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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP3『オペレーションライトニングストライク』

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40/129

40: EP3-16 空からの脅威

やはり、こうなるか。

...介入はできない。

コロニー協定連合体 "CAU"

ライトニングストライク作戦─ブロークンフォートレス作戦

1日目

西暦3020年3月18日[STC]

協定宇宙時(STC)22:23、火星新太平洋西時間(MNPWT)13:23

火星(マーズ)地表、軌道エレベータ基地ブラボー


ESFはまだ全てを見せてはいなかった

『空からの脅威』はCAUに牙を剥く



──Side: 三人称視点



『ホーク2-1よりホーク1-1、こちらは11時方向の自走砲隊列に圧力をかける。』

『ホーク1-1了解。 ボンバー4-1、2時方向の戦車隊列が突出しようとしている。 圧力をかけられるか?』

『あいよ分かったぜホーク1-1、ボンバー2-1、2時方向...これとこの目標に上面攻撃だ、連中の装甲車は上面装甲がペラッペラらしいからな。』

『ボンバー2-1了解した。 重力落下を利用し曲射砲撃を行う。』

『よーしまた1つ! せんしゃ?は跳ねたりしないから狙いやすいしいい的だよ!』

ネイヴィガー5(ジャレット)よりネイヴィガー1。 転送した座標付近に敵小型車両を見つけた。 狙撃、砲撃じゃ小さい上に早くて狙いが定まらないぜ。 処理できるか?』

『ネイヴィガー1了解、ネイヴィガー4(ジーナ)、やってくれ。』

『了解だ。 ロケットで跡形残らず吹っ飛ばしてやる。』


先陣を切ったのはCAUだ

一斉に攻撃を集中させESFの出鼻を挫くつもりだ


しかし、数、そして地の利の差がある


『エピター3-1よりエピター1-1、敵砲弾の着弾を観測した。 現状何も問題は無い。』

『了解、大きな損害が発生したらすぐに下がらせろ。 穴は迅速に塞いで時間を稼ぐぞ!』


熾烈なまでの一斉攻撃によりESF先鋒の車両部隊の相当数が鉄クズの山になるか、跡形もなく消し飛ぶ

しかし...


『RTB1よりガートル、敵部隊未だ健在!』

『ちぃ、数が多すぎるな... 』


偵察隊の言葉通り、即座に敵部隊が前進を再開した


『ガート...シオンハートよりルプスレフィア、再攻撃だ。 だが、無駄弾は撃たせるな。』

『分かったよ、シオンハート。 ファディーニ、マッケンジー、敵部隊前線にもう一度攻撃して!』

『ホーク1-1了解、ホーク各機、FCSに注意し各々攻撃を開始せよ。』

『ボンバー4-1了解、全機、配分通りに再砲撃だ!』


ホークアイのスナイパーライフル、スコルピオンの各種砲弾

それらがESF地上部隊を再び襲う


『RTB1よりガートル... 敵部隊はまだ動いてる。 少しの被弾じゃ物ともしていない。』

『...想定外だな、思ったよりも敵車両は装甲が硬い。 無い物ねだりはしたくないが、事前にもう少し情報があればな...』


シオンハートの言うことはもっともだが、CAUはこの戦乱が起こるまで諜報活動というものは最低限でしか行っていなかったのだ

争いが起きるなどとは思わずにいた、それが仇となったのだ


あくまで大きな弾丸でしかないホークアイの55mmスナイパーライフルAPは直撃させる以外ないにしろ、榴弾を用いているスコルピオンⅡの150mm機対艦無誘導砲も直撃でしか有効打になり得ない状況に、CAU軍地上部隊は僅かに焦っていた

今はまだESF車両部隊の砲撃のみだったが...

そう恐れていた彼らに、ついにその恐れが牙を剥く




『...了解だ。 次、エピター2-4、状況を。』

『あー... まだ大丈夫だ、エジタイト残量も十分だ。』

『了解した。 次、エピター2-5、状況を。』


エピター2の指揮官、エピター2-1は常に部下の状況に気を配っていた

最も過酷になる最前線において、僅かな不調が命取りになるということはよく分かっていたからだ


『エピター2-1、こっちは問題ない。 至近弾はあるが直撃しちゃいない。 ま、直撃してもコイツはビクともしないけどな。』

『油断はするな、エピター2-5。 次、エピター2-6、状況を。』


通常、バトルワーカー分隊は1分隊6機構成だ

一般に1分隊は8人で構成され、内6人がパイロット、内1人が専属整備兵、もう1人が分隊通信兵となる

エピター2-1は2-2から順番に通信をし、最後の2-6へと通信を行おうとした


『エピター2-6、自分も問題ありま──』


分隊内で1番若い、若かった彼はそれ以上言うことができなかった


エピター2-6の機体─ヘビーシールドを構えた重装バトルワーカーのエピアルテース─が手にしたシールドごと後方へ吹き飛ぶ


『2-6が被弾した! 2-6、大丈夫か!? 2-6、ブルース、応答しろ!』


エピター2-1が通信越しに叫ぶ

しかし返事はない


『エピター2-4よりエピター2-1... ダメだ、やられてる。』


エピター2-4が機体のサブカメラの映像をエピター2-1に中継する

そこにはシールドと...コックピットがあるべき部分に穴が空き、四肢を投げ出すかのように仰向けに倒れるエピアルテースの機体が映し出されていた

その光景にエピター2-1は戦闘中であることすら忘れたかのように絶句した


『2-1、隊長! アンタがしっかりしなくてどうする!』


エピター2-2の叫びにエピター2の指揮官、つまり、隊長は我を取り戻し、即座に今成すべきことを開始する


『...っ、エピター1-1、こちらエピター2-1、2-6がやられた! 一撃でシールドごと貫通されたようだ!』

『一撃で? まさか...待ってくれ。 エピター1-1よりガートル、先の情報は確かですか? ...はい...了解。 ガートル、報告です。 恐らくその重砲アドニスによる被害が発生しました。 エピター2-1、画像はあるか?』

『今送る。 ガートル宛にもか?』

『そうだ。 すぐに頼む。』


エピター2-1がエピター1-1とガートルの元にエピター2-4から送られた映像の切り抜きを送る


『確認した。 ガートル、どう... ...了解、警戒に当たります。 エピター2-1、今ガートルに確認したが、情報にあった敵重砲機の仕業とみて間違いない。 厄介だぞ... 対策のしようがない。』


彼らのいる今この位置は開けた場所だ

軌道エレベータの周辺地域はいくつかの事情から基本的に市街化されておらず、平地が広がっていた

この火星軌道エレベータブラボーも例外ではなく、周辺は基地の続きの舗装部分とそれより外側の草原地帯しか存在していなかった

もちろん、もう少し防衛ラインを下げれば基地施設を盾にできるだろうが、敵が目前まで迫っている今 それをやるのは容易ではなかった


『...エピター1-1よりエピター各機、ガートルより追加の連絡だ。 防衛ラインを破棄し基地内部へ下がるように命令が出た。 多少無茶は伴うだろうが... やるしかないぞ。』

『エピター2-1了解、お前ら、聞いたな!』

『エピター3-1も了解した。 基地内なら構造物を盾にできる。 どうにかやるしかない。』


それからエピター4-1から7-1までが続く


『エピター1-1よりルプスレフィア大佐、ホーク1-1、ボンバー4-1へ。 これよりエピター各隊はガートルの指示により基地内部へ退却する。 敵前線及び長距離機への制圧攻撃を要請する。』

『おっけー、ルプスレフィア了解。 ファディーニ、敵長距離機に波状攻撃、プランWA-2。』


ルプスレフィアの相変わらずのコールサインの無さはさておき、その指示は的確だ

即座にファディーニ─ホーク1-1─が応じる


『了解した、ホーク各機、現時点の目標を破棄し敵長距離機へのプランWA-2を実行せよ。』

『えーっと...それから...マッケンジー、敵前線の部隊に集中火力投射。 座標はこっちでアップロードするから、そっちで割り振れる?』

『了解ルプスレフィア大佐! お安い御用です!』

『あ、うん、お願い。』


相も変わらずベリル・マッケンジーのウィルクス好きは炸裂する

その直属の指揮下であるルプスレフィアの指示もまた、彼にとっては福音の類なのだろう

普段は勢いで周囲を圧倒するルプスレフィアもこの時ばかりは受け身だ


『ボンバー4-1よりボンバー各機へ、これから指示する座標グリッドに制圧砲撃だ! 前線の撤退を支援する!』

『おっけおっけー、シオンハート?』


その指揮に満足したルプスレフィアがガートル──シオンハートに通信を戻す


『ネイヴィガーもタイミングを合わせて下がらせる。 いいか?』

『いつでもいいよ?』

『よし、攻撃開始に合わせて下がらせるぞ。 』

『おっけー! ファディーニ、マッケンジー、攻撃開始!』

『了解。』

『了解だ!』

『エピター各機及びネイヴィガー各機へ、こちらガートル。 味方の支援攻撃に乗じ撤退を開始せよ!』


シオンハートの号令にマルコシアス、エピター1-1をはじめとした指揮官達が応じる

シオンハートが続けて通信を行う


『ガートルよりドロップタワー、増援は?』

『こちらドロップタワー、物資満載のポッドと同時に小隊規模を送る手筈だ。 何か希望はあるか?』

『...そうだな... 嫌な予感がする。 対空装備を降ろせないか?』

『対空装備? 少数ならあるはずだ。 準備して載せさせる。』

『助かる、ドロップタワー。 そのまま続けてくれ。』


シオンハートがそこで通信を切り、ふと呟く


『...私も気にしていなさすぎたのだろうが... 我々は準備ができていなさすぎた。 ...平和すぎたんだ。 デイモスは... 今は考えても仕方ないな。』


彼女は誰に言うでもなく、ただ呟いた




戦況は常に移ろう

CAUは前線を下げ、基地内部での防戦へとシフトし、ESFも呼応する形で前線を押し上げる

ESFからすれば、今度は遮蔽物のない基地外縁部での戦闘であり、被害が拡大することは目に見えていた

しかし、豊富な地上戦力を持つ彼らは常に後詰を送り波状攻撃とも言える様相を呈していた

何より、彼らには目的があった


そう、時間稼ぎだ




STC23:11/MNPWT14:11



『シオンハート、状況は?』

『補給が間に合わない。 物があってもこの状態じゃ供給できない。 エピター1-1、状況を報告しろ!』

『ガートル、こちらエピター1-1。 各隊、エジタイト、弾薬共に減少しつつあります。 補給が間に合ってません。 エピター5-1、部隊を引かせろ! そこは的になる! あぁガートル、エピター5に支援が必要です! 』

『分かった。 ルプスレフィア、この座標にスコルピオンの支援攻撃を頼む!』

『いいよシオンハート! マッケンジー、座標を送るよ!』

『了解です大佐!』


果てしなき持久戦

CAUはよく耐えていた


『エピター1-1、追加で支援にライラ・ジーナを投入する。 フェオ5-1からフェオ8-1、ガートルだ。 指定座標でエピターの撤退を支援しろ。 ドロップタワー、増援は?』

『ネガティブ。 今動けるのは全て降ろした。 まだかかるがブロークンソードで損害を受けた部隊を工作艦で修復中だ。 それなら降ろせる。』

『どれくらいだ?』

『早くて次は30分程度だ。』

『...分かった。 何とかしよう。』


今あるものがとりあえずの全てだ

シオンハートは常に次の一手を模索していた


『ガートル、こちら工作班。 基地防衛システムがまもなく復旧する。 思ったよりもシステムの損害は小規模だった。 復旧次第そちらへ操作権を移す。』

『ようやくか! 待たせてくれたな。 引き続き頼むぞ、工作班。』

『了解ガートル。 後3分で終わらせる。』

『報告を待っているぞ。』


使えるものはなんでも使わなければいけない

この時代、旧式や粗悪品程度であればバトルワーカーを所有している反政府組織や犯罪組織はいる

だからこそ、軌道エレベータというESFの生命線の基部を守る基地には対バトルワーカー用兵器が備えられていた

それが今、CAUの味方になろうというわけだ



だが、状況はシオンハートの想定を超えてしまっていた



『...? ボンバー4-1よりガートル、ちょっといいか?』

『どうしたボンバー4-1? 指揮ならパニッシャーに...』

『これを見てくれ、ガートル。 妙なものが見える。』


ベリルがシオンハートにカメラ映像を中継する


『...赤いスモークだと? これは?』

『今さっき敵側から飛んできたんだ。 嫌な予感がして報告した。』

『あぁ、ありがとうボンバー4-1。 ...何の目的だ?』


映像にはCAUのエピター隊付近から炊かれている赤いスモークが映っている

シオンハートがその目的を考察しようとした時だ


『ドロップタワーよりガートル!! レーダーに敵戦闘機編隊を捉えた! 到達まで2分の距離、西からだ! クソ、どうして今まで映らなかった!?』


ドロップタワーからの緊急通信がその答えを物語っていた


『何だって? アロー1-1、2-1、対空戦闘用意! 敵戦闘機が迫っている! レーダー情報をそちらへアップロードする! 全ユニットへ、こちらガートル! 敵戦闘機編隊が接近中! 上空からの攻撃に備えろ!』


ライラ・ジーナの対空能力を強化した試作モジュールを搭載した機体で構成されたアロー隊が背負う対空砲を西の空へと向ける

太陽は傾き始めているが、まだ逆光になるような時間でもない


『...ガートル、悪い報告がある。 コードネーム、スプーキーと呼ばれるESFの大型ガンシップを長距離レーダーに捉えた。 全長40m程度の超大型機だ... 情報部のデータによると武装は205mm榴弾砲、140mm機関砲、125mm5砲身速射砲だ。』

『ドロップタワー、対空装備の残りは?』

『...ネガティブ。 ガートル...』

『...何とかする。 必ず皆を生きて帰らせる。 ドロップタワー、スプーキーの到着予定時刻は?』

『速度はかなり遅い。 STC24:00以降だ。』

『1時間はあるか。 ...分かった、何かあれば教えてくれ、ドロップタワー。』

『...あぁ。』


シオンハートはこの場に信頼出来る誰かがいればつい漏らしていたかもしれない

『自分だけならいくらでもできるが、全員を全員、守れるわけが無い』、と


『シオンハート、見えたよ...』

『...来たか。 ルプスレフィア、もし危険だと思えばすぐに部隊を隠れさせてくれ。 基地上部は目立つ。』

『...分かったよ。』


ルプスレフィアはそれの意味するところを正確に捉えていた

支援攻撃を行っている彼らが引けば前線の負担は跳ね上がる

それでも、失うわけにはいかないと、シオンハートは言外に告げていた


『全ユニット! 攻撃に備えろ! 敵戦闘機が来る!』


そう叫んだシオンハートの目は、既に目視できる距離にいるESFの主力制宙攻撃機─メッサーシュミット─を捉えていた


『ミサイル接近! 衝撃に───』

『エピター7-2が被弾! 大丈夫か!?』

『フェオ1-1だ、医療班を回してくれ、損害多数、救援をくれ。』

『ネイヴィガー1よりネイヴィガー2、ネイヴィガー6が被弾した、何でもいい、下がらせろ。』

『マッケンジー! ファディーニ! 無事!?』

『アロー1-1よりガートル、敵戦闘機を2機撃墜した。 だが2-5が被弾、行動不能だ。』

『ガートルから全ユニット! 敵戦闘機が再度接近... っ!? あれは...』


メッサーシュミットの一斉攻撃によりCAUは痛手を負った

その隙にメッサーシュミット、そしてバトルワーカーが攻めいろうとしていた

アロー隊が反撃するも、数が足りていない

元々制宙機であるメッサーシュミットは装甲板も厚く、簡単に撃墜できる相手ではなかった

再びの攻撃にCAUが備えようとした時、シオンハートは、彼らは、信じられないものを見る

それは、まるで物理法則を無視しようとしているかのような───


『聞いてないぞこんなの! まぁいい、そろそろいい所准将に見せないとな、ディケ!』


空を舞い、メッサーシュミットに肉薄する黒い機体だった


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