第55話 虹が辿り着く場所
『そうそう。やっと、ここまで来てくれたんだね。じゃあ、そろそろアタシのところまで来てもらえそうかな?』
なんて軽いノリでそんな風に言われても、
「どこへ行きゃいいんだよ」
『え? いやいや、わかるはずだよ。キミはもうそこまで来た』
「おまえを倒したら、この世界が終わるって……」
『いやぁ……なに《荒使》の王だなんて……そんな薄っぺらい王さま、さっさと倒して、この物語を終わらせて欲しいんだよね』
終わらせて、どうするんだよ。
ここにいる《まほうしょうじょ》たちはどうするんだ。
『ずっと待ってたんだよ。他の《転生者》は途中で折れちゃってさ……やっぱあれかな? 転生したら《チート》とかもらって気楽に強くなれないとダメなのかな? みんな諦めて消えちゃうかさ』
王とやらを倒すために、おれたちが元の世界で死んだとき……この異世界に転生させられて、物語を進めさせられる。
だが、それでも――そもそもこの遺跡に来ることすら叶わなかったようで。
いや、それどころか……、
『だいたいみんな最初で諦めるんだよ……この子にキミは助けてもらっただろう? そこから……《荒使》と戦うところから始まったろう? でもねそれに勝たないと、先に進めなくてさぁ』
「はぁ……?」
『この物語には段階があってね……そこを超えないと先に進めないんだよ。困ったものだね』
そして王とやらが話すには、まず白い繭からスタートするが、そこをソアレに救われてから始まる。
これは変わらない。そしてあの《荒使》ラグリオンが現れて、そもそもこいつに勝てずに終わってしまうという。
確かにおれはこの世界に転生するまえに、お決まりの宇宙な空間で神さまなり女神さまなりとお喋りをして、どこへ転生するとか……お決まりのチートを渡されるとかそんなイベントはすっ飛ばしていきなり白い繭の中から始まった。
そしてこの異世界はなぜか露骨すぎる格闘ゲームな仕様のせいで、もしおれみたいな格ゲー触ってないやつがこんな世界に転生してしまったら、最初の《荒使》との対戦だってそもそも詰んでただろうに。
まずは初見でいきなりこの異世界が格ゲー仕様であることに気づき、しかも練習無しでそのまま敵を倒さなければならない……おれがたまたま格闘ゲームをしてたからなんとかなっただけだ。
「そもそもおかしいだろ……なんでこの世界は中途半端に格ゲーの仕様なんだ――何もかもが中途で半端だ。未完成にしてはひどすぎる」
確かに仕様は格闘ゲームだ。だがそれ以外が狂ってる。
1ラウンドでしかも1先で決まる終わってるルール。破綻している部分が見えている。
戦うためにどの程度、格ゲーのことを知っているかで全て決まっている。だからおれはここまで負けることなく勝ち続けている。
だが、おれの問いに――ソアレの身体を借りて声を出していた王さまが、息を呑んで、突然黙りこんでしまった。
『ああ、まぁ、だいたい合ってる』
「合ってる?」
『いや、こっちの話……とにかく、ここまで来れた《転生者》がいなかったし……それにミソギに勝ったのもビックリしたからさ……うれしくて、ついつい話がしたくなったんだよね』
「あのミソギってのも《転生者》なんだろ……なんで《荒使》側なんだよ」
『えーっと……バグみたいなものかな? 言ったでしょ?? 最初はみんな白い繭からスタートして、この子に助けてもらるはずなのになぜかこの子は自力で脱出しちゃったんだよね』
「まぁ……格ゲーしたことないのに技出してるから多分、他ゲーやっててセンスはあるんだろうよ」
繭の中で何かしら自力で繭を裂いて、出て……そこから単独で別ルートで進行したってわけなら、そんなムーブしてる時点でこいつが主人公でいいだろ。
『そうなのかな? アタシもそこはよくわかんないけど、まさかそのままアタシの前に来るとはおもわなかったよ』
相当ゲーム上手いってことだろそれ……。たぶんミソギの得意なジャンルだったらおれが処理されていたことだろう。運が良かった。
『でも、ミソギが望んだのはワタシを倒すことじゃなくて……この異世界で居続けることみたいだったからね。だから、あの子は後からやって来る《転生者》を狩り続けた』
この世界が終われば、元の世界に戻ってしまう……いや、おれはトラックに跳ねられて死んでるから戻るなんて無理だろうが。
「……えらく負けることに拘ってるけど――なんでそんなに終わらせて欲しいんだよ」
そして、ここでおれは重ねるように、
「……王さまも《転生者》だろ」
『はは、正解』
やけにあっさりと答えた。
おもっきりおれのいた世界の用語使いまくっても普通に反応して返してくる時点でそうだろうが。格ゲーの仕様で戦ってることも理解してるし、おれと同じ世界から来た人間で間違いないだろう。
『異世界転生っていいものだと思ってたよ』
「あ?」
『ほらチート貰って、無双して、好きなことして、好きになってもらえて、肯定してくれるし……理解してもらえてさ……怖くなくて、痛くもなくて、何をしても許されるし、救われる――――』
それが、異世界転生ってものだろう?
おれだって詳しくはないけど文字を読むのは苦手だから漫画になったり、アニメになったり……そんなときぐらいにしか摂取したことがないけれど、全く知らないとは言えない。
だってそれは幸せな世界だろう。
何をしても認められるなんて……おれのいた世界にはないものだ。でも、現実じゃなくて理想で作られた世界だからこそ、何をしても許されるのだから――そこを否定するつもりはない。おれにとってはこの異世界も、そうだと思っている。
なのに、
『疲れちゃったわけでして……代わりを、してもらえるヒトを探してるんだよ』
「……どれくらいそこにいるんだ?」
『わかんない、他の《転生者》が百人ぐらい来ても終わらなかったから数えるのやめちゃったし』
「なぁ……王さまよぉ、そんなにつらいなら独りで終わらせればいいじゃねぇか」
『それが出来たら苦労しないんだけどねぇ……こればっかりは脚本通りに進めないとダメみたいでね』
そんなの知るかよ。
『一度だけアタシの前にきた《まほしょうじょ》がいたんだよ? それがミソギ。なのにギリギリでさ、あの子……負けとかいって無かったことにしたんだよ』
「なんやねんあいつ」
『こっちは手を抜いて負けるとかもできないし……あの子はなに考えてんのかアタシの手伝いするとかいいだしてやってくる《転生者》で遊びだすから余計にアタシのとこまでやって来れる《転生者》がいなかったんだよね』
「いや、そもそもなんで王さましてんだよ。《転生者》なんだろ……???」
そこで二度目の沈黙。
『あー……ごめん、話が長くて……時間切れみたい――この子すごいね……目を醒まそうとしてる』
「……ソアレは無事に返してくれるんだろうな?」
『話がしたくて身体を借りただけだよぉ。だいじょうぶ……なにもしてないって……うん、ほんと……』
「いや、それよりなんでソアレを使っておれと話ができるんだよ」
『……質問は全部答えたかったんだけど、途中でもし切れちゃったらややこしくなっちゃうし――続きは直接ね。みんな連れてきていいからね』
なんて言ったあとに『賑やかな方が楽しいからね』って付け足して言うが、いまからパーティにいくようなノリでもあるまい。おれはいまからおまえもぶっ飛ばしてやろうと思ってる。
「なんか王さまの思い通りになってるの気にいらねぇけど……おれは最後まで自分のやることは変わらねぇよ。そっちに乗り込んでやるから10先すんぞ」
『ふふ……たのしみ、はやくきてね――もう、ワタシのところまで来れるようになってるはずだから……そこは心配しないで――――』
そしてゆっくりと言葉が遠くへ……ソアレの両目に浮かび上がっていて重なっていた輪のような光が薄れていく。
そのままふわっと……静かにソアレの体勢が崩れていくのでおれはすぐに駆け寄って身体を支える。
「ソアレ……ッ!」
『待ってる――虹の生える場所で』
どこだよそれは。
そして今度こそ王さまの声は聞こえなくなって、ソアレは両目は閉じていた。なんかこう言葉には出来ないが、王さまの気配のようなものが消えた気がする。
「あ、……うーん……の、のり……と……」
「え?」
いま、おれの本当の名前――
「ううん……トリノ……ちゃん??」
「お、おお……だいじょうぶか? おかしなとこないか??」
「だ、だいじょうぶ……でも、ちょっと頭がいたいかも……」
ソアレは額を押さえて、なんとか自分の力で立ち上がってくれた。おれは横で支えてはいるがいまのおれではそれしかできない。対戦以外は役立たずだ。
確かに……異世界に転生したってのに、この身体は対戦以外は役に立たないし……そもそもの戦果も全ておれがたまたま格闘ゲームしてたからなんとかなってるだけだ。
チートなんてものは与えられないし、神さまにも女神さまにも会えていない。
しかし……ソアレはいま、おれの本当の名前を呟かなかったか? 初めて出会ったあの日からおれはゲーセンで使ってたプレイヤーネームで名乗っていたはずだ。だからそれはおれの聞き間違いだろう。
「ねぇ……トリノちゃん……」
「ん? なんだ??」
「やっつけに、行くんだよね……? その、《荒使》の……王さま……」
「ああ、それが《まほうしょうじょ》としての役目なんだろう?」
そのために今日までソアレだって頑張って練習して、ここまで来たんじゃないかと。
「うん……そう、だね……」
「でも、どうやって行けばいいかわからへんし、困ったわ」
王さまはなんかもうおれはわかってるとか言うけど、意味わからん。
そして腕を組んで、首を傾げるおれをよそに突然、今までずっと無色だった《首輪》が輝き始めた。
「え、え? なに?? なになになんなの???」
いきなり激しく光り出すものだから、このまま爆発でもするんじゃないかと恐怖したが、
「と、と、トリノちゃん……それ…………」
おれの首から放つ煌めきを前に、びっくりしたようにソアレは声を上げる。
そして、おれの今まで何の色にも染まらなかった《首輪》は――《虹色》に光り出した。
おれが知るはずもない王が待つ場所……それは、この首輪に集束した虹の輝きが、無意識に導こうとしている。
まるで最初から知っていたように――おれはどう行けば、終着へ辿り着けるのかを理解した。
終わりへ、誘われる。
終わりが、やけにすぐそこまで近づいている。
おれは、どうすればいいのだろうか――いや、そこはブレない。
上からずっとおれを見下ろしている王さまをぶっ飛ばすことは変わらない。
――《まほうしょうじょ》は『魔法使い』なのだから。
おれはこの身が使える《まほう》で全てを知る。
全てを知って、そのあとは――
そのあとは、まだ、なにも考えていないけれど。
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
これにて第5章は終わりです。
そろそろ終わりが近づいてきました。
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