第64話 最上へと到れ
やっとここまで来たんだ。
もう、さっさと終わらせたい。
その先に何が待っていたとしても、こんなところで寄り道している場合じゃないから。だからおれは塔を見上げたまま、
「はぁ……空でも飛べたらな」
もう正面から真面目に塔に入って、一階ずつ昇る――なんて、マジでやりたくない。おれはそんなことしたくない。だから何かいい方法がないか考える。
塔の側面を昇っていいけないかなぁ……対戦以外は幼女すぎてとてもじゃないがムリだろうけど。
「トリノちゃん……いまの、が……《荒使》の王……なの?」
「まぁ、そうなんだろうな……」
塔に昇る方法を考えるおれにソアレがそう聞いてくるけど、おれはそう答えるしか出来ない。ソアレにとっては知っているヒトのようだが、
「……トリノちゃんと出会う前に、《虹色》になったのが……繧「繝槭ヤ…………ううん、アマツ様だった。王を倒してくるって言って……わたしはあのときまだ何の役にも立てなくて、見送ることしかできなかった――」
そしておれを指差して、
「そのマントは、アマツ様がくれたもの……お守りみたいで、わたしはずっとこれを付けていた」
「そんな大事なもんをおれに渡したのかよ」
まぁ、ソアレと出会ったときおれは裸でなんも着てなくて……羞恥で死にかけたときに、それを隠すようにマントで包んでくれたのだけど。
「ううん、いいの……アマツ様はきっと帰ってくるって思ってたから――」
だけど、帰ってくることはなく再会すれば《まほうしょうじょ》ではなく《荒使》の王として現れればそりゃソアレは混乱するだろう。
(でもよくわからん……それだとアマツってやつもおれと同じ《まほうしょうじょ》なんだろ。なんでラスボスやってるんだよ。最初からラスボスならまだしも……)
ソアレも存在を知っているのなら始まりはおれと同じだったはずだ。
そして王を倒すためにここまで来たのなら、おれがこの異世界に来る前にラスボスはすでに倒されてそのままゲームクリアじゃないのか?
(……ますますわからん。なおさら塔なんて昇ってられるか)
全てを知るためにもさっさとショートカットして屋上を目指すやろこんなん。
「なんでこんなことになったのか……直接聞きに行こうや」
「うん……そうだね……わたしも知りたい……知りたいよ」
じゃあなおさらこんな塔は昇ってられない。さっさとどうにかして――
「ん……トリノ……」
そしてルミアがゆっくりとおれに近づいてきて、
「あれ、ルミアが……操られてるときに見たもうひとりの《まほうしょうじょ》だった」
「やっぱそうか……」
ミソギともうひとりいたって言ってた《まほうしょうじょ》のことはアマツだったのだろう。
「……トリノ、塔のてっぺん……いく?」
「あー……そうなんだけど百階もあるんだろ? 一つ一つ昇ってなんてめんどくさくてやってられるかって……ほんま困ったわ」
「……なら――」
ルミアが手をかざすと、地面から黒い水たまりが出来て中から《穢濁》が顔だけ出している。
「飛んでく?」
「まじ……?」
飛べるの……???
するっと地中から現われる《穢濁》がマスコットみたいにポンって出てくる。キミそんな愛嬌あったっけ……ヨダレ足して頭からバリボリ喰う感じのデザインと思ってたんやけど?
「ルミアの……《まほう》――《才覚》与えてるときだけ《穢濁》……もっと動けるから」
「そんなことできるのか」
「トリノの……おかげ」
「ん?」
おれは何もしてないが。
「トリノが教えてくれた。ルミア……対戦するのこわいけど、トリノのおかげでがんばれた。だから、今度はルミアの番――ルミアの《まほう》をもっと知ろうと思えたら……使えるようになった」
そしてとてとてなんて擬音が聴こえてきそうなルミアがソアレに寄り添って、
「でもいちばんすごいのはおねえちゃん」
「そ、そうかな……?」
ソアレは困惑しているが、それは本当にそう。
おれはこの異世界の仕様を知っているから、そして経験と知識があるからどうにかなっているだけだ。だがソアレは違う。ソアレは何も知らないまま、それでもずっと独りで戦い続けていた。
おれと出会わなくても、きっとソアレは戦い続けていると思う。諦めることなく、立ち止まらず――おれなんかよりはるかにえらいよ。
「臆病にお別れを、この出逢いに祝福よ――我の声より道を創造れ」
そしてルミアは《まほう》に名を与える。ここまで来れた。だからもう怖くない。独りじゃないルミアは自分の《まほう》を使いこなせる。
「故に――《魔放》と、仰ぐ」
そのままルミアは屈んで穢濁にそっと額を押し当てて、
「《覚醒》――」
名を得た《まほう》の力によって黒かった穢濁は、白く色を変え――その名とは真逆の存在となる。四枚の羽根を広げていた。
「めちゃくちゃかっこええやんけ……」
おれもこれ欲しい……。
「ん……トリノ……はやく――」
「え、まじで? もしかして……これで??」
「……はやくはやく」
「お、おお…………」
そりゃおれも空でも飛んで行けたらいいのにって思ったけど、まさかマジで飛んで行くことになるとは。
「おねえちゃん、トリノのことおねがい」
「え、わたし??」
「……ん、トリノ、対戦以外だとよわよわ――飛んだと同時にトリノが落っこちたらたいへん……」
「そ、そうだね……じゃあ……」
ソアレがおれに手を伸ばして、
「いこっか……トリノちゃん」
「ほんと最後まですんません」
そういや最初出会ったときから、こうしてずっと何度も、ソアレに手を引っ張られて来た気がする。対戦以外は本当に役に立たないので、このままルミアが穢濁》を飛ばしたときおれだけどっか飛んでいってしまいそうだしなぁ。
「そのまえにひとついいか?」
おれは振り返り、フルカノンのパイセンに視線を移す。
ミソギに敗北し、クソデカ《荒使》の部品にされるはでホント大変だろうに……疲弊してそうだが、それでもいつものようにどっしり構えている。
「ミソギとやらにも勝てない私では何の役にも立てないからな……ここから先はいっしょには行けない」
「じゃあパイセンはどうする?」
「私たちは他の《まほうしょうじょ》を探しにいく」
……なんだっけ?
「まさか忘れてたとは、いうまいな?」
「はは」
おもっきり忘れてたのでもはや笑って誤魔化すしかなかった。
「はぁ……私はスティルと共に残りの《荒使》に取り込まれてるかもしれない《まほうしょうじょ》を探す――トリノ……おまえは――」
そういやそうだった――そのために森に行って探したりと、いろいろあったのに完全に忘れていた。本当に申し訳ねぇ。
そんなクソ失礼なおれに対してパイセンはギュっとおれの手を掴んで、
「おまえに……託すよ。私ではどうにもできないからな……全て任せてしまってすまない」
「こっちこそ……面倒事ばっか押し付けてごめんやで」
「かまわん、その代わり……」
パイセンは親指を立てる。
「その先に何が待っていたとしても――勝ってくれ、トリノ」
そんな風に誰かに頼られることなんて、元の世界じゃなかったしな。なぜだかそう言われると嬉しいのはなぜだろう。
「勝って帰るわ……ああ、あとそれと――」
そしてさっきから一度としておれと視線を合わせず、声すら出さないスティル。
別におれが何か言うとかないのにさぁ……だって、さ、
「おーい、スティル……パイセンの手伝いしてやってくれよ。たのんだぞ~」
だから軽いノリでそう言ってやる。
スティルはいろいろやらかしたけど、ソアレが決着を付けてくれた。改心したかどうかとか、別におれはスティルに対してはざまぁな展開は特に期待してないから、この先どうなるかは本人次第だ。
「お、おお……わかってる……よ……」
なんかこれまで通りの口調ではあるけどまだ歯切れ悪いな。
「スティル、帰ってきたら……今度はちゃんとわたしと対戦しようね」
「………………………………………………………………わかってるよ」
だがソアレがフォローを入れるようにそう言うと、下を向いたままそう呟いた。
さて、これ以上時間を掛けるわけにもいかない。
対戦以外でも《まほう》は使える。
だからルミアは新しく覚えた穢濁を強化する《まほう》によって羽根を生やして空まで飛べるようにしてみせる。
おれ……対戦中なら絶対この壁、走って昇っていけそうなんだけど――なんて、それは叶わないのでいまはみんなに頼るしかない。
そして《穢濁》にまたがるおれ。乗馬の経験すらないのに、まさかこんな不思議生命体に乗ることになるとは……そしておれの後ろにソアレが座り、おれが落ちないようにお腹のあたりにソアレの両手が回っている。
ルミアはおれの前へ。《穢濁》の操作は全部ルミアにお任せだし、おれは現時点では何の役にも立てないので邪魔にならないように大人しくしておく。
「よし……行くか――」
こうしておれたちは塔の頂きを目指す。
これが最後だと、誓い……その果てに待つ結末を垣間見るために飛翔した。
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
物語は終わりへと向かっております。
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