第61話 汝、切断厨を×せよ<1>
「そこを動くなよ、やっぱオマエ……顔面無くなるまでぶん殴るから」
おれは逃げ惑うミソギを追いかける。
あいつはルミアとの対戦を無かったことにした。どうやったのかは知らんが、知りたくもない。おれはそんなことしないからだ。
ミソギは対戦結果を受け入れず、切断した。
なぜ、切断はいけないか?
全てが無駄だからだ。
対戦にかけた時間が意味を失くす。結果を無かったことにするという行為――感情で全てを無にするのなら、最初からしなければいい。
自分が勝つときはその成果を得て、負けて評価が落ちるからそれが嫌だからと結果を受け入れず消す――相手を置き去りにして。
対戦は相手がいて初めて成立する。勝ち負けを決めるゲームにおいて、そんなことをするのはただの裏切りだ。悪だ。滅ぼすしかない。
転生して、好きなことをして、好きなように生きて、相手を嫌がらせ続けて、自分が嫌な目にあえば無かったことにする――なぁ? こんなやつがここにいていいわけないだろ?
「いやだ、いやだ……ボクは、もうあっちに戻りたくない、戻りたく――――」
「あれも、これも欲張りすぎる……転生したからって何してもいいわけちゃうぞボケ」
そしておれは走る。
ん?
そういやおれって対戦以外のときって能力はただの幼女になるはずなのに全然疲れへんぞ……。
それどころかちゃんとミソギの体力ゲージが表示されている。
ルミアとの対戦から逃げ、切断行為に他ならないおれはブチ切れてミソギをすぐ追いかけたことで対戦がそのまま継続されてる?
まぁ、それならそれで助かる。これでもし《寄生型》を出されても処理できるし、ミソギは殴れる。
「もう、もう……なんなんだ、なんで、オマエは――いいのか、いいのかっ!!? この世界がどうなっても……」
「テメェがどうにかするわけじゃないんだろ? だったらどうなるかはっきりわかるまで進むことを止めるわけにはいかねぇだろうが」
《荒使》の王を倒せば、この異世界が終わるなんて本当かどうかもわからない。そして、おれは散々煽って来る王をぶっ飛ばしたいだけだ。
それに、もしこの世界が終わるならそのときは――
「じゃあ、ここでやっぱり……止めるしか、無い……な」
観念したのかミソギは立ち止まり、振り返ったとき、
「なんだなんだ?」
また地響き。もうええってまたおれを《荒使》で囲んで時間稼ぎでもすんのか?
だがよく見れば水上で稼働するアトラクションであろうウォーターライドがミソギの背後に見える。だがその水が流れている山のようなモニュメントが真っ二つに割れて、
「でっか……怪獣やんけ」
今まででいちばんデカい《荒使》が現れた。これまではデカいといってもおれの二倍ぐらいの大きさとかその程度だったが、今度は明らかに違う。
たぶん20メートルぐらい? 知らんけど。ってかこんなんどうやって相手するんだよ。こっちも巨人みたいにデカくしてくれんのか?
「はは、キミが《転生者》は確かにチートもなにも持たせてもらえないけどさ……ボクは《まほう》とは別の力があるんだよね」
ミソギが手を伸ばすと、
「なんで《荒使》はボクの言うことを聞くと思う? ボクにはそれが許されてるのさ」
(……おれは自分がいま必要な《まほう》を好きに作れるようなもんか)
だから無駄にゲージを使う技に限っては豊富に技が使えるしな。
「でもよ、それはズルだろ。デカすぎて……」
いや、おれはそこでふと考える。
格闘ゲームは何も対人だけがすべてではない。対戦するだけではない。格闘ゲームが好きでも対戦じゃなくて一人で遊ぶのが好きなプレイヤーだっている。トレモだけして満足な人もいる。
そして格闘ゲームには一人用のモードもちゃんと存在している。
ある格闘ゲームの一人用モードのラスボスを思い出す。
だから、
「なんとかなるわ」
一瞬でも焦ったおれをぶん殴りたくなった。
「今度こそ終わらせてあげるよ」
「逃げた時点でテメェはすでに終わってんだよ」
そして巨大な《荒使》が腕を振り上げるが、おれはちっとも恐れることなくとりあえずその場で構える。
これは一人用モードのラストで戦う無駄に図体のデカいボスと同じだ。
どれだけサイズに差があろうとも、対戦なのは変わりない。相手がおれの十数倍もバカデカい巨体であろうとも、おれが豆粒みたいに見えていようが、対戦なのだ。
だから、
「ガードはできるんだよなぁ」
もうこれ何度も擦るけどさ、本当ならこんなデカい腕で押し潰されたらぺちゃんこにされるはずなのに、格闘ゲームってほんとガードが成立するなら銃弾をぶち込まれようが、刀で斬られようが素手でも耐えれるんだよ。本当に不思議やで。
「なら対戦は成立してるってわけだ」
もし成立していなければ《荒使》であろうとも他者を傷つけられない。対戦が成立しているからこそ攻撃を与えることができる。そして対戦ならばサイズ差など関係なく、ガードはできる。
「だけど、ガードしても体力は削れるだろう?」
「ああ、そうだな。そうだが……ガードを崩さなければ、体力をゼロにできなければ――おれには勝てないし、そもそも――おれが勝つぞ?」
巨大な怪物の肩に乗るミソギを見上げたままおれはそう言ってやる。何者であろうが、それだけは変わりない。これが格闘ゲームのルールに乗っ取って戦えるならおれは絶対に負けはしない。
「はは、もうキミのそのイキりは聞き飽きたって……じゃあさぁ……これはどうするののか教えてよ?」
「ああ、やっぱりそういうことする――」
そして巨大な《荒使》は顎が外れそうなほどに大きく口を開けば、そのまま光が集まっている。
もうさっさと終わらせてしまうのだろう。ってか後ろを向けばソアレやルミアが心配そうに見ているが……画面端とか関係なく吹っ飛ぶとかやめろよ?
「はぁ……」
おれは両手の手のひらを合わせたまま、溜息を吐く。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ? これすごいでしょ。これどうなると思う?? これどうやってると思うっ!?」
「またそっち有利なったら元気そうだな……勝手に喋っとけよ」
するとミソギは笑いならが触手を《荒使》の首に巻いて胸の当たりでぶらんと揺れているが、
「……パイセン」
小さく開いたそこにはフルカノンのパイセンが埋まっている。
「このお姉さんの《まほう》はめちゃくちゃ強そうだね。それをこの《荒使》が使ったらぁ――さすがのキミも、耐えられないでしょ?」
ガード不能の飛び道具。しかもビームで一直線に飛んでくる。何度も何度も反則行為を繰り返し、ついにはパイセンまで使っておれを煽りに煽った。
「……3アウトってところか」
完全に終了である。
この瞬間、ミソギを完全にぶっ飛ばす……いや、消し飛ばすことが決定した。
「ずっと雑魚ばっか当てられてて飽き飽きしてたんだよな。なぁ、いま……おれ、どれぐらい怒ってるかわかるか?」
「知らないよ……さっさと消し飛んでしまえよ、ここでさぁ!!」
「ああ、そうかい――――」
今にも吐き出されようとしている破壊の光線を前に、おれはただ両手を合わせたままミソギを睨んだまま、
「――――フィフス・マジック」
なら、おれも同じようにさせてもらう。
おれがここで全てを終わらせる光に対して、抗わせてもらう。
いや、違うな。
――迎え撃つ。
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