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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP3『オペレーションライトニングストライク』

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41/129

41: EP3-17 ライブラ

...間に合ってくれ。

コロニー協定連合体 "CAU"

ライトニングストライク作戦─ブロークンフォートレス作戦

1日目

西暦3020年3月18日[STC]

協定宇宙時(STC)23:15、火星新太平洋西時間(MNPWT)14:15

火星(マーズ)地表、軌道エレベータ基地ブラボー


『ライブラ』は現行技術の粋を集めたんだ。

これぐらい造作もない...

だろう、グローリア?


─Side: 三人称視点


黒い機体──ライブラが手にしたソードを振るう

狙い通りに、勢いのままに振り上げられたそれは、寸分違わずメッサーシュミットを両断した


『というかディケ! この後はどうするんだ!?』

『私に任せてください。 エリソン、もう一度背部スラスターの出力を振り切ってください。』

『分かった!』


どういうわけか、ローランドは敵陣上空で戦闘機を両断するという意味不明な行動に出ていた

高速で上空を飛行する戦闘機に狙いを定めて飛び上がるというだけでも意味不明だと言うのに、バトルワーカーという重力下では出力に対して重量がある物体、更には攻撃のために敵機がかなりの低空飛行だったとはいえ数十メートルはあろうかという跳躍...とにかく意味不明の連鎖だ


そのライブラがメッサーシュミットの爆炎を背景に再び敵陣の中へとゆっくり降下していく


『...ローランド...何やってるんだアイツは...?』


シオンハートがそう呟くのも、無理はなかっただろう


そもそも、何故こんなことになったのか?

それは少し前へと遡る...


『激戦ですね、エリソン。』

『そうだな... こっちの被害は?』

『まだ大丈夫でしょう。 ですが、余裕があるとも言えません。 通信を封鎖しているので正確なことは言えませんが。』


彼らはシオンハートから自由行動を任された後、戦場を北側から迂回し敵の側面へと回り込んでいた

どういうわけか、ディケによってライブラは敵のレーダースキャンから逃れており、事実敵がライブラに気づいている様子もなかった

実際、戦場の北側にはCAU部隊は降下しておらず、レーダーに反応がないとなれば警戒が薄れているのも仕方なかったのかもしれない


また、これこそがこの時代の軍の致命的な欠陥でもある

彼らには正規軍同士の対称戦闘の経験が不足していたのだ

もっとも、不足していなくてもバトルワーカーがレーダーに映らないというのはあまり例がない話だ

火星、新太平洋の密林地帯に配備されているような特殊な第2世代型バトルワーカーならまだしも、このような軍と軍のぶつかり合いにそのようなものがいるのを想像しろというほうが無理難題だったのだ


ともかく、そんな事情もありローランドとディケのペアによる奇襲は着実に進められていた


『エリソン、友軍の通信を低プロファイル受信したところによると、敵長距離バトルワーカーによる被害が拡大しているようです。 スキャンによると敵第3世代型バトルワーカー、ネアス・アドニスの重装砲撃機と思われます。』

『了解だディケ。 それを叩こう、ナビしてくれ。』

『了解、HUDにリンクします。』


ローランドの視界にいつものようにディケのナビが合成される

ローランドは戦闘中は視界内に計器類のものをHUDとして表示させていて、これもその一環だ


『...ふむ? 待ってください。 敵の更に遥か後方に...妙な反応があります。 これは...』

『これは?』

『まさか...クロノス? いえ、反応が消えました。 ですがレーダーのノイズだとは思えません。 警戒を、エリソン。』

『分かった。 奴がいるなら厄介だな。 かと言って准将に伝えようもないぞ。』

『今通信封鎖を解けば勘づかれてもおかしくありませんからね。』

『仕方ない、警戒しながら行こう、ディケ。』

『了解、エリソン。』


敵の後衛たる長距離機の側面へと彼らは誰にも気づかれずに迫っていく

友軍であるはずのCAUにすら気づかれぬその動きは彼らの行動を致命的なものへと練り上げていった


そして彼らがついに不意を突こうという時、それは起きた


『...待ってください、西の上空に敵戦闘機の反応を捉えました。 かなりの速度でこちらへ接近してきています。』

『戦闘機? 戦闘機って...あの制宙戦闘機か?』

『そうです。 反応から見るに、ESFの制宙攻撃機であるメッサーシュミットのようです。 重力下では空対地攻撃性能に優れています。』

『...空対地? つまり...』

『...地上ユニットに対して絶大なアドバンテージを誇ります。 CAUには重力下における地対空装備はそう多くは配備されていません。』

『落ち着いて言ってる場合か!? ディケ、コイツに対空装備は?』

『...ありません。 ビームライフルも大気圏内では高速移動する物体にはあまり効果的ではありません。 ...物理的な攻撃であれば話は別ですが...』

『物理的? ディケ、物理的と言えば、コイツにはソードしかないぞ?』

『...そうですね。 エリソン、手段がないのかと言われればそれはある、とは言えます。 ですが...』

『あるんだな?』

『はい。 やれなくはありません。』

『ならやろう。 味方が死ぬのを黙ってみていられるほど俺は達観しちゃいない。』


ローランドがディケのホログラムビジョンに語りかける

いつからか、彼は仲間の死というものに敏感になっていた

故に、救えるはずの命を無駄に見逃すということはしたくない、そう思っていた


『...了解、IG-EPARのリミッターを解放します。 一時的にエジタイト消費量が増加します。 警告、本部との接続を確立しました。』

『どういうことだ? ディケ?』

『お待たせしました。 攻撃準備完了、動作補助プロトコルをアクティブ。 ご命令を、エリソン。』

『...あーもう分かった、やろう。 ディケ、教えてくれ。』


それに答えようとディケが口を開こうとした時


遠くで、軌道エレベータ基地の方から爆発と光が見えた


『...敵メッサーシュミットの攻撃を確認。 大型の空対地ミサイルの類でしょう。 エリソン、更に西から敵戦闘機が接近しています。』

『それを叩くぞ、ディケ! どうすればいい?』

『最適な操作を検索... 完了。 エリソン、操作を私に。 ソードを振ることだけ意識してください。』

『分かった。』

『猶予はありません、一発勝負です。 エリソン、背部スラスターを全力で振り切ってください。』

『何だか分からんが... 行くぞ、ディケ!』


そして、時は今へと戻る




『聞いてないぞこんなの! まぁいい、そろそろいい所准将に見せないとな、ディケ!』

『エリソン、完璧です。 敵機を撃墜。』

『そりゃ上出来だ! というかディケ! この後はどうするんだ!?』

『私に任せてください。 エリソン、もう一度背部スラスターの出力を振り切ってください。』

『分かった!』


彼らは、ライブラはゆっくりと地上へ降りていく

しかし、そこは敵陣上空

つまりは...


『エリソン、着陸地点周辺に多数の敵機を確認。 交戦の準備を。』

『了解だ、ディケ。 エジタイトは後どれくらい持つ?』

『...』

『ディケ?』

『...あ、あぁいえ、エジタイトですね。 ...まだ余裕はあります、大丈夫です。』

『どうしたディケ? しっかりしてくれ?』

『すいません、少し考え事をしていました、もう大丈夫です。』


思えば確かに思慮しているような表情をしていたと思うローランドはまた、そのディケの表情を前にも見た気がしていたが、ついぞ思い出せなかった


『大丈夫ならいい、さて、全力で飛ばすぞ!』

『了解、エリソン。 と、通信封鎖を解除します。 もう隠れている意味はありませんから。』

『了解だ、ディケ、そのまま准将に繋いでくれ。 向こうの状況を知りたい。』

『今繋ぎます。 ...完了、モニターに繋ぎます。』

『ローランド? ローランドか! 一体何のつもりだ今のは!』

『准将、驚かせてすいません。 自分にできることは何かないかと、最善を尽くしました。』

『そういうことを聞いてるんじゃない... まぁいい。 そちらは無事か?』


通信モニター越しにシオンハートが半ば呆れたように告げる


『問題ありません、准将。 それよりそちらは?』

『一言で言えば問題だらけだな。 気づいているかもしれないが、敵戦闘機の攻撃でこちらは大打撃だ。 現在防衛ラインを更に下げ、再編している。 だが、長くは持たない。 ローランド、可能であれば敵後衛にいる狙撃機、砲撃機へ圧力をかけてほしい。 やれるか?』

『それであれば問題ありません、この位置からならすぐです。』

『すぐ、か。 確かにな。 ...普通、そんな位置に単騎でいるのがおかしいんだが... まぁ、お前に任せる。 このまま通信は繋いでおいてくれ。 何かあれば追って指示する。 頼んだぞ。』

『了解、准将。』


モニターが暗転する


そして、着地と同時に彼らは行動を開始する

既に周辺の敵機はライブラを攻撃しようと動き出している


直後、ライブラが再び飛び上がり、近場にいた敵機─ネアス・アドニス─に勢いのままに切りかかる

十分に勢いに乗ったその斬撃は、寸分違わずにそれのコックピットを切り裂いていた


『エリソン、出力はこちらで調整しています。 気にせず戦闘に集中を。』

『分かった、続けるぞ!』


ライブラは勢いのままにESF陣営の奥深くへと駆けていく

多少の被弾を物ともせず、立ちはだかる敵を斬り伏せて


そして、その様子を観察し、狙うものがいた




『...まぁ、話通りなのかな? レライエが言う通りなら... でも、シオンハートはどうして動かないんだろう? ...試してみればいいか。』




ライブラが、ローランドがESFの後衛へと迫ろうとしたその時

唐突にそれは現れた


『別に君に恨みがあるわけじゃないんだけどね、これも仕事なんだ!』

『っ!? クロノス!? エリソン、避けて!』

『避けるったって!』


目の前に、ハルバードを振りかぶったクロノス機─フェリシア─が、だ

既にその狙いはライブラのコックピットに定められていて...


『させるか!』


半ば反射的にローランドが身構えた時、そして訪れる衝撃に恐れた時

目の前がにわかに暗くなった


『...シオンハート!』


ディケがそう叫ぶ


『張っておいて正解だった、だろう、クロノス!』

『やっぱり出てきたね、シオンハート!』


ライブラのコックピットでローランドはそれを見ていた

通信モニターには2つのウィンドウが開き、それぞれシオンハート、そして、暗く輝く輪を浮かべた女が映っていた


『准将! 助かりました!』

『礼はいい! お前は向こうの砲撃機を叩け! コイツは私が相手する!』

『りょ、了解!』


咄嗟にライブラがそこから飛びのき、迂回するように他の敵機へ向かっていく


『シオンハート、もしかして私が出てくるまで待ってたの?』

『どうだかな。 お前こそ何故今出てきた?』

『さぁね。 強いていうなら...様子見かな?』

『相変わらず話にならないな、クロノス。』

『そっちもね。 で、やるの?』

『お互いに埒が明かないのは分かっているだろう? 無駄だとは思わないのか?』

『少なくとも私はシオンハートのことを邪魔して、シオンハートは私のことを邪魔できる。 無駄じゃないんじゃないかな?』

『...話をすることが無駄だな。』

『そうこなくっちゃ。』


2人が通信を閉じ、それぞれ手にした獲物を構える

クロノスの、フェリシアのハルバードは以前、シオンハートが奪ったはずだが、その手にはその以前を変わらぬハルバードが握られている

対するシオンハートの、マリエルはいつも通りの片刃のソードだ


どちらが合図をするでもなく、両者は同時に飛び出る

そして、終わりのない鍔迫り合い...不意の打ち合いに身を投じるのだった




ローランドはそれを見送りながら、ディケと共にESF後衛へと攻撃を加えていた

遠距離戦に特化したそれらでは、近距離への接近に対応できずに次々と撃破されていく

この混乱により、ESFのCAU地上部隊に対する攻撃は一時的に鈍化することになり、それはCAUにとってあまりにも貴重すぎる時間となった


しかし、シオンハートはそれでも焦っていた

既に時間の猶予はなかった

ESFの超大型ガンシップ、スプーキーの到達までもう1時間もない

それが到達すれば自分達に勝機はない

それをどうするべきか、まだシオンハートの脳裏に有効な手段はなかった






STC23::50/MNPWT14:50



『ドロップタワーよりガートルへ、聞こえるか?』

『なんだ? こっちは余裕がない、手短に頼む。』


未だクロノスとの戦闘を続けるシオンハートの元へ通信が入る


『ESFのスプーキーが後30分もあれば空域に侵入する。 そうなれば...』

『分かっている! 何かしら手段がないか考えてはいるが...』


ないものはない、そう言外に伝える


『シオンハート!』

『どうした? ルプスレフィア?』


そこへルプスレフィアから通信が更に入る


『こっちの弾薬がそろそろ尽きそう。 もうホークアイも、スコルピオンも10分も持てばいいほう。』

『補給は?』

『20分前を最後に終わりだってさっき。』

『20分前? ...通知が来てたか、気づいてなかった。 分かった、節約しつつ時間を稼いでくれ。』

『分かったよ、シオンハート。』


ここにきての絶望的な知らせだった

遠距離戦を担う彼らの弾薬が尽きれば、前線が支援を失う

未だ数に勝るESFを押しとどめるためには、その支援が必須であり、それを失うということは前線の崩壊を意味していた


『...潮時か... 工作班へ、基地防衛システムの残りは?』

『レールガンが残り3割、迫撃砲が2割だ。 敵が基地施設そのものへの攻撃はしていないから、シールドは無傷のまま。 ...ガートル、何かあったので?』

『...軌道エレベータは使えそうか?』

『まだ復旧中です。 もう1時間はかかります。 連中、よりにもよって基幹システムを破壊していました。』

『...分かった、急いでくれ。』

『了解。』


軌道エレベータが復旧すれば最悪撤退はできる

しかし、それまでにあのスプーキーが来てしまう


『...かくなる上は...』


シオンハートは1人、思慮を続けるばかりだった




2日目

STC24:05/MNPWT15:05



『ルプスレフィア大佐、今のでこちらは撃ち尽くしました。』

『分かったよファディーニ。 マッケンジーは?』

『こっちも後2,3発で全員撃ちきります、大佐!』

『了解。 ...さて、どうしようかな...』


ルプスレフィアもまた、思慮していた

自身のアルティアももうそう多くはレールガンの残弾は残っていなかった


『ファディーニ、部隊を連れて基地内に退避! マッケンジーも全員弾切れしたら同じく!』

『了解、ルプスレフィア大佐。』

『こっちも了解です、大佐!』


これ以上彼らが的のままでいる必要はない

それがルプスレフィアの思いだった


彼女の普段の言動からは推察しづらいのだが、ルイナ・ルプスレフィアという人間は誰かに似て、部下思いである

故に、無駄な犠牲というものを誰よりも嫌うことでも陰では知られていた

それでいて、必要な犠牲を厭わないというのだから、彼女はこの歳で大隊長というものを務めていられるのだろう


『シオンハート、こっちの支援がもう尽きるよ!』

『...了解だ、ルプスレフィア。』


通信越しにシオンハートがゆっくりと返す

未だ、シオンハートはクロノスとの戦闘を終わらせることができずにいた


ルプスレフィアは知らぬことだが、ローランドがESF後衛での戦闘を続けているおかげでCAUはここまで耐えていた

ESFの砲撃機が下がったことでCAU前衛のエピアルテース、エピター隊への負担が減り、なんとかなっているという状態だった

ESFの戦闘機も、どういうわけか20分ほど前を最後に来ていなかった

補給に戻ったか、何かトラブルがあったか

どちらにせよ、今は貴重な時間であった


『ネイヴィガー1よりガートル、ルプスレフィア。』

『ネイヴィガー1、どうした?』


マルコシアスから通信が2人へと入る


『ネイヴィガー各員の弾薬がそろそろ尽きる。 全員、近接戦闘はできるが、効率が落ちる。』

『了解した。 無理だと思えば下がってくれ。 エピターに前衛を任せるんだ。』

『了解だ、ガートル。 ルプスレフィア、可能なら支援がほしい。』

『ごめん、マルコシアス。 もうこっちも弾薬がない。』

『了解した。 ネイヴィガー1、アウト。』


通信が終了する


『...ルプスレフィア、退くべきだと思うか?』

『シオンハートらしくないね。 ...でも、そうだと思う。 これ以上は皆耐えきれない。』

『...そうか。 幸い、基地はまだシールドが生きている。 部隊を下がらせ、軌道エレベータ復旧まで耐えるべきか。』

『そうかも...しれないね。』


いつもは元気が取り柄のルプスレフィアもさすがに明るくというわけにはいかない

ここで退けば今までの犠牲は無駄になる

それでも、これ以上の犠牲は減らしたかった


シオンハートは決断する


『よし、全ユニットに撤退命令を出す。 基地施設内でシールドを頼りに...』

『ガートルへ! こちらドロップタワー!』


そこに急に通信が入る


『どうしたんだ? 急に?』

『軌道エレベータ上層、外壁沿いに急降下する所属不明の制宙戦闘機を確認した!』

『所属不明だと? ESFか?』

『分からない! 今の今までレーダーに映らなかった! そちらに到達するまで30秒!』

『敵じゃあ間に合わないぞ!』

『IFFに反応がないんだ!』

『反応がない? ジャミングか?』

『それすら分からない。 いや待ってくれ、機影を望遠映像で捉えた。 これは... 見たことがない。 映像を送る。』

『了解、これは... まさか!』

『何か知ってるのか?』

『ドロップタワー、RTSベータへ通信を繋いでくれ!』


RTSベータ、ウィルクスの元へと通信を要求する


『その必要はない。 シオンハート、待たせたな。』

『ウィルクス! 来たんだな?』

『あぁ。 全く、本部ももっと急がせればいいものを... おかげで地上は大損害、だろう?』

『確かに、こちらはもう持ちこたえられないぞ?』

『ならちょうどいい、そちらに通信を回す。 後は任せるぞ、シオンハート。』


マリエルのコックピットで期待を込めた目でシオンハートが通信モニターを見つめる

そこに映ったのは...


『待たせたな、ガートル。 こちらアルテミス1-1。 連合本部からの要請でそちらの支援に入る。 目標指示をくれ。』

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