第57話 伏魔殿
ルミアが遺跡へ誘ってくれたように、おれもまた《荒使》の王がいるであろう場所へ向かって進んでいた。
遺跡の奥はてっきりダンジョンみたいに入り組んでやばいことになってんのかなって思ったら全然そんなことはなく……ただただ真っ直ぐな道で、しかも何かしら襲っても来ないわけで。
……めっちゃ手抜きの一本道の作る途中で飽きて、そのまま直通して外へと繋がっていた。
外はもう星の光すら見えないほどの闇黒が広がっている。
「う、うーん……」
「ルミアちゃんだいじょうぶ?」
そして外へ出たと同時にルミアが目を醒ます。ミソギが植えつけたとかいう種が発芽することなく、おれが勝ったことでそれは無かったことにできた。
おかげでルミアの容態は安定して、さっきまでずっと大人しく眠っていたのだがついに目を醒ました。
「……ん、だいじょうぶ」
「よかったぁ……」
ほっと一息。
「おねえちゃん……おじちゃん……ありがとう」
「ううん、わたしはなにも――」
「おれはやっぱりおじのままなんかい……」
まぁ、ルミアが無事だし別にどうでもいいが。
「ここ……」
そしてルミアが辺りを見渡すと、遺跡の外はやっぱり樹海が広がっておりまるで迷路のようだった。
しかし、おれはなぜだかとりあえず真っ直ぐ進んで行く。
「え、え? トリノちゃん……??」
「ついてきてくれ」
《首輪》が虹色になったことでなんでかわからないけれど、どう進めば正解なのか迷うことなく進んで行ける。
ソアレはルミアと手を繋いておれの後ろについてきてくれる。
不安は全くなかった。
これまで町の中ですら一人だと迷子になってしまいそうなぐらいに方向音痴だったくせに、いまはただ無意識に前に進んでいる。《首輪》の色が虹に染まったから?
「トリノちゃん……それ――」
「ああ、ミソギに勝ったあとにな……」
《金色》を超える《虹色》とかいう――なんか《荒使》の王の元へいけるのはそのランクに到達しなければならないみたいだけど、
「いままで色すらついてなかったのにな。おかしな話やで」
透明のままの首輪――何の色もないこの首輪に、色がついた。まさかの虹色で……。
「おかしくないよ――トリノちゃんはなら、おかしく……ないよ――」
なんて、消え入りそうな声でソアレは言うものだから、
「……ソアレ、調子悪いか?」
いつもと明らかに調子がおかしいのはわかる。
さっき王さまがどうやったのか知らんけど、ソアレを通しておれに向かって語り掛けてきてた。そのときソアレはどうなっていたのだろうか。
でも、あんな会話……ソアレに話せるわけもなく。
「ううん、だいじょうぶだよ」
立ち止まって振り向いたおれの視界には笑顔のままおれをまっすぐ見ているソアレが映った。そう言われてしまってはおれはもうなにもいえない。
ルミアはおれとソアレを見て、
「……だい、じょうぶ?」
ルミアも心配そうにソアレに声を掛けている。だけどソアレはルミアの頭を撫でて同じように「だいじょうぶだよ」という。
「さっさと片付けて帰ろうぜ」
いまから買い出しにでもいくような軽いノリで、おれはそう言っても――「うん……」とソアレはやっぱり力無く答える。
でも、おれはなにも言えずにいた。
だから、さっさと全部片づけて――また明日も同じ時間を過ごせばいい。いま、それ以上のことを考えずに前に進む。
おれはひたすら前に進む。《荒使》の姿はやはり見えない。迷うこともなく、木々の合間を抜けていく。
真っ暗闇の中だってのに、ちっとも怖くない。ただひたすらまるでおれの身体がひっぱられているんじゃないかってぐらいに、知らないはずの終点へと向かっていく。
「……なんだ、あれ?」
そして更に奥へ進んだ先に見えたのは――
「伏魔殿……?」
なんかめっちゃデカい門が見えるが……この世界の文字で本当なら日本語じゃないのにおれも読める。
名前はイカつくて、ヤバい感じがプンプンするのに、
「おお~……」
ルミアは目の前に広がる巨大な施設を前に目を輝かせている。くまみたいなモニュメントが出迎えて、おれたちの目の前にはクソでかい観覧車に果てが見えないほどに長すぎるジェットコースター。
客は誰一人いないのに電気はどっから通ってんのかわからんけど、めちゃくちゃピッカピカに昼みたいに光り続けている。
「……なんなんこれ……めっちゃ遊園地やけど――」
もしこれが最後の舞台というなら、さすがにファンシーすぎるだろ。もうちょっとラストステージ感あふれるイカついフィールドにしてくれよ。
そして入口にはやっぱり道を塞ぐように置かれたクソデカ石造筐体が設置されている。
「もしかして、またか??」
近づいて見ればやはりコインの投入口だけは穴が開いている。
(二枚目の五十円玉……ここで使えってか?)
よくもまぁあんだけ暴れ回っても落とさずにちゃんと持ってるな……と、そのまま五十円玉硬貨を投入する。
「これほんと不思議な形だね」
本当にそうだ。
だがこの筐体がおれたちの戦場だった。座ればもう逃げられない。戦うためだけの装置だ。
勝っても負けても何かあるわけじゃない。何か取られるわけでもなく、別に死ぬわけでもない。
それでもおれたちにとっての全てだった。
「ああ、ほんと不思議だな……」
そんな不思議な形をしたこれにおれは呪われたようにいつも触っていたわけで。
死んで、転生して、幼女になって、それでもこうしてちょっとおかしなところはあっても格ゲーの仕様に近い世界で戦ってるなんておかしな話だ。笑える。
「さきに、進むか」
石造が動き、道が開く。
おれたちはそのまま《伏魔殿》なんてふざけた名前の遊園地の中へと入る。
チケットも買わずに入っていいのかちょっと迷ったけれど、おれたち以外に本当に誰もいない。ってかルミアがちょっと足早になって進んでいる気がする。
「ここ、なに?」
「いやぁ……なんだろうねぇ……」
おもっきり遊園地だけど、どう説明していいかわからず適当に返してしまう。
「とってもすてき……」
「そうだねぇ」
「あ、あれ……なに???」
ルミアが指差すそれはコーヒーカップやティーカップの形をしたものがくるくると回っている。
(そういや、あれってホントの正式名称なんなんだ……?)
遊園地なんてキッズの頃に親に連れていってもらって以来、おっさんになってから一度として行ってないから殆ど記憶にない。
「……こーひーかっぷって名前の遊具? らしいよ??」
ルミアが近づくので、おれもいっしょに近づくと近くのボートに書かれている文字をソアレが読んでいるのだが、
「こーひーってなに???」
今度はソアレがそんなことを言う。
「……いや、コーヒー飲まないのか???」
いや、異世界にはそんなのないか――そりゃわからんよな。
「のむ???」
「……ん??」
そしてソアレとルミアが顔を合わせて首を傾げているのだが、なんだろうこれ。どうも会話がかみ合わない。
この異世界にコーヒーがないからそれが何かわからない――それはわかる。でも、そのあとがおかしい。おれはなにかおかしなこと言ったか?
……最後に飲み食いしたのはいつだ――――?
「ほんと、まさかここまで来るとは思わなかったよ」
だが、おれの胸中がざわついたと同時に後ろから聞きたくない声が耳に入ってくる。
ほんと振り返りたくないけれど、振り返ってみればおれは無意識にげんなりしたことだろう。
「やぁ」
そして入場して最速で、最悪が現れる。
「よぉ」
だから、おれも適当に返事してやった。
ミソギが待ち構えていた。




