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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP3『オペレーションライトニングストライク』

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33/129

33: EP3-9 ブロークンソード─忠義の決意

誰が何と言おうと、その決意は覆らない

それがかつての仲であろうとも

コロニー協定連合体 "CAU"

ライトニングストライク作戦 ─ ブロークンソード作戦

1日目

西暦3020年3月18日、協定宇宙時(STC)18:59

火星(マーズ)近傍宙域、CAU-ESF艦隊交戦宙域

最前線、ネイヴィガー隊



──Side: マルコシアス


敵が急に引いていく...

不利を悟っての撤退か...あるいは...ん?

オルグから通信か。


『リグ、ネイヴィガーの任務を更新する。 現在撤退中の敵バトルワーカー隊だが、そのうち1分隊がこちらへ突出してきている。 これをネイヴィガーを率い、迎撃するんだ。 中距離レーダースキャンをそっちへをアップリンクする。』

「了解した。 ...だが、どういうことだ?」

『...マルコシアス、何があっても目標を見誤るな。』


オルグは普段...俺の事をマルコシアスとは言わない。

どういう...いや、そういうことか。

送られてきた画像を見たら一目で理解出来た。

...大丈夫だ、オルグ。

俺は今まで、1度たりとも目標を違えたことはない。


「確認した。 すぐに対処しよう。 リグ、アウト。」

『必ず勝て、リグ。 エンスウェン、アウト。』


仕事に取り掛かろう。

まずはいつも通りに...隊を、ネイヴィガーを率いることだ。


「各員、聞け。」

『何かあったか? 大隊長。』


ブレンダンがすぐに応じた。


「敵機は撤退を開始した。 しかし、敵のエリート部隊がこちらへ向かっている。 対処できるのは我々だけだ。 即座にこれに応答し、迎撃する。 いいな?」

『了解、リグ隊長。 俺は一歩後ろから行く。 いくらエリート連中だろうと狙撃を気にしちゃ動けないだろ?』

「頼もしい限りだ、ジャレット。 許可する。」

『エリート... マルコシアス隊長、何か情報はあるのかい?』

「いや...特にはないな。 だが、このような状況で突出してくる敵だ。 決して柔ではないだろう。」

『それもそうか。 自分としては何が拾えるか楽しみ... いやなんでもない。』


ジャレット、セルジオは確かに片やお気楽がすぎるし、片や何でもかんでもサルベージしようとする。

だが、その腕は並み居るセイバーパイロットの中では最上位のそれだ。

それに、ジーナも確かにかつてのじゃじゃ馬のような行動は落ち着いたとはいえ、未だその勇猛さは衰えていない。

...ロビンは...うむ。


『大隊長、少しいいだろうか?』

『...どうした? 副長。』


ブレンダンから個別通信だ。


『エリート部隊というのはどこからの情報なんだ?』

「...エンスウェン艦隊長からだ。 実際この敵機が一斉に撤退している状況下で、たった1分隊で突撃してくるのが柔な連中だとは思わないだろう?」

『...そうか。 分かった。』


...嘘も方便、だな。

さて、手早く動くとしよう。

奴らは待ってはくれない。


「各員、武装、システムチェック!」

『クランツ異常なし。』

『マスキングクロークフルチャージ、ワッドジェットの装填も済ませてあるぜ、リグ隊長。』

『トラックバインドアンカー準備完了。 ...セルジオさん、これ本当に使えるんですよね?』

『もちろんだよロビン試験官。 このセルジオ・マーレイを信じられないのかい?』

『いや...そういうわけではないんですが。』

『まぁまぁ試してみなって。 テストは良好だからさ。 っと、こっちもシステム異常なしだ、マルコシアス隊長。』

『誘導システムスタンバイ。 大隊長、いつでもそいつらを粉々にしてやれるぞ。』


うむ...

いつもの事だが、頼もしい部隊だ。

それぞれが最も優秀な...

おっと、思いに耽けるのは程々としよう。


「では各員、遅れずに着いてこい!」






──Side: 三人称視点


『隊長、進路上に敵が割り込んできそうだ。』

『無視しろ。 我々の目的は敵旗艦のみだ。 迅速に叩き、離脱する。』

『了解した。』


ネイヴィガー隊が狙っているESFのバトルワーカー隊

デヴィル隊と呼ばれる彼らの目的はただ1つ

CAU正規軍艦隊、その旗艦の1つであった

指揮系統を一時的に麻痺させ、そのうちに再編した友軍が攻撃を行う手筈だ


『隊長、アラート! ロケットランチャーだ!』

『回避しろ。 邪魔されるわけには... む?』


デヴィル隊長機が何かを感じ取り咄嗟の回避機動を取るやいなや、直前までいた場所を何かが通り抜けていく


『狙撃だな? 警戒しろ、スナイパーがいる。にしても手厚い歓迎だ。』

『了解だ、隊長。』

『またロックオンされてる。 回避する。』

『だああ! クソ、被弾した! スナイパーだ! なんて腕だ、こっちに当ててくるなんて!』

『...マズイな。 足止めが目的か?』


デヴィル隊長が勘づいたその目的は半分が正解だった


『ネイヴィガー各員、ウェポンズフリー!』


デヴィル隊の進路上にネイヴィガー隊が躍り出る


『...やはりか。 デイモスよ。』


マルコシアスが誰にも通信を繋がず、1人呟く


『...終わらせるぞ、裏切り者共。 忠義に反する報いを受け取れ。』


その言葉の意味するものは──



戦端はいきなり開かれた

挨拶がわりと言わんばかりにマルコシアス機がデヴィル隊長機にライフルを乱射しながら一気に詰め寄り即座に持ち替えたソードで切りかかる

デヴィル隊長機が応じ、マルコシアスのブロードソードとデヴィル隊長機の細身のソードでの鍔迫り合いが起きる


『っ... やるな。』

『なるほど... 貴様がそちらの頭というわけか?』

『貴様ら如きに答えてやる義理はないな、デイモス!』


近接通信によってマルコシアスとデヴィル隊長が舌戦をも始める

1度互いが弾かれるように離れ、更に舌戦を続ける


『ほう...? 我々を知っているか。 ジャッジメントの使いか?』

『言っただろう、答える義理などない。』

『ふん... ならいい。』


周囲では既に双方のバトルワーカーが入り乱れての戦闘となっていた


ブレンダン、ジーナが敵を引き付け、セルジオ、ロビンが横槍を入れる

更にジャレットが適宜動きの止まった敵を狙撃し着実にダメージを与える

ジャレットの持つ『"ワッドジェット" 60mm破甲スナイパーライフル』の攻撃は被弾した敵機に十分すぎる損害を与えていく


一方、隊長機同士の戦いも激しさを増していた


マルコシアスの『カンペアドール』は彼以外の誰にも絶対に乗りこなせないと評判だ

一般的には指数的に加速する出力曲線のスラスターが主流だが、『カンペアドール』のスラスターは特別にリニア型...つまり、出力曲線が直線であり、踏み込めば踏み込んだ分だけ加速するようの設計されている

そのリニア型スラスターの加速の乗った剣撃は1発1発が致命打になりうるものであるが、デヴィル隊長機もそれによく応じいなしていた

それでも、マルコシアスが若干ながら優位に事を進めていた


『...この声、この動き...もしや...』


マルコシアスが敵に聞こえないように呟く


『むぅん... 速いな。 これは如何ともし難い...』


デヴィル隊長機からの呟きが漏れ聞こえてくる


再び双方が鍔迫り合いとなる


『...貴様...バートか?』

『...待て。 何故知っている?』

『この声を忘れたと?』

『...まさか... お前は。』


マルコシアスが押し切る形で鍔迫り合いが解かれる

バートと呼ばれたデヴィル隊長機が距離を取り、構えを取る


『まさか、こんな所で会うとはな... バートよ。』

『あぁ... やはりお前か。 マルコシアス...』


近接通信で2人以外には聞こえていないからいいものの、聞こえていたら問い詰められるような会話が始まる


『マルコシアス... 組織の裏切り者。』

『どの口が言うか。 忠義を忘れ、反旗を翻すことそのものが裏切りだろう?』

『ならば、我々デイモスへの...否、ルミエールへの忠義はどうした?』

『そんなもの、あの日に捨てた。 私情に囚われ、過激な手段に訴える者に尽くす忠義などあるものか。』

『分かっているのか、マルコシアス。 奴は...スノーは、身勝手な理由で我々を、ルミエールを傷つけた!』

『そんなことは百も承知だ。 だが、先に禁則を破ったのはルミエール...そして俺達だ。』

『話にならないな、マルコシアス。』

『こちらの台詞だな、バート。』

『『ならば。』』

『ここで決着をつけるまでだ、マルコシアス!』


バート機が構えを更に変え、突貫する

その姿勢はさながら、刀による居合の構えだ

事実、バート機のソードは腰部分に取り付けられた鞘と思わしきパーツに仕舞われた状態で構えられていた


マルコシアスがそれを冷静に見つめる


『...どうして、俺達はこういう手段にばかり訴えるのだろうな、ルミエールよ。 あるいは...』


マルコシアス機がバート機の動きに合わせ突如として加速し、手にしたブロードソードを振り上げる

研ぎ澄まされたその一閃は確実にバート機のコックピットを切り裂いていた


『それすらもが、仕組まれたものなのだろうか? スノー閣下。』


マルコシアス機がバート機から離れる

そして、マルコシアス機が振り返ることは無かった




そして...



『やはり一筋縄とはいかないか。』

『副長、それでも最後に勝つのは私らだ。ただ...誘導ランチャーはてんで当たらないな。』


ネイヴィガー、そしてデヴィルのそれぞれの隊員は激しい交戦の応酬となっていた


『ロビン、アレを試してみないか?』

『あー... そうですね、ジャレットさん。 セルジオさん、TBAを起動します。』

『了解だよ試験官。 データを取ってみよう。』


ロビン機が手にしていたサブマシンガンを腰部にしまい、代わりに背負っていた小さなハンドガン型のガジェットを取り出す


『あのデブリなら...使えそうですね。 セルジオさん、ジャレットさん、しっかりお願いしますよ。』

『任せてくれ、ロビン。』

『いつでもいいよ、試験官。』


ロビン機がデヴィル隊側の付近にあるバトルワーカーの残骸らしきデブリにガジェットを向け、小型のダーツのようなものを打ち出す


『着弾確認... トラックバインドを起動!』


直後、デブリに刺さったダーツが紫色に発光する


セルジオが作り、ロビン機に搭載された『トラックバインドアンカー』と呼ばれるもの

それは正しく機能を発揮した


ダーツの近くを通りかかったデヴィル隊の一機が突如としてダーツの方へ向きを変え、動きを止める


『ジャレットさん!』

『これなら目ぇ瞑ってても当たるな!』


動きの止まったその敵へとジャレット機のワッドジェットから放たれた弾丸が吸い込まれる

背部にあった熱核融合炉に正確に着弾し、瞬間的に溢れた熱量でデヴィル隊機は誘爆し残骸と成り果てた


トラックバインドアンカーは、付近を通りかかった敵機のカメラ、そして姿勢制御システムを一時的にクラッキングし、アンカーの方向へと機体、カメラ方向を固定する試験的かつ実験的な兵器だ


『こりゃあいいなロビン、セルジオ。』

『そうだろうそうだろうジャレット。』

『...セルジオさんにしては珍しく普通にマトモなものでしたね...』

『どういうことだいロビン!?』

『いや...』


セルジオ、ジャレット、ロビンのこの掛け合いも彼らからすれば慣れたものだ

そこへ彼らにとってまた見慣れた機体が近づく


『お喋りは程々にしておけ。』

『おやマルコシアス隊長、そっちは終わったのかい?』

『あぁ、大したことない相手だった。 こっちはどうだ?』

『さっき俺がロビンと一緒に一機殺ったが... 他はどうなった?』


ジャレット機が周囲を見渡す

そこへ更に2機近づく機影があった


『大隊長、こちらで引き付けていた敵機が撤退を開始した。 こちらの追撃に警戒はしているようだが、そのまま敵艦隊方向へと向かっている。』


接近しながらブレンダンが通信を送る


『了解だ副長。 RTSガンマ、オルグ、こちらリグ。 敵バトルワーカー隊が撤退した。 状況は?』


マルコシアスがエンスウェンへ通信を送る


『こちらでも確認した。 敵部隊は中距離レーダーの範囲外へ離脱した。 長距離レーダースキャンではまだ敵主力バトルワーカー隊は動き出していない。 この隙に我々は前線を一気に押し上げ戦況を切り開くつもりだ。 ネイヴィガーは一旦帰還してくれ。 補給と補修を行い決戦に備えてくれ、リグ。』

『了解した。 ネイヴィガー各員、我々はエンスウェン艦隊長の要請に従い一旦帰還する。 そろそろ決戦が見えてきたようだ。』

『了解だ、大隊長。』

『確かに補給は必要ですね。』

『こっちもさっそくデータを整理したいしちょうどいいね。』


ネイヴィガー隊は反転し帰還を開始する

デヴィル隊が時間を稼ぎ、バトルワーカー隊を再編するという敵の目論見は崩れ去った

未だESFバトルワーカー隊は再編中であり、CAUの総攻撃に耐えうる準備は出来ていない


しかして、CAU艦隊もこれ以上の損耗は作戦の成否に関わる

1度リセットされた戦況は続けて決戦へと移る

次のCAUの攻撃がこの『ブロークンソード作戦』における最終攻勢となるだろう






───FFRよりHQへ、現地より戦況報告


交戦開始より約3時間経過

依然として艦隊損耗率に大きな変動なし


しかしながら、デイモスのバトルワーカー隊をマルコシアス麾下ネイヴィガー隊が撃退

戦力パワーバランスが大きく変動、CAU艦隊が前線へ移動を開始

陣形は拡散逆扇、攻勢と判断

艦隊後方の予備選力も半数程度が前進、恐らく最終攻勢の類と推測

以降報告を継続する


───FFR、通信終了

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