107: EP6-13 反攻の一手
了解した、私も今からそちらに向かう。
このまま畳みかけて、手早く済ませよう。
その人影が頭を振り、いくつかのモニターを見渡す度にそのツインテールは揺れる
「ブラック君、迎撃率は?」
「現在までに82%、エイレネ艦隊が前進配備に付き押し返しつつあります。」
傍らに立つ男──いつもブラックと呼ばれる彼はそう答え、また、別の席に座る別の女に声をかける
「ヴィヴィアナ?」
「ああ。 パーシヴァルから連絡があった。 艦隊を順次前進させ、デイモス艦隊を押し返している。 閣下、まもなく本部護衛艦隊は状況を鎮圧状態へと移行します。」
ヴィヴィアナと呼ばれた赤い髪の女がそう答え、白いツインテールの──スノーへと報告する
「了解だ。 ヴィヴィアナ君、状況を鎮圧次第、パーシヴァル率いる艦隊を離脱させ、投入する。 現地からの報告はあまり芳しくない。 予備的手段を用いて時間を稼いではいるが、それも長くは持たない。」
「サー、閣下。 パーシヴァル、こちらヴィヴィアナ... 通信は?」
『良好、ヴィヴィアナ司令、どうした?』
モニター越しに短く刈り込まれた茶髪の男──パーシヴァルが問う
「閣下からご要望だ。 状況を鎮圧したら特務艦隊を率いて戦力投射に当たってくれ。」
『了解した。 全く、デイモスも厄介ごとを引き起こしてばかりで困るな... また連絡する。 通信終了。』
パーシヴァルがそう言って通信を閉じる
「...それで、ブラック。 それに閣下。 例の件はどうなんだ? ...アストライアと、アバターは。」
いつの間にかスノーやブラックの横に並び立っていた人物がそう問う
ブラックと同じく黒い髪と黒い瞳──違う点と言えば、ブラックがショートへアで短く切り揃えているのに対し、この男は七三分けの髪型に黒く細いフレームの眼鏡をかけているというぐらいだ
170センチほどの身長もそこまで変わらないように見える
「ああ、エイベル君。 うーん、そうだね... ブラック君?」
「お待ちを、閣下。 それについては私が答えましょう、エイベル室長。」
彼らの立つ位置から見て後ろの席に座っていた男が声をかける
「あ、じゃあ頼んだよ、アイヴァン君。 」
エイベルと呼ばれた男とよく似た七三分けの髪型の銀髪の、アイヴァンと呼ばれた男が話を始める
「まずそうですね。 アバター計画は80%完了と言えるでしょう。 凡その試験は完了しました。 後は唯一の実例である彼、ローランドのことを見なければこれ以上は進みません。 エイベル室長、貴方のところのディケから色々聞いてはいますが、やはりいくつもの不都合は起きているようですから。」
「ああ、そうだな。 こちらでもいくつか報告は受け取っている。 とはいえ、パーシヴァル以下、情報体を有機生成体に書き込み、実体化させるという構想は既に完成した、ということだな。」
「ええ。 ですから80%、です。 最後の20%は至極単純。 今更説明の必要もないでしょう。」
「全く同感だな。 それで、アストライアはどうなんだ?」
エイベルが先を促す
「既にテスト段階での動作確認は終わっています。 ただ...」
「はぁ、そちらも結局...というわけか。」
「別にディケでもいいのですがね。 結局、どちらも多忙が過ぎるという話でしょう。」
やれやれですよ、とアイヴァンが肩をすくめる
「アイヴァン、アストライアの並行計画はどうなっているんだ?」
「ああ、そちらの件なら... 基本的な動作系統は流用できましたので、ほとんど実用段階の物になっていますよ。 ヴィヴィアナ司令の戦闘部の面々にも手伝ってもらって、試験結果は良好です。 今後、最後の詰めを終わらせれば本格的な量産体制に移れるでしょう。」
「そうか、ならいいんだ。」
ブラックが問うた内容にアイヴァンが答える
「あー、皆々様方、お話し中のところ悪いんだが...」
『ヴィヴィアナ司令、直接こちらから話そう。 閣下、それに総帥。 状況を抑えた。 エイレネ、ヘラクレス両名にこの場を任せ、本艦隊は離脱し、ジャンプ態勢に入る。』
『艦隊長』パーシヴァルからの報告だった
それに対し、雑談、というよりかは連絡を交わし合っていたその場の面々が再びヴィヴィアナの座る席にあるモニターに向き直る
「パーシヴァル、了解だ。 ヴィヴィアナ君、本部のことは後は任せる。 デイモス艦隊、及び部隊については不用意に深入りしないでもいい。 これは陽動であり、助攻に過ぎない。」
「了解だ、スノー閣下。 パーシヴァル、そういうわけだ。 全要員に実行権限を与える。 デイモスが投入した全ての戦力に対する無制限の戦力行使を行い、この脅威を完全に破壊しろ。 容赦は要らない。」
『言われるまでもないな、ヴィヴィアナ司令。 では、これより任務を開始する。 それでは、また連絡する。 通信終了。』
モニターが暗転する
「よし、各員、作業に戻ってくれ。 連中... それにルミエールのことだ。 まだ何か手を残していてもおかしくない。」
スノーがそう言ったのを合図に、それぞれが解散していった
それを見届け、彼女も部屋の出口へと向かって歩いていき、そのまま部屋を後にした
オペレーションシージアース
1日目
西暦3020年12月5日[STC]
協定宇宙時16:02
地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域
──Side: 三人称視点
『フォワードシールドが落ちるぞ!』
『踏ん張れ! まだアーマーが残ってる!』
『アマテラスより全ユニット指揮官、損耗の激しい艦は引き続きアマテラス後部へ...』
CAU旗艦、アマテラスは既に1時間以上、敵艦隊からの熾烈な砲撃に耐え続けていた
しかしながら、息つく暇すらないその状態に、ついに限界が見えつつあったのだ
『機関室よりブリッヂ、第2オーバーローダーが機能停止、右舷側のシールドブースターへの出力がもう間に合わないぞ! 残り10%!』
『やむを得ん、フォワードシールドを止めて... ムラクモサブリアクターをシールドシステム全体に回すんだ。』
『了解した! おいアレン! OL2のバイパスバルブ開けとけ!』
艦のあらゆるリソースを活用しているが、それでも限度はある
だが、しかし、それでも、やるしかないのだ
『CICよりブリッヂへ... こちらの艦隊から20キロの位置に大規模なジャンプ予兆を観測... だが何かおかしい。』
『どういうことだ?』
『ESFのパターンとも、我々のパターンとも一致しない。 空間の乱れ方があまりにも複雑すぎる。』
『...海王星からの連絡も何もない。 何が起きているんだ?』
慌ただしいブリッヂの中、何とも言えない空気が広がる
その頃、シルバースピア艦隊はレン・カエデの搭乗するスピアヘッド旗艦のブリッヂでは...
「アマテラスのシールドももう持たないか...」
「あの敵が現れて以来、ずっと劣勢です。 一体連中はあんなものをどこに隠していたのか...」
カエデの呟きに近くの席につく航行科のオペレーターが言葉を繋げる
「まさしく隠し玉というところ、か。 ...航行科、エジタイト残量は?」
「63%。 仕方ないとはいえ、さすがに無茶な機動が過ぎますね。」
「ランティッヒだったら今頃エジタイト切れか、あるいは死んでいたかもしれないな... とにかく、何か手が見つかるまでは現状を維持する他ない。」
もっとも、現状維持というにはほど遠いというのは誰もが分かりきってはいることだった
『手、か。』
「エル?」
いつの間にか開いていた通信越しにシオンハートが話しかける
おかしいな、通信を開いた記憶はないぞ、とカエデが思う間にもシオンハートが言葉を繋げる
『さっきスノーから聞いた。 ようやく掃除が終わったそうだ。 そちらでは何も聞いてないか?』
「いや、何も... おい、通信科、アマテラスから何か連絡はないか?」
「何もな... いや。 たった今アマテラスから緊急連絡だ。 こちらの艦体至近に大規模なジャンプ予告を確認したそうだが、観測された既存のあらゆるパターンと一致しないため、最大限の警戒をするように、とのことだ。」
「...!」
それを聞いた時、カエデは1つの可能性を即座に思い浮かべる
『聞こえたぞ、レン。 ようやくだ、ようやく耐え忍ぶ時も終わる、そういうことだな。』
そう言ってシオンハートがニヤリと笑う
ブリッヂのモニターに映された戦況図、そこにはCAU艦隊の右翼側20キロの位置に確認された大規模なジャンプ予告の警報が記されていた
カエデはそれを見つめ、そして誰にも聞こえないように──恐らくシオンハートは口の動きで気づくかもしれないが──呟く
「何をしてたのか知らないが... 見せてもらおうか、パーシヴァル。 ジャッジメント本部の艦隊の力、を。」




