第42話 記憶を辿って
「さて、話してもらうぞ」
「いや……その前に言ってええっすか?」
フルカノンのパイセンが腕を組んだまま下を向いたまま動かないルミアに向かって尋問みたいにグイグイ迫っているが、それより先に言いたいことがある。ってか言わせてくれ。
「どうしたトリノ……おまえとソアレのおかげで逃げ出したルミアを掴まえてくれたのは感謝しているが、ここからは私の仕事だ邪魔をしてくれるな」
「いや、それならおれの部屋……じゃ、ねぇわ……檻ん中でやる意味あるぅ?」
未だにおれの部屋だけ檻のまんま。たぶんおれ一生、檻の中で生活させられそう。いつになったらおれの部屋を用意してくれるんだよ、と。
まさかルミアから話を聞くために移動したかと思えば、そんな檻の中で座るルミアを囲むようにパイセンとおれ、そしてソアレがいるわけだが、
「また逃げ出されてはたまらんからな。檻の中では《まほう》が使えないようになっているのもあって最適なんだ」
「ああ、そういう仕様だったのね……」
いや、それなら最初からルミアを檻の中で……いや、やめておこう。
とにかく対戦以外は《まほう》を使えないおれには関係ない仕様である。
「さてルミア……キミは《荒使》と行動を共にした……が、詳しい話はトリノに訊いている。別に私はおまえを罰するつもりはない」
回りくどい話はせずパイセンはいきなりルミアに対して今回の件を不問にした。いや、ルミアは何も悪くない。だってルミアはおれと出会わなかったソアレの別の未来のようなものだ。
ひとりで戦って、けれどどうしていいかわからないまま、誰にも教えてもらえなくて戦線を離脱しただけに過ぎない。そこを《荒使》に狙われただけだ。誰だって独りで追い詰められ続ければ、逃げ出したくなる。
おれがおかしいだけだ。追い詰めてくるやつをいつか殺す勢いで鍛え出す方がどうかしてる。でも、あの頃のゲーセンで生きてたヤツは最初のスタートはみんなそんな感じだろ。最初から才能あって強いヤツは知らんけど。
「なん、で……?」
しかしルミアは小さくそう呟いて、
「ルミアは逃げただけ……こわくなって、いやになって、そして、《荒使》に利用された――」
「私も、そこにいるちっさいのに負けるまでは弱い者のことなど気にすらしなかった。けれど……あと一回負ければ全てが終わるはずだった《まほうしょうじょ》を育て、そして勝った。未来を変えた――独りで進めないなら、こちらも力を貸す。どうだ? もう一度……がんばってみないか??」
いい話してくれてるとこ茶化すのもあれやから黙ってるけど、誰がちっさいのじゃ。
しかしパイセンもまた《金色》の《首輪》を付けているだけあってこの世界では上から数えるほどの強さだ。そしてその強さを証明するためにきっと一人で努力し、鍛え上げ、勝ち続けたことだろう。
だから自分より弱い者のことなど気にも留めず戦い続けていたが、おれとの対戦後は考え方を改め、パイセンもまた他の《まほうしょうじょ》に戦い方を教えているのをおれも見たことがある。
「でも、ルミア……」
「わからないなら、いっしょに考えよう。そのためにいまは……いっしょに戦ってほしい。ルミア……おまえだけが頼りなんだ」
ねぇ……パイセンがめっちゃ主人公ムーブしてるし、前回は縛られて役立たずだし、おれいらなくない? このお話もうおれいらなくないか??
「ルミアちゃん……つらかったよね、こわかったよね――でもね、だいじょうぶだよ」
涙ぐみルミアにソアレがギュっと抱きしめて、あやすように背中をさすって耳元で囁く。
「トリノちゃんがね……全部おしえてくれるよ」
「とりの……?」
そしておれを見るルミア。おれは腕を組んだまま――
「そうだよ。なんでも教えてあげるよ」
グっと親指を立てるのだが、
「あやしい」
ジト目でおれを横目で見ているルミア。
「……いい人っぽい感じ出したらこれかよ」
「あはは……トリノちゃん、わざとらしいことするから」
「でも、おれでよければなんでも教えてやるのは本当だ。強くなりたいって気持ちがあるなら、おれだって全力で力を貸す」
それだけは本当に嘘じゃないから。
「そのまえに……その、なんだ、イヤなこと思い出させるかもだけど、言いにくいのはわかってるけどさ……あの《寄生型》とかいうやべぇ《荒使》のことも、ルミアが知っていることなんでもいいから教えてくれないか?」
現状、《まほうしょうじょ》たちはとにかく情報が不足している。
失踪した《まほうしょうじょ》の行方は未だ知れず、この異世界で死人とか出るかわからないから生存者って言い方は間違ってるかもだけど……その中で唯一、救い出せたルミア。
少しでも《荒使》に関しての情報がわかれば――
「ほとんど、覚えてないけど……」
ルミアはおれたちを見つめて、そして琥珀の瞳が揺れていた。そして両手で口元を隠しては、ルミアは記憶を辿るように両目を閉じて、
「……あなたとそっくりのヒトがいた」
数秒が経過したと思えば、いきなりおれを指差してとんでもないことを言い出しやがりましたよ。
「はい????」
そんなことを言われても、おれは間抜けな声を上げることしかできなかった。




