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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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108/129

108: EP6-14 一筋の光

──難局は去った、か。


...後は抜かりなく...

オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)16:04

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域



──Side: 三人称視点



ESF旗艦『フェイトブレーカー』ブリッヂ──



『だから言っただろう! レライエ!』

『なら他に手があったと言うのか、オロバス!』


通信越しに響きあう怒号

生産性がないと言われればそこまでの話に過ぎないが、それでも2人はそうせずにはいられなかった

自機のコックピットの中、オロバスは冷静さに努めようと思い直す


『分かった、分かったレライエ... それは確かにお前の言う通りだ。 だとしてどうする?』

『...連中が従来通りの方針を曲げていないなら、最悪こちらの艦隊と相打ちを狙うしかない。 識別信号からして、パーシヴァルもいる。』

『チッ... 所詮時間稼ぎにしかならなかった、というワケか。』

『本部護衛艦隊のトップが来たわけだからな... 恐らく迎撃されたのだろう。』


2人が見つめるその先、モニターに映った映像には、今まさに、彼らが頭を悩ませている原因が存在している


CAU旗艦、アマテラスと似たような全長数キロ──下手すると10キロそこらはあるような超大型艦

そのフォルムは宇宙という海に浮かべるには少々不似合いな、惑星重力下の水上艦のようなものを感じさせるが、同時にその表面は先ほどからこの戦場に存在していた謎の艦のように黒く、艶やかなものだ

そして、その周囲にはそれを小さく、とても小さくしたような、それでいて大小さまざまな数百メートルクラスの艦が無数に存在している


ズレた眼鏡を右手で戻しながらレライエが言葉を繋げる


『...あるいは、こちらが全滅するまでにCAUに壊滅的損害を与えるか、だ。』

『どちらにせよ、ジャッジメントが従来通り、我々にしか戦力を差し向けないと仮定したのが当たっていれば、か。』

『あのスノーのことだ。 そう簡単にそこを曲げるとは思えない。』


希望的観測に賭けるしか手がないとはな、などと呟きながらオロバスが通信から目を逸らす

視線を通信に戻すと、そのまま言葉を繋げる


『結局、こうなってしまえばこちらが...俺達バトルワーカー隊はCAUとさしたる差はない。 ジャッジメントですら、未だにこの手の機動兵器は開発段階なわけだからな。』

『相打ち。 まぁ望むところでしかない、と強がって見せる他ないな。 幸いオロバス、お前とそれに加えてこちらは恐らくジャッジメントの攻撃対象から外れるはずだ。 この船もこの世界のものでしかないからな。』

『繰り返すようだが希望的観測だな。 だが本当に、今はそれを信じる他ない。 はぁ、分かった。 やれるだけやり続けるだけだ。 死ぬにしてもタダで死んでやるつもりはない。』

『...ああ。』




彼らが見つめるその先、その艦隊を率いる彼もまた、動き始めていた



「ジャンプ誤差30メートル。 予定通りだな。」


艦の指揮所の中、パーシヴァルは呟く

指揮所と言っても、ここにいるのは彼一人だ


ディケがバトルワーカーを操縦できるように、パーシヴァルもまた、この超大型艦を1人で操縦できるのだ

艦内での慌ただしい作業はどれも自動化、自律化されたシステムが行っている


「む...」


パーシヴァルは何かに気づくと、自身の正面にホログラムのモニターを開く

これもこの指揮所に据え付けられた機能の1つのようだ


『シオンハートよりパーシヴァルへ。 よく来てくれた。』

「こちらこそ遅れて悪かったな。 既に交戦開始しているが、これよりデイモス艦隊の相手は引き受ける。」


マリエルのコックピットからシオンハートが通信を繋いだようだ

その横に開いているモニターにはパーシヴァルの乗艦、ホーライが捉えた外部映像がいくつも映っている

そのどれもが、パーシヴァル率いる艦隊が戦場に既に存在していた謎の艦隊へと攻撃を開始している


「閣下より今回はクラスB相当の戦力投射が許可されている。」

『クラスB。 なるほど、任せていいというわけか。』

「だな。 残りはいつも通りそちらの出番だ。」

『厄介なデイモスさえ消えればどうにでもなる。 CAUとて弱兵ではないぞ?』


シオンハートがニヤリと笑う


「分かっている。 だが、余裕があるわけでもないのだろう?」

『...それはその通りだな、パーシヴァル。 かなり...厳しいというところだろう。 だが、幸いにもお前達が間に合った。 アマテラスは確かに傷だらけだが健在、それにまだ攻勢を仕掛けるだけの戦力は残っている。 楽な勝負でなくなった、というだけだ。』

「ならいい。 こちらはこちらの仕事をするまで。 だが...」

『...アレにレライエやオロバス、それにエリゴスがいるかは分からない、か。』


シオンハートが言いよどんだパーシヴァルへと問いかける

若干苦い顔をしながらパーシヴァルが口を開く


「まぁ...そうだ。 そんな馬鹿正直なことをしてくるとは思えない。」

『...ジャッジメントの手の内は割れている。 スノーの奴のやり口...方針もな。』

「ああ。 もし彼らが... あれにいないなら、手の出しようはない。 シオンハート、お前達が頼りだ。」

『私よりかはレンとかウィルクスに言ってほしいんだがな。 ()()()()所詮バトルワーカーパイロットだ。』


今は、な、とシオンハートが念を押すように言う


「そうだったな。 ...よし、こちらも作戦に集中しよう。 引き続きの健闘を祈るぞ、シオンハート。」

『そちらこそ。 ぶちまかしてやれ!』


そこでモニターが消え、通信が終わる


「さて...」


パーシヴァルはそう短く呟くと、意識を身体から艦へと戻していく

次第に彼はいつも通りにそれと一体化し、その全力を振るい始める


『パーシヴァルより第1分艦隊、エルヴィスへ。 フォーカスターゲットは──』





アマテラスのブリッヂでもそれらの様子は観察されていた



「出現した所属不明艦はESF側の所属不明艦へと攻撃を開始。 こちらへの砲火は確認されていません。」

「...一体何だと言うんだ、今日は... 通信科、海王星との通信は繋げるか?」

「出力的に可能だとは思いますが...」

「やってくれ。 協定標準省に繋ぐんだ。」


司令が指示を出す

眼前で広がっている光景の真意を把握するため、彼はできることをやろうとしていた


「その必要はない。」


突如、その場でそれまでしなかった声が響く

CAU政治方の制服、金髪に黒縁眼鏡のフレームが鈍く輝くその人物に、その場の大半の人物は見覚えがなかった

唯一、司令──CAU軍、現場方トップである『アッシャー・アーネスト将軍』を除いては


「...ヴェントゥーラ議長!? どうやって...」

「協力者。 そう言えば大体は伝わるだろう。」


その人物に心当たりがない周囲は一瞬警戒したものの、司令が顔を知っていることに気づき、警戒を緩める


「それはそう... いいや、議長。 そんなことより、良かったのですか。」

「ん? あぁ。 構わないだろう。 どちらにせよ、近々顔を出すつもりだった。 それに、本部も、な。」

「本部、も?」

「...この戦争が終わったら、な。」


そこで2人の会話に割って入るようにアマテラスの副長が声をかける


「あ、あの司令、失礼ながらこちらの方は...」


そこで司令がもう1人の男に目配せし、同意を得る


「...アメーリア・ヴェントゥーラ。 コロニー協定連合体、連合本部議長閣下だ。」

「れ、連合本部議長? ...協定標準省ではなく?」


もっともな疑問だろう

CAUの政治形態は木星から冥王星まで広がるコロニー、ステーション群が相互協力関係で結びついたものを、連合協定標準省が統括している、というのが一般常識だ

そこに、CAUの、連合の本部があるなどという話は存在していない


しかしながら、アーネストというこの『将軍』は、嘘をつくと持病などと裏で揶揄される震えが止まらなくなる奇妙な癖があることは周知の事実であり、今その様子がないことから、一切の嘘がないことは誰の目にも理解できていた


故に目の前にいるのが、彼の言う通り、連合本部の、その代表たる人物なのだろう、ということには疑いもなかった


「君はアーネストの副官だったな。 今は任務に集中したまえ、後に分かる。」

「りょ...了解!」


落ち着いたその言葉に、彼は無意識に背筋をシャキと伸ばし目前のモニターへと再び目線を戻す


「アーネスト、あれら先ほど現れた艦は我々の協力者のものだ。 これより戦場に存在する敵不明艦は彼らが引き受ける。 我々CAU艦隊はESF艦隊への攻撃を再開せよ。」

「...聞いたか、通信科。 全艦隊へ、敵不明艦の攻撃に、新たに出現した...友軍...友軍艦が対処する。 反転攻勢準備!」

「了解、通信回します。」


アッシャー・アーネスト、『将軍』自身も混乱していたが、それでも冷静に対処しようと動き始める


「さて、私は戻ろう。 ここにいては緊張してしまってしょうがないだろうからな。 吉報をあちら側で待っているぞ。」


直後、ヴェントゥーラの姿は忽然と消えてしまう

その場には『将軍』以下、元からいた顔ぶれだけが残されるも、彼らは自分達が今すべきことへと、再び向かい合うのだった


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