106: EP6-12 想定外
...ん? 何かがおかしい...
オペレーションシージアース
1日目
西暦3020年12月5日[STC]
協定宇宙時15:25
地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域
──Side: 三人称視点
『...』
「ディケ?」
ライブラのコックピットの中、ローランドはディケの表情がどこか妙なことに気づいていた
『...ああいえ、なんでもありませんよ。』
「...そうか。」
今更疑うことはない
もちろん、それは何かを隠していることは間違いない、という意味で、ではある
ライブラの性能と、自身の使える能力を考えれば──そして実際に起きている事実として、ローランドはこの戦場を自在に駆けていた
射撃戦、近接戦、どんな舞台であっても彼とその機体が後れを取ることはなかった
とはいえ、一つのバトルワーカーで何か大きなものを打ち倒すというのは、簡単なことではない
事実、彼は先ほどから戦場を支配しているあの謎の艦隊へは有効な手段を見いだせていなかった
「それでディケ、お前は何か思いついたか?」
『うーん。 確かにずっと考えてはいますが、現状のこの機体の武装ではあのレベルの装甲を貫徹することは困難、ということぐらいしか。』
「...言うまでもないことか...」
やはりあれはさすがに味方艦隊に任せる他ないか──
そんなことをローランドが考えた矢先、コックピットに敵機の接近を示す近接警報が響く
場所は... 背後!
『ローランドッ!』
「分かってるディケ!」
人間離れした──文字通り機械の、一瞬の反応速度でローランドはライブラを前に飛びのかせる
そして、その勢いのまま振り返る
そこにいたのは輝く純白の機体
そんな眼前の機体から通信が入る
『なんだか前も避けられた気がするんだけど。』
「気のせいじゃないか?」
クロノスだ
「...それはそうと、お前は本当に...どこにでも現れるな。」
『まぁそういうものだよ。 ローランドくん、さっきから見てたけどさ、まさか同士撃ちを誘うなんてねぇ。 お見事、って感じだよ。』
「お前は敵なのか、味方なのかはっきりさせたらどうだ?」
『正直なところ、どっちでもない、かな。』
「はっきりさせたら、と言っておいてそれか...」
苦笑いしながらそんなことを言うクロノスにローランドは呆れる
『...ねぇ、君はシオンハートにどれくらい聞いてるの?』
「どういうことだ?」
『ん-とね...』
クロノスが操縦桿から手を離し右手を顎に当てて考え込む
『そこまでだ、クロノス。』
「げっ、シオンハート...」
通信に突如としてシオンハートが割り込む
気づくと、2機の間にシオンハートのマリエルが割り込んでいたのだ
『...クロノス、お前、一体どうやった?』
『さぁ。 気づいたらこっちに戻ってきてたんだよね。 てっきり私はシオンハートが... アビサルハート、貴女が許してくれたんだと思ったんだけど。』
ローランドには理解できない会話が目の前で展開され、事態は進んでいく
そして、その傍らでディケが焦った顔をしているのにローランドは気づいていなかった
『...私は何もしていない。 お前がこうやって余計なことをしないように、お前を事が終わるまで隔離しておくつもりだったんだ。』
『あ、どっちにしろ終わったら解放するつもりだったの?』
『お前みたいなのをずっと隔離しておくのはリソースの無駄にも程があるからな。』
ついていけない、一体何の話だ?
それがローランドの思うことであり、この2人が組み合わさるといつもこうだな、とも思う
『はぁ、シオンハートはいっつもそういう物言いで... まぁいいや、それで? また同じことをするつもり?』
『...うーん。 こんな想定外が起きるんじゃ上手くいくかどうか...』
通信の送信側だけを切ってローランドが呟く
「なぁ、ディケ。 この2人は何を言ってるんだ?」
『...さぁ。 シオンハート准将は元から時々分からないことを言いますし、このクロノスという存在は見ての通り、この世の存在とは思えません。 』
「...まぁそうか。 さて、どうしたもんかな...」
ローランドは頭を抱えたくなる気持ちを抑える
眼前の2機は戦場で出会う度にこうやって話し込んで戦う気というものを感じられない
おおよそ兵士というものとは思えないが、ディケの言う通り、シオンハート准将には元々妙な点がないわけではなかった
今思えば、以前火星でシオンハートのような誰かが何者かと話し込んでいるところを見て、直後にはそれが妙な夢だと思って目を覚ましていた
しかし、あれはやはり事実だったのかもしれない、と
「...こっそり離脱するか。 さすがにここにいる意味はなさそうだ...」
『まぁ、そうでしょうね... シオンハート准将も、クロノスも... 本当に分からない存在ですから。』
そんなことを言い合い、ローランドはライブラをその場から離脱させる
幸いにも、2人はまだ何かしら会話を続けているようでこちらに気づく様子はなかった
「...とりあえず... 一度戻ろう。 ディケ、エジタイト残量は?」
『45%。 確かに一度補給したほうがいいかもしれませんね。』
「了解。 行こう、ディケ。」
『オーケー。 私達は今ここで合わなかった... いいな、クロノス。』
『まぁ... そういうことにしとこっか。 お互いにそのほうがいいね、今は... って、あれ? ローランドくんは...』
『...いつの間にかいなくなってるな。』
『わかんない話されて嫌になった、ってとこか。 まあ仕方ないね、シオンハート?』
『...はぁ。』
「うん? スノー、貴女がそちらから来るなんて...」
「緊急事態だ。 傍受されるわけにはいかないから...」
どこかの研究室のような場所、そこにはレイナとスノーがいた
「...どうしたんだい。」
「ジャッジメント本部に... ううん、『保管庫』に侵入があった。」
スノーの顔色は悪い
「『保管庫』に? 貴女に気づかれる事なく侵入できるわけがないんでしょう?」
「ああ。 だから余計にタチが悪い... 私に一切勘付かれることなく『保管庫』に侵入して... しかも、結果論的兵器に起動の痕跡があった。」
「...なんてこと。」
レイナが息をのむ
「結果論的兵器は... 君の知っての通り、どのような結果を指定したのかは分からない。 誰が... 一体何の目的で、何をしたのかは...」
「影響は?」
「分からない。 どれが結果論的兵器によるものなのかは私ですら把握できないんだ。 ...状況から考えて、ロクでもないことになりそうではあるけど...」
スノーが一度言葉を切り、そして続ける
「可能な限り手は打つ。 しかし、超因果的作用は... 予測は不可能だ。」
「...今更だけど、保管ではなく破壊しておくべきだったね。」
「過ぎた話だ。 先の事を考えよう、レイナ。」
レイナが少し考えた後、自身が座るデスクの隣にある椅子をスノーに勧める
「一旦落ち着こう。 何か飲んで落ち着いたほうがいいさ。」
「...ああ、呼ばれるよ。」
スノーは椅子に座り、どこからともなくティーカップを取り出す
そして同じくどこからか取り出した水筒を取り出すと、中身を注ぎ、そして、飲み始めた




