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KNOCKER  作者: 謝花 昴
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3話 夢世界へ

 かつて少女の部屋の入り口であった扉に手をかけ一気に開き、素早く夢世界へ突入する。


 雄大な青空が頭上いっぱいに広がり、太陽の光が降り注いでいた。

 光は森を照らし、森は湿気を帯びた清らかな空気を作り出し、それが肺の奥まで満ちていく。

 遠方には山々が連なり、美しい稜線までくっきりと見渡せる。

 ただ、目を凝らしてみると、景色の端々に微細なノイズのような揺らぎが走る。

 現実と寸分違わぬ世界のはずなのに、どこか違和感が、視界の奥でかすかにざらついている。

 そして眼前に広がるのは、プレハブの建物や金属フェンスといった人工物。

 規模こそ小さいが、配置や構造からしてここは明らかに駐屯地だ。

 地面は踏み固められ、フェンスの向こうには簡易の監視塔らしき影も見える。


「無事突入できたな。

 気分が優れない奴はいるかぁ?

 中には突入しただけで気分が悪くなるやつもいるからな!」


 戦闘準備を整え、緊張で顔を強張らせたまま突入した新人たちは、 目の前の光景にぽかんと口を開けて立ち尽くしていた。

 その背後から、桃原がゆっくりと歩み寄る。足音はわざと軽く、声の調子は少し柔らかい。


「どうした?

 異世界みたいなものが広がっていると思ったのか?

 ここは新人向けにも使用される夢世界だぞ。

 軍と超能力連合が主体で整備されていても何も不思議じゃないだろうよ。

 もし入って早々に危険な状況になっていたら、夢世界が暴走している最中だろうさ」


 桃原は新人たちに意地悪そうな笑みを向けた。

 新人たちは一気に気が抜け、肩から力が抜け落ちるように疲れた表情を見せた。

 突入前の緊張が解け、その場に崩れ落ちそうになる。

 メイちゃんの説明の件もそうだが、この男はどうやら、真剣な場面にわざと小さな悪戯を差し込んでくるのが好きなタイプなのだと彼等は桃原への理解を深めた。


「よし。では無事突入ということで、この広場で各自十五分ほど能力の使用をして夢世界内部での感覚を掴むように。

 入る前にも言ったが、違和感があるものはすぐに報告をするように。

 人によって夢世界毎に相性があるみたいで、思うように能力が使えなくなる者もいる。

 そういった者は改めて別の夢世界で再度試験を受けてもらうことになるから、違和感があるのに隠して無理するなよ」


 そう新人たちに言葉をかけた桃原は、教官たちが集まっている方へと歩を進めた。


「安田。さっきはすまなかったな」


「うっせぇ。あれはあのガキたちも悪いが、しょぼくれるお前も悪い。もっと堂々としろ」


「そうですよ先輩。固有能力を禁止しての組手で先輩に勝てる人なんて軍とギルド併せてもそうそうないんですから、もっと堂々としてなきゃ格好つかないですよ。」


 もう一人、別の男性教官が安田の発言に便乗する。

 男は、桃原へ向けキラキラとした尊敬の色を宿した視線を送っていた。その目は茶色が強く、光を受けると琥珀のように澄み、憧れを隠しきれない少年のような瞳をしている。

 身に着けているのは桃原や安田と同じ傭兵風の装い。ただし装備は最小限で、腰回りの荷物も少ない。動きやすさを優先したその姿は、桃原の重厚な戦闘装備とは対照的な軽快さを漂わせていた。

 身長は一七〇センチに届かないほど、髪は金色で、短く整えられている。陽光を受けると柔らかく光り、顔立ちは整い、線が細い。桃原と安田の屈強な体躯の隣に立つと、その差は否応なく際立ち、雄々しい二人の影に包まれた彼は、どこか少年のように見えてしまう。


「安田も高江洲もありがとう。」


 感謝の言葉に喜びの表情を見せつつ高江洲と呼ばれた男性は続けて言った。


「そもそもそんなに強くて固有能力がないってのがおかしいんですよ。ただ、今の我々の技術では判別できないだけで絶対に能力に目覚めてますって。

 夢世界に入る前に女の子も先輩に聞いてましたけど、身体強化系の能力者の可能性はやっぱり高いと思います。

 そうじゃなきゃあんなに戦えるっておかしいですもん!」


「やっぱりそう思うか。

 でもなぁ俺自身固有能力を使用しているって感覚がないんだよ。

 基礎超能力の身体強化を発動している感覚しかないというか、、、

 身体強化ってひと昔前なら“気”と言われる分類になるから、それを駆使してるって感覚のほうが近いかな」


「いやいや、それだけで身体強化系固有能力者間違われる程の身体能力を扱う事が凄いことなんですってば、、、」


 そういうと高江洲は苦笑いを浮かべた。


「そもそもですねぇ」

 と話を続けようとする高江洲に安田が割って入る。


「おい。お前の班のやつらは確認終わったみたいだぞ。」


 そう言うと一つの班を安田は親指で指しながら高江洲に早く合流するように促した。


「俺の班も終わってるみたいだな。

 じゃあ一足先に俺らは行くとするか。

 おい桃原。“通信具”の動作確認はしたか。

 目標地点はそこまで遠くないが、お前も何かあったらきちんと連絡とれるようにしておけよ」


「ありがとう。大丈夫だ。そんな初歩的なミスはしないさ。

 固有能力がない分、お前らよりも危険な立場だという自覚はあるからな。

 むしろ用意周到に準備し過ぎて荷物が多く動きに支障がでないかのギリギリさ!」


 桃原は親指でパンパンに膨らんだ鞄を指さした。


「はっ。なら問題ねぇな。現地で落ち合おうや。またあとでな」


 桃原も能力確認が終わっているであろう班の者たちに合流をすることにした。


「お前ら能力の確認はすんだか?誰か異常があったものはいるか?」


 夢世界突入前に俺に質問をしてきた女の子がおずおずと挙手をした。


「おっどうした。能力が発現しないか?」

「い、いえ。むしろいつもより能力の感度がよくて気持ち悪いぐらいで、、、」

「確か君の固有能力は、、、」


 桃原は手元の資料を確認しつつ話をつづけた。


「水無瀬沙良、能力はエコーロケーション。斥候役での配属だな。通常とどのぐらい違うか詳細に報告できるか?」

「は、はい。訓練室ではだいたい半径10数メートルの認知ですが、今はだいたい、、、頑張れば100メートルぐらいは感知できそうな気がします、、、けど慣れないせいで、長時間感知しようとすると気持ち悪くなってしまって」


「そうか。出力を抑えて20~30メートルでの感知はできそうか?」

「は、はい。やってみます」


 そういうと水無瀬は1回深呼吸をして自身の能力に集中をする。


「、、、20~30メートルの感知問題ありません。50メートルぐらいまでは気持ち悪くなることなく感知できそうです」

「よし!上出来だ。君はこの夢世界と相性が良いのかもしれないな。とは言え、いつもより負荷が大きくなるだろうから、この駐屯地で俺らが戻ってくるまで能力の調整に時間を使い、新人教育は次回に回すのも良いと俺は思うが、どうだ?」

「あ、あの。良いのでしたら、できる限りやってみたいのですが良いでしょうか」

「わかった。じゃあ続行しよう。ただ無理そうなら早めに行ってくれよ。

 斥候は班の安全の要だ。君が倒れたら、その後の探索が厳しくなるものと自覚してペース配分を行いつつ行動するように」

「は、はいわかりました。ご許可頂きありがとうございます」

「他に異常を感じたものはいるか?

 いないなら良いが、俺たちの班の斥候役がうまく機能しなくなることも考慮して、今後の探索に臨むように。俺も最大限警戒するが各自警戒を怠らないように。良いか!

 よし。では出発するぞ!」


 そうして桃原の班はフェンスの向こう側に広がる森に向け一歩を踏み出した。


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