第67話 汝、《荒使》の王を×せよ<3>
「すごいね、なんでも知ってるんだ」
きっとアマツにとっては必中の攻撃なのだろう。
しかしその刃を防いだおれを見て、感心している。
「おもんないからゲーセンなんかで見たことはないけどな」
いてたまるかそんなキャラ。
家庭版のボス的なやつにいた。おもんないから使ったことはないが、CPUの相手はしたことある。やっぱり対戦してもおもんないから一度きりだが。
「難しい入力も、難しい連携も、難しい起き攻めも必要ない。ただ一撃でいい――簡単でいいでしょ?」
「ああ、そういうゲーム性ならな……」
お互いそうなら別に構わない。そういうゲームもある。
だが、そっちだけが即死して来るのは話が違うだろうが。
「負けたいんだろ? そんな負けない仕様の王さまに勝てとかむちゃくちゃ言いやがる」
ここまで来いと、そして勝ってくれと……そんなことを言っておきながら、当の本人はイカれた攻撃性能を誇っている。こっちの手の届かない距離から、即死の一太刀を浴びせてくる。そんな、そんなヤツをよ――
「じゃあ、アタシが勝ってもいいのかな?」
「それに勝つから……おもしれぇんだろうが」
そういうヤツをぶっ倒してこそだ。
「そうだね」
だがそれを肯定するアマツ。
「その通りだ……どれだけ強大な敵を前にしても、諦めず、立ち向かい、そして勝利する――最高の結末だ」
そして再び刀に手を触れ、鞘から少しだけ見える黄金の刀身。
「アタシも、そっち側で居続けたかった」
おれは走る。とにかく今はおれの攻撃が届くところまで近づかなくてはならない。飛び道具や突進技で無理やりに突っ込むこともできない。
飛び道具を撃ったと同時にあの瞬きと同時にぶっこんで来るような不可視の攻撃と、突進技を撃ってもしアマツが当て身技の類を使ってこられたらその時点でおれの負けだ。
とにかくおれは一撃でもアマツの攻撃を受ければ問答無用で敗北する。相手はそういうことを平然とやってくる。では、おれはこのまま負けるのか?
まぁ、ぶっちゃけるとだからどうしたって気持ちである。
だってガードできるから。
まじで速すぎて見えないし、それに合わせて反撃しろってのも無理だ。しかし、アマツが刀に手が触れている――まさに居合の体勢。そしてその手が動いてからでなければあのエゲつない居合切りは発動しない。
おれのガードを突き破り、そのまま胴体がふたつになってしまうというなら諦めていた。しかしこの異世界の仕様は……ガードが成立するのならどんな暴力も防ぐことができる。
(ひとつ……)
手の動きを見て、確実にガードして居合を受け止める。
手甲を付いているとはいえレバーを相手とは反対に倒して、あんな見えない斬撃を受け止めている。
動作無しでやられたら絶対無理。見えない。しかしそれでも、見てからガードするつもりもない。一歩進んではガードを繰り返し、おれはアマツとの距離を詰めていくが、
(……ソアレに教えたことと同じだな)
ソアレに教えたことと、同じことをしている。基本も基本。前に進むときはガードを入れながら、相手の動きを見て進んで行く。
(ふたつ……)
アマツの触れた刀が再び動くとき、気付いたことには黄金が通り過ぎる。
それでも、おれの胴体は繋がったままだ。
「ようこそ」
そしておれの手が届く距離までアマツを追い詰める。
なのにアマツはおれを出迎えるように、そんな風に言うから、
「こちらこそ」
おれはそのままアマツを掴む。
地上投げ――しかしアマツは鞘に納まった刀でおれの腕を小突く。
アマツはどうやら投げ抜けを知っている。投げを抜けれるなら、やはりただの《転生者》ではない。
「……もしかして経験ありか?」
「この異世界のことどれくらい知ってる?」
「格ゲー知識でなんとかなるおかしな世界」
「そうだね。じゃあ、なんでそんな世界?」
「なぞなぞマンがよ……知るかそんなもん」
おれにとっては都合が良過ぎるけれど、それでもそれ以外のことは何もわかっていない。
「だって、この異世界はアタシが作ったものだからだよ」
「最初の《転生者》……ああ、そういう――」
いきなりそんなこと言われも、なんか納得できる。
こいつがこの世界の最初の《転生者》ならば、特に何も。
だって別に転生先が西洋ファンタジーだろうがSFだろうが、どこだろうが決まりはない。もっと言えばゲームの世界に転生することだってあるし、ぶっちゃけ自分が作った世界に転生するやつだっている。
おれが、どうしてそれでこの世界に転生してしまったのかは謎だけれども。
だっておれは何も望んじゃいない。
トラックにひかれて死にました。
それでおしまい。
ただそれだけだ。転生を祈ったわけでも、願ったわけでもない。そのまま死んで、あの世にいって、それでおしまいの人生を――勝手に身体の作りまで変えられて、こんなところに転生されただけだ。
「おかしなところいっぱいあったでしょ?」
格ゲーとしての調整ってかそもそも基本的なルールも破綻してるけど、それよりも確かに違和感を覚えたところはいくつもあった。
《まほうしょうじょ》がいた城に町――外に出れば樹海が広がり、なにもない。
睡眠はするのに、食事はしない。そして……おれが知っている《まほうしょうじょ》以外のことは何も知らない。いや、知らないではない――覚えていない。
「必要ない情報は要らないから作ってない。登場する《まほうしょうじょ》以外のことは知る必要なんてない――存在していないのだから」
だからだ、格闘ゲームにおける背景に他の人物が映ることはある。そしてこれまでの対戦の中で城や町の中で対戦したとき確かにその背景には顔も名前も知らない《まほうしょうじょ》が映っているはずなのに、なのにもうその容姿も声も何も知らない。
知るわけがない。ただの背景なのだから――《設定》されていない存在なのだから、知る由もない。
スティルの周りにいた取り巻きの《まほうしょうじょ》も、パイセンを慕っているように見えた《まほうしょうじょ》も、おれが対戦しているとき遠くから観戦しているはずの《まほうしょうじょ》すらも、同じ顔をしていたとしてもおれは覚えていない。
名すら与えられぬ舞台装置たち。
この異世界は、アマツが作ったゲームの世界だとして――
「なぁ、だったら……」
格ゲーとしても1ラウンドで勝敗が決まってしまい、挙句に《まほうしょうじょ》たちの調整もめちゃくちゃ。そしておれが、おれの知っている《まほうしょうじょ》たちが使っている《まほう》――
「やっぱりよぉ、ここがゲームの世界って言うならいくらなんでも未完成すぎないか?」
「だから、その通りだって……ほら、前にトリノくん同じこと言った時ちゃんとアタシ肯定したでしょ?? 合ってる――って」
じゃあせめて完成させてからリリースしてくれよ。
「完成させたかったよ」
だが、おれが言葉にするよりアマツはそう言って、
「だって作ってる途中で死んじゃったんだからさぁ……」
それを言われると、さすがにおれもそれ以上は何も言えねぇ。
「生まれ変わったら自分の作ったゲームの世界に転生したいって願ったらさ――」
対戦中だったはずのおれたちだったが、アマツはまるで遠くを見つめてむかしばなしを始めていた。
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