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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP6 『オペレーションシージアース』

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105/129

105: EP6-11 セラフィエル

──ジャッジメント本部、『保管庫』


「急に貴女が呼び出すから何があったのかと思えば。」

「...悪いね、レイナ。」


使いたくはない手段だ。

だが...


「『保管庫』。 貴女がここに来ることはまず滅多にないわね、つまり...」


レイナが部屋に置かれた機械へと歩み寄る。

そして、その操作用コンソールをそっと指でなぞる。


「...君と私で作り上げた最高の失敗作。 結果論的兵器。」

「そうだね。」


自身の中に2つの存在が同居する、というのはどのような感覚なのだろうか。

全ての始まりとなった玲奈と、ある種、その最高傑作のレイナ。


いいや、私だって変わらない、か。


「スノー。 言うまでもないんでしょうけども...」


そう言うレイナは怪訝な顔とも、あるいは心配そうな顔とも、何とも言えない顔だ。


「分かっているさ、レイナ。 この兵器はあまりにも副作用が大きすぎる。 どんな結果でも望む通りに実現できる因果律超越的兵器。 だが、その過程の制御が一切できないというのじゃあ... いくらなんでも、だよ。」

「全くね。 ...スノー、こんなものに頼らなくてもまだ手段はあるじゃないか。」


手段、か。

それもそうか。


「スノー、待たせて悪かったわね。 ダイブトルピードプラットフォームの準備は終わったわ。 装填は終わっていたんだけどね、ちょっとしたトラブルも... まぁ解決したから大丈夫でしょう。」

「...そうか、それは朗報だ。 ...セラフは?」

「繋ぐよ。 ...セラフ?」


レイナがどこからともなく取り出した携帯端末からホログラムが立ち上がる。

通信の先はもちろん、セラフ。


『どうした、レイナ?』

「セラフィエル4のマザープラットフォームのトラブルが解決したわ。 それと、スノーから射撃要請、目標、デイモス艦隊。」

『了解した、特別の指定はあるか?』

「何かあるかしら、スノー。」


...いや、まぁその条件でいいか。


「いいや、特には。 デイモス艦隊を優先してくれ。 こちらの艦隊が張りつけられている今、それだけが頼り... ん?」

「どうしたの?」

「...ま、まさか。 いや、そんなことが。」

『...こっちでも観測した。 まさかここの技術水準であんなことができるとは...』

「セラフ、データリンクを。」

『分かってる、今回すさ。』






オペレーションシージアース

1日目

西暦3020年12月5日[STC]

協定宇宙時(STC)15:23

地球の衛星、月、ルナ・ゲートウェイ・ステーション上空、艦隊交戦宙域



──Side: 三人称視点



「いくら硬くてもこれだけ近寄れば...!」


愛機のコックピットの中、ルイナは一人呟く

大型攻撃機と大差ない状態の重装フルアーマーアルティアを駆り、戦場を駆け抜けていた彼女だったが、戦場に突如として出現した謎の艦隊相手には攻めあぐねていた

120mm機対艦ブラストレールガンですら貫通できない装甲を前に、有効な手段を持ち合わせていないのだ

もちろん、バトルワーカーに搭載できる程度の兵器では宇宙艦相手にどうこうできるほうが少ないのだが...


それでも、ルイナはできる限りのことを試そうとしていた

のっぺりとした直方体のほうな船体を前に、どこかに弱点がないかと探っていたのだ


「...っち、また弾かれた。」


もう幾度目かも分からないアプローチ、攻撃はやはり意味がないままだ

何より、残弾もさすがに心もとなくなってきたというところ


「...次ダメだったら一旦下がろう。 補給しなきゃ。」


一度距離を取り、旋回して再度攻撃を試みる


ESFの制宙戦闘機はCAUの制宙戦闘機部隊と交戦しており、ここまで明確な妨害は入っていない

実用化からほんの半年程度の新兵器ではあるものの、それでも彼らは互角かそれ以上の戦いぶりのようだった


「次は...」


機体のシステムに入力しておいた効果のなかったポイントを見ながら機首を目標とする艦に再び合わせ、レールガンの照準を定める


ふと、ルイナの背筋を悪寒が撫でる


「...!」


それを感じ取った彼女は、その予感の正体を探ろうとし、そしてそれが遅かったことを悟る

眼前の謎の敵艦、それから伸びている砲塔の1つが自身を正確に捉えていたのだ


「FCSからのロックじゃない? 一体...」


宇宙艦がバトルワーカーや制宙戦闘機程度の小型目標を狙うなら、至近距離用の照準レーダーを照射してくるはず、という常識に反するその事態に打てる手を探す


「...っ! 間に合わ...」


その叫びとほぼ同時に、敵艦がアルティアに向け、レーザーを発射した




その様子をウィルクスはアルティアの機外カメラの中継映像から認識していた


「──っ!!」


司令官が取り乱すわけにはいかない、という理性を持って声を上げることを抑えられたものの、絶望感がウィルクスを襲う

こちらの艦船を一撃で撃沈しかねない兵器の直撃をバトルワーカー程度が受ければ助かる見込みはないからだ


一瞬、ウィルクスは放心する

しかし、今の状況で仮にも一艦隊長である自身が行動不能になることは避けなければならないと、自身を律する

私情を挟み込むようでは司令官失格だ、と


意識を再び戦況に向けようとした時、違和感に気づく

アルティアのレーダー反応が消えていないのだ


「...ルイナ?」


ウィルクスはそう小さく呟き、その動向に少しだけ注意を傾ける





「...っ...まだ...生きてる。」


身体が痛い

それが一瞬意識を失っていたルイナが次に感じたことだった


「状況は...」


何が起きたかを反芻する


「...自動パージ。 まさかそれで助かる、か。」


敵艦のレーザーが直撃した瞬間、アルティアのシステムは外装である重装フルアーマーパーツからアルティア本体を射出していたのだ

完全自動化されていたそのシステムにより、アルティア本体はほとんど無傷で難を逃れていた

しかし、安全性を無視したシステムであった以上、コックピットへの衝撃を完全に抑えることはできず、それによりルイナは一瞬だけ意識を飛ばす事態となっていた


ルイナはすぐに機体の状態を確認する

幸いにもほぼ全てのシステムが無事であり、機体背部のレールガンも無事なようだった

しかしながら、そのレールガンの残弾は装填済みの1発と砲身後部に入った予備の1発のみ

それに、現在の位置はCAU艦隊から大きく離れてしまっている


「まだやれる。 お姉さま、見てて。」


謎の敵艦の位置をレーダーで確認すると、ルイナはとあるシステムを起動する

トリガーをしっかりと握り直し、アルティアの左腕を敵艦の方向にある何かの残骸へと向ける


ルイナがトリガーを引くと、前腕部から何かが射出され、残骸へと向かっていく

よく見ると、それはワイヤーで機体と繋がったままだ


「...よし!」


何かを確認したルイナがもう一度トリガーを引くと、瞬間、アルティアがその残骸のほうへと急激に引き寄せられる

移動していく機体を制御し、残骸へと脚部を向ける

そして、アルティアはさながら着地するかのようにその残骸へとたどり着く


そう、これこそがアルティアが無重力空間では重装機ながらも高機動性を発揮する所以である、『グラップリングフック』だ

ワイヤーで繋がった鉤爪を射出し、目標へと食い込ませたところでワイヤーを巻き取り機体を高速でそこへと移動させるこの装備を使い、彼女とアルティアはそのような用途に使える対象が多い環境下では異常とも言える機動性を発揮できるのだ


幸いにも、この場には激戦により作られた残骸が山ほどあり、選ぶのには苦労しなかった


ルイナは機体をいつも通りに操り、敵艦へと近づいていく

目標はただ一つ、決まっていた


「...さすがに、取りつけば何か手がある。」


彼女はそう小さく呟き、ただひたすらに、前へと進み続ける

戦況がESF側に傾きつつあるこの状況ですら、まだ諦めるわけにはいかなかった






その頃、一方、ESF旗艦『フェイトブレーカー』艦橋でも動きがあった



「オロバス、状況は?」

『バトルワーカー戦がどうか、でいえば劣勢、というところだ。 やはり敵方にシオンハートやマルコシアス、後は...ジャッジメントの使い、そういった面倒なのがいるのが厄介だ。 連中がいるセクターはどれも突破されつつある。 それに、先ほどからクロノスが行方不明だ。 あの天使が撃墜されるとは考えられないが、もしシオンハートあたりとかち合ったなら...』

「分かった。 可能な限り抑えてくれればいい。 その間にこちらの艦隊でCAU艦隊を撃滅する。」


ESFの艦隊司令官、レライエとバトルワーカー部隊司令官のオロバスが会話を始めていた


『それは分かったが... 本当に大丈夫なんだろうな。』

「心配しすぎだ。 あの天使との取引で得た最後の切り札を切った。 今頃ジャッジメント艦隊は本部の艦隊が抑えているはずだ。」

『ああ、あの... 時間迂回なんたら、か。』

「それだ。」


浅黒い肌に短く切り揃えた黒髪、黒い瞳、そして鍛え抜かれた肢体

恐らくは生身での格闘戦でも並みの人間なら圧倒するであろうオロバスは怪訝そうな顔で通信越しにレライエに疑問をぶつける

白い肌にオールバックの金髪、青い瞳を飾るのは細い銀のフレームを使った眼鏡

言うなれば、知性的とも見れるその容貌のレライエがそれに返す


「この数年間、温存しておいた意味、今ここで使わずしてどこで使う? ここを押さえることができれば、本部の連中も、それに、ルミエールだって招ける。 多少のリスクは考慮の上だ。」

『まぁ、それはそうだ。 確固たる足場があれば何もかもが変わる。 ここまでの犠牲が報われる。』


オロバスが覚悟を秘めた目で答える

明らかにESFではない何か別の組織の話をしているような2人であったが、それを聞いている艦橋のクルー達は特別疑問を抱く様子もない


「それに悪い話ばかりでもない。 つい先ほどだが、海王星の一件でもこちらを苦しめた敵の攻撃機の撃墜に成功した。 ようやくあの時の報復が成されたんだ。」

『おお、アイツか... あれのミサイルには凄まじい犠牲を強いられたからな。』

「もっと早く艦隊を投入していれば良かったかもしれなかったが、それでも、ジャッジメントが監視していることを考えたらこれで正解だった、と思うしかない。」


レライエは拳を握りしめる


『そういうことにしておこう。 まぁ、そちらの状況も分かった。 引き続きやれる限りやろう。 ここが正念場、だろうからな。』

「そうしてくれ。 こちらも指揮に戻る。」

『任せたぞ、レライエ。』

「そこらこそ、だ。 オロバス。 ...ん?」


通信を切ったレライエが眼前のモニターの1つを注視する

それはあの謎の艦隊の1つが映っていた


「今何か...」


その映像に違和感のようなものがあった

黒くのっぺりとした表面に変わりはない


しかし直後、それに変化が現れる


その装甲の表面を突き破り、爆炎が生じたのだ


「んなっ!? あ、あり得ない、まさかジャッジメント... 違う!?」


冷静な表情を崩した彼はその原因を探そうとする



そして、その原因というのはもちろん...






「っぶない! ...でもやっぱり有効だった!」


時間をかけ謎の艦に詰め寄ったルイナはその表面に取りつき、弱点を探していた

その装甲表面は近くで見てみると思いのほかでこぼことしていて、遠くから見た時ののっぺりとした印象はない

そして、ついに彼女は弱点を見つけたのだ


それは、先ほど自身を撃墜したのと同じレーザー砲塔だった


確かにそれは装甲化されていたものの、砲塔の回転機構にわずかな隙間があるのを見逃さなかった

そして、残ったたった2発のレールガンの、その1発を寸分違わず、その隙間へと撃ち込んだのだ


直後、砲塔は内部から爆発し、周囲に破片をまき散らす

この謎の艦が戦場に現れて以来、初の損害らしい損害を与えたのだ


「...さて、問題はどうやって帰るか...か。」


握ったままだった操縦桿を一度手放し、ルイナは考え込む

アルティア本体の推進用エジタイトは十分に残っており、艦隊へと戻ることは不可能ではないだろう

しかし、単機で敵陣を後方から突破し、戻ることができるのか

それが彼女の迷う点でもあった


「ま、なるようになるか。 考えてても仕方ない、やるしか、ない。」


そしてもう一度操縦桿を握り直すと、ルイナはアルティアをその場から離れさせた

もちろん、それと同時に最後の一発をレールガンに装填し、もしもに備えながら






「ったく、一体何をしたらあんなことができるんだか。 解析のシグナルはアルティア... あのルイナとかいう奴か。」


遠くから戦場を望む少女の姿をした何かは一人呟く


「まぁいいか、後でアビサルハートにでも聞いてみれば教えてくれるだろ。 んなことより仕事だ仕事。」


少女の姿をした何か、セラフはぶつぶつと呟きながら手元に出現させたホログラフモニターを操作する

いくつものログが高速で流れ、何かを処理しているようだ


「セラフィエル7とのアップリンク完了、セラフィエル4、ジャンプアンカー固定...」

『レイナよりセラフ、ジャッジメント本部側のセラフィエル4マザープラットフォームは全弾射出指示待ちよ。』


追加でホログラフモニターが開き、レイナとの通信が繋がる


「あいよ、アンカープラットフォームも今ジャンプアンカーの固定が終わったところだ。 ターゲッティングプラットフォームが今最終測量に入ってる。」


そう返すセラフの背後には30メートル四方サイズの大きな機械が2つ浮いていた

そのうちの片方にはあちらこちらに大型のセンサーやカメラのようなものが取りつけられ、それらがせわしなく動いている様子が見て取れる


『セラフィエル7との接続良好、リアルタイムデータリンクを確立。』

「『回廊』の制御はセラフィエル7で中継する。 ...よし、マザープラットフォームとアンカープラットフォームを接続するぞ。」


もう1つのほうの機械、その表面に丸く刻まれていた紋章のような部分が発光し、波立つ

発光は眩しくそこに何が起きているかを正確に認識することは難しい


「『回廊』安定。 ダイブトルピードの通過安定性を確保。」

『確認したわ。』

「ターゲッティングプラットフォームの測量完了、ロックオンを開始...」


セラフのその言葉と同時に、発光を続ける機械が、その向きを変え始める

彼女の言葉から考えるのならば、狙いを定めているのだろう


「...ターゲットロック。 ダイブベクトル確立。 焦点距離、問題なし。」

『ランチャー1を射出位置へ移動。 カバー解放。』

「オーケー。 セラフィエル4ランチャー1、射出シークエンスを開始、射出まで3...2...1...」


直後、彼女の背後に浮かんでいた発光する機械の、その波立つ面から何か大きなものが出現する

徐々に姿を現すそれは、次第にその正体が明らかになる


「何度見てもでけーよ。 ...やりすぎだよな、直径20メートルのミサイルってよ...」


それはあまりにも巨大すぎるミサイルだった


100メートル近い長さの全体が面を通り抜け姿を現した時、その姿は忽然と消える


「ターゲッティングプラットフォーム、弾着観測開始。」






所変わり、シルバースピア艦隊はその第1艦隊、スピアヘッドの旗艦にて、カエデは奮戦していた


「さっきから言っているだろう! シールドが損耗した艦を順番に下がらせてローテーションさせろ! エジタイト残量が減った艦はアマテラス後方の補給艦まで行かせるんだ!」


彼は、混乱する戦況の中、指揮官としての務めを全うしようとしていた


そこに通信が入る


『レン。』

「エルか、どうした?」


通信に映ったシオンハートの顔がどことなく明るい


『たった今、ジャッジメントの支援兵装の稼働を確認した。 次元転移型の超大型トルピードのようだ。』

「ジャッジメントの? それはありがたいな...」


ようやくか、というのが彼の思いだった


『今こちらの映像を回す。 そちらの望遠映像よりはよく見えるはずだ。』


そう言ってシオンハートがバトルワーカーの機外カメラの映像を中継する

それには確かにあの謎の艦が決して遠くはない位置に映っている

つまりは、彼女の機体、マリエルは相当前線に突出しているようだ


そして、そのうちの1つの至近距離に突如として全長100メートル近くにもなる大きな物体が出現し、そのまま凄まじい勢いで突き刺さるかのように進む


「は?」

『うわなんだあれセラフの奴...』


2人して奇妙な声を上げる


その直後、その物体は謎の艦に突き刺さるや否や、そのサイズに逆に見合わないほどの凄まじい大爆発を起こす

全長500メートルは超えるであろう謎の艦を丸ごと包むほどのその爆炎が消えた時、そこにあったはずのその艦も、跡形もなく消え去っていた


「...?」

『...?』


そして、2人のリアクションが綺麗に一致する

2人揃って、首を傾げるしかないのだ


「かっ...艦隊長! 敵陣で異常な反応を確認しました!」

「あ、ああ... こちらでも確認した。 ...したんだが...」


本部の戦力を見くびっていたな──

カエデはそんなことを思いつつ、半ば放心状態だった


『おいカエデ、何か聞いてるか?』


ふとウィルクスから通信が入る


「あ、あぁ。 エルが言うにはジャッジメント本部の支援攻撃のようだ。」

『...あんなもの、ジャッジメント本部の保有戦力にあったか...?』

「隠していたんだろうさ、きっと...」

『はぁ... スノーの奴は隠し事がいつも通り多すぎるな。』


こちらの2人でも、やはり似たような反応をするばかりだ


そこにエンスウェンからの通信が割り込む


『カエデ、それにウィルクス。 次元間抗争というものはああいったものが標準なのか?』

「いや、そんなことはない... ないと言いたいんだがなぁ...」

『スノーの奴は隠し事だらけだからな...』


やけに弱々しい返しをするカエデと、最早つい先ほどと同じことを言うしかないウィルクスだった






「確認、1キル確定だ。」

『問題なさそうね。』

「問題というか、やりすぎというべきだな。」


セラフが呆れた顔をする


『...まぁ、残弾は5発しかないから、ちゃっちゃと使っちゃいましょう。』

「そうだな、さっさと使ってジャッジメント本部艦隊の到達までの時間稼ぎと行こう。」


セラフはそう言うと、先ほどと同じように発射シークエンスを開始する


「...ま、だからよ。 さっさとしてくれよ、パーシヴァル。」


セラフはそう呟き、作業へと意識を集中させた

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