第66話 汝、《荒使》の王を×せよ<2>
妨害は最初だけだった。
そこから王は、おれたちを強襲することなくただ静かに待っていた。
塔も半分を越えて、最上へと近づきつつある。
いちいち百階も昇るのダルすぎるとはいえおもっきりズルしてここまで来ている。だが、王は寛大なようで、本当に何もしてこない。
「トリノ」
そこでルミアがおれの名を呼ぶ。
「あともう少しだけど時間切れ。そろそろ《穢濁》も限界そう」
「あー、おれのせいだな」
すぐに出発していればなんとかなってたかもしれないのに、お喋りしてたのがよくなかったか。
「よし、おまえらはそのまま塔の中へ行け。あとはおれがなんとかするから」
「え、え? トリノちゃん?? なに、言って……」
「王さま処理ってさっさと終わらせてくるからよ。ソアレとルミアはこのまま塔の中で待っててくれよ。すぐ迎えに行くって」
王を倒したらどうなるかまだ、わからないけれど。
とりあえずこの高さならおれのジャンプでなんとかなるかな。王さまが攻撃して来たのを対応した時点で対戦はすでに始まっている。画面端なんて概念がどこかへ行ってしまったほどの長いフィールド。
これで全部終わらせる。そのためにここまで来たのだから。
「ま、まって……」
だが、そこでソアレがおれの肩を摘まんでそんなことを言うもんだから、おれは振り向いてしまう。
「ごめんね、なんでもない……」
だけどそのままソアレは手を離していた。
「トリノちゃん……わたしもトリノちゃんの役に立ちたい」
ソアレはおれの腰に手を回して、
「これだけ……おねがい」
対戦だけならおれがやった方がいいのはソアレもわかっている。自分が役に立たないのなんて最初から理解している。それでもソアレは何か一つでも役に立てないか、そう考えたとき――
「このままわたしがトリノちゃんを投げるよ」
さっき王さまの攻撃を防ぐときにおれを投げたように、このまま一気に塔の上までおれを投げると……ソアレのやりたいようにさせよう。
「じゃあ頼むわ」
「うん、それじゃあ……」
そしてギュっと掴んだまま、ソアレはおれを投げるのだけど――
(ほんと最後の戦いってノリちゃうやろ)
なんやねん投げるって。
だがここで茶化すわけにもいかない。おれはそのまま無言でソアレに投げられてた。でもジャンプして届かんだら恥ずかしいし、このままなるようになれ。
「………………………………………………いかないで」
聞こえない。
聞こえていても、おれが選ぶ道は変わらない。
世界が終わるのか、それともおれが消えるのか――どうなるのかそんなものわからない。じゃあなんでおまえは戦うんだ? 異世界に転生して、幼女になって、格ゲーの知識だけでここまで来て――
なんで?
勝つか負けるかの世界で、ただ勝ちたいから――それだけだ。
それだけのはずだ。
そしておれはソアレによって射出されたロケットみたいに塔のてっぺん目掛けて飛んでいるわけだが、
(ルミアは……そのまま塔の開いてるところに入っていったな)
羽根の生えていた《穢濁》は元の姿に戻り、そのままソアレと共に塔の中へと消えていった。このまま頂上まで来るかどうかはさておき……まぁ、それまでにおれが王さまをぶっ飛ばして、そのままこの話を終わらせてしまえばいいだけだ。
じゃあ、そろそろ……王さま倒すか。
そして、頂上へと到着する。
「来たね、トリノくん」
「おお、来たぞ。約束通り……10先や」
そして天を駆けるおれの身体がそのまま弾丸みたいに一気に《荒使》の王ことアマツめがけて特攻する。
「いや、これまで通り1先だよ」
「まじで? 運ゲーすぎるやろ」
そもそも2ラウンドすらない時点で破綻してるんだよな。
「でも、トリノくんは……これまで勝ってきた」
そして腰に掛けた刀に手が触れる。
おれは一気に距離を詰めて速攻を決めようとしたが、あれはやばいな。
刀を抜かずに鞘に入れたままおれの前に向けている。
(……おれと同じ――)
構えたまま何もしないのは、何かしようとしているだけだ。
当て身――おれが攻撃して、あの鞘に入ったままの刀に触れたとき、おれが真っ二つにされるはずだ。
だから、おれは攻撃せずにそのまま着地。立ったまま構えているなら上段しか判定は取れないと判断――空振り下段攻撃で、構えごと潰すッ!!
「やっぱ、よく見てるね」
しかしアマツは、構えを解くとそのまま後ろに下がっている。
「それ全体Fなんぼよ? 普通はリスク背負って使う技じゃね??」
こっちは読んで動いてんのに、なんかキャラ性能でどうにかしてるな?
「まぁ、まぁ……そんなこと言わずに――アタシも、トリノくんと戦いたかったんだ」
「だからね」と、付け足して再び鞘に入った刀に手が触れている。
「勝ってね……トリノくん」
「だったらさっさと負けろ」
負けたいくせに本気で戦ってるのがなんかもうよくわからん。王さまとか名乗って、《まほうしょうじょ》を自分のところに呼んで負けたがる。しかし強いのかよくわからんけど勝ってしまう。
王に勝てば――世界が終わる。
終わった世界のその先に、何がまっているのか――
アマツとおれとの距離はお互いに決して届かない位置にいる。おれの手が届かないところにアマツは未だ鞘におさまった刀を持ち、おれを見ている。
だが、おれは決して油断しない。おれの手は届かない。しかし、アマツは刀の分のリーチがあるなら相手の方が有利だが……そういう問題ではない。
どうせ、そうなんだろ?
なんておれは口を歪めていた。
そしてアマツも微笑みながら、
「金無垢――」
先に動いたのはアマツだった。
鞘からほんの数センチだけ刀身が顔を出したとき、おれは脊髄反射で感情を置き去りにしたままガードしていた。決して余計なことは考えず、ひたすらにその攻撃を防ぐことだけを考えていた。
ガードはできた。だが何をされたかわからない。
おれはゲージさえあれば当て身も、ガードキャンセルで攻撃もできる。反撃はできるはずだ。しかしそれはあまりにも速すぎた。
どれだけおれが素早くコマンドを入力できたとしても瞬きしたころにはおれの全身が軋むような音を立てて後ろに下がってしまう速さだ。間に合うわけがない。
なぜ、そう思ったのかわからない。
だが、そう思ってしまってしまう。
「すごいね、ちゃんと動かずに防ぐのは……やっぱ経験ってやつかな?」
そしてチンっと音を立てて刀は鞘に戻っている。
刀身は見えず、見えたのは黄昏のような眩い光だった。何も見えなかった。しかし何をされたのかはわかる。
まぁ、居合だろうに。その見た目と武器で……それ以外なにをするのだと。
だが久しぶりだこの感じは。
背中に冷たい汗が伝うのはいつ以来か――
なぜだろう……あの居合を食らえば、おれは死ぬ。
体力も、なにも、関係なく――ただひたすらに殺せる。
ミソギの首を落としたように。
ガードはできる。しかし絶対に当たってはいけない。
その黄金の斬撃――
画面端から、端まで届く――無限の判定。
なんだ、こいつ……。
「はは、おまえさぁ……ちゃんと言葉しゃべれよ」
だからおれはそう言ってやる。
こいつはただの《荒らし》だ。
なにが《荒使》の王――だカッコつけやがって。
負けたがりな発言を垂れ流しながら、自分だけ文字通り異世界転生お得意の《チート》を有していやがる。
あの攻撃は当たってはいけない――
なぜならそれは《即死》判定だからだ。
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