第58話 自慢の《まほうしょうじょ》
「ほんとすごいね。伏魔殿まで来るとはさすがに思わなかったよ」
ミソギは気味悪く笑う。
「なんか首輪が虹色になったらすんなり来れたぞ?」
「そうなの? ボクは別のルートで来たからキミたちの努力わかんないんだよね。ごめんね」
おれたち《転生者》は白い繭から転生してスタートなのに、こいつだけは自力で別ルートでこの遊園地に来たとか言うもんだけどどうでもええわ。こいつの自慢なんか聞いてもおもんないし。
「謝る必要はねぇよ。それよりごめんな、いまからおまえの顔面パンパンにするまでぶん殴るから謝っとくわ」
おれはとりあえず煽ってみるが、ミソギは動じずそのまま指を鳴らす。
「別に謝ってくれなくていいよ、キミが謝るのが先だろうしね」
そして地響きが起こると、
「わわわ……っ!!?」
ソアレが声を上げ、ルミアはそのままソアレにくっついていた。そしておれが振り向いたときには、
「ほら、キミ強いんでしょ? 全部相手してなよ」
とんでもない数の《荒使》がおれの目の前に溢れかえっている。いやどっから出て来たこいつら。
しかも見事におれを囲むように壁を作り、ソアレたちと分断されてしまう。
「ソアレ、そっちは?」
「こっちはだいじょうぶ! だいじょうぶだけど……」
「とりあえずキミとは戦いたくないから時間稼がせてもらうよ」
おれだけを《兵士型》の《荒使》で囲んで、ソアレとルミアを見てニヤけてるミソギ。ぶっ飛ばしてぇ……マジでこいつほんま……。
「おれに勝てへんからってきっしょ……ほんまぁ」
やり方がゲスすぎるわ。
これが無双系でおれTUEEEEできるならそりゃ指先一本で瞬殺なんやけど、おれがどれだけ強くてもこの異世界はタイマンオンリー。
この百どころかじゃない数の雑魚を一対一で倒し続けても、その間に間違いなくソアレとルミアはミソギに狙われる。
「ふふ、どうする? 別にボクと戦わなくていいよ、ボクはキミたちには興味ないからね」
二人を無力化さえすれば最後は《寄生型》で出してきて無防備なおれはそのまま終わるってやり方なんだろう。だが、確かにおれはこの雑魚の数ではどれだけ足掻いてもソアレとルミアより先にミソギの相手はできない。
「……ん」
しかしルミアはミソギを前に真っ直ぐと向き合っている。
「え? なにその態度?? キミさぁ……ボクに助けて欲しくて一度裏切ってるのに、そんな目でボクを見ていいわけ」
「……ルミア、まだこわい」
ルミアはまだミソギを前に小さく震えているけれど、
「ルミアまだあなたにやられたこと返せてない」
その震えは怯えではなく怒りだった。
操られて、襲わせて、挙句に身体には命に関わる細工までされた。散々ミソギには酷い目にあわされてるルミアにとってこの偽者の《まほうしょうじょ》を許せない。
「え? ええ?? なに??? キミ、ボクと、対戦するの???? いいの? え? なんで?? 急に元気になるんだ。今までずっと怖がって、自分の《まほう》もロクに使えないのに???? おもしろくない? なんでそんないきなりがんばっちゃうの??」
ルミアが突然の宣戦布告にミソギも驚いている。これまで戦うことに恐れていたはずのルミアが、こんなにも前向きに、いや感情に身を任せてミソギと戦おうとしている。
「ふーん……ボクに勝てるつもりなんだ。ボクと同じ顔をしてるアレとは戦いたくないけど、キミなんかに負けるつもりないけど……???」
「そういうの、もう、いいから……ルミア、どうすればいいか……理解った、から――」
なんかおれに煽られるときよりもビッキビキに顔真っ赤にしてるぞ……まぁ、自分が下に見てるヤツに舐められてるんだからそりゃそうか。
「じゃあ、キミはボクが遊んであげるよ――ああ、そっちは……」
そして再び指を鳴らすと、ソアレの目の前には大きな四足歩行の蜘蛛みたいな身体に、人型の怪物が生える《変異型》の《荒使》が現れる。
しかしそれはただの《荒使》ではないのはわかっている。
「スティル、また会ったね」
だがソアレはどこか落ち着いているように見えた。再会したときは動揺していたし、敗北してしまったのに。
いま、こうして再び現れたスティルを前にしているソアレは折れた片手剣を手に迷うことなく前に出る。
「ルミアちゃん、わたしはこっちを」
「おねえちゃん、ルミアはこっちで」
なんなん……? なんかいつの間にこんな逞しくなって……おじさん泣きそうなんだけど。
「もう、おれなんかいらんやろ」
きっとこのふたりは上手くやっていけそうな気がする。どれだけ大きな敵が、強い相手が前に現われても、立ち向かう気概さえあれば、なんとかなる。
対戦は、戦わなければ始まらないのだから。
逃げれば戦わなくて済む。傷つくこともない。おれの中のそれはたかがゲームだが、それでも……たかがゲームぐらいは自分の気持ちを裏切りたくない。
でも、このふたりは……ゲームなんかじゃない。おれよりずっとすごくてつよいに決まってる。
おれは勝手にゲームの仕様にして無理やり納得して戦ってるからどうにかなってるだけだ。
おれは《チート》なんてもらってないし、使えないけれど……それでも知っているからここまで来れただけだ。
だけどソアレもルミアも違う。無知のまま、未知のまま戦っていた。それがどれだけ恐ろしいことか。
「こっちは任せとけ。そっちは頼んだ」
だからおれはやっぱりこの異世界じゃ独りで生きていけないなぁ……って笑ってしまった。そもそも対戦が成立しないといちばんの役立たずだ。主人公なんて柄じゃない。
ソアレとルミアは小さく頷いていた。
そして、おれがやるべきことはただ一つ。
「じゃあ順番にかかってこいや、さっさと終わらせるで」
時間稼ぎでこんなしょうもないヤツの相手させられるこっちの身にもって欲しい。でも、おれの自慢の《まほうしょうじょ》がどうにかしてくれるだろう。




