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DAGOKU-ダゴク-  作者:
3/5

きぼうの記憶

 空に浮かぶ島。


 巨大な島の周りには点々と小さな島の群れが浮かんでいる。ジンはその島々を楽園と呼んだ。僕はその島々にどこか懐かしさを覚えた。けれど、僕はジンに説明されないと空に浮かぶ島が何なのかわからない。それが僕には無情に悲しかった。

 でも、僕にはなぜ悲しいのかわからない。


「楽園?」


「天使の住む都だ」


「あれが………」


 僕は空を見上げたまま呟いた。

 なぜか胸が焼けるように熱くて、楽園に恋焦がれる自分がいた。わけもわからず、僕はただ楽園を見続ける。何か思い出せるのではないかと、期待するように見る。

 けれど、僕のぽっかりと空いた穴を埋めることはできなかった。


「思い出せない」


「まあ……、そんなことは気にするな。俺のところで泊ればいい」


「……でも」


 僕は躊躇った。

 僕はなぜ躊躇したのかわからない。別に遠慮してためらったわけではない。なぜかすぐに肯定することができなかったのである。僕の中の何かが返事をためらわせた。

 初めて会ったのに助けてもらって、その上、帰る場所のない僕を家に泊めてくれると言ったのだ。そこまで親切にしてくれる彼の提案を感謝こそすれ、躊躇う理由が僕自身わからない。

 けれど、僕はジンの言葉に素直に頷くことはできなかった。


「住むところないんだろ?」


 躊躇する僕にジンは口端を少し上げて、柔らかく微笑む。まるで、彼は僕に心配することはないと言っているように見えた。柔和な微笑みは僕を安心させてくれる。

 つい僕はジンのことを信じてしまいたくなる。


「でも、僕が泊ったら迷惑じゃ」


「ああ! そうだよ」


 僕がしゅんとして下を向いて呟いた時、ジンが大声を上げた。その声に驚いで僕は反射的に顔を上げる。まじまじとジンを見上げると、彼はちょうど何かを思いついたようである。まるで、子供が悪戯を思いついたかのような、生き生きとした表情をしている。

 彼はフフフと今までとは異なる笑みを浮かべて僕を見る。


「またさっきみたいに変な奴に襲われたら嫌だろう? ここじゃ天使を好んで食する奴もいる。君は危機意識も低そうだね。はい、コレ!」


 ジンは右手でズボンのポケットを探ると、黒いベルトのような物を取り出す。それは、ベルトにしては短くて細かった。それをジンはにっこりと微笑んで僕に差し出してくる。

 僕は戸惑って、ジンの顔と彼が手にしている物体を見比べる。いくらにっこりと笑って差し出されても、僕には彼が手にしている物の用途がわからなかった。どうすればいいんだろうとオドオドとしてしまった。


「首にするんだよ。それを首につければ、さっきみたいな奴から身を守れる。撃退、撃退ってね」


 僕はそう言われて、ジンからベルトのような物を受け取って両手で持つ。黒い皮でできたそれは、中央に銀のプレートがあるだけのシンプルなデザインである。そのプレートには十字架が刻まれていて、雷のモチーフがそれを飾っている。よく目を凝らしてみると、小さな十字架には文字が刻まれている。僕にはそれが何と書いてあるのかわからない。

 ジンに貰った物を首にする前に一度十字架の向きを確認してから、僕は端と端を持って首の後ろに手を持っていく。


「ああ! 違うよ。逆だよ。逆!」


 僕は自分の手から離れていくそれをただ見ているだけだった。ジンは僕の手からそれを受け取ると、金属プレート見て向きを確認する。そして、僕の後ろに立つと、僕の首に回してそれを留める。

 ガチャという金具の留まる金属音が、僕にはやけに耳につくように感じた。


「あっ」


 僕は金具を留める音に過剰に反応してしまう。

 僕自身わけがわからないが、僕は大切な何かを失ったように感じた。右手をゆっくりと持ち上げて、首に持っていく。人指し指一本で十字架を横になぞると、ゾクッと怖気が走る。

 急に不安になってきた。

 けれど、これがこれからの自分を守ってくれるのだと信じて、自らを鼓舞してジンに振り返る。


「ありがとう」


 心の底からの笑みを浮かべてお礼を言った。満面の笑みでジンに笑いかける。僕は君に会えて幸せだと思った。

 ジンは僕の顔を見て、驚いたような表情をする。右手を挙げて眉間をおさえると、今度は僕に背を向ける。そして、しきりに首を左右に振っている。僕は彼が何をしたいのかわからず、ただ見上げることしかできない。

 ジンは僕の存在を忘れたかのように、何かを考え続けている。僕は一人置いて行かれたように感じて、少し寂しくなった。たとえそう感じても、僕には彼に何と声をかければいいのかわからなかった。


「おらっ! さっさとついてこい。置いて行くぞ!!」


「えっ?」


 僕が物思いに沈んでいる間に、ジンはさっさと歩きだしていた。一度、僕を振り返って声をかけると、すぐに彼はまた背を向けて歩き始めてしまう。僕はジンに置いて行かれるのが嫌で、小走りで追いかけようとした。傷だらけの体にはそれがきつくて転びそうになったけれど、そんな僕にジンが気づいて支えてくれる。

 僕は嬉しくて、つい顔が緩んでしまう。僕はもう、何もわからないことに怯えてはいなかった。ジンのやさしさに甘えていた。

 ただ幸せを感じているだけだった。


 ……けれど、僕の中に一抹の不安が残った。

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