38: EP3-14 ブロークンフォートレス作戦
何が起きるかは私にも分からない。
クロノス...一体どうなる?
コロニー協定連合体 "CAU"
ライトニングストライク作戦─ブロークンフォートレス作戦
1日目
西暦3020年3月18日[STC]
協定宇宙時21:46、火星新太平洋西時間12:46
火星地表、軌道エレベータ基地ブラボー
計画に狂いは生じたが、『ブロークンフォートレス作戦』は幕を開ける
──Side: 三人称視点
火星、軌道エレベータ基地ブラボーは火星|新太平洋《New Pacific》に面したエリシウム地方にある
エリシウム地方は別名、エリシウム平野とも呼ばれており、西方数百キロに渡り平野部が続く、火星赤道直下の熱帯から少し経度の上がった温帯気候にかけての地域である
軌道エレベータ基地ブラボーは東に5キロほど行くと新太平洋に行き着くほどの海沿いに面し、平時においては新太平洋西部のリゾート地への玄関口でもあった
しかしながら、今現在はCAU降下部隊により占拠され、物々しい雰囲気であった
その軌道エレベータ基地ブラボー西部の平野へ次々と降下ポッドが落着する
CAU軍降下部隊、その本隊であった
『アルティアよりRTSベータ、ウィルクスへ。 地表への降下に成功。』
『了解した。 状況はどうだ?』
『天候快晴、風量は微量。 作戦に影響なし。』
『了解。 予定通りガートル...シオンハートの指揮下に入ってくれ。 それから、先行してセイバードロップタワー経由でシオンハートから伝言がある。 先行部隊の狙撃チームの指揮を要請されているがどうだ?』
『ルプスレフィア了解。 シオンハートから指揮を引き継ぐ。』
『頼んだぞ。 追って連絡があれば伝える。 しっかりな、ルイナ。』
『うん!』
降下ポッドから真っ先に降り出たのはルプスレフィアの乗機、アルティアだ
重力下においてはグラップリングフックを用いた機動は到底望めないが、駆逐艦すらをも貫く『120mm機対艦レールガン』を改良した『125mm機対艦レールガン/HE』の威力は地上目標にとっては一撃必殺の脅威なことに変わりはないだろう
『エンスウェン、聞こえてるな?』
『通信状態は良好、問題なしだ。』
『了解。 ネイヴィガーは火星地表へ到達した。 これより本隊へ合流する。』
『...そうだな、リグ、そちらではシオンハートの指揮に入ってくれ。』
『シオンハート嬢の?』
『そうだ。 こちらから地上の状況を即座に掴むのは難しい。 よって、地上のセイバー部隊はシオンハートに指揮してもらう。 艦隊司令部も承認済みだ。』
『了解した。 ネイヴィガーと第3大隊をシオンハート嬢に預けるとしよう。』
『そうしてくれ。 ...シオンハートには無理を頼むようだな。』
『そうでもないだろう? 知っているはずだ、エンスウェン?』
『そうだな。 では、何かあれば連絡してくれ。 エンスウェン、アウト。』
『...ふむ。』
少し離れたポッドからはマルコシアスの乗機、カンペアドールを先頭にネイヴィガー隊が続けて降りる
カンペアドールのリニアスラスターは無重力環境でこそ真価を発揮するとはいえ、その推力は重力下でも決して無駄ではないだろう
『よーしお前ら! 俺達の任務は遠距離からの牽制だ! 弾道プリセットを重力下方式へ変更! デプロイモードもだ!』
『了解、ベリル中隊長。 俺らの上級指揮官は誰なんです?』
『お、よく聞いてくれた! 聞いて驚くなよ?』
『やけにもったいぶるなベリル?』
『そりゃそうだ、何を隠そう... セイバーの砲撃姫、ルプスレフィア大佐だ!』
『あー... また始まったよ中隊長の悪い癖。』
『おい聞こえてるぞ!』
『ベリルのセイバー...というかセイバー第2艦隊好きは筋金入りだからな。』
『ウィルクス中将のファンの間違いだろ?』
『お前ら後で覚えておけよ...』
『だっはっは! まぁいいだろ、ベリル。 マジメな話、ルプスレフィア大佐の指揮下なら間違いはないな。』
『だろ? さーすが分かってくれるじゃないか。』
CAU正規軍、海王星第1艦隊、NPC002駐留砲撃中隊『スコルピオンプライム』もこのライトニングストライク作戦へ派遣参戦していた
中隊を率いる少佐である『ベリル・マッケンジー』以下、喧しい仲間達が乗機たる『UF2869BTS-E スコルピオンⅡ』を駆りポッドからぞろぞろと歩み出る
それぞれ、背部に『150mm機対艦無誘導砲』の増加弾倉を備え、長期戦の構えは万全だった
降下部隊はそれぞれが所属する部隊ごと、あるいは指示された特任通りに集い、次第に西の方角に向き揃う
軌道エレベータ基地ブラボーの上部構造にはルプスレフィアのアルティアを初めとした各種砲撃機、更にネイヴィガーのジャレットのライラ・ジーナを含む狙撃機が並び、遠距離攻撃の備えを見せる
対して基地外縁から更に外側には重武装の第2世代型バトルワーカー『UF943HDE エピアルテース』が列をなして機体の全高である9mとほぼ同サイズのヘビーシールドを構え、敵の到来を今か今かと待っていた
─MNPWT 12:55
『ルプスレフィア、マルコシアス、いいか?』
シオンハートが通信で2人を呼び出す
『なに? シオンハート?』
『何かあったか? シオンハート嬢。』
『いや... クロノスについてだが...』
シオンハートが彼女にとって唯一とも言える懸念事項を告げようとする
『ふむ。 もし出てくればシオンハート嬢が交戦する、という話か?』
『そうだ、察されてしまったな。 作戦前の評価報告書...クロノス・レポートはもう見ただろうが...』
『第1艦隊の部隊でもコテンパンだった、でしょ?』
1ヶ月半ほど前、海王星宙域でシオンハート、マルコシアスがクロノス機と交戦した際のデータを元にCAU正規軍、セイバー連隊それぞれの上級指揮官にブロークンフォートレス作戦の直前に配布されたのがクロノス・レポートだ
先のブロークンソード作戦でシオンハートが再び交戦し、その際に敵パイロットがクロノスと名乗ったため、この名称がつけられることとなった
『資料映像も見たが... あれは別格だったな。 俺でもアレには敵わないだろう。』
『生半可...いや、人間の領域で対抗出来る相手じゃあない。』
『...まるで自分が人間じゃないみたいな言い方だね、シオンハート? ま、今更か。』
『...』
ルプスレフィアの何気なさげな問いにシオンハートは何も答えず、押し黙る
その無言が意味するのは...
『奴は...クロノスは、自分を天使だと言っていた。』
『天使だと?』
『天使って... 子供の御伽噺じゃないんだよ? シオンハート?』
『...見てくれ。』
シオンハートが通信のセキュリティを通常の個別通信のそれから更に引き上げた上で1つの画像を送る
『...映像加工の類いではないのか、シオンハート嬢?』
『私もそう思うけどなぁ...』
『だが、レポートは見ただろう?』
確かに頭の上の黒いリング、それにそれと同じような色の翼だけではそうだと言われても仕方ないだろう
しかし、ルプスレフィアもマルコシアスもレポートに目を通しているからこそシオンハートのその返しには反論しづらく、マルコシアスが答える
『あぁ。 熱したナイフでバターを切るかの如く、とは聞いているし、映像も見た。 通常のバトルワーカーにできることではない。』
『シオンハートはさておき...マルコシアスでも?』
『そうだ、ルプスレフィア嬢。 たった一撃で装甲の塊たるバトルワーカーを両断するなどそうは有り得ない。 いや、確かに俺のカンペアドールなら条件が整えばできるかもしれないが... それでも、真っ二つとは行かないだろう。』
先のブロークンソードにおいても、確かにマルコシアスは敵機─バート機─のコックピットを斬り裂いて見せた
しかし、クロノスがNPC002でCAU正規軍、セイバー連隊と交戦した時のように、言うなれば輪切りにするような芸当ができるとはマルコシアスも思っていなかった
『ふぅん... ま、実際私のアルティアじゃ無理だね。 機動性に差がありすぎる。』
『重装フルアーマーなら行けるんじゃないか?』
『あー...うん。 あれは... お金かかりすぎるからダメって。 あでもね、艦隊長は一応まだ改良するってさ。』
『...シオンハート嬢、一体、ウィルクス艦隊長は何を目指しているんだろうな。』
『私に聞いてもどうしようもないぞ、マルコシアス...?』
言葉通りに呆れるシオンハート
それもそうだと肩をすくめるマルコシアス
ひとまず今は何も考えていないようなルプスレフィア
反応は三者三様だった
『ガートル! 偵察隊D4が敵戦闘車両を捉えました!』
『っ... 分かった。 セイバーGATLより全セイバーユニット、及び全RAの指揮官へ! 敵部隊が視認可能な距離に入る! ルプスレフィア指揮下の支援チームは砲撃、狙撃戦準備! 次にエピター1からエピター7、諸君らが防衛の要だ、何としても持ち場を死守しろ! S3Fのネイヴィガーを遊撃援護に当たらせる! 残りは現時点での持ち場に付き、アリ1匹通すな!』
偵察隊の連絡にシオンハートが矢継ぎ早に指示を飛ばす
『エピター指揮官了解、エピター各機、この身に変えても持ち場を守れ!』
真っ先に応じたのは最前衛たるエピアルテース隊の指揮官、エピター1-1だ
『ルプスレフィア了解、ホーク1-1からホーク4-6は私の指示通りに、ボンバー1-1から3-6はボンバー4-1の指揮に入って!』
『ホーク指揮官了解、ボンバー4-1は...』
『俺だ! ウィルクス中将! ルプスレフィア大佐! 見てますか!』
『...ボンバー4-1、変な気を起こしたら粉砕するよ。』
『りょ、了解!』
『はぁ...』
続けてルプスレフィア、そしてホーク1-1、ボンバー4-1ことベリルの騒がしい通信が聞こえてくる
『...あー、その... ネイヴィガー了解。 エピター、それにホーク、ボンバー諸君、敵は我々が引きつける。 我々の心配はせず、敵を攻撃してくれ。 ジャレット、そちらは頼むぞ。』
『了解リグ隊長! ルプスレフィア大隊長、指揮を頼みますぜ!』
『...なんでこういうのしかいないの...?』
『『こういうの!?』』
『...辛辣だな...ルプスレフィア嬢...』
ベリルとジャレットの声が重なった
それを聞くマルコシアスは呆れ顔だ
『...あぁそうだ。 ローランド。』
シオンハートが個人通信を開く
『何でしょうか、准将?』
『知っているかもしれないが、もし白い機体を見かけても絶対に手を出すな。 すぐに私を呼べ。』
『了解、准将。 白い機体ですね。』
『それでいい。 ...アレはお前には勝てるわけが無い。』
『准将? 今何か仰いましたか?』
『いいや? 確実に頼むぞ、ローランド。』
『了解!』
シオンハートの呟きは幸いにして、ローランドが聞き取ることはなかった
通信の先でローランドがディケに話しかけるのを見ながらシオンハートは通信を閉じる
『さて...』
シオンハートがマリエルを動かし、背部腰に装備されていた『29mmサブマシンガン』を手に持ち、ハンドルを引き装弾する
『全ユニットへ! 私の指示で攻撃開始だ!』
シオンハートが全機への通信を送った




