第72話 汝、《荒使》の王を×せよ<7>
おれはついに攻撃が届く距離までアマツを追い詰めていた。
しかし技ゲージはおれ自身を蘇生させたあの瞬間にペナルティとして灰色に染まり、割れたように描かれている。もうコンボしたところで強力な技が出せないから大きなダメージを与えることはできない。
なら地道に削っていくしかない。
おれの手が届くところにアマツがいる。アマツのあの瞬きするよりも速く斬り裂く居合斬りは確かに発動さえすればおれの目でも捉えられないレベルの速度だ。
もしもそれが0Fで飛ばしてくるほどの速度だとしても、問題はコマンド入力だ。結局はそこで全て決まる。コマンドを入力しなければ技が出ない。なら、そのコマンドを入力する速度はどうか。
技の出がたとえ神速の如く、当たれば即死の威力だとしても――その技を出すまでのコマンドは本人の入力速度と精度によって決まる。
王さま……ちょっと、サボりすぎちゃうか?
いままでずっとそれだけで勝って来て、もっといえば王さまのところまで来れた《転生者》もいないから対戦経験も殆どない。それだけで勝てるほど、おれは弱くないんよ。
「……なっ?」
投げ抜けを知っているから、きっとアマツもおれの地上投げを抜けれたはずだ。
しかし先に技を出せば勝てると思ったのだろう……コマンドを入力することに意識を持っていかれたせいで投げ抜けのコマンドを入力できなかった。
そのまま腕を掴み、おれは一気にアマツを巴投げする。
どれだけ早くても、技が出るまえに攻撃が当たれば――どうにもならない。そしてその場で倒れるアマツを前におれは弱攻撃を二回押す。
地上投げによってダメージを与えつつ、ダウンを奪う――この弱攻撃はダウンしているアマツには当たらない。
なら何の意味が……と、思うだろう。
地上投げで相手をダウンさせ、そこからおれが弱攻撃二回することでフレームを消費すると……ちょうど相手の起き上がりに地上投げが重なる。
アマツは初めてそこで自身の体力が減ったことと……そしておれが突然、虚空に向かい拳を振る姿を前に焦っている。
アマツが起き上がると同時におれは再び地上投げを重ねていた。アマツは起き上がりにいきなり投げられてしまったことに動揺する。
ジャンプしようにも、暴れようにも、居合を放とうにも――地上投げがくるとわかっているのにそれに対して切り返せない。
そりゃそうだ。こっちは地上投げが起き上がりに重なるように掴んでいるのだから。
アマツは強すぎる。あの即死判定の《魔導技》に全てを注ぎすぎた。通常攻撃に即死判定つけてたら間違いなく終わってただろうに。いちばん速く、隙のない弱攻撃を連打しまくればいい。
そのいちばん出の早い弱攻撃よりもおれの地上投げの方が先に重なっている。それは相手の弱攻撃が遅いのか、それとも単純にアマツはボタンを押せていないのか――だが、二度、三度とアマツはおれに投げられる。
地上投げだけで体力を奪い続ける。ゲージが使えない以上はコンボからダメージを取っても、おれはゲージを使った技でコンボを締めないと状況が悪くなる。
また距離が離れたり、アマツを自由にさせれば……居合だのクソゲーされるのはもう面倒だ。このまま処理させてもらう。
四回連続で地上投げを決めて、未だにアマツは投げ抜けを選ばない。何故なら投げ抜けを選んだときにおれが通常攻撃で殴った場合は投げのモーションが漏れて、それをぶん殴られるからだ。
アマツは《荒使》の王なのかもしれない――しかし《転生者》だ。おれと同じ人間で、おれと同じ生物だ。感情がある。機械のようにはなれない。だから選択してしまう。
おれがこのまま地上投げをするのか、通常攻撃を出すのか。
ここまで同じ選択をしているのだから……次は投げないはず――と、思ってガードを固めることでおれはブレずに地上投げを選び続けるからずっと同じ択が通り続ける。
柔道――別におれは元の世界で経験していない。だが格ゲーの用語として存在している。ひたすら投げ続ける。まぁ、ちゃんとそれが成立するようになっているからこその用語だけれど。
「なんで……そこまで……」
「なんで? 特に理由なんてないぞ。択が通るからやってるだけ。通らなくなったら違うことをするだけだ」
本当にそれだけ。
ずっと投げが通ってるからそうしてる。動かないから投げてる。何もしてこないから投げてる。だから、ずっとそうしているだけだ。
そして六度目の地上投げが通る。
次も通れば、アマツは地上投げだけで負けるほどに体力は減り続けていた。しかし声を出したのは間違いだったな。
アマツはおれの思考を読もうとした。
最後まで投げてくると思っている。だからここでついに投げ抜けを選択した。通常攻撃を押すことも、技を出すこともせず、素直に――投げ抜けを選んだのだ。
「……スターマイン・エッジ」
だから全部台無しにしてやる。
そこでガード以外の選択を取った瞬間、全て無に帰すように《→↓↘+強攻撃》は最速で入力して――完全無敵の対空技。ジャンプしようが暴れようが何もかもこれで粉砕する。
蹴り上げた足先の軌道は虹色の花火のように光り輝いている。
そしてアマツはそのまま上空に打ち上げられ、体力はそのままゼロになっていた。
「投げた後もずっと投げが重なるところにいるのはどうかと思うよ」
「そんなこと言われてもな……」
今までずっとおれは対戦相手を地上投げで放り投げてきたが、ずっと思っていたことがある。
地上投げ成立後に距離があまりにも離れないせいで再びおれの地上投げの投げ間合いに相手がいるのである。
「このへんの調整もちゃんとしとかんと……そりゃ悪用されるで」
使えるおもちゃを渡されたら格ゲーおじさんは喜んで使うから。
「……次のアプデでそうさせてもらうよ――」
そのアップデートが未来永劫そんなものは来ないから……この異世界は未完成のままなのだけれど。
ラスボス相手になんとまぁ地味な絵面で決着してんだとは思うが――
「だけど……トリノくんだって、一回だけズルしたんだ。アタシだって、最後ぐらい……いいよね?」
そして倒れたままのアマツはゆっくりと鞘から刀を抜いていきなり――その黄金の刀身を自身の胸に突き立てたのだった。
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