109: EP6-15 艦隊決戦: 2つの差
想定通りだ。
今更そんなことは議論するまでもない。
ブラック君、言いたいことは分かるよ。
そんなことを言っている場合じゃないのも分かるさ。
...だけど、お願いだ。
私は、私達は一線を踏み越えてはいけないんだ。
オペレーションシージアース
1日目
西暦3020年12月5日[STC]
協定宇宙時16:21
地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域
──Side: 三人称視点
『レイダー1-1よりレイダー2-1。 攻撃隊が後方で待機中だ。』
『確認してる。 目標は?』
『リンクする。 向こうの敵艦載機母艦だ。』
『...確認した、直掩は?』
『レーダーに複数。 迎撃は避けられない。』
反撃の先鋒、それを務めるのはCAU最新鋭の部隊
制宙戦闘機部隊だ
その中でも彼らのコールサインはレイダー
『二手に分かれよう。 こちらは敵艦左舷側より展開する。 2-1、右舷を。』
『2-1了解。 』
未だに運用が最終的には決定されていないが、今作戦には2機1ペアでの投入が行われていた
思いのほか、機体性能差での優位があったのだ
『1-1より1-2。 目標左舷より接近するぞ。』
『うーい了解っとぉ!』
彼らの駆るCAU製制宙戦闘機『ゼロファイター』は目標を果たすため、振り返らずに進み続ける
『直掩が上がってきたな。 1-2、攻撃準備。』
『いつでもいいぜ! 一発ぶちかましてやろう!』
目標、それすなわち、後方で待機している制宙攻撃機『コルセア』のために道を切り開くことだ
コルセアが搭載した対艦攻撃用大型弾の発射を支援するため、ゼロファイターのパイロット達は今、戦おうとしているのだ
ESFにおいても同じことだが、制宙攻撃機は攻撃性能と引き換えに機動性に難がある
純粋な戦闘となれば、制宙戦闘機にはそう敵うものではないのだ
無重力、真空の宇宙では減速するにも逆推進が要り、彼らは速度の管理に神経をとがらせる
『情報によると、シルバースピアのルプスレフィア大佐のアルティアによる誘導ミサイル攻撃は成功しなかったそうだ。 敵は対赤外線誘導妨害方式を採用している。』
『フレア、ってとこか。 そりゃアイツらからしても枯れた技術だもんなぁ。 1-1、じゃあどうするんだ?』
『接近しての近接戦闘か... あるいは、フレアがそう連続で使用できないことを期待しての攻撃、か。 最悪、足止めできるだけでも構わない。 目標は爆撃隊を敵艦にたどり着かせ、無事に離脱させることだ。』
確かに最善は敵の撃破だ
しかし、作戦目標の達成というだけならば手段はまだある、というわけだ
ふと、遠くで大きな爆発が起きる
どうやら、正体不明の敵艦がまた1つ撃沈したようだ
先ほど戦場に現れた謎の『友軍艦』がまたやったのだろう
『...あんなの一体どこに隠し持ってんだよ、うちらもアイツらも...』
『お上には何かと隠し事が多いんだろう... 』
2人とも、これには呆れたようなリアクションをする他ない
次第にレーダーに映る敵機の反応が近づいてくる
とはいえ、実際には両者ともに凄まじい速度で移動しているため、目視できるとも限らない
というよりかは、例えばすれ違う時などはほとんど認識不能だろう
そこで突如、1-2機のコックピット内で警報が響く
『ロックオンされた! 電子妨害を実行する!』
接近しつつある敵機からのロックオンだった
彼女は慌てず対抗手段を起動する
当然といえば当然だが、目視はできずとも電子的には既に『視えている』位置であり、当然、敵機の射撃管制システムの制御範囲に入ればこうもなろう、というものである
『こっちも捉えたぞ、お返しだ!』
1-1機がロックオンした敵機に向け誘導ミサイルを発射する
通常通りの、CAU製赤外線誘導ミサイルだ
お互いに誘導ミサイルの射撃が可能な距離に入った以上、すぐに近接戦闘の距離に入るだろう
そうなれば、電子的な手段に限らず、目視でも敵機を捉え始め、格闘戦になっても何ら不思議なことはない
『敵機は3。 1-1、どする?』
『相手にとって不足なし! まずは1つを集中して落とす、そうすれば数の上では互角だ。』
彼らは自身の機体を疑うことはない
確かに訓練期間だけで言えばほんの数か月、実戦の差で言えばESFとは大きく差があるだろう
しかし、彼らの機体は、それを覆すだけの性能があると、信じているのだ
レーダー上、映る敵機との距離はもう目の前だ、すぐにでもすれ違うことになる
1-1機がもう一度飛来してきた敵の誘導ミサイルを妨害する頃には、ついにその時が来る
『っ... 分かってはいるが... 早いな!』
敵機と至近距離ですれ違ってすぐに旋回し、レーダー上の反応を見つつ、目標を探す
被ったヘルメットのバイザーに統合された射撃管制システムが作動し、視線上で敵機を捜索する
機首に、機体前方を向いて取り付けられた2つの機銃はそのシステムと同期し、最適な角度を向くように設計されていた
そして、1-2の機体正面に1つの敵機を捉える
『1-1、敵機の後ろを取る!』
『了解だ! ...よし、可能なら挟み込む!』
システムが瞬時に敵機との距離、敵機の速度、方向を計算し機銃を動作させる
機銃の先端は、敵機の未来予測位置に向かってその狙いを動かし続けており、せわしない
しかし、相手は間違いなく経験豊富なパイロットであろう
中々、狙いを定めさせてはくれない
『1-1より1-2、こちらが背後を取られそうだ、回避行動に入る。』
『あいよ!』
今度は逆に1-1機が敵機に背後を取られそうになる
2対3という数の差はやはり機体の性能差があれどそう簡単に覆させてもらえるものでもない
目まぐるしく敵機との位置関係が変わり続ける
経験の差と、機体の差
それぞれが優位性を持つ部分同士がぶつかりあい、互いの命を狙い合う
いくばくかの間それを繰り返した時、1-2機に危機が訪れる
『しまっ...た!』
敵機に完全に背後を取られた、とレーダー反応で気づく
気づけたこと自体が奇跡だったかもしれない
既に敵の機銃がこちらの機体を捉えているのは考えるまでもなく、残された時間はない
それでも、と彼女が打てる手をほんの数秒に満たない時間の中で思考する
『こんっ...のぉ!』
突如、パイロットたる彼女は機体の速度制御スロットルを逆推進方向まで限界に動かしながら、機首を上向きへと操作する
これが重力下ならば、機体はまさに重力に対し完全に垂直に上っているだろう
その動きに、機体の速度は急激に減少する
そんな動きに、彼女を追いかけていたESFの制宙戦闘機『スピットファイア』は反応しきれず、つい通り越してしまう
高速で追いかけていたが故に、一瞬で追い越してしまう結果となったのだ
無茶な動きであり、訓練ですらやったことがなかったが、それでも成功させてみせたのだ
そうして、危機を脱する
『アルテミス3-1より戦域各ユニットへ、レイダー2-1、2-2がルートを確保。 これよりアルテミス3-1から3-3は敵艦載機母艦への攻撃を開始する。 他隊は引き続き敵機の撃破、足止めを頼む。』
『爆撃隊の安全はこちらで確保し続ける、レイダー各隊、戦闘を続行するんだ。』
1-1、1-2の両名が苦戦しながらも敵機を引き留め続けているうちに、ついに味方が前進を開始したようだった
アルテミス隊を構成するコルセアはかなりの大型弾を搭載でき、当たり所次第では航宙艦も無事では済まないだろう
事実、ここまでのESFの攻撃機隊の攻撃でCAU艦隊にも被害が出ているのが現実だ
今もCAU艦隊近傍に複数の制宙戦闘機部隊が残り、防衛を続けているはずだ
いくら近接防衛用の兵装があると言っても、航宙艦に比べれば遥かに機動性に優れる制宙攻撃機を凌ぎきるのは中々難しい相談だ
それぞれがそれぞれの戦場で戦い、敵を倒し、そして倒される中、ようやくいくつかのコルセアが敵艦の至近へと接近する
既に敵艦からは近接防衛用の砲火がいくつも上がっているが、それを持ち前の機動性で回避しながら更に接近する
『3-2、攻撃開始!』
『3-3爆薬投下。』
『3-1も投下した。 弾着は...』
既に離脱を開始していた3機は機体のサブカメラで敵艦の様子を確認する
ちょうど、敵艦の表面でいくつもの爆発が発生するところだった
無事着弾したようだが、現時点では有効打かどうかまでは分からない
『アルテミス3各員、一度旋回しもう一度だ。』
『まだまだいけますよ!』
『こっちもな!』
まだ攻撃用大型弾は主翼の下部に残っている
ならば、何度でも攻撃するまでだ
彼らは可能な限り攻撃を続ける
ここが正念場、ここが決戦の場なのだ
パイロット達はそれぞれがそれぞれ、自身に課せられた役目を全うしようとする
それが勝利に繋がると分かっているからこそ、全力を尽くす他ないのだ
戦場のあちらこちらで似たような光景が繰り広げられる中、また別の場所でも、これまた別の戦いが繰り広げられている
『スピアヘッド司令官よりスピアヘッド各分艦隊へ、これより本艦隊はスピアハンドルの支援の元、敵艦隊へ突入する! 覚悟を決めろ! ここで優位を確固たるものにするんだ!』
カエデはそう通信で高らかに声を張り上げ、そして、眼前に映る全てへと意識を振り分け始めた




