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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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111/129

111: EP6-17 艦隊決戦: 呆気ない幕切れ

何の為のジャッジメントか、か。

オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)17:30

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域



──Side: 三人称視点



レライエは自身の席の中、額にびっしりと汗をかいていた

別に空調が突然壊れただとか、そういう話ではない


ただ、予想はしていたものの、現実となった目の前の光景に焦りを覚えているのだ


──言っただろう、レライエ...


との、先の同僚の言葉が虚しく響く

さすがにもう少しは持つとは思っていたが、想定が甘かったか、と考えもする


彼自慢の隠し玉は確かにCAU艦隊に対しては非常に、そして非情にも有効だった

しかし、上には上がいるものだ


オロバスが、そしてレライエが恐れていた存在は今、目の前にいる

それほど大きくはない駆逐艦サイズや巡洋艦サイズのそれらには打つ手がないわけでもないが、戦艦クラス、そして一際目立つ超大型艦相手にはCAU艦隊を次々と沈めてきた隠し玉の攻撃は全くと言っていいほど通用しない


「センチネル... まさかあれほどの数を投入してくるとは。 それになんだ、あの船は...」

「レライエ様、『我が方』の艦隊の損害が50%を超えました。 全体としての損害も継続して増加中です。」

「...分かっている。 我々の艦隊で押さえつけていたCAUの艦隊がほぼ自由となった今、純粋な戦力では劣るESF艦隊は直に壊滅する。 ...だが、打つ手がない。」

「...」


部下の見ている手前強がりたいのはやまやまなのだが、最早そうするだけの気力もない

どこで間違えたのだろうか?


『レライエ、すまん、こちらは下がる──』

「オロバス? オロバス!? 何があった?」


通信を繋いだまま待機状態にしていたモニターに連絡が入る


『あの... アイツに遭遇した。 あの...トラベラーにな。』

「...そうか、他の連中は?」


モニターの向こう、オロバスは首を振る


『...4人やられた。 たった1人相手にだ。』

「規格外すぎる。 一体どういうわけなんだ。」

『あの堕天使でもいれば話は別かもしれんが、あの気分屋はアテにならない。 ともかく、撤退する。 レライエ、打てる手を考えておけ。』


オロバスがそれだけ言い残し、通信を閉じる


「手、か。 我々の艦隊が通用しないのなら何があるというのだ。 近衛艦隊ならまだしも、結局のところここにあるのは... エリゴスが動かせる戦力の、一部のみだ。」


レライエはそこまで口にしたところで天を仰ぐ


ふと、モニターの1つが通信の着信を連絡する

それと同時に、ブリッヂの前方、通信やシステムを担当しているクルーのいるあたりが騒がしくなる


「通信科、どうした、何があった?」


一度モニターに向けようとした動きをやめ、そちらに視線を移す


「こちらのシステムに攻撃が仕掛けられています。 発信源不明、現在対抗プロトコルを発動しています。」

「...」


それを聞いて、モニターに向き直る

そして、発信者不明となっているその通信に応答する


モニターに映る映像には音声通信のみであることを示す表示のみが映っていた


『ようやく応答したな。 レライエ、貴様で間違いないな?』


声だけでも誰だか分かる

やはり、彼だったのだ


「はぁ... やはりお前か。 パーシヴァル... パーシヴァル・ジャッジメント。」

『全く有名人は大変だな。 こうやって声を聴かれただけですぐに特定されてしまう。 まぁいい、提案だ。 大人しく降伏しろ。』


何度も聞いたことのある男の声だ

そして、いつにも増して高圧的


「もちろん断る。 パーシヴァル、そんなことを言わずに大人しく撃沈すればいいだろう。 それとも、こちらには打つ手がないとわざわざ披露しなければ不満足か?」


今のレライエには虚勢を張って見せるのが精いっぱいだ

それに、彼には今この状態であれば少なくとも乗艦が撃たれることはないという確信があった


『言うと思っていた。 ...レライエ、お前はどうせそこにいれば安全だとタカをくくっているのだろう?』


ぞくり、そういった感覚がレライエの背中を撫でる


『まぁ、確かにそうだな。 閣下は確かにそうだ。 だが...』


間違いなく何かがおかしい、いや、マズイ

レライエはそう確信する


『何故閣下は、総帥は我々に自由意思を与えたと思う? 何故我々を合理的な判断をするだけの機械に留めずに、豊かな意思を持った意識体にしたと思う?』

「航行科! 回避運動!」


レライエは確信に従って叫ぶ


『何故あの方々は我々をこうあれとした? 犯した失敗に悔やみ、下した判断に迷うようにした?』

「オロバス! 一方向通信だ! エリゴスに連絡しろ、作戦は失敗... 可能な限り戦力を纏めて撤収させるんだ!」


すでに望遠映像が捉えている

戦場に現れたあの超大型艦を


その砲塔が、一斉に彼のほうを向くのを


1つの船に向けるには、あまりにも多すぎるその砲塔が、向くのを


『何故グローリア副局長があの立場にいて、それを続けられるのか考えたことはあるか? 貴様らが我々ジャッジメント内部に諜報網を張り巡らせているのぐらいは知っているぞ?』


淡々と言葉を紡ぐパーシヴァルの感情はあまりにも冷酷だ


『我々は規定に反した行いを嫌う。 閣下はそれを愚直にも守り通した。 それが何を犠牲にするかを知っていて。 故に、閣下は時に言うのだ。』


パーシヴァルの、『ホーライ』の砲口が明るく輝く


──私はあくまでそうするよ。 それはこれまでも、これからも変わらない。 でもね、だから皆には期待するんだ。 皆が時には、正しいと思うことをする、って。



「君にはあまり出番を与えてあげられなかったし、どうしてもいきなり出て、いきなり死んでいくようにも見えるだろう。 だが、悪く思わないでほしい。 ここは私の世界で、私が紡ぎ出した世界だ。 私にも、君達にも歪めさせる気はない。 終わりだ。」



『終わりだ、レライエよ。 だが、せめて安らかに眠れ。』



『ホーライ』の砲ひとつひとつがそのエネルギーを解放する

無数の光は、その焦点で交差する


あまりにも膨大すぎるそれを前に、その船は蒸発するように光の中へと消えていく

...事実、蒸発しているのだろう




『ホーライ』の、パーシヴァルの周囲では未だ多数の艦が砲撃戦を続けている

しかし、反対に彼らを襲う攻撃は急速に数を減らしている

彼らは、間に合ったのだ




そして、それを遠くから眺めていたアビサルハートはふと呟く


「...犠牲、か。」


残骸すら残さず消滅した敵艦のあった位置を見つめ、言葉を紡ぐ


「アネモネ、お前の予言した犠牲とは一体なんなんだ? クロノスが関係しているのか? ...それとも、あれを取り逃がしたことに意味があるとでも言うのか...?」


アビサルハートは先の戦いを思い出す

今もあの場にいる自分が、間違いなくデイモスの幹部を追い詰めたはずだった

だと言うのに、いつの間にかそれはその場を離脱し、既に手の届かない位置まで逃げ伸びていた

それが何かの凶兆の前触れなのだろうか?


「...例え今から聞きにいったとしても意味はないんだろうな。 アネモネの予言はいつもこうだからな。」


いつもくねくねと奇妙な動きをする仲間の姿を思い出しながら、アビサルハートは自嘲するように笑う


「...まぁいいさ、再現の程度にはバラつきがあるんだ。 私が最小限にしてしまえばいいだけの話だ。 何、手足の1つぐらいに収められれば上出来だろうさ。」


そこまで言って、アビサルハートはそれを考えるのを中止した

他にも気にすることは山ほどあるのだから

そんな顔をして、その深海の神は戦場へと再び意識を向けていった

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