42: EP3-18 アルテミス
ようやく、来た。
コロニー協定連合体 "CAU"
ライトニングストライク作戦─ブロークンフォートレス作戦
2日目
西暦3020年3月19日[STC]
協定宇宙時00:10、火星新太平洋西時間15:10
火星地表、軌道エレベータ基地ブラボー
『アルテミス』が作戦エリア上空に到達
近接航空支援を開始する
──Side: 三人称視点
『待たせたな、ガートル。 こちらアルテミス1-1。 連合本部からの要請でそちらの支援に入る。 目標指示をくれ。』
『待っていたぞ、アルテミス。 だが、こちらに精密誘導ができる装備はない。 大丈夫か?』
シオンハートがクロノスとの戦闘を続けながら『アルテミス』のコールサインを名乗る友軍機のパイロットと話す
古い神話で弓を手にした女神と伝えられていたとされるアルテミスの名を冠す彼らは、そう
『マルコシアス、あれ、知ってる?』
『いや、知らんな... まさかCAUが、制宙戦闘機を開発していたとはな。』
マルコシアスの言う通り、アルテミスは制宙戦闘機部隊だ
確かに、CAUに制宙戦闘機はない、ないはずだったのだ
しかし、今は確かにそこにある
かつてライトニングストライク作戦の前にサイラスの語ったファイター
それこそが、これだったのだ
『問題ない、ガートル。 こちらは空対地誘導ミサイルだけでなく、空対地無誘導弾も搭載している。 指定座標への無差別攻撃も可能だ。』
『了解だ、アルテミス1-1。 これより敵座標の指示を行う。 順次攻撃を行ってくれ。』
『了解した、ガートル。 アルテミス1-1から1-3はこれより敵戦闘機への攻撃を行う。 ガートル、以降の指示はアルテミス1-4へ頼む。』
『了解だ、アルテミス1-1。 アルテミス1-4へ、ガートルだ。 聞こえてるか?』
『問題ないぞ、ガートル。 感度良好。 機体も絶好調だ、いつでも指示してくれ。』
アルテミスは6機編成で飛行していた
CAUにとって初の制宙戦闘機投入であり、まだ戦術ドクトリンが定まっておらず、試験的に制宙戦闘機である『ゼロファイター』そして、制宙攻撃機である『コルセア』が3機ずつで編成されていた
どちらもESFと同じく、古い記録に残る地球時代の戦闘機の名称を冠している
その編隊から早速と言わんばかりにゼロファイターの3機が離脱していく
目標はESFの制宙攻撃機、メッサーシュミット
そして、目下最大の危機であるスプーキーだ
『アルテミス1-1より1-2、1-3。 レーダーによると敵機にスピットファイアは確認できない。 メッサーシュミット程度の足の遅さなら我々の敵ではない。 とはいえ、我々にとって初の実戦だ、決して油断するな。』
『分かったぜ、1-1。』
『自分も決して油断するつもりはありません、1-1。』
3機が一気に加速し再び戦場へ接近しつつあるメッサーシュミットへ接近する
その突然の登場にESFのメッサーシュミットパイロット達が僅かに動揺する
『隊長、ありゃあなんだ!?』
『信じられないことだが、あれは間違いなく敵の戦闘機だ。 かなり速い。 各機、対空戦闘用意。 いくら速かろうとこちらには経験のアドバンテージがある。 軽くあしらってやれ。』
『了解だ、しかしまさかCAUが戦闘機とは...』
情報にないその兵器に、彼らは対抗しようとする
長年空を、宇宙を飛んできた彼らにとって、それは一種のプライドでもあった
アルテミスのゼロファイター3機に対し、メッサーシュミットは6機
通常であれば、かなりと言っていいほどに無謀な行為だ
それでも、アルテミスは果敢に接近を続ける
メッサーシュミットは本来重力下では対地、あるいは対大型目標への攻撃
そして、宇宙空間では対艦攻撃に特化しており、今回の戦いにおいてはそもそも必要となるはずのなかった空対空ミサイルの類は搭載していなかった
もちろん、対空攻撃用の『30mmハイサイクル機首同軸機銃』は搭載されており、それで十分だとパイロット達は思っていた
しかし、その想定はたやすく打ち破られる
最初に攻撃したのはゼロファイターだった
制宙戦闘機としての優位性を確保するために高出力のレーダーを搭載する彼らは既に敵機をロックオンできる位置にいる
『まずは小手調べと行こう、1-1、フォックス3!』
『1-2、フォックス3!』
『1-3、フォックス2!』
アルテミスのゼロファイター3機はそれぞれほぼ同時に空対空誘導ミサイルを発射する
1-1、1-2は終端誘導にアクティブ誘導方式─ミサイルそのものが敵機を電波で捉え自律誘導する─を使用するミサイルを発射し、1-3だけが赤外線誘導方式─目標の発する赤外線を捉え自律誘導する─を使用するミサイルを発射する
『敵機がミサイル発射、各機ECM展開せよ!』
即座にメッサーシュミットも反応し、ECM型のカウンターメジャー─電波誘導ミサイルへの対抗手段─を発動する
この時代において、本来空対空ミサイルというものはあまり用いられない
というのも、ECMやその他のカウンターメジャーの高性能化に対し、ミサイルの誘導方式の進歩が追いつかずにいるからだ
特に大型の目標になればなるほどカウンターメジャーも高出力、高性能化するため、対艦攻撃ともなると無誘導ミサイルや至近距離からの爆撃での攻撃が主流とも言える状態になっていた
しかし、空対空戦闘においてはあくまであまり用いられない、に過ぎず、決してまったく用いられないわけではない
制宙戦闘機サイズに搭載可能なカウンターメジャーでは性能や起動持続時間に限界があるからだ
数回なら防げても、あまりの短時間に幾度も攻撃されれば間に合わなくなる
それに、ESFはCAUがあまりにも長きに渡り制宙戦闘機を導入してこなかったことから、その開発をいつしか怠っていた
...そして、この時代において赤外線誘導方式を使うことなど、考えてもいなかったのだ
『ECM展開! ...待ってくれ! ミサイルが追ってくる!』
『何!? 4-5、旋回だ! 旋回して振り切れ!』
『隊長、こっちのは追ってこないぞ?』
『あの1つだけがおかしい! 振り切れるか?』
『ダメだ速すぎる! 振り切れ...』
4-5からの通信が途絶する
同時に、メッサーシュミットのパイロット達は僚機が爆発四散するのを目にする
『4-5がダウン! 連中何をしやがった!?』
『スカイウォッチャーへ、こちらキロ4-1、敵の新型兵器...制宙戦闘機と交戦中! 原理は不明だがECMで妨害できない新型誘導ミサイルを使用している!』
『スカイウォッチャー了解、ズールー2を迎撃に上がらせる。 ETA10分。』
『了解だスカイウォッチャー、それまで持たせる。』
メッサーシュミット隊─コールサインキロ4─の隊長たるキロ4-1が航空部隊司令部であるスカイウォッチャーへ即座に報告する
そして、スカイウォッチャーは制宙戦闘機スピットファイア隊であるズールー2を即座に出撃させる判断を下した
その頃、アルテミスの3機はというと...
『1-1、こっちの誘導ミサイルが敵を撃墜した。』
『1-1、俺のは外れた、1-1はどうだ?』
『俺もだ、1-2。 1-3のだけがヒット... つまり、連中は赤外線誘導を同時に妨害できない、あるいはそもそも妨害ができないということだな。 これは好都合だ。』
隊長であるアルテミス1-1はその成果に満足そうだった
しかし、すぐに顔を引き締める
『1-2、1-3、この速度のままドッグファイトに突入する。 度肝を抜いてやれ。』
『了解だ、コイツの45mmが早く撃ちたくてうずうずしてるみたいだぜ。』
『1-1、自分はもう一発撃って様子を見ます。』
『許可する1-3、これで妨害されなければ連中のカウンターメジャーはその程度というのが分かるな。 そうしたら3-1に連絡しよう、まだ降りていないはずだ。』
『了解1-1。 ロックオン開始... 完了、フォックス2!』
再度1-3から赤外線誘導ミサイルが発射される
『敵機が再度ミサイルを発射! 各機、ECM展開せよ! また、回避用意!』
キロ4-1もこれに反応し先ほどと同じ轍を踏まぬように指示を出す
『4-1! 自分が追われてる! また追ってくる!』
『4-2、回避だ! すれ違って振り切れ!』
『やってみる!』
ミサイルは正面から飛んでくる
つまり、スレスレをすれ違えば追ってこれないはずだとキロ4-1は判断した
もちろん、かなり技術の要求される動きだ
それでも、それ以外に咄嗟に思いつく手段がなかった
『よし、すれ違う...』
再び通信の途絶
そして、先ほどと同じように爆発四散するメッサーシュミット
『...なんて誘導性だ。 4-2がダウン。』
『キロ4各機へ、加速して一気に接近しろ! ロックオンさせるな!』
このままこの新型ミサイルの攻撃を受ければ全滅する
どう見ても最高速も加速性も敵のが上であって、逃げることもできない
ならば、接近戦を挑み撃墜する他に、生き残る手段はないとキロ4-1は判断した
それこそが、敵の、アルテミスの狙いだとも気づかずに
『1-1、敵が加速してる。 どうやらこっちと同じくドッグファイトがお望みらしい。』
『だな、1-2。 1-3、いい攻撃だった。 どうやら連中のは本当に赤外線誘導は妨害できないらしい。 それに、今ので敵の指揮官はパニックになったことだろう。 でなければ攻撃機で戦闘機に接近などと無謀なことはしないだろう。』
『ありがとうございます、1-1。 このままやってやりましょう!』
両軍は一気に距離を詰めていく
その時間は僅か30秒にも満たない
『1-2、1-3、編隊を解除、各自自由に攻撃せよ!』
『了解だ、1-1。』
『了解、1-1。』
ゼロファイター3機がそれぞれ別の方向に加速しながら離れていく
航空機同士のドッグファイトはシンプルに、いかに相手の背後を取るかの勝負だと言えるだろう
古い時代には後部機銃を搭載した奇妙な戦闘機もあったそうだが、この時代においてそんなものはまず存在しない
故に、背後に攻撃することのできない航空機同士ではそうなるのは自明の理だった
この時代において、戦闘機は主に3つに分類される
というよりは、今まで戦闘機を運用していたESFには3機種しか存在しないというのが正しい
1つめが、速度と機動性に優れ、制空・制宙戦闘に向け設計されたESFの制宙戦闘機『スピットファイア』
CAUの『ゼロファイター』もこれに位置する
特にゼロファイターはESFのスピットファイアに対抗すべく設計されており、設計段階から空対空戦闘を考慮されている
2つめが速度と機動性を多少犠牲に、兵装の積載量を増加させたESFの制宙攻撃機『メッサーシュミット』
CAUにおいてはこれが『コルセア』だ
メッサーシュミットもコルセアも、制宙戦闘機に対しての戦闘を行うことは本来考慮されていない
だからこそ、 ESFもCAUも制宙戦闘機と制宙攻撃機は必ずセットなのだ
3つめは現時点でESFの『シュトゥーカ』しか該当することのない、速度と機動性、それに運用コストを犠牲に装甲と兵装搭載量を大幅に増加させた大型攻撃機だ
この時点において戦力差はキロ4のメッサーシュミット4機に対しアルテミス1のゼロファイター3機
最早数のアドバンテージはキロ4には残されていなかった
ついに太陽系大戦以後、初の戦闘機同士による近接戦闘─制宙戦闘機と制宙攻撃機による非対称戦闘ではあるが─が行われる
その裏で、CAUの新たな切り札の1つが同じくESFへと襲い掛かろうとしていた




