第70話 ソアレ<5>
「どうなってるの…………?」
トリノちゃんを塔の頂上へ投げて、ルミアちゃんが召喚していた《穢濁》ちゃんが活動できる限界が来てしまったから……わたしとルミアちゃんはそのまま開いていた穴から塔の中へと進入したけれど、
「なにも、ない…………ね」
塔の中はただ床も天井も何もかも真っ白なだけで何も無い。百階もある塔なのに空っぽなまま。
「と、とにかくトリノちゃんのところへ行こっか」
わたしはルミアちゃんよりも足早に塔の頂上へと走り出してしまった。だから、すぐに引き返して……、
「ごめんね、ルミアちゃん……いっしょに行こっか」
トリノちゃんを置いて先に行こうとしてた……手を伸ばせばルミアちゃんはコクリと頷いてわたしの手を取ってくれる。
(うう……まただ……)
そしてまた突然やってくる頭痛に、わたしはつい顔を引きつらせてしまう。
「おねえちゃん……だい、じょうぶ??」
表情を隠すことができなかった。ルミアちゃんを心配させてしまって何をやってるんだわたしは。
「ん……」
だけどルミアちゃんがわたしの前を歩いて、手を掴んで歩いてくれる。
「いっしょに、いこ」
いますぐにでもトリノちゃんのところへ行きたい。だけど頭が痛くて、速く走れない。ルミアちゃんを困らせたくない。でもルミアちゃんが優しくわたしの手を引いてくれる。
「トリノ……むかえにいこ」
「うん、うん……そうだね」
そうだ。わたしたちは別に戦わない。
トリノちゃんを迎えに行くだけだ。だってトリノちゃんは全部終わらせてくれるから。わたしたちはトリノちゃんを迎えに行って、またいつものように明日になればいい。世界はおわらない。トリノちゃんがなんとかしてくれる。
「ルミアちゃん……ありがとう……」
ルミアちゃんのおかげでここまで来れたから、わたしは何もできないから感謝する。
トリノちゃんはきっと王さまに勝つ。
勝ったら、世界が終わるって……でも、まだ何もわからない。
頭が痛い。
ルミアちゃんの背中を追うように歩く。
繋いだ手に少しだけ力が入って、
「トリノちゃん…………」
ちいさく名前を呼んで、
「……トリノちゃん、じゃ、ない――――」
だれ?
あれ??
なんで、わたし……トリノちゃんとは違う《転生者》といっしょにいることを、《《覚えてるの??》》
だれ? このひと、だれ??
顔は確かにトリノちゃんなのに、髪の色が、服の色が、使っている武器も、違う。違う。違う。
「ううっ…………」
いまにも頭が割れそうで、ついにわたしはその場で座り込んでしまう。
「……ん、おねえちゃん、やすむ??」
「ごめん、ごめんね……はぁ……はぁ……なんでぇ…………」
白い繭の中で助けを求めている子がいて……それをわたしが助けて――その中からトリノちゃんが現れる――現われるのに、その髪の色も、眼の色も、何もかもがトリノちゃんと違う。
目を閉じると映像のように頭の中で流れてくる……。
この子も、あの子も、その子、どれもちがう。トリノちゃんじゃない。
じゃあ、わたし……なんで知らない子といっしょにいるの。
と、おもったらまた白い繭の前に助けを求めている子が現れる。
映像が変わるように、時間が巻き戻ったように、決まってそこに戻る。
「わたしの記憶……どうなって、るの…………?」
憶えていない。何も……トリノちゃん以外の、白い繭から助けた《まほうしょうじょ》のこと何も憶えていない。記憶がそこだけ抜け落ちて――――ううん、消されたみたいになくなっている。だから顔はぼやけてよくわからない。色が違うというのだけはわかるけれど……でも、やっぱり名前すらも憶えていない。
トリノちゃんみたいに……この世界にやって来て、対戦して、負けて、それで消えちゃった??
この世界に????
消える?
負けたら、トリノちゃんが消えちゃう??
消えちゃう……。
トリノちゃんが勝ったらこの世界がが消えて、負けたらトリノちゃんが消える。
え………………。
「ご、ごめんね、ルミアちゃんッ!!」
パンパンっとしっかりしろとわたしは自分を叱るように両頬を叩いて、ルミアちゃんを抱きかかえる。
「わっ……お、おねえちゃん……だ、だいじょうぶ、なの??」
「うん、はやくトリノちゃんのところへ行こうっ!!」
なにもわからないのに、なぜかそれだけがわかって。
トリノちゃんのところに行ったってわたしはきっと何の役にも立たないけれど、トリノちゃんはきっと勝ってるから。
だったら、もう、わたしの答えは――――
まだ頭は痛いけれど、ルミアちゃんを抱きかかえたままわたしは全速力で塔の頂上へと駆け出していく。走るのではなく、床を滑るように立ち止まることはせず一気に進んでいく。
もうすぐそこだ。
「トリノちゃんッ!!」
塔の頂きが見える。
満天の星空の下、黄金に煌めく光が一瞬だけ昼のように明るくなる。
ここでトリノちゃんと《荒使》の王の最後の戦いが行われる。これで全部終わっちゃう。でも、わたしは見届けたい。
だから、
「ト…………………………リ、ノ………………………………ちゃ、ん??」
だってトリノちゃんは強いから。
「え………………………………、なんで………………………………???」
きっと勝っちゃうと、思ってたから。
それなのに、
「え、ちがう、そんな……うそ、うそ…………だ、よね???」
驚かせないでよ。
なんでそんなことしてるの?
どうして……、トリノちゃん……どうして……。
王さまの金色の武器がお腹に刺さったまま倒れてるの?
「ああ、来たんだ……ソアレ、それにルミア……だったね――」
突き刺さる刃を引き抜き、《荒使》の王であるアマツ様が横目でわたしたちを見ている。
「そ、んな…………の、り、…………と、り、……の、ちゃ、ん……??」
がっくりとわたしの身体から力が抜けて、ルミアも目を見開いたまま倒れて動けないトリノちゃんを呆然と見つめたまま、
「今回は本当に……本当に……すごかったね。こんなこと次は何人目で見られることか――――」
なにを言っているのかわからない。
このひとが、何を言ってるのか理解したくもない。
このひとが、このひとが、このひとが、トリノちゃんを……トリノちゃんを――――×したの? このひとが、このひとが、やったの? そんなの、そんなのって――――××××××、××××××、××××××、××××××
××××××――――
わたしの胸の中で、ずっとおそろしいコトバで埋め尽くされそうになって、ルミアは涙を浮かべてわたしの腕に抱き着いている。
「また、新しくやり直すんだ……ソアレ」
《転生者》の勝利は、世界の終焉――そんなの知らない。
トリノちゃんを返して。だけどアマツ…………いや、《荒使》の王は……背を向けたまま持っている武器を天に掲げたまま、星が溢れる空にヒビが入っている。
世界が、終わろうとしている――わたしたちは、なにもわからないままに。
「……とり、の…………ちゃん……」
だけど、だけど、だけど、
「………………………………………………………………あ」
「セブン…………………………………………マジック――――…………」
かすかに揺れる指、わずかに震える唇。
世界の終わりと共に完結する物語のすみっこで……わたしの耳には確かに聞こえていた。
――――トリノちゃんの口からこぼれる《まほう》のことばが。
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
物語は終わりへと向かっております。
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