第63話 或る終わり
「んで、王さまはどこよ?」
いちばんぶん殴りたかったミソギも完全にぶっ倒した。あとは王さまだけだ。そこでまたおれの《首輪》が虹色に光る。
「ん……」
ミソギとの対戦が終わり、ルミアがそっとおれの足元に近づいている。
「ああ、ルミア……ごめんな、せっかく勝ってたのにおれがルミアの手柄とるようなことしちまって」
「んん……いい。トリノが、勝ってくれたし――」
「あ、あれ? な、なまえで……呼んでくれてるやん……」
なんか急に名前で呼ばれたので不意打ちで足腰ガックガクになる.。
「ところで……」
地面に転がったままのミソギ。おれが勝ったことで溜飲が下がったが、それでもこいつがまたなんかして来たら困る。
「と、トリノちゃん……あ、あれ……」
おれの横に立っていたミソラが指差す。
ミソギが《荒使》を呼び出すときですら地響き起こったり、騒がしいことになってたというのにまるで幻みたいにおれたちの眼前には天まで伸びるほどの巨大な塔。
いや、なんかこう……ステージが追加されていく感じ――
「ほんとならさっきのやつ倒してエンディングやったらどれだけよかったか……」
超巨大なボスをやっつけたんでそのままスタッフロールでてくれたらもうそれで解決なのに、まだあるのかよ……。
いや、本当の目的はまだ果たされていない。
あのクソデカい塔を昇らないとダメなの? めんどくせぇ……。
「はは……ははは……」
そして地面にボロ雑巾みたいになってるミソギが笑っている。こいつ元気やな……もっかい叩いたら黙るかな。
「終わりだよ、ほんと……これでもう、今度こそおわりだね……」
「おお、さっさと終わらせてくるからオマエはそこでずっと寝とけ」
おれはそのままミソギを置き去りにして、進もうとしたが、
「いや、だね……いくらでも邪魔するよ。ボクは、帰りたくないからね……」
そしてフラつきながら立ち上がるミソギ。こいつほんまどんだけタフやねん。もうええって。
『いや、そろそろ退場だね』
どこから声が?
なんか《首輪》から声が聞こえてきた気がする。あの《まほうしょうじょ》同士で念話するやつと同じやり方で。
「な――――――――――――」
やはり音はしなかった。上から落ちて来たのか、それともワープして唐突に現れたのかおれにはわからなかった。気付けばミソギの横にいたのは、
「そ、そんな……」
ソアレが突然、現われたその姿を前に驚愕していた。
「繧「繝槭ヤ様……」
また多分ソアレは名前を呼んでいるのだろうけど、なんか名前の部分だけノイズ走ったみたいになって何を言ってるのかわからない。
だが、現われたの金色の髪をした女性……長身の女性だ。なんか、その……ミソギはおれと瓜二つで髪色が違うだけだったけど、服装は和風で着物みたいな衣装で、もしおれがデカくなったらこうなるんかな――って感じの見た目だった。
金色の髪色は気になるが……なんでソアレと同じ金色の――
「ミソギ……さすがに遊び過ぎだね。きみは本当によく仕事をしてくれたけど……おかげでアタシはかなり無駄な時間を過ごすことになったんだよ」
ミソギの肩に手を置いて、耳元でそう呟いて……、
「繧「繝槭ヤ様!!」
だが割り込むようにソアレがおれより一歩前に進んでそう言った。だが名前を呼ぶとそのときだけおれの耳にノイズが走って頭痛いねん。ってか、向こうもちょっと耳を塞ぐようなモーションしてるぞ。
「ああ、それアタシの実名でさ……恥ずかしいからイジって聞こえなくしてるんだよね」
おれにだけわかるような言い方、やっぱこいつが……王さまってことだろうか。んで実名とか言っちゃうから《転生者》ってわけか。おれも実名名乗るのなんか躊躇ってゲーセンで使ってたプレイヤーネームだし。
「だからさ……、ね? ソアレ――アタシのことはアマツと呼んでね?」
「え? ……ええ? どうして……あなたは……」
そしてアマツと名乗る何者かを前にソアレはそれが誰かを知っているような反応。
「……いまのアタシは《荒使》の王さま。アタシを倒さないと、終わらないよ?」
「うそ……だって、だって……繧「繝槭ヤ様は……わたしたちより……ずっと強かった《まほうしょうじょ》だったじゃないですか!!」
だがその言葉にアマツはニコリと笑って、
「アタシがこの異世界の最初の《転生者》で……本当に、生まれ変わって……ここからもう一度って、思ってたんだけどね――」
そしてアマツは腕を組んだまま、
「な、なぁ……まだ、ボクはやれるからさ……だから、もう一度チャンスをくれよ」
しかし話を遮るようにミソギが声を上げるが、アマツの目は本当に冷たくミソギを見据えている。
「………………いやぁ、その……もう十分楽しんだでしょ?」
「だめだ、だめだめだめだだめだ! ここはボクにとって最高の世界なんだ。ここでずっといたいんだ。ボクはぁ、ボクはさぁ――――」
駄々をこねる子どものようにミソギは足掻き続ける。しかしその諦めの悪さがこいつを殺すのだろう。
「いや、そろそろお帰り――死んでしまって元の世界に居場所がないなら、また生まれ変わって新しい人生を始めなさいな」
するりと、アマツの腰には一本の刀が備えられている。
まぁ、和服衣装のキャラってだいたい刀持ちよな。
「いや、だ……このままが、このままがいいんだ――だから、ちゃんとこの異世界が終わらないように、《転生者》は全部片づけてきたのに……ぜんぶ、そうだ……これもぜんぶ、ぜんぶ、おまえのせいだ――」
呪詛を吐き散らかしながら、憎悪の篭った視線をおれに浴びせるがぶっちゃけおれは大袈裟に肩で息をして、
「だからって他人に迷惑かけてるようじゃな……ここまでだよ、どっか行け」
もうおれは十二分にこいつをボコったから満足してる。でも正直飽きた。いつまでもいつまでも敗北を認めず、いまだにグチグチもう疲れた。
「う、うるさい……うるさい……ボクより、そっちをどうにかしろよ……この異世界は、こいつがつ――――――」
対戦は成立していない。
だが、一筋の黄金が過ぎていた。
おれの横目を通り抜けたその光は――ミソギの首を刎ねていた。血は出ない。ただ首と胴体の繋がりが消しゴムで綺麗に消されたみたいに。
ミソギは……完全に消滅して、もうおれの目の前からいなくなっていた。
「いつまでも、いつまでも……きみは、最期までおしゃべりだったね」
それはおれも同意する。
「さて……えーっと……ノリ……いや、これはマナー違反だったね――」
そしてまた唐突に消失するアマツ。
姿を消して、またおれの《首輪》から念話みたいに声をかけてくる。
『ほんとはいますぐ対戦したかったんだけど今度こそ最後だからさ。アタシは塔のいちばん上で待ってるから。これ百階あるけど。アタシは最上階で待ってるから……その、えーっと、がんばってね』
「いや……絶対いらんねんけど」
百階層もある塔を延々と昇り続けていたら、途中で飽きるって。
『別に屋上にさえ来てくれれば何してもいいからさ』
「ほーん……」
じゃあ、そうさせてもらうか。
だからおれはお言葉の通りにさせてもらうことにする。
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