少女と花畑
崖から飛び降りる寸前、マリーは勇者に声をかける。
「そんなに死にたいなら私が殺してあげる」
マリーは勇者に決闘を申し込む。
あの日の勇者を取り戻すために。
ヒマリヤ村の山の麓。
マリーゴールドの花畑の中央に彼女はいた。
「ねぇ、勇者さま!」
とある依頼を受けたのがきっかけで気に入られ、後ろをトコトコついてくるようになった。
ブロンズ色の髪を揺らし、彼女はにこっと笑う。
「私も勇者様みたいになる!」
そんなことを言っていたっけ、勇者なんていいもんじゃないし、辛いことも責任もたくさんある。
「あぁ、きっとなれるよ……なら」
名前、なんだっけ?思い出せない。
マリーゴールドで作った冠を彼女に被せる。
「もし、僕が困っていたら助けてくれる?」
「うん!!」
その彼女の輝かしい顔は多分一生忘れない。
彼女はこの地のどこかで元気にやっているだろうか……
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当時18歳だった俺は勇者学校を卒業し、勇者になった。
勇者学校を卒業すると、試験の名目で学校の指定する依頼を受けなければいけない。
「ゴルくんにはヒマリヤ村の畑の被害を対策してほしい」
この依頼はEランク相当の依頼で、ギリギリクリアできるかできないかのライン。
初依頼は地元、ヒマリヤ村の害獣退治だった。
自然豊かな場所で、湖が広がっていて、普段は農作が盛んで平和な地だ。
しかし寒くなると、魔獣たちが冬を過ごす蓄えを求め山の麓にやってくる。
毎年、同じ時期に被害が報告されるため、皆、慣れたものだ。
今年卒業した俺はこの地に派遣された。
湖近くの畑が荒らされたという報告を受け、俺はそこへ向かった。
「酷いな……」
いざ状況を見て、見慣れたものだがやはり痛々しい。
まんべんなく生えているはずの小麦がまばらに喰われている。
原因は……ディーだ。
草食のディーにとって小麦はご馳走というわけだ。
足跡を探ってみると、その足跡は北の森に続いく。
ディーはただ駆除するのでは意味がない。
作物自体に対策をしないといけない。
村の人に聞いてみると、木の柵を使用しているという。
夜のうちに柵を用意する。今度は鉄の柵を用意するつもりだ。ディーもこれは破れまい。
「あれ、おにいさん何してるの?」
「危ないよ、こんな夜に外にでちゃ」
「まーちゃんもやるー」
この子供の名前はまーちゃんと言うらしい。
肩までのブロンズの髪をぴょんぴょん揺らし、スキップ混じりに畑に踏みいる。
「まーちゃん?ここは危ないから早くお家に帰りな?」
「まーちゃん仲間外れ嫌だ!」
腹にパンチを食らう。
ダメージはないが心が痛い。
がさごそと音がする。
「まーちゃんあっち手伝うよ!」
千鳥足で反対側の方に向かうが、なにやら嫌な予感がする。
その予感は当たっていた。
真っ黒の茂みの中からもうスピードでディーがやってくる。
「くっ!?」
ディーの真横からタックルし、なんとか軌道をそらす
しかし、肩にモロにダメージを食らってしまった。右腕が使えない以上、左手で剣を持つしかない。
「来い!」
正直、勇者になりたての俺は怖かった。
ディーの突進はもう二度と食らいたくないし、今すぐ逃げ出してしまいたい。
後ろを見ると、怯えた目でこちらを見ている彼女が目に入った。
「まーちゃん、今からディーをやっつけるから、あそこの上で待っててね」
こくりと頷き、安全な高台に昇るまーちゃん。
一瞬でも弱気になった自分に言い聞かせる。
俺は……
「俺は勇者だ」
小さな子供一人守れないでどうする。
ディーが向かってくる。
見極めろ、左手でも勝つ方法は一つしかない。
ディーはまっすぐ向かってくる。
その《《勢い》》を利用しろ!
「今だ!」
瞬間、横に転がりながらディーの足に剣を沿わせる。
「ザシュッ」
足に1cmほどの切り傷が出来る。
またディーが向かってくる。
ギリギリを見計らい、同じように切った。
ディーの右足にも傷が出来る。
しかし、左腕にディーの足が当たってしまい赤く腫れてしまった。
「ぐっ」
もう両腕の力が入らなくなってくる。
こうなったら。
「来い!!!」
今度は避けない。
もう俺の命なんて省みない。
「おらぁ!!!!」
最後に力を振り絞ってディーの片目めがけておもいっきり剣を振るった。
ディーの片目が潰れて、ディーの片目が潰れる。
「ピィ!!!!」
ディーは怯えた様子で元来た道に帰っていく。初依頼でこんなに大怪我してしまうとは情けない。
ふと、後ろを見るとまーちゃんがうるうるとした目でこちらを見ている。
そうだな、子供を安心させるのも勇者の役目だろう。
「よしよし、もう大丈夫だ。うちに帰ろうな」
ダムの入り口が決壊したかのようにぼろぼろと泣きじゃくる。
俺は勇者になれて初めて良かったと思えた。
一週間ほど休んだのちに村の人に感謝をし、旅立つ時だった。
「おにいちゃん!!」
なんだろう?
「わたし!おにいちゃんみたいな勇者になるから!」
唐突に向けられた言葉に、俺は戸惑う。
泣きそうになるのをこらえて、言葉を絞り出す。
「あぁ!」
背中に明るい未来を感じた俺は、ゆったりともといた町に帰った。
読んでくださりありがとうございます。
作者も泣いて喜んでいます。




