第73話 汝、《荒使》の王を×せよ<8>
「この異世界はアタシが作ったんだよ? 体力がゼロになったからって終わりなんてそうはいかない」
「そうはいくんだよ」
ルール通りにおれが勝ったんだから、さっさと負けろ。
まぁ……そりゃおれだって蘇生技使ってゴリ押ししたけどさ。
「《まほうしょうじょ》はわたしの思い通りに動かせれる……だから――」
自ら刃で貫き、そのまま倒れるアマツだがまだ普通に喋っていやがる。この異世界に痛覚ないからできる芸当なのだろうけど。おれの目にはしっかりアマツの体力はゼロと映っている。
だけど、
「……その身体、奪わせてもらおうと思ってね」
「そういやソアレを使って喋ってたか…………」
あれはただ喋っていただけだけど、完全に奪われたらどうなるんだ? おれこのまま終わりってこと??
「さすがに存在しない相手は、トリノくんでもどうしようもないでしょ」
「そりゃもう体力ゼロになってる相手を倒すのは無理やって」
すでに倒した相手がまだ動いて、挙句に身体を乗っ取られたらお手上げである。もうだめだ。どうしようもない。
「……他の《まほうしょうじょ》にしなくていいのか?」
「してもさ、結局トリノくんの相手しないとダメでしょ?? ……ねぇ???」
そして少しずつ崩れていくアマツの身体。
確かに元は一撃必殺のクソ技持ちのキャラだったのにソアレのような投げキャラとかルミアのように経験が必要なテクニカルなキャラにチェンジしても、おれの相手をするってなるなら――そりゃ手っ取り早くおれの身体を奪ってしまえば相手しなくていいから楽でいいよな。
おれと同じくゲージが満タンな状態で体力がゼロになった時点で発動条件を満たしているのか、技ゲージが割れて壊れたようになって灰色に表示されている。
いや、体力もゼロのままだ。だがそれでもアマツは身体の半分が砂のように崩れた状態でも声を上げる。
「故に……《魔■》と捧ぐ」
だから、アマツも《まほう》に《才覚》を与えるか――《荒使》の王でありながら、《まほうしょうじょ》と同じ力を使っている。思えばミソギもそうだったな。
そしてそれがアマツの最期の《まほう》――
「《零/一》」
おれと目が合ったとき、ただアマツに引き寄せられるように――おれの意識がただ上から何かに塗り潰されるられるように消えていく。
振り返れば、ソアレとルミアが手を伸ばしているがもう何も聞こえない。
これはきっと……アマツの《まほう》が確定したのだろう。痛みも苦しみもない。ただそのままアマツにおれの身体が奪われる。
そしてそのまま……アマツがおれに成り代わり、そのままおれの物語は終わりを告げるわけだ。
そうだな。
だから、どうした。
『……いや、まさかこれを使うことになるとはね――でも、トリノくんみたいな《転生者》が今後来るとは思えないからね』
もう声は聞こえない。
何も、聞こえない。
おれの存在だけが消えれば《転生者》としての敗北だ。またこの異世界はやり直される。
異世界のおわりを望まぬ、王さまは……どれだけ《転生者》が足掻いても、どうやっても勝てないようにネタを仕込んでいるわけだ。
きっとおれ以外の《転生者》がアマツに勝っても、最後はこうして身体を奪われて負けるのだろう。そう、どんな手品かもわからないし、おれの身体の中にアマツがいるのならもうどんな攻撃も届かない。
アマツには、届かない。
「はは……」
だから、俺はおもしろくて笑ってしまう。
『まだ意識があるんだ……いや、もういいよ。このまま眠っておくれよ。トリノくんのからだは、ちゃんとアタシが上手く使ってあげるから――』
「王さまよぉ……格ゲーのことはもうちょい調べておかないとさぁ……」
おれの意識はもう半分消えている。だって視界はもう何も見えないから。でもおれの頭の中にはまだレバーとボタンの絵が映ってるんよな。
じゃあ、どうすると思う?
「体力がゼロになるまで、対戦は終わりちゃうぞ」
最後までボタン擦るに決まっとるやろ。
『いや、終わりだよ……体力ゲージの有無は関係――――』
しかしおれは《←→←→↓↓↑↓+弱攻撃《A》ボタン押しっぱなしからの中強攻撃《BC》ボタン同時押し》と入力している。これはなんの意味もない。おれが勝手に作った。いま、そうした。
技ゲージは壊れてもう使えない。大技を使うために必要なゲージが壊れている以上、もうおれは何もできない。
しかし、技ゲージの存在などどうでもいい。体力がどれだけ残っているかも関係ない。ゼロにならなければおれはまだ負けていない。意識を乗っ取ろうが、身体を奪おうが、まだおれの思考は生きている。
だから咄嗟に、選んだたった一つの冴えたやり方。
「……ソアレ、ルミナ」
もう耳も聞こえない。
何も見えないし、何も感じないけれど、
「ごめんな」
ただひとこと、そう謝ってはいた。
ラスボス相手にはどうもガン処理とはいかなかったようだ。おれもまだまだやで…………でも、まぁ、その、なんだ――――
「おれが自分の手で負けを選んだら、どうなるかな?」
『ばっ…………、なっ、なにを…………ッ!!!??』
アマツの声だけはおれの頭ん中にでもいんのかよく聞こえる。でも、その焦ってる声が聴けてよかったよ。
おれは片腕を上げて、指先をピンっと伸ばして……、
「王さまがおれのなかにいる状態で……負けたら、いや……死んだら、それこそ、この後の異世界がどうなるか見ものだな」
『ありえない……そこまで、するか――』
「こんなどうしようもない負け方するぐらいならこっちから負けてやるよ……でも、アンタも道ずれだけどなぁ…………」
そしておれはに指先を虹色に輝かせながら、まるでナイフのように鋭利に光る手刀を、
「――《一/零》」
おれがコマンドを入力して行ったことで、おれの口から技名が漏れ出ていた。
技出すときはホントこれまでもそうだけど勝手に技名叫ぶの恥ずいけどさ……アマツの思惑を台無しにするいい技名だ。だから我慢もできる。
格ゲーには自決コマンドが完備されてるものもあるんだよ。
コマンドはおれの特性だけどな。おれが望めば設定されるなら、それすらも組み込んで、《荒使》の王をどうにかしてやる。
こいつの一人勝ちなんて、させるか……それにな、
「ざま、ぁ……みろ……」
痛みはない。心臓あたりを深々く思いっきり貫いて、おれはその場に倒れていた。本当に痛みがなくてよかった――たぶんそれがわかってるから選べたのもある。いたいのやだよ。こわいもん。
『う、うう、うそだ……、自ら負けることで……アタシごと……倒すと…………?』
「ヒトさまのからだを奪おうなんて、それならまだおれみたいに……蘇生して、仕切りなおすべきだったな……」
なにもかも、使う技がどれも格闘ゲームから逸脱しすぎてるんだよ。
こっちも荒らしに行かんと勝てねぇわ。いや、これは負けか…………。
『きえる、きえ……きえる……のか?』
「あーーー、やっと頭ん中すっきりしてきたわ……」
左半身失調してんのかってぐらい身体の半分は感覚なくなってたし、もう前もみえないし、耳も聞こえなくなってたから、なんかすっといきなりおれのからだの中にいたアマツが消えていくことで意識が戻っていくのがわかる。
でも、
「と、…………トリノ、ちゃ、んッ!!!!」
「トリノッ!!!!」
横たわるおれに、そのまま勢いよく近づいてくるソアレとルミア。
「すまん、負けたわ」
王さまはどうにかしたけど、結局はおれが自分で自決コマンド使って負けたのでこの異世界に来てはじめての敗戦である。
このままずっと全勝で完結まで持っていきたかったのに……こうしないと対策できんかった。
操作キャラの操作奪うのはダメだろ……実際、操作を反転させるようなヤツはおったけどさぁ……あれもあれで犯罪だけれども。
って、もうこのまま消えるかもしれないのになんで最後まで格ゲーのことばっか話してるんだろうな。あっちで死んで、こっちでも死ぬのかぁ。
元の世界でおれは死んでしまってるから、このままこの異世界で死んだら、今度こそ天国へご招待かな。なんも悪いことしてないんだから地獄には落ちないと思いたい。
「やだ……トリノちゃん、やだ、こんなの……」
世界観的に出血ってかこう結晶が割れた感じにボロボロ崩れていくのは見た目的に全年齢対象な感じで助かるわ。ここで血まみれなって辺り一面血の海にでもしてたら最悪だ。
きっと痛みも苦しみもないから……なんというか、ただ眠いだけだからこんな気楽なことばっか言えるんだろうな。ほんと、眠いな。眠い……。
ずっと倒れたおれの手をソアレが両手で掴んで離さない。ルミアももう片方の手を掴んでいる。そのぬくもりのおかげで、まだ眠ることなく目を開いていられる。
《転生者》が負ければ、異世界はまた物語の冒頭に戻る。
《王さま》が負ければ、この異世界は終わりを告げる。
おれは負けた。おれ自身が敗北するコマンドを入力したから。しかしその自決によっておれの身体を奪おうとしたアマツもそのまま負けることになる。
さぁ、この状態だと……異世界はどうなる――
そんなもん、
「これで……王さまはやっつけたし、《まほうしょうじょ》の話はおわり、か?」
《まほうしょうじょ》たちが生きる時間を無かったことにするなんて気に入らないし、王さまを倒せばこの異世界が終わりなんて認められるか。
だから、このどっち付かずのやり方で……こんな方法で王さまを負かして、おれも負けたわけだけど――これだと神さま的にはどう判断するんだろうな。女神さまならもっと上手く回してくれるのか?
まぁ……結末はどうであれ、頼むからよ、ほんと……最後はハッピーエンドにしてくれよ。おれバットエンド苦手やねん。
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
結末が、すぐそこまでやってきました。
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