1話 突入準備
世界は一度滅びかけた。
“夢世界”の浸食によってである。
とある国にあった超能力開発施設で超能力の暴走によって生じた物が“夢世界”と呼ばれており、今迄はおとぎ話とされてきた物語の怪物たちが現れる門が出現し、そこから発生した怪物たちに世界は蹂躙されたのである。
夢世界は世界中のいたる場所で発生し、世界の人口は半分近く減少し窮地に陥ってしまったが、それから30年経過した現在、各国の夢世界から生じた怪物の駆除が進み、規制線を引くことでなんとか人類の生存圏が維持されているのが現在である。
「お~い、お前ら聞いてるか?
この程度の内容は小中学校でも現代史で習うから退屈な気持ちになるのはわかるけどな。
まぁいいか、そんなこんなで今でも各地で生じた夢世界への対応が求められているのだが、その夢世界の入り口がこちらになります!!」
自分の横にある扉を親指でぐいと示したのは、まさに傭兵といった風貌の男だった。年齢は30半ばぐらいだろうか。身長は十八〇センチほど。ただ高いだけではなく、肩から胸、腕にかけての肉のつき方が岩を削ったような屈強な体躯だ。
髪は赤みの強い短髪で、光を受けると火の粉のようにちらりと輝く。顎には無精ひげが伸び、精悍な顔立ちと相まってさらに荒々しさを際立たせている。
大男に示された扉は、どこにでもありそうな一般家庭の部屋の扉だった。 取っ手も木目も、ありふれている。 しかし、その扉が存在している場所は異様だった。
十メートル四方のコンクリート打ちっぱなしの部屋。 壁も床も天井も、冷たい灰色の無機質な面で囲まれている。 その中央にぽつんと“普通の扉”が立っているのだから、 違和感はむしろ当然だった。
さらに、この部屋がある建物自体も特別だ。 怪物がもし扉の向こうから溢れ出してきたとしても、 即座に対処できるように造られた、 基地のような敷地内の施設。 厚い壁、広い通路、監視設備、すべてが万が一に備えられた施設である。
そんな空間の中で、男の親指が示す扉だけが、 場違いなほどに家庭的で、 逆に不気味さを際立たせていた。
「なんていうか、、、とても普通の扉ですね。
授業で習ったもっと大きな夢世界への入り口のイメージがあるから、旧住宅街にできた実という小規模夢世界の扉を見ると、、、」
まだ10代後半のように見える少年が話していると、大男がわって入り、
「わかる!言いたいことはわかるぞ。
だが気は緩めるなよ。入口がどうであれ中は危険な怪物がいる夢世界には代わりないんだ」
大男は続けて言った。
「今日はお前らの初潜入ということで選ばれた夢世界だから、危険の高い怪物がいないことは事前調査で確認済みの夢世界になっているが、それでも一般人が入ったら生きて帰るのは難しい場所であるということを肝に銘じておくように。」
「「はい!」」
その場にいる男女で15名程の10代後半~20代前半に見える男女の返事が部屋に響いた。
「そういや余談になるんだがな。
今でこそ整備されているが、ここはもと住宅街にある一軒家のメイちゃんという女の子の部屋の扉だったんだ。
ある日帰宅して部屋の扉を開くと、そこはもう夢世界の入り口になっていたそうだ。
そしてな、、、不運なことに扉を開けたらすぐに怪物と遭遇してしまったらしい。
そして少女は、、、」
大男が顔を伏せ悲しげな表情をする。
その表情に、話をきいていた数人は口に手を抑え悲しみの表情を見せたりと様々な態度を見せた。
その様子を見て満足したかのように大男はニッと笑い。
「そして少女はあろうことか、その怪物を倒してしまったらしいぞ!」
元気よく大男が話すの見て、話を聞いていた者らは、騙された事を知り、今までの表情とは打って変わり大男を攻めるような態度に変わった。
「悪かった悪かった。騙すような話し方をして悪かったよ。
しかしそのメイちゃんな、みんなと同じく能力学校に通っていた小学生だったんだが、その時に能力に目覚めて怪物を倒したらしい。
しかも1体だけじゃなく、数体が襲ってきたそうだが全部倒したんだと。末恐ろしい少女の誕生の瞬間だったわけだ。
ちなみにそのメイちゃんは、現在は軍所属になっててレベルも役職も高いぞ、お前たちもノッカー(夢破壊者)の仕事をしていたら、いつかは会う機会があるかもしれないな。
あっ、その時は今の話は内緒な!この夢世界案内の時には結構鉄板ネタにさせてもらっているんだが、あまり話すなと注意を受けたことがあってな」
大男はバツの悪そうな表情をして見せた。
一人の少女が挙手をして発言を求めた。
「あの、そのメイちゃんは何の超能力に目覚めたのですか?」
「いい質問だ。
だが彼女の個人情報だし軍所属だから機密扱いだ。お前らも自身の能力含め他人の能力は機密事項扱いだから軽々しく話すのは厳禁だからな気を付けるように。
ただ、この夢世界について調べたらわかる範囲で話すなら、なんでも素手で怪物の腹に穴を開けて倒したって記録にはある。
ちょうどどう倒したか質問がでたからな。
ついでにこの扉に入る前に事前確認をしよう。
夢世界での注意事項、特筆事項について答えてみろ」
数人が挙手をする。
「じゃあこっちから順に答えてくれ」
大男は指を指す。
「夢世界内部では重火器や爆弾、電子機器といったものが使用できません。これは夢世界を作った能力者の掟と考えられています」
「そうだな。もちろん夢世界の中で使えないだけで、こちらの世界に出てきた怪物には有効ではある。
まぁだからこそ、夢世界ができた当初は軍も夢世界内ではお手上げ状態で、世界が混乱したと言われているな。じゃあ次」
「えっと。自分たちの超能力が訓練所と同じレベルで使えると聞いています。」
「そうだ。もともと訓練所などの超能力育成施設が夢世界を模して造られているから能力についても訓練所と同レベル、もしくは訓練所より良い状態になる事が多い。
だが逆に能力が下がる者も報告されている。
これは命の危険につながるものだ。中で自分の能力に異常を感じ奴はすぐに報告しろよ。
もう一個ぐらい聞いておくか。そこのやつ答えてもらえるか」
「はい。
夢世界の内部の物は一見実物のようではありますが、すべてがエグレゴ(思念集合体)で成り立っていると考えられています。
そのため現地で何かを採取してもこちらの世界に戻ったら消えてしまうため、夢世界で飲食の現地調達は原則禁止とされています」
「そうだな。夢の中で食った物で腹が膨れたりはしないからそれと同じだな。味は普通にするから不思議な気分になるけどな!」
それを聞いて『食べたことあるんだ、、、、』と全員が心の中で思ったが誰一人として、それを口には出さなかった。
大男は皆のその表情には気づかずに話を続ける
「怪物たちも倒したら自然と灰みたいに崩れるし、ほんと不思議な世界だよ。
ただ夢世界内の怪物たちからはエグレゴ因子が効率よく回収できるし、それが俺らノッカーの主な収入源になる。あとたまーーーにだがサイコゴン(思念物質)も発見されたりする。それはエグレゴオールと違ってこちらの世界にも持って帰る事が可能だ。それらしい物をみたら俺ら教官に報告すること。
復習はこの程度にしておくか。10分後に夢世界に突入する。自分の武器や装備とEH(エグレゴ収穫機)の最終確認をするように!」
そういうと大男はまたニッと笑った。




