第47話 汝、■■■を×せよ<1>
「スティル……どうして……」
明らかに様子の違うスティルを前に、ソアレは片手剣を握り締めたままただ名前を呼ぶことしか出来なかった。
ソアレとの対戦後は、度重なる問題行為で謹慎を命じられていたが、混乱を乗じて自ら失踪。そのまま姿を消していたのだが、まさか――《荒使》の中から出てくるとは思わなかったのでおれも正直何も言えない。
「倒,ooo,……せ、た、た……」
ダメだ。声は明らかスティルのものだが、もはや獣と変わらない。蠢く肉壁に取り囲まれたまま虚ろな目のまま、しかしソアレを見ている。
そして何て言ってるのかはわからないが、はっきりとおれにもわかるのは怒りだった。そのまま肉の蓋がされ、スティルが見えなくなった。
「……ごめん、みんな」
変わり果てた《荒使》に半身が埋まったままのスティルを前にソアレが一歩前に出る。
「ソアレ!」
おれよりも先にフルカノンのパイセンが名前を呼んだ。しかしソアレはこちらを見ることもせず、
「スティルはわたしを見てる。なら、わたしが……戦わないと」
ソアレにとって因縁の相手であるからこそ、たとえどんな姿になったとしてもソアレは立ち向かおうとしている。だから先に席を座られたのなら譲しかない。この対戦はソアレのモノだ。おれも邪魔はできない。
いかに変わり果てた姿に成り果てようともそれはスティルに変わりはない。おれたちはただソアレが対戦する様子を黙って見ていた。
しかし相手がスティルであってもその容姿は《荒使》なのは変わりない。ラグリオンと戦ったときも名のとおり場を荒らすようなことをした。正々堂々と対戦するならそれでいいが、なにかしら仕掛けて来るなら気をつけろよソアレ。
なんて対戦が始まってしまった以上おれは何も言えないし、ソアレだってここまで成長して来たのだからわかっているはずだ。
「……よく見て」
ソアレは小さくそう呟いて、決してダッシュで距離を縮めることはせずジリジリと歩いて進んで行く。闇雲に進むのではなく、相手の行動をよく見て攻める。スティルと前に対戦したときもそうやってしっかり見て、考えて動いて、それで勝てた。
「iiii,a……そ、aaaaaaaaaA!!!」
そして先に動いたのは《荒使》のスティルだった。
四本の内の二本の《荒使》の腕が左右に振られ、鞭のように放たれる糸。どうやら使って来る攻撃手段は元のスティルが使っていた《まほう》と似ている。
しかしソアレはしっかりとガードしている。だが、その糸を防いだ瞬間ソアレの身体は引き寄せられている。
「re、ああ、uu――」
糸による攻撃はダメージを与えるものではなく、ソアレの動きを止めたまま自身の近くまでソアレは引き寄せられていた。
攻撃をガードさせて引き寄せるのはもともとスティルがやっていた攻撃手段。腕が四本になってもやってくる攻撃が同じなら特に脅威ではないが――
「え……?」
だがソアレは引き寄せられたと同時に、スティルを取り込んでいる《荒使》の身体が動く。四本の足の前足がソアレを踏み潰そうと大きく振り上げられる。
いや、ガードすれば……別に問題ないだろ。どんな物量であろうがガードが成立すれば――だが、おれはその振り上げた両足のその裏側に見えた不気味な口を見て、
初めて戦ったラグリオンもそうだったがード不能の攻撃を繰り出してきた。
ならばこいつも同じような属性の攻撃をしてくるだろう。両足を振り上げ、そのまま踏み潰すまでの動作はたとえ遅くてもガードできないなら絶対に受け止めれはならない。回避しなければならない。
「……ッ!!!!」
だが、ソアレも成長している。
ラグリオンと戦ったときは伸ばした腕に掴まれて投げられたが、この《荒使》と化したスティルの攻撃は後方へジャンプして回避している。えらい。見てからすぐにその判断ができたのはえらすぎる。
「ga,aaaa……逃、ge……nNNNa」
しかしスティルは呻き声を出しながら、再び二本の腕 から糸を飛ばすがソアレはしっかり後方へ飛んだ状態でも空中ガードをしていた。
だが、糸は螺旋を描きながらソアレを掴むとそのままガードの構えをしたままのソアレを縛り上げ、地上に叩き付けた。
「………………………………ううっ」
ソアレはそのままダウンを奪われている。いまのは完全に対空投げだ。斜め上に糸を飛ばして、ソアレは片手剣を盾にしていたのにそれごと縛られて墜落した。ソアレのように投げ技を取得しているというのか?
だがまだソアレの体力はゼロにはなっていない。まだ終わっていない。ソアレは片手剣を杖に立ち上がる。
「だめだ、こんなことで……こんなところで……」
負けられない――と、ソアレは呟く。
始まりだった。因縁だった。そして新たな始まりを迎えるために戦っていた。スティルの承認欲求のためだけにソアレは引退まで追い込まれていた。
それでもスティルに勝ちたくてここまで来た。そしておれと出会った。必要な知識を手に入れ、やるべきことを知った。そしてスティルに勝利した。
しかし彼女は、こうして《荒使》になってまでソアレに再び牙を向ける。そして蜘蛛の糸のようなあの《まほう》が酷くいびつな力となって襲い掛かる。
「h,hahaa……お、wa」
四本の腕から垂れていた糸は一つに織り交ぜられていた。そしてドリルのように編み込まれ、ふらつくソアレに向かって射出された。
「――――――――あ……」
撃ち出されたドリルのように回転した糸をソアレは確かに片手剣で防いでいた。だが、片手剣は真っ二つに折れ、そのままソアレは衝撃を吸収することができず吹き飛ばされる。
床の上を転がりながら、見えない壁――画面端まで吹き飛んでいた。だが、本来ならばその見えない端まで追い込まれても画面端に到達するだけで戦いは終わらないはずだった。
それなのに画面端に触れたソアレの背中が衝突すれば、見えない壁にヒビが入りそのままバラバラに割れて、画面端より外へソアレの全身が飛び出して場外した。
いや……場外負け――あるのか。ステージによって仕様が違うようだ……。
「おねぇちゃん……!」
転がり落ち、そのまま動かないソアレにルミアが駆け寄っていた。
「わたしが……止めないと、ダメなのに――」
ソアレは八つ当たりするように床を拳で撃ちつける。二つに折れた片手剣――《荒使》となったスティルに敗れ、悔しさで下唇を噛み締めている。その双眸にはいまにも涙が零れ落ちそうだった。
「……ソアレ」
どんな時でも、どんな状況でも敗者にかける言葉は正直ない。
何を言っても意味がない。そもそもそっとして欲しいってのがおれの持論だ。おれも負けた後に何を言われても響かないし、届かないからマジでただ落ち着くまで黙って見ててくれって思う。
「あれ? もしかして、もう……おわり??」
だがそんなおれたちの耳に知らない声が聞こえた。
「やっぱぁ……そっち以外は、たいしたこと――ないのかなぁ?」
そしてその声は《荒使》と化したスティルの裏側からゆっくりと姿を現した。
それは――ルミアが言っていたおれとそっくりの《まほうしょうじょ》だった。
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