第69話 汝、《荒使》の王を×せよ<5>
「なんでこの異世界――女しかいないんだ?」
「アタシの趣味だ」
「そもそも《まほうしょうじょ》にしたのはなんでなんだよ?」
「アタシの趣味だ」
「《まほう》をひらがなにして当て字にしてんのも?」
「アタシの趣味だ」
「……格闘ゲームなのも、アンタの趣味だもんな」
「そうだ、アタシの趣味だ」
まぁ、それはいい趣味だから握手するけれども――
「それはなんであれ……《転生者》が負ければまた次の《転生者》は白い繭から生まれる時間にまで逆戻り……」
アマツの趣味で創造されたこの異世界が、《転生者》の敗北は、《まほうしょうじょ》たちは消えてなくなってしまう。
「未完成のまま無理やり世界を継続させるにはそうするしかないみたいだね」
「完成させてから死ねよ」
「完成させてから死にたかったよ」
でも、死因は覚えていないんだ――なんてアマツは言う。
脚本なんてないし、設定も細かく散りばめられていない。むしろアマツ本人が知りたいぐらいだという。
「アタシの作った《まほうしょうじょ》たちが……《転生者》が負けるとそのまま記憶を失って終わってしまうなんて……どうかしてる」
「じゃあ、王さまがわざと負けりゃ解決するんじゃ?」
だが、それは前にも言った。
「わざと負けようとしたこともあるよ――アタシから塔を降りて、《まほうしょうじょ》たちのいる町まで行ってね」
でも、《まほうしょうじょ》にはランクがあって《首輪》が虹色にならなければそもそも対戦が成立しなかった。
「……最初の《転生者》だったんだろ。最初は《まほうしょうじょ》で王を倒しに行く話なら……アンタがなんで王さまなんてやってんだよ」
「だからさ、アタシがこの塔についたとき――そもそも王さまなんていなかったんだよ」
塔の頂上に辿り着き、座が現れたとき――アマツは《荒使》の王になっていた。
「そんな設定、アタシは作ってないし……《荒使》だって《まほうしょうじょ》の練習するときに殴るための木偶の設定ってだけ――それなのに神さまなのか女神さまなのか……勝手なことしてるんだよ。未完成だからって好き勝手イジりまくってさ。」
「白い繭は……」
「あれも知らない――確かにこれはアタシが作ったゲームだよ。だけど、作ったのは《まほうしょうじょ》とこの世界観だけ……もっとたくさん作りたかったよ。細かいとこまでいっぱい……それに……」
「《転生者》が負ければ《まほうしょうじょ》が終わり、《王》が負ければ《異世界》が終わる――だけど、アタシだけが記憶を引き継ぐ」
「なんでそんなことわかるんだよ」
「それじゃあ……トリノくんがいっしょに戦ってくれた《まほうしょうじょ》は――――なにも知らないままなんておかしくない?」
《転生者》は決まって白い繭から始まる。あそこが物語のスタートだ。
だから《転生者》が負ければ次の《転生者》が召喚される。しかし時間だけは巻き戻り、またあの白い繭からスタートする。
「何度も何度もこの異世界の時間は逆行する――アタシの記憶だけ置き去りにして」
まだそれなら記憶が消えてくれればどれだけ救われたことか。
「もう疲れたんだって……《転生者》が召喚されて、アタシを倒せず途中で終わる。でも時間だけは巻き戻る……百人ぐらいは頑張って数えたかな……でも、もうそこからは疲れちゃった。どれだけの時間が経過してるかもわからない」
ゲームの世界だから、人が生きるための世界ではないから。
食事をする必要もなくて、だから食べることも飲むこともいらない。
だけど睡眠だけはあるのは――体力を回復させるため。
それ以外はなにもかも存在しない空っぽな世界の中でアマツはただ生きているだけだった。
「あとね……たぶんいちばん時間逆行の影響受けてるのはソアレだよ」
おれも白い繭の中で目を醒まして、そしてソアレに助けてもらった。そこから《荒使》と戦って――勝ったから先に進めた。しかしそこでもし負けていたら――
スティルもフルカノンのパイセンもルミアにも――出会う前に終わっている。
だが絶対ソアレには出会う。この世界の転生して最初に出会うのがソアレなのだから。きっと大勢の《転生者》と邂逅ながら、そして何度も何度も記憶から消され続けているのだろう。
「ソアレはね……アタシがこのゲームを作ったときに最初に作ったんだよ。やっぱ最初に作ったのもあって作り込みすごかったでしょ?」
「あーーーー……確かに技の数が多かったしな」
これまでのことを思い返すと他の《まほうしょうじょ》よりも確実に技数は多い。パイセンも多かったけど。演出面が豊富なのは気合入ってる。
「あの片手剣投げてからボコボコ殴るのすごくカッコよかったよ」
「でも、それは知らない」
「は? そういや……あの片手で持ってた剣も使わなくなったけど、あっちが本当のソアレなんじゃないのか??」
あの技がいちばん派手だったし、片手剣を投げ捨ててから拾いにいくことはせず素手のままで――
「それも知らない」
「なんで製作者が知らねぇ仕様で戦い出すんだよ」
あってはならないことだろうが。バグとかじゃなくてキャラの仕様が変わってんだぞ。
「片手剣を装備させてたのはアタシのデザインだよ? でもそれを投げて、そのまま素手のまま戦うなんてそんなところまで作り込んでいない。なにしたの?」
「おれ? なんでおれなんだよ??」
いちばん意味がわからない。
「ソアレはトリノくんのおかげでここまで来れたようなものだよ。トリノくんのおかげで未来も変えられた――そんな子に全て救われて、全て許されて、アタシの知らないソアレになってる。トリノくんの存在が、やっぱり特別なんだよ」
「……おれはそんな大層なヤツちゃうって」
違和感しかない。
おれはそんなやつじゃない。
ただおれが知っていることをイキって教えてるだけだ。知らないことならおれも今頃終わってたことだろう。ここが格闘ゲーム以外の仕様ならおれだって敗者の仲間入りだ。運が良かった――それだけだ。
「アタシの作ったゲームに転生できたのは嬉しかった。でも蓋を開ければ未完成のゲームなのだから完結まで神さまたちの勝手な手心で別のものにされている。アタシはそれが許せない」
だから、ね――と、アマツは刀に手を掛けて、
「アタシの解釈と違う《まほうしょうじょ》を見たくないからアタシの手で壊すんだよ。アタシは確かに《転生者》に敗れて元の世界に戻りたい――」
少なからずこの異世界の本当の神はアマツだった。
しかし未完成なこの世界にいらんことをする本物の神さま連中のせいで作者にとって解釈違いの仕様を突き付けられる。
まぁ……おれは元の世界でただ生きていただけの存在だ。なにかしら創作をしたわけでもなく、アマツの気持ちの十割理解してやれるわけもない。
ただ、自分の築き上げようとしたものが――他の誰かの手で別ものに作り変えられているのなら……そりゃ本当は直したいわな。
「王さま、アンタさ……後悔してるんだな」
「死因すらわからずに、自分の作った未完成のゲームの世界で……他の誰かが手を加えた半端さを見せつけられてるなんて……吐き気がするよ」
《転生者》を倒せば時間が逆戻り、また元に戻る。
《転生者》に敗れればこの世界は消えてなくなる。
「どうすればいいのかな……それでもこれはアタシの作った異世界だ。壊されると思ったらやっぱり……消えて欲しくないって――思ってしまう」
そして刃が鞘から剥き出しになって、
「でも……やっぱりわたしの作った《まほうしょうじょ》たちがわたしの知らない動きをするのを見ると耐えられなくて、《転生者》を倒して時間を元に戻してしまう」
時間が元に戻ったその瞬間は零へと還る。
アマツの知っている《まほうしょうじょ》たちは元に戻る。
自分の手で世界を終わらせてしまうほどに、アマツの知らない神どもに手を加えられてしまった醜悪さを見ることが耐えられないから。
――――アタシが、負ければ世界が消える。
なら負ければいいのに、それで全て消えてなくなるのに――――
「でもアタシは、《まほうしょうじょ》たちが消えてなくなってしまうのも………………受け入れられないの………………」
そこでおれはアマツに聴こえないほどに小さく、小さく、息を吐いていた。
そのときに王さまの顔が、いまにも泣きそうに見えたから――
「対戦中にへんな話を聞かせてごめんね。じゃあ……どっちが正解かトリノくんが決めてよ」
《転生者》の勝敗によってこの異世界の未来は決まる。
この永劫、時間の進むことなどなかった世界の向こう側を決めるのは《転生者》だ。
おれは――――
「いや、その、なんだ……おれはもう決まってるんだ」
アマツの言いたいことはわかるし、アマツにはいろいろあったのだろうし、大変なのもわかってる。おれなんてぽっと出て来た格ゲーの知識があるからなんとかなってるだけのおっさんが転生して幼女なって、それでむちゃくちゃして、ここまで来てしまって、
「――処理する」
何も持ち合わせていないおれが、たかが格ゲーの知識しかない凡人のおれが――未だに答えに辿り着けていないアマツよりも先にどうするか――中下段の内のひとつを、すでに決めていたのだから。
「うん」
おれの顔はきっと迷い無くそう言い放ったのだろう――だからアマツもまた目を見開いて、そんなおれの言葉に小さくうなずいて、微笑んで、
「格ゲー知識で処理されていく異世界なんて、どうかしてるよね」
それは自分が創造した世界なのだから仕方がない。
おれが元の世界で長々と、ただひたすらに格闘ゲームしていなかったのだから運が悪かったと諦めてもらうしかないって。
「格ゲー好きなんだな」
長い長いこの物語の裏側についての語りはおしまいだ。
「うん、自分で作ってみたいって思えるぐらいに好きだよ」
そしておれは構え、アマツは刃を鞘におさめて――――
「勝つのは、おれだ」
「勝つのはアタシだ」
あれだけ負けたいだの、倒してくれだの言っていたのに――結局、勝ち負けある戦いで、最初から負けるつもりで戦うヤツなんかいないってわけだ。
それでいい、それがいい。
そんなヤツとおれだって対戦したくないからな。
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
完結まで少しずつ近づいております。
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