプーキー』だ

205mm榴弾砲、140mm機関砲、125mm5砲身速射砲の3つの砲を備え、空から地上に向けて強力無比な攻撃を加えるESFの大気圏内決戦兵器の1つであり、それはこの闘いにも参戦しようとしていた

しかし、到着もまもなくというところで、CAUの制宙戦闘機というイレギュラーの登場に遭遇する

対空能力の一切ないスプーキーは大事を取り、離れた空域で待機していたのだ


そして...それを遠くから眺める人影がいた




──Side: セラフ



凄いもんだ、大気圏突入をやって暑さすら感じないとはな。

相変わらずジャッジメントはただの科学技術で凄まじいことをやるもんだ。


「セラフよりレイナ、大気圏突入に成功した。 イナーシャダンパーに異常なし。 離脱の手配を頼む。」

『了解、回収艇を送るわ。 それより、目標は?』

「視認したぞ。 ESFの超大型ガンシップ、スプーキーだな。」


ま、超大型ってもたった40メートルだけどな。

うちが持ってる輸送機のが大きい。


『セラフィエル2で当てられるの?』

「余裕だな。 あれなら最大収束しないでも十分に焼ききれるから大雑把な狙いと低収束でいい。 速度も信じられないぐらい遅いしな。」

『そう、ならいいわ。 CAUにあまり余裕はない。 今だってなんとか優勢を保ってるだけ。 空が墜ちれば地上もすぐに全滅する。 お喋りしてる暇はないわね、セラフ。』

「了解だ、レイナ。 すぐに攻撃を開始する。」


よーし...


「セラフィエル2、最終発射シークエンスへ移行。 1次リアクターを砲身へ連結。 2次リアクターを砲身へ連結。 砲口レンズの収束倍率を調整。 セラフィエルシステム、照準をアップリンク、セラフィエル7による最終リンクを開始。」


全システムオールグリーン、ってな。


「砲身キャパシタへ充電開始、出力75%で調整。」


あぁ、慣れた感覚だ。


「フルチャージ、照準確定、発射まで3....2...1...」


「セラフィエル2、照射開始。」




─Side; 三人称視点



ありえない光景だった

というよりかは、信じられない、というべきだろうか?


『スカイウォッチャー! こちらバスティオン2! 正体不明の攻撃を受け... 機体が溶けてる! 助けて──


それを遠くから、あるいは自分が被害を受けない程度に近くから見ていたら、どちらであれ、異様な光景だった

空中で旋回し、待機状態にあったバスティオン2の遥か上空、恐らくは宇宙からそれは『降ってきていた』


真紅ともいうべき濃い赤色をしたレーザーのようなものが、一直線にバスティオン2へ注いでいた

スプーキーという大型の航空機を丸ごとすっぽりと包んでしまうほどの太さのレーザーは、それに耐えるという選択肢を与えずに、瞬時に溶融、爆散させていた

その真下の台地には、レーザーの太さと同じだけの広さの焼け焦げた大地だけが残り、そこに人工物が浮いていたという痕跡はどこにもなかった


『バスティオン2、応答しろ、こちらスカイウォッチャー、バスティオン2? どうした?』

『司令、バスティオン2がレーダーから消失しています。 撃墜されたかと。』

『撃墜された? ...機体が溶けてる...か...』


ESF航空部隊司令部、スカイウォッチャーの指揮所は混乱の最中にあった

あの空飛ぶ要塞とでもいうべきスプーキーがロクな状況報告すらせずに撃墜されるということを正常に認識できていなかったのだ


スプーキーは機体サイズ通りに非常に高コストな機体であり、スカイウォッチャー指揮下にもその1機しかない

それが撃墜されたとなれば、部隊の対地攻撃能力は大きく損なわれる

メッサーシュミットを何度も往復飛行させればいいのだが、そもそも全機一斉出撃というのにもリスクがある

元から、タイミングの悪いことにスカイウォッチャーの管制エリア内で複数のテロ組織等による一斉蜂起が起きており、戦力は不足気味だったのだ

そこへ向かっている部隊を今から呼び戻せば確かに戦力は足りるが、そうなればCAUに勝てても周辺エリアの治安は一気に悪化する

意外にも力をつけたテロ組織などは地上部隊だけで勝てるほど、甘い敵ばかりではないのだ


『...考えていても仕方ないぞ、ズールー2へ、急ぎキロ4の救援を実施してくれ。 彼らは撤退を具申するほどには追い詰められている。』

『了解した、スカイウォッチャー。 ...待ってくれ、スカイウォッチャー、敵制空機は3機のはずだよな?』

『そのはずだ。』

『嘘だろ、スカイウォッチャー。 報告する、敵制空機が更に追加で3機いる。 ちょうど1分隊規模に増えてるぞ。』

『まだ増援がいたのか? 分かった、警戒して任務に当たれ。』

『了解だ、スカイウォッチャー。 ズールー2、これより空域に入る。』




結果は散々なものだった


『スカイウォッチャー、こちらズールー2-5、ダメだ、キロ4は全滅、こちらも俺と2-2しか生きてない! 敵に損害なし!』

『ズールー2-2、2-5、撤退しろ、これ以上は無理だ。 ...先ほど連絡があった。 上級司令部が軌道エレベータブラボーの放棄を決定した。 これ以上無駄な犠牲を出すな。』

『了解した、スカイウォッチャー!』


彼らは何もできずに、ほぼ全滅した

CAUの制空戦闘機は、あまりにも強すぎた

パイロットの経験の差なわけはない

ならば、本来言い訳にしかならないはずの機体の性能差が、言い訳になるほどあったのだろう


...更には、彼らが不利を悟った頃には最悪の知らせが彼らの元に届いていたのだ

敵の、CAUの制宙戦闘機が更に3機追加された、と

それでも彼らは健闘した

それが及ばなかった、それだけのことなのだ


地上部隊も撤退の判断が遅れた

同時に追加されていたCAUの爆撃機、つまり制宙攻撃機によって次々と被害が拡大していた

何もかもが遅すぎたのだ


正直に断言すれば...

彼らの敗北は決定的だった


戦闘開始から約3時間後の協定宇宙時(STC)01:00

ESF全部隊は、西の平野部へ、あるいは北から回り込み東の新太平洋への撤退を開始していた



そして...それと同時に、頂上決戦にも終わりが来ようとしていた



















































──深海に生まれ、深海に生きる

──それは、存在への問であり解である



「終わらせるぞ、クロノス。 いい加減お前にも飽きてきた。」

『酷い言いぶりだよね、それ。』


クロノスは通信越しに肩をすくめてみせる

それは余裕の現れか、あるいは


「まぁ...もういい、そろそろ...潮時だ。」

『? ...待って、まさか。』

「貴女を、狩る。」

『やめて。』


シオンハートの前で笑みを絶やさなかったクロノスが、初めて表情を引き締めた






『どうなってるの!? あり得ない...』

「いいのか? よそ見をして。」


クロノスからすれば、たまったものではない

シオンハートという存在を甘く見すぎていた

以前の遭遇で確かにマズイというのは理解していた

でも、それでも勝てると思っていた

もしもに備えて同期であるカマエルには確かに伝えた


それは、間違いではなかった


『そっちが本性ってことだよね、シオンハート?』

「さぁな。」


歌が、聞こえる


『待って...なに...これ?』

「知らないか? 深海の歌を。」

『この不快感、苦痛、シオンハート、あなたって...』

「知っているだろう? 堕天使だろうと、天使であるならば。」

『...そう、そういうことか。 ...ウィルクスは知ってるの?』

「知らないさ。 人に寄り添う側に近いものと、私は本来相容れない。」

『そうだよね。 ...あのさ、シオンハート。』

「なんだ?」

『逃がしてもらえる?』

「...好きにしろ。 私が狩るのは本来は...」

『ありがとう。』


歌は、止まった。

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