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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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113/129

113: EP6-19 想定し得ないこと

ん、ちょっと待ってくれブラック君。

今...行く。

オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)21:19

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、CAU統合艦隊



──Side: 三人称視点



「なんだって?」


バトルワーカーハンガーの中、シオンハートは自身の機体のコックピットに座ったまま、そう聞き返す


『繰り返すが... 間違いなく先遣隊が確認した。 ESFの地球の月における拠点...ルナ・ゲートウェイ・ステーションは既に放棄されている。 いくらかの物資が残されている様子はあるが、大半の装備などは搬出された形跡があり、また、人員は一切確認できなかった。』


通信越しのウィルクスはほんの数瞬前と同じことを繰り返す

背後の様子を見るに、ブリッヂではなく艦隊長室にいるようだ


詳細不明の艦隊という、ESFの最後の手段が消滅した後、艦隊決戦はその場にいた人間全ての予想通りに、CAU艦隊の優勢のまま決着した

残存したESF艦隊は地球軌道まで後退しており、既に月軌道はCAUが制圧している状態だったが、そこに思いもよらない報告が入ったのだ


"ESFは既に月を放棄した"と


「...さすがに想定外だったな。 ESF艦隊は確かに事実上機能を喪失したも同然だが、あの地表ステーションは厄介だ。 いや、厄介なはずだった。」

『そうだな。 同じく先遣隊が確認したが戦前の情報、及び遠隔測定の結果が示していた通り、LGSには数多くの対軌道兵器や、拠点防衛設備が揃っていた。 あれを落とすとなれば、こちらの艦隊にも、バトルワーカー部隊にも少なくない被害が出ることは間違いなかった。 』


ウィルクスがシオンハートの見解に同意を示す


「あれだろう、核融合炉直結の数メートル口径レーザー兵器に無誘導広域EMP装置...」

『電磁パルス兵器は確かに厄介だろうな。 理論的な限界で、アマテラスをはじめとした新型艦に装備されているパッシブシールドはそれらにかなり脆弱だ。 ガラテア級のシールドシステムでは出力次第では一撃で持っていかれてもおかしくないだろう。 シールドコントローラーを起動していれば話は別かもしれないが。』

「運動エネルギー兵器やら広域衝撃にはめっぽう強い割に、しっかり弱点もあるもんだな。」

『全てにおいて完璧なことなどあり得るわけがないだろう。 ...アビサルハート?』

「そう言われると何も言い返せないな。」


他に誰も聞いていないのをいいことに、ウィルクスが"あちら側"の存在へと問う

シオンハートも──アビサルハートも思うところはあるらしく、同意を示す


「...まぁそれはいい。 ESF艦隊の現状は?」

『長距離スキャンの結果、地球軌道に結集しつつある。 事実上壊走したも同然だったが、どうにか指揮系統は立て直したようだ。 こちらもアマテラスは健在とはいえ、多数の指揮艦を失っている。 本来なら即座に追撃したかったが、そういうわけにもいかなかったからな。 カエデの件だってある。』

「ああ、それなら聞いたさ。 やっぱりちょっとやりすぎだったかもしれないな。」

『...あれをちょっと? はぁ、シオンハート、これはある意味自戒でもあるんだが、私達の感性、感覚が人のそれとズレていることは忘れるなよ?』


ウィルクスがたしなめる


「...ははは、善処するさ。」


それをシオンハートがいつものように受け流し、会話が続く


『またそうやって... いつものことか。 ええと、何の話だったか...』

「ESF艦隊の現状だ。」

『そうそう、それだ。 ESF艦隊だが、地球軌道とはいっても、低軌道に結集しつつある。 あの位置では高度、位置の維持にも少なくない推進剤を消費し続けるはずだが... 現在のESF艦隊はESF首都、ワシントンD.C.上空軌道にいる。』

「首都上空? こちらの軌道突破を警戒しているのか?」

『恐らくはな。 最速で決着をつけるなら首都を押さえるのが最適解ではあるだろうが... とはいえ地球はおろか金星や水星もESFの勢力圏であり、拠点もある。 どちらかといえば政治的な意味合いが最も大きいのが首都、という話だ。』


それを聞いたシオンハートが少々考え込む

ウィルクスがその結論が出るのを待とうと、シオンハートの言葉を待つ


「...どちらかというと... 軌道爆撃の警戒かもな。 ESF艦隊は確認されている限りではこの戦場にいるのが最大主力なんだろう?」

『それは間違いない。 金星や水星にこちらと同じように最低限の艦隊が残されているのは確認されているが、それもごく少数だ。 ...もっとも、こちらの消耗も激しい。 地球全土を更地にできるかと言われれば無理だろうし、そもそも、そんなことをしたら戦後が面倒だ。 私達がやりたいことは最終戦争ってわけじゃない。 ...かつての大戦の再現はしなくてもいいだろう。』


かつての大戦、太陽系全土に広がる文明の破壊者、東西の激突

断片的に伝わるその歴史は、CAU、ESFを問わず、一種の抑止力だった


「それもそうだ。 ...だが、この戦争を早期に終結させたいのは事実だ。 連中の関与がある以上、無駄な犠牲でしかない。」

『ヴェントゥーラ議長とアーネスト将軍はどう考えてるのか、というところだな。』

「...以前にスノーに聞いたんだが... まぁ、お前も気づいているかもしれないが、この世界はどうにも戦い慣れていない。 かつての大戦以来、大きな戦争というものとは無縁だったからな。」

『だろうな。 基本的には戦法がしっかりしていない。 もちろん、そんな必要がなかったのだから、無理に責めることもできないが。』

「必要は発明の母、だったか? 長らく必要とされてこなかったものはそう簡単には発明されない、というわけだな。」


軍拡は抑止力でしかなかった

実際にそれらをぶつけ合うことなど、誰も想定していなかったのだ


『必要とされてはじめて気づかれるものというものも多いようだからな。』

「まぁ、それもそうだ。 ...お互い、そういう経験は少なくなさそうだな。」


ウィルクスはそれに何も言い返さないが、納得しているような表情を見るに、否定する気もないようだった

シオンハートはそれを見て話題を変える


「...その、なんだ。 正直な話をするなら、政治的決着を優先するだろうな、という気はする。 我々と、ESF。 双方が残った戦力を結集しての最後の戦い。 そんなことになる気がするんだ。」

『...時が来れば分かるさ。 どちらにせよ、ここまで付き合ってきたんだ、今更やめるという選択肢は当然、ない。』

「言われなくても分かってるさ、ウィルクス... さて、悪い、ちょっとローランドの様子を見てくる。 アイツにはまだ色々とやってもらうべきことがあるからな...」

『了解だ、シオンハート。 また後で話そう。』


ウィルクスがそう言い残し、通信を切る

暗転したモニタをシオンハートは見送り、コックピットのハッチを開ける


「ああ、悪い待たせたな。 調整は問題なさそうだ...」


コックピットに引きこもるために適当な理由を言っておいた整備士に声をかけながら、シオンハートは目的を果たすためにハンガーのキャットウォークを歩いていく

エジタイトを用いた簡易的な重力生成機構により、宇宙空間であっても艦内にはしっかりとした重力が働いている


ふと、シオンハートは考える


──だねぇ。 犠牲。 預言はそれを告げている。


犠牲とはなんだ?

一体誰が、誰を殺めるというのか?


結論は出ない

あまりにも抽象的なそれは、推測を許さない


回避し得ない未来を回避するため、シオンハートは思考を巡らせる

今までもやってきたことだ



例えそれが、今までのそれらが、全て無意味な結末に終わっていたのだとしても


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