第56話 ソアレ<3>
トリノちゃんはやっぱりすごいよ。
わたしは腕の中で苦しむルミアちゃんを抱き締めたまま、ミソギって名前の《まほうしょうじょ》の……トリノちゃんにそっくりな《荒使》だって顔色ひとつ変えずにやっつけちゃうから。
そして、あれだけ苦しんでたルミアちゃんはトリノちゃんが勝ったらすぐに小さく寝息を立てるように、あれだけ苦しそうだったのにもう大丈夫みたい。
すごいなぁ……トリノちゃんは。
トリノちゃんは、ちっちゃくて、かわいくて、だけどカッコいい――つよくて、すてきな……《まほうしょうじょ》
わたしなんかより、ずっと、ずっと……わたしは、トリノちゃんみたいになれるのかな。
なりたいな……。
でも、
(《てんせいしゃ》……ってなに? トリノちゃんは《まほうしょうじょ》じゃないの?)
ミソギって子と戦ってる途中で聞いたことのない言葉が耳に入ったとき、ずっと胸の奥がざわざわして、くるしくなるのはなんでだろう。
あたまがいたい。
どうしてこんなにあたまがいたいの?
――ごめんね。
え?
そしてわたしの頭のなかで響いた声が、
――すこし、からだ借りるね。
いきなり水の中に頭を引きずりこまれたみたいに、息ができなくなったとき――突然わたしの目の前が真っ暗になって、
――特等席で、見てていいよ。
そして目を醒ませば、わたしなんのにわたしじゃない誰かがトリノちゃんと喋っている。
むずかしいことばかりしゃべてる。
トリノちゃんが、わたしのからだを使って話をしてる誰かと。
いせかい? てんせいしゃ? ちーと?
この世界のこと? どういうことなの??
王をたおせば世界は終わる????
じゃあ《まほうしょうじょ》って……なに?????
わたしは――なんなの????
トリノちゃんを見下ろすわたし。
でもわたしはただ、わたしのからだを使って話をしている誰かとトリノちゃんの様子を黙って見ていることしかできなくて、わからないことばばっかり並べて、
でも、
だけど、
(トリノちゃんが……かえっちゃう……?)
わたしたちが倒すべき王と呼ばれる存在を倒したそのときトリノちゃんはこことは違うどこかへかえってしまうの……?????
なんで?
わたしは深い水の底にいるような感覚で、だけど誰かがまたそのまま引きずり出そうとしている。
――なまえぐらい、おしえてあげればいいのにね。
耳元で誰かがささやいている。
(え……?)
わたしのうしろで誰かがいる。だけど水の中から引きずりだされたとき、いきなり目の前が白く光って、まるで夢から覚めるように――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(かえる? かえるってなに? かえる? どこに? どこへかえるの??)
ただ、わたしは……その言葉だけはずっと頭の中でぐるぐるしている。
「ソアレ……ソアレッ!!?」
でも、ふとトリノちゃんの声ではっきりと意識を取り戻す。
小さな手がわたしの頬に触れる。ちいさくて、あったかい手……丸いくりくりしたかわいい目で、わたしを見ている。
だいじょうぶ。だいじょぶ……わたしは、だいじょうぶ。
でも、わたしは聞かずにはいられない。
「王さま……やっつけにいくの?」
「ああ、そうだな」
だから、もう結末は変えられない。
トリノちゃんはかわいくてカッコよくてつよいから、きっと王さまをやっつけちゃう。そしてそれが終われば、どこかへかえってしまう……?
いままで一度も考えたことなかった。
わたしたちはどうして《まほうしょうじょ》をしていて、《荒使》の王を倒そうとしているのか……ただそうしろって誰かが言うから、そうしてただけ。
誰かって、誰だっけ……?
誰でもいいや。
だった、トリノちゃんの首輪――もう虹色に光ってる。それは王さまのとこへ行ける《まほうしょうじょ》に許された色。
その色が、連れて行く。
「あ、あの、あのね……トリノちゃん……」
だけど、わたしは、
「ずっと、いっしょ……だよね?」
「もちろんずっといっしょだが?」
トリノちゃんはわたしの問いにすぐにそう返してくれた。迷いなんかなかった。そうだよ。トリノちゃんはうそつかないもん。トリノちゃなんは、ずっとここにいてくれる。
でも……王さまをやっつけたら……世界が終わっちゃう?
終わったら……トリノちゃんは、どうなるの?
わたしはトリノちゃんのおかげで、ここまでこれた。
トリノちゃんと出会わなければ、もっと早く終わってた。
わたし、まだ、トリノちゃんに、なにも、返せてない。
このまま王さまのところへ行けば、トリノちゃんが勝つに決まってる。
じゃあその後は? その先は? なにがまってるの??
(かえる……)
もし、もしも……トリノちゃんは嘘をついていなくても、トリノちゃんの言葉は本当だとしても――
「ソアレ、ルミアのことお願いしていいか?」
「え、……あ、そ、そうだね――ちょっと待ってね……」
トリノちゃんにそう言われて、わたしはルミアちゃんのところへ。まだ眠っているようだけどだいじょうぶ。わたしはそのままルミアちゃんを背負って、歩き出すトリノちゃんのとこへ向かう。
「ど、どうするの?」
「どうなってんのかおれもわからんけど、このままどう進めば王さまのところまで行けるのかが……なぜかわかる」
《首輪》の色が虹色になった者は……ただ無意識のまま、理解するよりも先に《荒使》の王が待つ場所への道筋を知ることができるって……なんで、わたしそんなこと知ってるの?
……わたしは、なにも知らない。
わたしはトリノちゃんに出会わなければ、ただ負け続けて、勝つことなんて知らないまま終わって消えるはずだった《まほうしょうじょ》のひとりでしかなかった。
そう、なにもしらない……よわくて、なさけない、なにもしらない《まほうしょうじょ》――それが、わたしだ。
「と、トリノちゃん……」
そんな、わたしが、
「わたし……このままトリノちゃんといっしょにいても――」
《荒使》になってしまったスティルにも勝てなくて、きっとわたしはもう誰にも勝てないよわい《まほうしょうじょ》だから、もうトリノちゃんの役にも立てないよ。
「ソアレ……」
だけどふとトリノちゃんは足を止めて、
「おまえがいないと、おれなんかいちばん役立たずだぞ?」
なんて、言うから――
トリノちゃんは対戦以外はなぜかわたしよりも足がおそくて、わたしよりもちからもよわい。
しかも《寄生型》の《荒使》には一方的に負けちゃうらしい。だから対戦以外は、トリノちゃんはわたしを頼ってくれる。
トリノちゃんは……、こんなわたしを……まだ、頼ってくれる――
「パイセンも助けにいかないと……それまで、おれのこと守ってくれよ」
バツわるそうに笑ってそういうトリノちゃんが、なんだかもっともっとかわいくみえて……、
「うん、うん……ありがと……ありがとうね……トリノちゃん……」
なんだかいまにも泣いてしまいそう。
わたしはまだトリノちゃんの役に立てるんだ。
「じゃ、じゃあ……このまま進もうや。なんかこう……適当に進んでも王さまのとこまで行ける自信あるんよね。うまく説明はできへんけどさぁ」
「トリノちゃんにおまかせするよぉ……わたしはついて行くね」
そしてトリノちゃんは左のほほを、指先で掻いて――わたしに背中を向けてそのまま進みだす。
守ってくれとか言っておいてわたしより先に行ってしまうのがなんだかおもしろくて……わたしはルミアちゃんを背負ったまま、トリノちゃんの背中を追うように進む。
わたしは、まだトリノちゃんの役に立てる。
なら、わたしはまだいっしょにいてもだいじょうぶ……。
でも、このまま王さまをやっつけて……せかいがほんとうにおわっちゃうのなら――トリノちゃんが、どこかとおくへかえってしまうのなら――
なら、
それなら、
そんなの、
そんなこと、
(……………………かえさない)
白かった首輪が、少しずつ色が黒く染まり出していることにわたしは気付けずにいた。
だって、わたしはトリノちゃんの背中をジっと見つめたままだったから――
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
この先どうなるか、もし読んでいただけるのなら
↓↓の☆☆☆☆☆から★1から★5で評価してもらえると嬉しいです。
作品をブクマしていただければ励みになります。
いつもみなさまのおかげで毎日投稿は継続できております。
本当にありがとうございます。それでは次回もよろしくお願いします。




