2話 ランク1
——— 十分後
「よし!お前たち!
装備の確認は終わったか?
これから夢世界への侵入を開始する」
大男は全員の表情を観察した。
「おいおいどうした。
緊張した顔の奴と、目をキラキラ輝かせている奴らがいるな。
危険はあるから安心しろとは言えないが、ヤバい状況になった時のために俺らがいるから、訓練通りのパフォーマンスを見せてくれ!
ではそれぞれ事前に決めた通り五人一組のパーティーになり、それぞれ担当ノッカーの前に集合!」
大男が指示を出すと、予め決められていた担当教官の前に各々移動を始め、大男の前にも五人のメンバーが集まった。
「よし!
改めて自己紹介だ。
今日お前たちの担当になる桃原結城だ。
お前らのデータは事前に確認している。
さすが新卒でギルドに所属した有望株たちだ。
みんな良い能力覚醒しているな。
今日は俺たちで一つのパーティーだ!
仲良く安全に任務を遂行しよう!」
そう話していると一人の青年が挙手をして発言の許可を求めてきた。
「おう。どうした」
「個人情報という事は承知しているのですが、差支えなければ桃原さんの超能力について概要だけでも教えていただけませんか」
その発言を受けた瞬間、桃原の顔にはあきらかに(やべぇ)と心の声が漏れ出たような顔をした
「えぇっとな。まぁ隠してるわけじゃないんだが、、、
俺はランク1だ」
そう桃原が言うと、それぞれ(嘘だろ)と驚いた顔や、冷ややかな笑みを浮かべる者がいた。
十秒にも満たないほどの沈黙の時間であったが、桃原が能力開発学校を卒業してから、嫌というほど固有能力覚醒者たちから、固有能力に目覚める事ができなかった者、“ランク1”に浴びせられてきた嘲笑、同情、侮蔑といった視線が桃原に向けられた事を感じ取る。
そんな中で、いかに新人たちから向けられた差別的な視線を逸らしつつ、教官としての威厳を保てるか思考していた時。
「おーい新人ども」
隣の班を担当する教官の男が、沈黙を割るように歩み寄ってきた。
桃原と似た傭兵のような服装だが、袖はなくタンクトップから露わになった腕と顔は、陽に焼けて土色に近い黒さを帯びている。
髪は後ろで束ねられたマンバンヘアで、背丈は桃原よりわずかに低いが、その立ち姿はむしろ重心が低く、獣のような安定感があった。
男がこちらを向いた瞬間、獣の目を真正面から覗き込んだような視線が空気に緊張感をもたせる。
その赤茶色の瞳は、夕暮れの陽が残っているような光を反射しつつ、鋭い眼光は理由なく恐怖心が胸の奥を叩く。ただ強面という言葉では表現できない生物的畏怖を感じさせる男だった。
「ウケるだろ。こいつランク1なんだぜ」
桃原を嘲笑するような発言を聞き、冷笑していた者はさらに明らかに悪意のある笑みを桃原に向け、実際にくすくすと笑い始めるものまででてきた。
「こいつ俺と同期なんだが、高等部から能力開発をしているのに二十年たった今でも固有能力の覚醒の判定はなしのランク1。
ただな。固有能力を覚醒できていなくても基本超能力だけでここの総指揮を任される男なんだよ」
男の口調は言葉を重ねるごとに荒く鋭くなった。
最初は淡々としていた声が、後半には明確な圧を帯び、その男が桃原の隣に並び立つ時には、明確に5人へ向けて嚙み殺してしまいそうな威圧へと変わる。
「こいつはな、基本超能力の成績はいつも1番で、それだけで軍からもオファーが来るような奴なんだよ。
ギルドでも専門の斥候が出払っている時は、こいつに指名依頼出すほどだ。
てめぇらにそれができるのか?できねぇだろ?固有能力の有無や能力の内容だけで人を決めつけんな。
あとな、、、お前らのその態度も今回のミッションの評価に対象だからな、覚悟しとけよ」
そういうと桃原を冷笑した者たちへ今一度、生物的に畏怖せざるを得ない鋭い眼光を飛ばした。
「安田、、、ありがとう。
でもお前ちょっと怖いよ。見ろよあの女の子泣きそうじゃないか」
新人たちの表情は先程の嘲笑から恐怖と怯えに一変した。
安田の言葉と眼光には、『一瞬で自分たちの首が飛ばされてしまうのでは』と錯覚するほどの圧があった。
これ以上恐怖を与えても以降の行動に支障があると判断し、桃原は少しでも張り詰めた空気を解消させるべく、砕けた口調で安田へ感謝の言葉と突っ込みを入れた。
「うっせぇ。顔と口が悪いのはもともとだ。
てめえが能力の話になるといつもしょぼくれるのも悪りぃんだからな。
俺らを差し置いて総指揮として選ばれたんだからシャキッとしろや」
そう言い返しつつも、安田と呼ばれた男は照れた表情で自班へ戻っていった。
「バカにした態度をとってすみませんでした!!」
安田が背を向けてすぐに桃原の元へ班の全員がかけより、
素晴らしい九十度のお辞儀で謝罪をした。
去り際の安田の表情を見てようやく一息することができたのか、新人たちの表情からは、先程までの恐怖に支配された顔ではなく、少しの安堵が見て取ることができたため、桃原はもう少し新人に気持ちを落ち着かせてもらうために優しい口調で返答をすることにした。
「教官への態度としては許された物ではないが、正直慣れたもんさ。だがな他のランク1や、自分よりランクが低い人を馬鹿にするのはダメだぞ~。
あと、安田が言ったとおり俺の学生時代の基礎超能力の評価はオールAランクで、今も磨き続けているから、そうだなぁ、、、固有能力なしの勝負ならこの中の奴ら誰にも負ける気はしないな。
あっもちろんさっきの安田にも負けないぞ。というか今迄格闘で安田に負けた事はないな」
桃原は先ほどまでのようにニッと笑って答えた。
桃原は自分が安田よりも強いという事を伝え、新人が先ほどまで恐怖を抱いていた存在よりも強いことを示す事で、今後新人たちに生意気な態度を許さないという姿勢を示した。
安田のことだ、おそらくここまで考えて、新人たちの恐怖の対象となってくれたのだろう。感謝の気持ちで胸が熱くなるのを感じた。
「あ、あの。失礼な質問になってしまうかもしれませんが発言よろしいでしょうか。」
おどおどしながら一人の少女が挙手をしつつ質問を投げかけてきた。
「おう。良いぞ。」
「安田さんが言うには基礎超能力だけで軍からもオファーがきたとのことですが、それって実は判別できていないだけで、身体能力などの超能力系である可能性はないのですか」
「確かにな。
超能力開発を受けた者や一部のアスリートなんかには特殊な身体能力の向上や変異、ゾーンに意のままに入れるなどといったランク2や3がいるが、残念ながらそれについては、もう調べたが俺はそれのどれでもなかった。
まぁランク1の中ではトップクラスの自信はあるし、夢世界ができる前なられっきとした超能力者として取り扱われただろうな」
「そ、そうなんですね。失礼な質問して、す、すみませんでした」
「よし!気を取り直して夢世界に突入しますか!
心配すんな。お前らの評価は今この瞬間から始める。
俺らが話している間に先に入っている班もあるから、ブリーフィングは内部で改めて行う。
夢世界に入ったらすぐ戦闘になるって場合もあるから気を抜かずに警戒態勢を維持しつつ突入開始!」
その掛け声とともに新人たちは夢世界への第一歩を踏み出した。




