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この異世界が『格闘ゲーム』すぎるので荒らしをガン処理する―《まほうしょうじょ》は『魔法使い』―  作者: 待雪 妥当
第5章 魔法使い

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第51話 汝、■■■を×せよ<5>

「トリノちゃん……負けないで」


「ルミアのことは任せた」


「う、うん……わたしにできること……なにもないけど……」


 おれは背中を向けたままソアレにルミアを託す。


 ソアレはただ震えて今にも血を吐きそうなほどに咳をするルミアを抱き締めていた。おれもソアレもルミアを治す術を持ち合わせていない。


 しかし、眼前に立つ道化(ピエロ)のようにケタケタと(わら)うミソギを倒せば、まだ救い(ワンチャン)はある。


「いやぁ~ずっと気になっててさぁ……ボクと同じ顔をした、同じ姿をした……しかも同じ()()()となんだからさぁ――」


 ソアレもいるのに余計なこと言いやがって……ソアレは聞き慣れない言葉なのか理解していない様子だが、それでもこれ以上へんなこと言われておれがこの異世界(せかい)の人間じゃないって思われるのもややこしい。


「それはもういい」


 本当はミソギのことも()きたいが、ルミアの容態がこれ以上悪くなる前に早期決着で終わらせなくてはいけない。


 そして、あのミソギの《まほうしょうじょ》ではなく《荒使(あらし)》と名乗るのなら《魔導技(まどうぎ)》……と呼んでいいのかわからないが状態異常を引き起こす鬱陶しい攻撃をどうにかすれば――なんて()()()()()対応すればいい。


「じゃあ、どうするのか見せてよ」


 そして対戦開始と同時にミソギは後ろに下がりつつ、《紫の泡沫(ヴ・オルタンシア)》なんてふざけた名前の紫色のしゃぼん玉を設置していく。


 あれに触れればガードしていようが毒にされてしまう。どれだけ守りを固めても触れれば著しく体力を奪われる。触れるわけにはいかない。


「なら……浮遊物はこっちも飛び道具で消せばいい」


 おれは最速で↓↘→(236)+攻撃ボタンを頭ん中で入力し《フォトン・スロウ》を唱え、手から光弾を放ちしゃぼん玉にぶつかればそのまま相殺して消える。


「へぇ、これに触るとどうなるかわかってる感じかぁ……じゃあ……おもしろいから撃ち合いでもしてみる??」


 そして手を伸ばすと、袖口から生える二本の触手が何度も何度もその口からしゃぼん玉を吐き出していくが、


「弾撃ちでおれに勝てると思ってんのか?」


 だがおれは↓↘→(236)+攻撃ボタンを入力するのを止めない。二発、三発と撃ち続ける《フォトン・スロウ》がミソギの放つしゃぼん玉を撃ち落としていく。


「口は悪いのにさっきのお姉さんより冷静だね……イラってくるなぁ」


「イラついてんのはこっちも同じだ。ワンパンキッズが(わめ)いてんじゃねぇぞ」


 筐体越しの煽り合戦《口プレイ》もお手の物だ。おれからすることは決してないが、わざわざ耳に届く声量で文句垂れるヤツにも何度か会ってる。そんなときは初対面だろうが容赦はしない。人間性を疑う存在に躊躇(ためら)いもない。


「ふ……喚くのはそっちなんだよね――技使えなくなって嘆けよ」


 煽り合いながらもミソギが放つしゃぼん玉を光弾で撃ち落とし続けていたが、勢いが少し落ちてきたと思えば一本の触手が地面に向かって伸びている。


 そして、おれの足元に設置される《白き救済(ホ・ヘレボレス)》――今度は体力を毒で削るのではなく、技ゲージを削り大技の使用を遮る厄介な代物。


 設置されればこちらの行動が制限されてしまう。しかしおれはそんな腐った水たまりを見つめたまましゃがみこむ。


「設置物ってな……案外叩くと消えんねん」


 と、おれはそのまま設置された水たまりにしゃがんで弱攻撃で軽く裏拳をするだけで弾けて消えた。


「へぇ……」


 しかし対策を知っていることにミソギは対して驚かなかった。


 設置された水たまりを踏めばその効果が適用されるのに、踏まずに攻撃すれば霧散するなんてまぁ知らんヤツはわからんよな。でも、おれはそういうのも見て来たから当然知っている。


「詳しいんだね」


「詳しいんだよ」


 誰にもの言ってんねん。おまえをボコるまでは全部対応してみせる。


 しかし、ミソギは自身の攻撃を容易く対応するおれを前に未だにふざけた顔をしたまま笑っている。


「なんでキミは《荒使(あらし)》になってないの?」


 おれは何も言わない。ミソギが放つしゃぼん玉を再び光弾で消しながら、一歩ずつ前へ進んでいく。白い水たまりを設置すればすかさずしゃがんで弱攻撃(小パン)で殴って消す。


「じゃあなんでオマエは《荒使(あらし)》になってんだよ?」


 質問を質問で返してやった。


「そんなの、たのしいからに決まってるじゃないかぁ」


 気味悪く舌をなめずりながらミソギがそう言って、


「異世界に転生して、おもしろい方を選ばない方が――どうかしてる」


 そして袖口から伸び続けていた触手がミソギの手の中へ戻って消える。お互いに体力ゲージは満タン。まだどちらも一撃すら与えていない。


「悪いな、おれは()()()がおもしれぇんだよ」


 こいつはソロプレイで楽しんでるんだろうけど、格ゲーは確かにそうかもしれねぇけど――おれは《まほうしょうじょ(こっち)》でみんなといっしょに前へ進むのがいまはいちばん楽しいんだ。


「格ゲー……知ってるだろ、テメェも」


「知ってるよ。でも、未プレイ。ボクはソシャゲしかしたことない」


「別になにで遊んでようがおれは何も言わねぇよ」


 だがこれまでの発言で確実にミソギもおれと同じ《転生者ニンゲン》ならば、元の世界の文化も知っている。そしてこの異世界(せかい)が格闘ゲームって仕様も。


「でも、何も知らないまま《まほうしょうじょ》になって楽しんでるとこ悪いけど……キミ、いちばん危ういとこにいるよ?」


「どういうことだよ」


「こういうことだよ」


 そしてミソギは両手を交差させると、そのまま力を篭めて大きく振り上げると触手の口から今度はしゃぼん玉ではなく


「いやぁ……その、なんていうのかな――キミもさぁ、よくがんばったけどここまでなんだよねぇッ!!」


 おれがミソギの攻撃の数々を対策しても、ミソギは特に気にも留めていない。おもんないしゃぼん玉にしょーもない水たまりで遊ぶよりも、その心の奥底に隠している邪悪を曝け出すことが狙いだったのだ。


 振り上げた手から飛び出す触手が口を開けば、今度は霧のようなものを散布している。そしてあっという間に辺りを包む。


 しゃぼん玉はこっちも飛び道具で消してしまえばなんとかなった。だがこれはどうしようもない……広がる霧は瞬く間にフィールドを包み込んだ。


 だが逃げることなど出来ない。そして全てが紫の霧に覆われ――おれの体力ゲージが強制的に紫色になった。毒状態を確定させる最悪の攻撃。


「終わりだよおおおおおねぇえええええええええここでさああああああ、ここまでよくがんばったねぇ、よかったねぇえええええええ!!!!!!!!!」


 これまででいちばん大声で叫び散らかすミソギを前に、おれの体力は一方的に減少していく。異世界来てからここまでずっと被弾無し(ノーダメ)で来れたんだけどな……ここでノーダメ継続記録は終了か、と。


 いまもっとも危険な状況に晒されているというのにおれはひどく落ち着いている。


「故にぃいいいぃぃ!! 《魔勹(まほう)》とぉおおおぉ()むぅっつつッッッ!!!!!」


 《荒使》と名乗っているのに使う技はやはり《まほうしょうじょ》と同じだ。《荒使》でありながら《まほう》を使い、そして《才覚(ネーム)》を与えるというのなら――これがミソギの切り札というわけか。


「聴こえるだろう? 喇叭(ラッパ)の音が……さぁ……すぐそこまで来てるぞ? さぁ……、さぁ!! 《天使に誘われろ(ピ・ブルグマンシア)》ッッ!!」


 逃げられないなら下手に動くべきではない。


 唯一の安堵すべき点とすれば対戦が成立しているからこそ見えない四方の箱の中で戦っているからこの毒の霧は外には漏れずソアレとルミアが吸うことがないのだけが救いだ。


 紫の霧の中で、おれはただ立ち尽くす。彷徨うこともせず、混迷することもなく――おれは動くこともなく、霧を吸い続けている。


 体力ゲージは紫のまま、ただ一定の速度で減り続けている。


 動かないおれを前に、首を傾げるミソギ。


「早くボクを倒さないと終わっちゃうけど?」


 おれは何も言わない。ただ無言のまま、ミソギを見ている。


「困れよ? 慌てろよ ? 狂って、壊れろよ――キミさぁ、どういうつもりだよ」


 おれの体力はみるみるうちにゲージの半分が消えてなくっている。それでもジッとミソギを見つめたまま、


「おまえ格ゲーやったことはないんだよな」


「ああ、ないね……でも、別にちょっと練習したら技のひとつやふたつ簡単に出せるでしょ」


「……えらいよ。それが出せなくて辞めるヤツのが多い」


 敵ながら、そこに関しては素直に褒めてやる。


 そしてそのまま再び無言――おれの体力は既に四分の一を切っている。


 このまま体力がゼロになればおれは終わる。


 そう――ゼロに、なれば――

本日もお読み頂きありがとうございます。


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本当にありがとうございます。それでは次回もよろしくお願いします。

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