第59話 ソアレ<4>
その大きな蜘蛛のような形をした怪物の中に――スティルがいる。
わたしが負けたくなくて、ずっと戦い続けて、それでも勝てなくて――そんなときトリノちゃんに出会った。
トリノちゃんに教えてもらって、どうすればいいのか知って、考え方も変わって……そしてついにわたしは勝てた。
でもこの子はまた……わたしの前に立ちふさがる。
そんなにわたしに負けたことが嫌だったの?
わたしに負けて、そんな姿になってまでわたしに勝ちたかったの?
でも、わたしは一回じゃないよ?
わたしはあなたに何度も負けたんだよ?
それでも、わたしは勝ちたくて何度も挑み続けたのに。
「そんなの……許せない……」
だから逃げたことも、《荒使》になっていることも、何もかもわたしとは逆のことばかりしているスティルが許せなくてふつふつと怒りが湧き上がる。
「guuuuuuuu,aaaaAAA!!!!」
叫びながら四本の腕が蠢いた。
そして腕を伸ばせば、糸が鞭のように伸びている。
だけど、わたしはそれを飛んで回避していた。
(今度は、もう……)
それは囮だというのはわかっている。飛んだと同時にわたしを狙い撃つように残った腕が糸の伸ばす。
だがわたしはもう一度空中に跳ねる。二度、ジャンプできることをトリノちゃんに教えてもらったから。知らないからできなかった。だけど、これもトリノちゃんに教えてもらったからできる。
片方の腕が伸ばした糸を空中でもう一度ジャンプして回避できたけど、もう一本残った腕がまた斜め上に跳ぶわたしを狙っている。
だけど、わたしはそのまま空中で疾駆する。
地上でわたしは走ると、走るというより滑ってしまう。これもトリノちゃんの教えてもらった。他の誰よりも早く進めるのに、止まるまで一切の行動に繋げることができない。
ガードできなくなる。だから地上では歩けとトリノちゃんに教えてもらった。これのおかげでわたしは勝てるようになった。
空中ではトリノちゃんと同じように飛べる。空中で同じようにダッシュすれば一直線に駆け抜けれる。
そしてもう片腕の糸をすり抜けて、
「勝てないって思ってた――」
あなたにまた負けて、また勝てないって諦めてしまった。あなたに負けたことよりも、わたしが負けたことを認めてしまったことが許せなかった。
もう、こんなところで止まってはいられない。
トリノちゃんの邪魔をするならあなたでも容赦しない。
この先に何が待っているのかわからない。だけど、ここで終わらせるわけにはいかない。わたしが負けるとトリノちゃんが先に進めない。
それだけはイヤだ。そんなのはぜったいにイヤだ。
だから、
「――ッ!!!!」
空中を滑空したまま、わたしの全身が《荒使》となったスティル目掛けて墜落していく。
けれど、わたしは右手に力を篭めたまま怪物の顔面めがけて拳を振り放つ。
「――――tu,u,luee!!!?????」
頭部めがけて力いっぱい拳殴りつけた。
そしてそのまま着地したとき、わたしは《まほう》を唱えていた。
「わたしの弱さに潰れた者よ……わたしの強さに砕かれろ――」
わたしと同じ想いのまま道を違えた者にもう一度負けるわけにはいかない。だから、わたしはここで終わらせる。
折れた意味の無い片手剣を未だに持ち歩いている。
でも、わたしにはもう――こんなもの要らない。
だからわたしはそれを投げ捨てる。
いや、投擲した。
一直線に撃ち出されたわたしの剣は、《荒使》の下半身に直撃し、そのままの勢いで建物をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。
だが、その撃ち出した剣と同時にわたしも砲弾のように突き進む。
「……gaaaaaaaaaatuuuu!!!!!!!!!!!!?」
動けるものか――だって、それは楔だから。
粉砕した建物ごと《荒使》は、わたしの投げた剣を撃ちこまれて文字通り楔のように壁に張り付けにされる。
だから、それが……画面の端だ。
どうしてだろう。わたしには、いま、なぜかそれを理解している。
本当は見えない壁があって、それ以上は戦えないというルールがあることを知った。
そしてもうそこで動けない《荒使》を……いや、スティルは悶えたまま、だからここで終わらせる。
「――故に、《魔崩》と叫ぶ」
ノリトちゃんのようになりたい。
あんな勇敢に、拳と蹴りだけで戦ってるすごい《まほうしょうじょ》になりたい。
だから、わたしもいまここでなる。
そう、決めた――
「――――|わたしのためにただ歪め《ラスティング・ディザスター》」
それはわたしに言い聞かせるように。
わたしが、そうなるために……わたしのこれまでを捨てた新しい戦い方。
だってわたしの《まほう》……それは、この手を使った方が――強いんだから。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
わたしは酷く、醜い声を上げていた。
咆哮と共に、乱打する。壁に縫い付けられた《荒使》スティルの身体が削り取るように、幾千幾万と殴打の限りを尽くす。
これが、わたしのいちばん強い《才覚》を与えた《まほう》だ。
げーじってのが満タンまで溜まったら使えるんだって。
なんで、そんなこと知ってるんだろう。
いま、知ったんだろう。
でも、いまは……どうでもいいや。
だって、こんなにも……わたし……トリノちゃんみたいに強くなってるから。
「……………………………………a,aa,aA」
わたしが星の数ほどなんて例え話なんかじゃに数の殴打を繰り返して、《荒使》の全身を破壊し続ける。
そんなわたしの殴打によって完全に沈黙している《荒使》に向かって、
「……もう、いいでしょ?」
そして胸部を貫いて、わたしは無理やりに《荒使》の肉体を開けばその中で取り込まれているスティルの背中に両手を回して、
「……なん、で――」
「スティルのことはきらいだよ……わたしのこと何度も酷い目にあわせて――でも、スティルに勝ちたいってずっとそう思い続けたおかげで、諦めなかったおかげで……トリノちゃんに会えた。ここまで来れた」
そしてスティルを抱き締めたまま引っ張り上げる。四肢に巻き付く肉塊を引き千切り、そのまま蹴り飛ばす。
「だから、わたしに一回負けたぐらいでこんなことしたのが許せない。わたしは十回どころじゃないのに……ひどいよ」
わたしは、ここに来るまで何度も何度も負けたのに――それでもあなたのように歪んだりはしなかった。それなのに、わたしに一度負けただけで道を間違えるなんて許せるわけがない。
「帰ろう? ね? 今度ちゃんと、《まほうしょうじょ》として対戦しよう? じゃないと、わたし……スティルのことずっと許さないよ?」
抱きしめたまま、そう言うと――スティルは何も言わず、ただ無言のまま頷いて、
「別に、ワタシは……ソアレみたいに、真面目にはできねぇよ」
「別にしなくていい。でも、ズルだけしないで」
ただ、それだけ。
「……わかったよ」
「わかってくれたら、それでいいよ」
別に改心しろとは言ってないし、そう簡単にわたしたちと同じ道を歩けとも思ってない。でも、ズルはせずちゃんと戦ってくればそれでいい。
それだけで、わたしはいいんだ。
そして横目でルミアちゃんを見る――フルカノン様でも勝てなかったミソギって子……対戦することに怯えていたはずのに、どうして突然……。
「ああ――――……」
でも、わたしはわかってしまった。
ルミアちゃんもわたしと同じなんだね。
理不尽を突き付けられ、裏切られて、そして傷つけられた。もうこのままではいられない。このままなんて絶対いやなんだ。
そうだ、ルミアちゃんも……怒ってるんだね。
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