第54話 ゆめのそとにいる
《まほうしょうじょ》は《荒使》の王を倒すために戦いを続けている。
しかし、なぜ王を倒す必要がある――その理由は知らぬままだった。
だがわかったことは……王を倒せば、この世界が終わる?
「元いた世界なんてあんなクソで、つまらない……でもここはちがう。異世界は何をしても許されるし、いつもでも飽きないから良いんじゃないか。ずっとずっとたのしいのにさぁ……おまえは今にも王さまを倒してしまいそうなんだよ!!」
「別に倒せばいいだろ……」
終わるってなんだよ。
「白い繭からみんなスタートしたんだよ。ボクも、キミも……キミも潔くさ、《荒使》のままでいればよかったんだ。それで……《転生者》を追い払ってさえいればさ」
この異世界に転生したとき、おれのように幼女になって《まほうしょうじょ》として進むか――そのまま繭の中で《荒使》となって《まほうしょうじょ》として敵対するかの二択だったようで。
しかしおれはソアレに助けてもらわなかったら多分そのまま意識を失って《荒使》になっていたことだろう。だが、ミソギは他の怪物のような異形ではなく、おれと同じ形をしている。
「《転生者》はみんなキミのような見た目なんだよ。まぁ、使える技とか見た目の色とかは違うけどさ」
「なんでおまえはそんな詳しいんだよ」
「そりゃ王さまに教えてもらったからさ。そんなこと知ったら徹底して阻止するだろうに……元の世界に帰るとか、イヤだろ?」
「え……? 帰れるの、か…………??」
本当に? それが本当ならミソギは元のおれたちがいた世界に帰りたくないから、やって来る《転生者》がもし《荒使》の王とやらを倒すかもしれないと……その要素を排除するためにここまでしてるってことか?
だが――
「……べつに、おれは――」
帰りたいか? と聞かれたら、おれはぶっちゃけ帰るつもりはない――だ。
元の世界に愛した人を残しているとか、誇れるような何かを果たした……とか、そんなものはない。まるで未練がない。
そしてこの異世界でも何かしらチートを貰ったどうことして来たわけでもなく……おれの知識だけでなんとかできてるだけで、それ以外はなんの役にも立ててない。
王とやらと、対戦したいという気持ちだけしかない。
見た目が気持ち悪い《荒使》が悪いヤツで、そいつを統べている王ってのがいて……そいつをやっつけるために《まほうしょうじょ》は――
(戦っている……ってしか聞いてないな……)
どれだけ見た目が気持ち悪くても、ルールは遵守している。対戦も成立しない限りは一方的に襲い掛かってくることもない。もし、本当に侵略してくる怪物のような存在なら一斉に町を襲えばいい。
しかし一体につき一体で、ちゃんと対戦のルールに乗っ取って対戦もしている。おれもただ対戦することしか頭になくて、そこまで考えずにここまで来てしまった。
「いまキミはいちばん危険だ……それに強すぎて戦いたくない」
ミソギは立ち上がると、そのまま後ろに下がるのだがこのまま逃がすわけにはいかない。聞きたいことはまだあるが……
「ね、ねぇ……トリノちゃん、さっきからその子となんの話してる……の? かえるってなに?? どこへ、かえるの???」
マズいな……おれも唐突に情報をぶっこまれたせいでつい踏み込んでミソギと会話してしまっていた。その内容を聞いていたのはおれだけじゃないのに……。
「どこにも、帰らないから」
だから背を向けたままソアレにそう言う。
嘘じゃない――帰るつもりなんてない。
帰れる方法があるとしても、元の世界に何一つ未練もないし、おれはこの異世界で自分の存在が役立てているのがありがたいから……まだ、身体は幼女のままだけれど楽しみたいと思っている。
「王さまのところには辿り着けないよ……どうせ行き方もわからないんだし」
「だからテメェから吐かせるんだよ」
いまにも逃げ出しそうになっているミソギを前におれは拳を構える。唯一、王さまのことを知っているのだからこのまま逃がすわけにはいかない。
だが、
「もう、いいってほんと……ここまで言っててまだ《まほうしょうじょ》でいるつもりなの?」
そしてミソギはそのまま後ろへ飛びながらおれから逃げようとしているが当然逃がすものかとおれも走り出そうとするが……、
「対戦中は使えないけど、それ以外は……ね?」
「あー、クソ……めんどくせぇ……」
もう対戦は終わっている。
おれが勝ってルミアを治すことはできたが、対戦が終わったことでおれの能力はただの幼女になってしまう。なんでおれだけこんな……ミソギは普通に動いてるのに。
しかしいちばん問題なのは、また《寄生型》を出しておれの進行を遮っている。対戦が成立していない状態でおれの力は幼女そのもの。もっとも厄介なコイツはおれ単独ではどうにもできない。むしろおれがどっか連れて行かれてしまう。
「じゃあね、バイバーイ」
「ふざけんな、まだ聞きたいことが――」
しかしそのまま奥へと消えていくミソギをそのまま逃がしてしまう。問題は《寄生型》がおれに向かってくる。ほんまこのタコ気持ち悪いねんって……まじでどうにかしてくれ。
「トリノちゃんッ!!」
だがそこでソアレがおれの横をすり抜けるように駆け、折れた片手剣で《寄生型》を真っ二つにしていた。
「お、おお……助かった」
「ね、ねぇ……かえるって……なに? トリノちゃんは、ここに……ずっとここにいて、くれるよね? かえる……なんて……」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから――」
おれよりずっと背の高いソアレが膝をついて、おれをギュっと抱きしめるからおれもまた抱きしめたまま、なんどもそう言う。
「帰らないって……どこへ、帰るんだよ――」
だっておれはもう元の世界で死んでいるのだから。
だから帰る場所なんてどこにもない。
だからおれはわからないフリをする。どこへ帰るのだと。
おれは本当にどこにも帰るつもりなどない。元の世界にも未練はないと――
「記憶、もとにもどったの……?」
「――……」
おれは何も言えなかった。元々初めてソアレと出会ったときに誤魔化すためにそう言っただけだ。
「それ、は……」
どう答えていいかわからず、おれは言い淀んでしまう。だが目を逸らすことはできなかった。ソアレが真っ直ぐおれを見ているというのに、おれがソアレから目を逸らすことなんて出来るはずもなく。
「……トリノちゃん、は――わた、うっ……っ!?」
しかし、突然ソアレは表情を歪めて頭を押さえている。
「い、いたい……あた、ま……」
ソアレは頭を抱えて、その場にうずくまってしまう。
もしかして……ミソギ……あのクソガキ、ソアレにも何かしらやったか? マジでぶっ殺しておけば――いや、だめだ。いまはそんなことよりも……、
「ソアレッ!」
おれはすぐにソアレの元に駆け寄り、肩に触れる。
「うう、……なんで、どうして……?」
ただひとり小さく、何か訴えかけるように――そしておれの目を見たとき、ソアレの瞳の中に何重にも輪がのようなものが重なっているのが見えた。
そのまま糸の切れた人形のようにふっと倒れそうになるソアレの身体を支えようとしたが、対戦以外は幼女の力しか持たないおれはそのままソアレの体重を受け止め切れずに倒れてしまう。
「うう……そ、ソアレ……だ、だいじょうぶ……か?」
だがおれが下になっているからソアレを傷つけることはなかった。
しかしソアレの瞳は開いたまま……光を失ったまま、電池が切れた機械のように動かない。そしてソアレに押し倒されたままおれもいっしょになって動けないので困ってる。
「どうなってんだよ……ほんと……」
ミソギが現れてから、いろんなことが起こりすぎて本当に困る。
わからないことばかりで、頼むからそろそろ誰か答えてくれ。
「ソアレ……ソアレ……だいじょうぶ、なのか??」
動けない……。
そして何度声をかけてもソアレは返事をしてくれない。
ミソギを処理しても逃げられたら意味ねぇよ。
『あー、あー……きこえるぅ? ……その、えーっと、やっと繋がったよ――』
しかしソアレは突然、立ち上がり――おれの手を掴んで起き上がる。
しかしその声は……確かにソアレのものだというのに、どこか違う。もしかして《寄生型》か!? だけどルミアが操られてたときは瞳にそんな輪のようなものは描かれていなかったはずだ。
『ああ、ごめんごめん。これはキミと会話するためにこの子の身体を借りてるだけだから。だいじょうぶ、おわったらすぐに返すから……だから、いまだけ、ごめんね』
両手を合わせて、合掌しているが……確かに明るい声色に、その仕草はソアレのように見えるが――
「なんだ……おまえは……?」
声は確かにソアレのまま、しかし瞳は光を失ったまま何重にも重なった輪だけが光り何者かがソアレの中に入って、声を借りて話しているようだった。
『夢の中でいっしょに語り合った仲じゃないか』
その言葉で思い出す。一度だけおれの夢の中で聞こえた誰かの声。
ソアレの声を使って、話を始めるその声の主は――
「《荒使》の……王……」
本日もここまでお読み頂きありがとうございます。
第5章も終わりが見えてきました。
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