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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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112/129

112: EP6-18 一息つく暇

...ああ、確認した。

どうせまた後継者は現れるだろうが...


それでも大きな戦果には変わりない。

続けてくれ、脅威は排除されなければならないんだ。

オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)17:35

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域



──Side: 三人称視点



─スピアハンドル艦橋(ブリッヂ)



「ウィルクス艦隊長、ハンガーとの通信開きます。」

「3番モニタに回してくれ。 はぁ、ようやく気がかりが解消されるな...」


レーダー上で活動を捉えていたとはいえ、通信に応答しないのを見てずっと頭に片隅にひっかかっていたのがようやく、というのがウィルクスの素直な考えだった


『艦隊長!』

「ルイナ... よく戻った。」


感慨深い、といった口調でウィルクスが通信越しの...ルプスレフィアに話す

まだ全体の戦況を見て何か解決したわけではないのだが、それでもウィルクスには喜ばしいことの1つだった


『あの、えっと...』

「...まぁ、込み入った話は後だ。 ルイナ、機体は?」


今は仕事中、まだ戦闘の最中なのだ

ウィルクスの私人としての部分は色々と話したいことがあるものの、それを自制する


『んー... とりあえず今最低限の整備中。 さすがに2時間ぐらいずっと無茶させてたからあっちこっち無理も来てるし...』


ルプスレフィアがそんなことを言いながら簡易的なレポートをウィルクスの目前にある別のモニタに送る

横目にそれを確認し、ウィルクスが瞬時に思案する


「そうだな... ルイナ、整備と補給が終わり次第、支援攻撃に入ってくれ。 船体上部のプラットフォームだ。」

『了解、艦隊長。 すぐに準備する。』


ルプスレフィアが目線を動かし、別の誰かと会話する

どうやらハンガーにいる整備担当と話しているようだ

それを見てウィルクスはまた意識を別のところへと向ける


──戦場に現れたジャッジメント艦隊はデイモス艦隊を効率的に撃破している


『ウィルクス、それにエンスウェン。』

「シオンハートか。 いつも思うんだがどうやって勝手に通信を開いて... いやいい、用件は?」

『...結構驚くからやめてほしいんだがな...』


いつの間にか勝手に接続されていたシオンハートとの通信にウィルクスは応答する

エンスウェンもいるようだ


『パーシヴァルから連絡があった。 ターゲットダウン... レライエは死んだ。』

「...旗艦を仕留めたのか?」

『ああ。 パーシヴァルが言うには、想定通りESF艦に搭乗していたようだ。』

『待て、シオンハート。 ジャッジメントの規定では彼らの戦力は...』


エンスウェンが何かを言いかけたのをシオンハートが制する


『何事にも例外がある。 そうだろう、エンスウェン?』

『驚いたな、ジャッジメントにそんな柔軟性があるなんて話は聞いたことがなかったんだが。』

『...正直言えば私もそうなんだがな。 まぁ、パーシヴァルなりの考えでもあるんだろう。』


そう言ってシオンハートがコックピットの中、苦笑しながら肩をすくめてみせる


「...そうだ、シオンハート。 後で聞こうとしていたことがあるんだが。」

『何だ、ウィルクス?』


ウィルクスがつい1時間ほど前の疑問を問いただそうとする


「あー... カエデは?」

『なんだ、気づいてたのか?』


シオンハートが少し驚いたような顔をして聞き返す


「あんなことをできるのはお前しかいないだろう、シオンハート...」


あんなこと──大破した艦を動かしてみせるようなこと──


『超常現象ってことにしておくのはどうだ?』

『シオンハート...』

「超常現象は無理があるだろう...」


ウィルクスとエンスウェンが揃って呆れた声音で返す


『...ま、まぁ。 ちゃんと確認はしてないが、カエデは無事さ。 他の乗員までは分からない。 アマテラスの陰までは送っておいたから、直に救難艦が乗りつけるさ。』

『集団幻覚か何かとして取り扱われそうな話だ。』

「シオンハート、お前が並外れた能力を持っているのは分かっているが... 程々にしておいてくれ。」


善処するよ──

そんなことをのたまいながらシオンハートがまた苦笑する

さすがにやりすぎだという自覚がないわけではないらしい


ウィルクスがふと別のモニタに目線を動かす

色々と話しながらも、当然、他のことに気を配っていないわけではない

未だ戦況は移ろい続けているのは事実であり、勝敗が決したというわけでもない

エンスウェンの様子を見ると、そちらもまた、同様であった



そしてまた、戦場の別の局面では変わらず動き続ける彼の姿がある






「次から次へとワケの分からないことばかりだな。 ...ディケ、残量は?」

『61%、まだいけますよ。』


戦闘開始からまもなく4時間

何度も補給を繰り返しながら、ローランドは未だ戦い続けていた

一度クロノスに絡まれて以降は特に何かおかしなことが起きるでもなく、彼はあちらこちらの戦線で戦闘を繰り広げている

もっとも、戦場で起きている意味の分からないことを除けば、という意味でのおかしなことが起きていない、という話ではある


敵バトルワーカーを切り伏せ、撃ち抜き、時に敵艦へと躍りかかる

そういった戦闘を続け、続けて、そしてまた繰り返す

重力なき宇宙で、黒と白の機体は駆ける


機体の全ては自身と同化し、あらゆる脅威へと迅速に反応する

彼は、ローランドは今、改めて自身の身体の、その真の実力を十全に振るっていた



それを見ながら、ディケは戦場をデータの上で見渡す

ウィルクスやエンスウェン、その他CAUの司令官達も気づいていたことではあるが、少しずつ戦線は月軌道へと迫りつつあった

今やこの場に在るべきでない者達は、その対面に位置するまたこの場に在るべきでない者達によって少しずつその数を減らしている

それに、旗艦を失ったESF艦隊は次第に連携を失いつつあった

ESFがどのような作戦指揮系統を取っていたのかは定かではないが、それでも旗艦の撃沈という衝撃が多大な影響を及ぼしているであろうことは事実だった



ディケは思案する

ウィルクスあたりも同じことを思っているだろうが、勝敗は未だ決さずとも、それでもCAUの優勢に事は進みつつあるのだ


考えてもみれば当たり前だ

お互いに物量に限りはあり、そして、そもそもの消耗の速さではESFは圧倒的に分が悪いのだ

それを覆しかけていた要素がいなくなった今、こうなるのは当然だ


「ディケ、今ので何機目だ?」

『ええと... 22、ですね。』


CAUとESFの戦争という、ほんの数年前までは、いいや、開戦までは考えられなかったことが起きるまで、バトルワーカー同士の戦闘は専らシミュレーションのものだった

民間、犯罪組織、その他軍に属さないバトルワーカーが当然ないわけではないのだが、どちらかと言えば、特に民間向けのそれはフレームワーカーの括りから外れることはまずない

バトルワーカー規格に相当するようなものを用いた違法行為など、太陽系全域を見れば決して少ないものではないのだが、それでも軍の戦力から見れば対処できないものではない


それ故に、実戦ではたったの1機を撃墜するだけでも、バトルワーカーパイロットにはそう多くはない経験だったのだ

それが今、彼は常軌を逸する速度で撃墜し続けていた



ディケは言葉にすることなく、彼女の思考の中でいくつもの考えを続ける

今は言うべきではないこと、彼に伝えるべきこと、考えることはいくらでもある


彼女は、機体のカメラに映る地球の月を見つめる

恐らく、そう遠くないうちに戦場はあの場所へと移るだろう

しかし、それも恐らくは長くは続かない、それも分かっていた


CAU艦隊が地球の月へと辿り着く、それすなわち、ESF艦隊の壊滅を意味する

軌道上からのカバーを失ったESFの拠点がどのような末路を迎えるのかは考える必要もなかった


次の主戦場は間違いなく、地球だ


人類の故郷、生命の揺籠、ESFの本拠地


この場に在るべきでない者達が起こした騒動は、ようやく終わりを迎えるだろう


たった1年で世界は変わってしまったが、だがしかし、何とかなるだろう




ディケは考える






それでも拭えないこの不安は、どこから来るのだろう?






「戦線、順調に押し上げています。」

「ESF艦隊の前線を食い破るんだ、あの布陣は一度崩れれば脆い。」

「機関室より連絡、ムラクモの点検、及び修繕が完了。 次弾発射にはいれます。」


それがアマテラスの艦橋(ブリッヂ)でも、例え前線の1機のコックピットの中でも、変わらない

ひとりひとりが、それぞれのできることで勝利を目指していた


時間こそかかるが、ESF艦隊は少しずつ数を減らしている

いくらか取り逃すことはあるかもしれないが、恐らく、その時には既に彼らは有効な戦闘を行える状態にはないだろう

手を緩めるでもなく、油断するでもなく、CAU艦隊は動き続ける

この戦争を終わらせるため、止まるわけにはいかないのだ






「アネモネ。」

「おやぁ。 また何か用かぁい。」


アビサルハートはどこかの洞窟と思わしき空間にいる

そして、その天井からぶらさがる人影に話しかけていた


「変わりはないか?」

「だねぇ。 犠牲。 預言はそれを告げている。」


妙なおっとりとした口調、鮮やかなピンク色の、長い髪をしたその人影はクネクネと揺れながらアビサルハートに返答する


「お前に不満があるわけじゃあない。 ...犠牲か。 私達はそういった手合いのものをいくらでも払ってきた。」

「そうだねぇ。 アビサルハート、君と共に歩み出してからいつも、だねぇ。」

「慣れているはずなんだがな。 それでも妙に胸騒ぎがする。」

「深淵の主?」


アネモネ、そう呼ばれる深海の神は首を傾げる


「いいや。 アイツじゃあないだろうな。 始祖が動くのならさすがに感じ取れる。 だが、あの戦い以来奴は沈黙を保ったままだ。」

「じゃあ、なんだろうねぇ。」


いつの間にかアネモネは洞窟の床を歩いている

アビサルハートはそれに驚くでもなく、後を着いていく


「水晶は何も言っていない。」

「だろうな。」


アネモネが懐から取り出した丸い真球の水晶を覗き込みながら呟く


「でも、何かは見える。 ...黒、白。」

「何か?」

「概念。 ただ黒。 ただ白。」

「思い当たるものが多すぎるな。 ...まぁ分かった。 もし何か急があれば、すぐに連絡してくれ、アネモネ。」

「分かったよぉ。 あまり期待しないでねぇ。」

「ああ、分かってるさ。」


アネモネがまたいつの間にか天井へ足をつけ、ぶらさがっていた

そして、背中を向け去っていくアビサルハートへと小さく手を振っていた

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