114: EP6-20 オペレーションシージアース
──レイナ? 何か用が...
...分かった。
分析してみよう、影響を...
...少しでも特定しなければ。
「予定にない? まぁ、そんなこともあるさ。 そうだろう、結局、何もかもが予定通りに進むわけなんてないのは言うまでもない。 」
「...まぁ、なんていうかな。 予定通りに進まないからこそ楽しいんじゃないかな。 何もかも予定通りに進めたいんなら、私は今頃こんなやり口はやってないよ。」
「私だけじゃないさ。 他の3人もそこは同じ。 ルル、今度会ってみたらどうだい? 紹介はするよ。」
オペレーションシージアース
1日目
西暦3020年12月5日[STC]
協定宇宙時22:35
地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、CAU旗艦『アマテラス』
──Side: 三人称視点
「地球降下作戦か。 まぁ、それは予定通りなんだが。」
「結局短期決戦を狙うようだな、攻撃目標はD.C.だ。 間違っても首都であるわけだから、当然防備は相当に固い。 直接降下は望めないだろうな。」
「当たり前だ、エンスウェン。 そんなの自分から穴だらけにされにいくようなものだぞ。」
勢い任せ、と言ってしまえばそれまでだろうか
そんなことをシオンハートは考える
旗艦アマテラスの作戦室において、シオンハート、ウィルクス、エンスウェンは半ば雑談の流れで先の作戦会議を振り返る
本来ならこの場にはシオンハートでなくカエデが参加するところではあるのだが、そのカエデが無事とはいえ負傷していることもあり、代理としてシオンハートが参加していた
もっとも、特務と付くにしろシオンハートの階級は一応准将であり、不相応というわけでもないのもまた実情だ
「...と、言ってみたはいいんだが。 よくよく考えてみると、代わりの計画も正直大差ない気がするんだが。」
シオンハートの言う代わりの計画
それは、ESF首都、ワシントンD.C.の西に降下するというものだった
「アーリントン地区への降下、ESF行政府ホワイトハウスまで5キロの位置。 ...大差ないと言えば確かにそうだ。 穴だらけにされにいくというよりは、穴だらけの計画とでも言ったほうがいいかもしれんな。」
「逆かもしれないぞ、エンスウェン?」
「逆?」
ウィルクスの妙な返しにエンスウェンが怪訝な顔をする
「そう、逆だ。 いっそ大きな穴が開いていればそれは穴だらけではないのかもしれない。」
「...なるほどな、そういうことか。」
ウィルクスが言い放った妙な理論にどういうわけかシオンハートが合点がいったと言わんばかりに答える
「つまるところ、まさに大穴、というわけだ。 エンスウェン、常識的に考えれば、防備を固めている首都近郊への降下など、そう考えられるものではない。 ...だからこそ、意表を突く形になるわけだ。」
「...ま、まぁ、そういうことだと考えておこう... そう上手くいくとは思えんがな...」
無理筋な理論もいいところ、という話だろう
そしてエンスウェンが話題を変えようとする
「それはともかくだ。 アーリントン地区にも少数ではあるが対空兵装の展開は確認されている。 だが、首都の目前だと言うのに数はかなり少ない。 ESFに余裕がないのは繰り返しだが言うようなことでもない。」
「多少の被害を考慮した上での強引な降下か... どちらにせよD.C.地区の対空兵装の射程内には違いないからな。 正直運任せとかそういう類...」
シオンハートは考える
どちらも余裕がないからと、焦り過ぎではないだろうか?
「...何より、だ。 よりにもよって... というよりかは、だからこそ、なのだろうが、アーリントン地区とD.C.地区の間には比較的大型の河川がある。 ポトマック川だったか。」
ウィルクスが言う通り、降下目標となる地区と、本当の目的地の間には決して小さいとは言えない河川が存在している
だが、それであるが故に、アーリントン地区の防備は首都目前でありながら比較的薄くなっている、という事情があるようだ
そしてシオンハートがそれに答える
「ああ。 作戦の第1段階はアーリントン地区の制圧、及び防衛線の構築だが、続く第2段階は渡河作戦になる。 アーリントン地区から北部に迂回すればポトマック川の川幅は大きく減少するが、そちらは防備が固くなっていると想定すべき...」
シオンハートが一度言葉を切る
「それが故に、正面突破する。 第2段階の目標はアーリントン地区とD.C.中央地区を繋ぐ橋、ルーズベルト橋... そしてそれがかかるルーズベルト島の制圧。」
「ルーズベルト。 黄金時代以前の国家元首の名前だったか?」
ウィルクスがシオンハートに問う
「そうだな。 合衆国、という国家の偉大な国家元首だった、というぐらいしか分かっていないが...」
太陽系大戦以前の情報はほとんど残っていない
地名など、断片的に語り継がれてきたものは多数あれど、その由来までもがはっきりしているものはほとんど残っていない
「何にしろ、この島と橋の組み合わせ。 ここがポトマック川を渡河する上での貴重なチャンスだ。 仮設橋などをかけている暇はあるはずもないし、させてくれるわけもないだろう。 ...ESFはここに残る全てを賭けるだろうからな。」
確信を持ってシオンハートは言う
もう彼らは一歩も引くことはできないのだ
「そして、この段階が成功すれば作戦は第3...あるいは最終段階か。 D.C.地区に戦力を投射し、市街地、及びESF行政府ホワイトハウスを制圧する。 ...上手くいけば、これで政治的に決着するはずだ。 それでも抵抗は予測されるが。」
「政治的決着... 果たして意味があるのかどうか、という疑問は尽きないな。」
「他に取れるような選択肢もあまり多くはないだろう、エンスウェン。」
「否定しないさ、シオンハート。」
予測されるESF戦力や、例え制圧できたとして全てが解決すると決まったわけでもない状況
それでも、もう一度これだけの作戦をやる余裕がない以上、突き進むしかないのだ
「...そういえばシオンハート、なんでESF行政府庁舎はホワイトハウスって呼ばれてるんだ?」
「それも合衆国とやらの行政府だかなんだかがそうだったからだそうだ。」
「なるほどな。 ...そういうのばかり、というところか。」
「CAUはそういうのは少ないしな、言いたいことは分かるさ。」
ウィルクスの疑問ももっともで、太陽系大戦よりずっと後に、暗黒時代と呼ばれる時代以降、建造され、修繕され、そうやって受け継がれてきたコロニー、ステーション群がCAUの根幹であり、伝統、伝承、そういったものとの縁は薄い
故に、遠い過去にルーツを持つ名称にはあまり馴染みはないのだ
「ああ、2人とも悪いが... 自分は先に船に戻る。 マルコシアスとも会議しておきたい。」
「...それもそうだな、私もカエデが抜けた穴を埋めないといけない。 久しぶりに艦隊長にでも復帰するかな?」
「...久しぶり?」
今度はウィルクスが怪訝な顔をする
「どういう意味だシオンハート...」
「あ、あー... いや、何だ、その... 言い間違いとでも思っておいてくれ。」
エンスウェンからの問いも続き、明らかに慌てた様子のシオンハートがあからさまにはぐらかす
「...そういうことなら深く追求はしないでおくが...」
「シオンハート、この3人しかいないとはいえ、言葉には一応気を付けておけ...」
「あぁ、気を付ける...」
呆れるそぶりを一切隠そうとしない2人に、さすがのシオンハートもそう言うしかないようだった
「アビサルハート。」
「誰かと思えばアネモネか。 わざわざ住処から出向いてくるということは...」
「そうだねぇ。 水晶が紡いだ。 」
奇妙なピンク髪の女性、アネモネがアビサルハートの下を訪れる
「教えてくれ。」
「見てもらったほうが早い。 ティニア・アネモネ・アビサルオラクルの名の下に命ずる。 水晶よ、予言を示せ。」
アネモネが──アビサルオラクルが手に持つ真球の水晶から、ビジョンが浮かび上がる
ビジョンが示すものは、黒き光輪だ
「光輪...」
アビサルハートにはそれに思い当たる節しかなかった
「その顔を見るに、どうやら心当たりがあるようだねぇ。」
「ああ、困ったことにな... やはり... アイツが鍵なのか。」
「ユーリプテルスは?」
「さすがにレルフェンまで呼ぶわけにはいかないな、ヤツの状態にどう影響するかあまり分からない。」
アビサルハートは思い悩む
「ふぅん。 まぁ、じゃあいつも通りアビサルハート、君が単独で対応する他ないわけだ。」
「そういうことになるな。 だが、まぁ、アイツを... 黒い光輪の堕天使を抑えておくことなら不可能じゃない。 既にやったことだ。 ...やったことなんだが。」
「...君がそう自信なさそうな顔するのを見るのはいつ以来だったか。 何が不安なんだい?」
「あの堕天使...クロノスはどういうわけか私の束縛を脱している。 アイツ自身も何が起きたのか分かっていないようだったが。」
「妙だねぇ。 君が本気を出した時のそういうのを抜けるのは簡単じゃない。 深淵との戦いでもそれが有効だったほどにね。 ...水晶でも何も見えない。」
アネモネが手にしたままの水晶を覗き込み、そう呟く
「...いや、待ってくれ... これは...」
「何か見えたのか?」
「...あり得ない。 これほどの超因果的作用は... 君の持つものと遜色ないか... 超えるほどだ。」
「超因果的作用?」
アネモネが言った言葉にアビサルハートが首を傾げる
「なんて言えばいいかな。 この見えるものは...結果ありき、とでも言おうか。 原因があって結果があるんじゃない。 結果があって原因があるんだ。」
「...ああ、そういうのはなんて言えばいいんだったか...」
アビサルハートが逡巡する
その様子を見てアネモネが口を開く
「うーん。 水晶に何か... これは...」
少し考え込むアネモネの顔をアビサルハートが覗き込む
「...概念が見える。」
「概念か。 一体なんだ?」
アネモネが水晶から顔を上げ、アビサルハートに目線を合わせる
そして、短く一言、言葉を紡ぐ
「結果論。」




